断髪小説 母の横暴(前半)

子どもの頃
家で散髪されたことありますか?
すごく嫌じゃなかったですか?
日曜日とかに突然「散髪するよ」って言われて
母の未熟な腕と横暴ともいえる押し付けで
鏡も見せられず、安い家庭用の散髪道具で庭先や部屋で髪を切られる時の不安
その不安は残念なことに当たっていて、とんでもなく短い髪型にされて泣いた思い出
みなさんはありませんか。
今日はそんなお話です。

私は美里。4月から小学6年生だ。
最近まで私はお父さんと中学3年の姉の香奈と3人で生活していた。
去年のクリスマスにお父さんは仕事で知り合った直美さんと結婚し、4月から一緒に生活することになった。直美さんにも今年から中学になる恵子さんという娘がいて、私には母と姉が増えることになった。
3月の連休に直美さんと恵子さんがうちに引っ越してきた。
部屋が足りなくなるので、当分の間は私と香奈で一緒に使って、恵子さんが一部屋使うことにした。特に不満はない。家族がみんな早く仲良くなればいいなと思っていた。

新しいお母さんは有給休暇をまとめて取って、引っ越しなどの新しい生活の準備をテキパキとこなし、あっという間に部屋を片付けて新しい生活がスタートした。
お母さんはやさしいし頭もいい。私たちがしてほしいことをまるで先回りしているかのように進めていくし、3人暮らしで大変だった家事がすごく楽になってうれしい。
慌ただしい中、私たちの進級準備もそつなく進めていった。
ただとにかく押しが強いというか、自分の考えをグイグイ押し付けてくる気がして戸惑うこともあった。

4月に入った日曜日。恵子さんの入学式があさってに近づいた。恵子さんもお姉ちゃんと同じ中学校に行くことになる。私とお姉ちゃんは明日が始業式だ。
午前中、お姉ちゃんは部活でいないので私と恵子さんが2人で留守番をして、お母さんは美容院に行き髪をバッサリ切ってきた。
短いおかっぱ風のショートボブだったのに、びっくりするくらい髪を短くしてきて「やっとサッパリした」と言っている。
似合ってるけど、坊主よりちょっと長いくらいの髪型の人は友だちのお母さんの中にもいない。お母さんに聞くと、これが普通で今までは結婚の記念のために仕方なく伸ばしていたと言っている。

午後0時30分
3人でお昼ご飯を食べていると、お母さんが「さて。恵子も明後日は入学式だから、いつもどおりサッパリしようね」と恵子さんに話しかけた。
「私、髪切りたくない…」恵子さんはお母さんに小さな声で断ろうとしている。
恵子さんはベリーショートというかスポーツ刈りが少し伸びた感じの髪型にしている。

お母さんは「ダーメ。高校に入るまでは今の髪型でいなさい。剣道も続けるんでしょ。髪なんか伸ばしてると不衛生だわ」とピシャッと拒絶している。
何も言えなくなる恵子さんを見ているとかわいそうだなと思うとともに、私にも「髪を切りなさい」って言ってこないかと不安になってきた。
「昼ごはんが終わったらすぐ散髪するよ」お母さんは恵子さんに宣言する。
私は急いでご飯を詰め込んで2階の自分の部屋に戻った。
お姉ちゃんは部活に行って夕方まで帰ってこない。それまで私の髪は大丈夫だろうか。
不安で仕方なくなった。

午後1時15分
リビングからテーブルや椅子を移動する音が聞こえてきた。
きっと散髪するスペースを作っているのだろう。お母さんが恵子さんを呼んでいる。
下の部屋で何やら2人で言い争う声がしたけどしばらくすると静かになった。
そしてまた30分くらいすると、バタバタと足音が聞こえる。きっと散髪が終わった恵子さんがお風呂場へ頭を洗いに行ったんだろう。
「お母さんが私のところに来ませんように」
髪を絶対に切りたくない私はドキドキしながらベッドの中で祈るしかなかった。

しかし…
午後2時10分
「美里ちゃーん」階段の下からお母さんが私を呼ぶ声がする。
私はドキドキして返事をすることができない。
「美里ちゃん」私の名前を呼びながらお母さんが階段を上がってきた。
「開けるわよ」お母さんはドアを開けて、私のいるベッドに近づいた。
「ねぇ美里ちゃんも髪を切ってあげるから下に降りてきて」
あぁ、やっぱりか。
私は首を横に振る。

でもお母さんは引き下がらない
「これから暑くなるし、髪を長くしてると乾かすときに大変でしょ。目に髪がかかったりするのも良くないわ。髪切りましょ」
私は「いやです」と小さな声で返事をする。
お母さんは「美里ちゃん。家族になったんだからお母さんの言うこと聞いてね。お母さん長い髪は好きじゃないの。不経済だし不衛生だし。お風呂掃除の時も大変なの。大きくなったら好きにしていいから、髪切ってちょうだい」そう言って私の身体を起こした。

私はこれ以上反抗出来なかった。
「うん。でもあんまり短くししないでください」とお母さんの求めに応じると、
お母さんは「じゃあ、すぐ下に降りてきてね」と先にリビングへと降りていった。
ベッドから降りて、部屋にある鏡を手に取って自分の顔を映す。
胸のあたりまで伸びた長い髪。お姉ちゃんがいたら断ってくれたかなぁ…。
前髪はちゃんと眉毛のあたりで切って目にかからないようにしているのにお母さんはひどいなぁ…。

(どのくらい切られるんだろ。せめて肩くらいまでがいいなぁ)
そう思いながら、長い髪をブラッシングした。
急に髪を切らなきゃいけなくなったことに動揺が隠せない。
「美里ちゃーん」
階段の下からお母さんがまた呼んでいる。
私は仕方なく階段を一段一段ゆっくり降りる。
リビングに着いたら髪を切らちゃうんだ…そう思うと足取りが重い。
12段の階段を数えながら降りてリビングに入る。

リビングにはレジャーシートが敷き詰められていて、その上に椅子が一つ置いてあり即席のカット台が作られていた。
「美里ちゃん、ここに座って」
お母さんは私を椅子に座らせる。
「こんな長い髪って鬱陶しくなかった?」お母さんは私の首にケープとその上にネックシャッターを巻きながら話しかけてくる。
薄い青色のケープには恵子さんの短い髪がついている。
「いいえ。私長い髪が好きだから」と答える私。
「そう」とお母さんはそっけなく返し霧吹きで髪を濡らし、私の髪を念入りにとかしている。
不意にお母さんが私の頭に顔を近づけた。
そして「美里ちゃんは毎日ちゃんと頭洗ってる?」と聞いてきた。
「うん。毎日洗ってる」と答えると、
「そう。でもちゃんと洗えてないのかな?頭が少し臭うよ。髪が長いと不潔になるから気をつけなきゃね」と嫌なことを言ってきた。

恵子さんがお風呂からあがってリビングにやってきた。
私は彼女の髪型をみてビックリした。
横も後ろも刈り上げられて、トップの髪も前髪も立ち上がって男子より短い髪になっている。
きっと恵子さんも嫌で泣いたんだろうな。目の周りが腫ぼったい。
「さっぱりしてよかったでしょ。これから美里ちゃんの髪を切るから恵子は部屋に上がってなさいね」とお母さんはやんわりと追い出した。


「それじゃあ始めるわね」
お母さんはテーブルの上に置いてあった散髪バサミを手に取った。
「大丈夫よ。かわいくしてあげるから」とサイドの髪を櫛でとかしてお母さんは話しかけてきた。
私は「でもあんまり短くしn…」と言いかけたと同時に、耳の横で「ジャキ」と音がした。
「あっ…」
パサッと音を立てて私の横の髪が床に落ちていった。

「あぁ喋ると危ないからじっとしててね」
お母さんはそういうとジャキジャキジャキと一直線に横の髪を切り落としていった。
続けて首筋の生え際あたりにハサミが通る。
(やっぱりすごく短くされてる…)
肩くらいの長さでという希望を伝える前に、あっという間に反対側の横の髪も短く切られてしまった。
「あーすごい髪の量ね」お母さんは満足げだ。
「前髪も短くしとくかな。ちょっと目を瞑って」と前髪もおでこのかなり上のところで適当に切られた。

「とりあえずはこれでっと」
お母さんはハサミと櫛をテーブルに置いた。
(これでも十分短いけど、とりあえずって言うことは恵子さんのような髪型にはされないのかな)
と、少しホッとした。

床を見ると長い髪がたくさん落ちている。
(これからどうなるんだろ)と考えていた時、お母さんは床の上に充電していた電気バリカンを手に取り、プラスチックのアタッチメントをカチャカチャと取り付けていた。
(もしかして、あれ使うの…)
バリカンがどういう道具かだっていうことは私でも知っている。

「まだ終わってないわよ。これで髪を切っていくからじっとしておいてね」とお母さんは私に言った。
「いやぁだぁ…」と言葉にならない声が出た。
お母さんはバリカンのスイッチを入れて
「大丈夫。丸坊主にはならないから」
と、いいながら私の額に近づけて、そして頭に滑りこませた。
ガリガリガリ…とすごい音がする。

「大丈夫だから動かないでね。かわいくするから」
バリカンに引っかかっている髪を指で落としながらお母さんは言う。
(かわいくなるわけないじゃん…)
ガリガリガリ、ガリガリガリ…。頭の上から始まってお母さんはバリカンで私の頭全体を刈っていく。すごい量の髪が落とされていく。
何度も何度も頭全体が刈られてスイッチが切られた。

(これで終わった?)
私はケープから手を出して恐る恐る頭を撫でると前髪がなくなっているし、頭全体が芝生のように短い髪の毛しか残っていない。
「まだよ。髪の毛ついちゃうから触らないで」とお母さんは私に言う。
そしてアタッチメントを外したバリカンと櫛を持って私に近づいた。

再びバリカンのスイッチが入る。
お母さんはサイドの髪を櫛で掬いながら、頭の上に向かってガーガーと刈り上げていく。あれだけ短くされているのに、まだ髪が床に落ちている。
どうなっているかわからないけど、たぶん恵子さんと同じ髪型にされてるんだと思う。
バリカンのスイッチが切られてこれで終わったと思っていると、お母さんは、すきバサミを手に取って頭の上の髪をジョキジョキと切っていった。
もう自分がどんな姿になったのか見たくない。
最後に前髪が指で摘まれながらチョキチョキ切られた。

「うん。これくらいかな」お母さんは全体を見渡して
「お待ちどうさま。すごくかわいくなったわよ」とケープを外した。
椅子から立ちあがろうとすると
「髪が散らかるから踏まないで歩いてね。」と言ってくる。
椅子の周りを見るとすごい量の髪が落ちている。
(これ全部私の髪だったんだよね)
しゃがんで長かった髪を集めようとすると
「切っちゃった髪はもういらないでしょ。ここすぐに片付けちゃうから早くシャワー浴びてきて。頭ちゃんと洗うんだよ」
とゆっくり別れを惜しむことも許してくれなかった。

お風呂場に行ってシャワーの前の鏡に顔を映した。
「何これ。全然かわいくない…」
やっぱり恵子さんと同じスポーツ刈りみたいな髪型だ。横の髪はすごく短く刈りあげられていて、耳が丸出しにされている。触るとジョリジョリして気持ち悪い。後ろ頭も同じ手触りだからきっと短くされているだろう。頭の上や前髪も3センチくらいしかなくて、前髪を指で下に伸ばしても、おでこの半分くらいしか届かない。
お母さんに言われたので、丁寧にシャンプーしようと思ったけど、髪の毛が短くなって、今までと感じが全然違う。
シャワーを浴びてタオルで頭を拭いて、ドライヤーで乾かそうとしても、髪がなくなっているのですごい違和感だ。

うわぁ…こんなに短い髪型の女子、学校にもいないよ。どうしよう…。
今までクラスで一番髪が長くて、お姉ちゃんにかわいい髪型にしてもらって学校に行った時はみんなにうらやましいって言われてたのに。
こんな頭で学校行きたくないよ。恥ずかしい…。

お風呂場から出てリビングを見ると、お母さんはもう私の髪の毛をゴミ袋に捨ててしまっていた。
でも、まだシートも椅子も出しっぱなしだし、バリカンは充電器に差し込んだままだ。
(もしかして…。)
嫌な予感がする。

「どう?頭洗う時、ちゃんと地肌洗えるでしょ。すぐに乾くし清潔よ。」「長い髪なんかよりもよっぽどその方が似合ってるわよ」とお母さんは私に向かって言う。
そして
「あとはお姉ちゃんだけね。髪長いの。香奈ちゃんも今年は受験生だし美里ちゃんと同じように切ってあげなきゃね。」
そうか。やっぱり私だけじゃなくて、お姉ちゃんの髪も短くしたいから部屋をこのままにしてるんだ。

今は午後3時15分
もうあと30分もすれば、お姉ちゃんが部活から帰ってくる。
(お姉ちゃんが危ない!)
そう思っていると、お母さんが
「美里ちゃん。先にお姉ちゃんに教えちゃダメよ」と先回りして言ってきた。
やっぱりお母さんはお見通しだ…。私は黙って頷くしかなかった。

部屋に戻ってもう一度鏡を見た。
私じゃないような私がいる…。
耳や首の周りに髪がないのは生まれて初めてだ。
結べるようになるにはどのくらいかかるんだろう…そう考えると悲しくなって涙が出てきた。
ブラッシングしようとヘアブラシを髪に通そうとしてもそんな髪はもう残っていない。
お母さんの言うこと聞きたくなかった…。
布団のなかに潜ってしばらく泣いていると、お姉ちゃんが帰ってきたのか、下から私を呼ぶ声がした。
お姉ちゃんも髪切られるのかなぁ…。
私は部屋を出てリビングに向かった。

(続く)

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