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心のフィルムに最高の場面を焼き付けよう (クリープハイプ「夜にしがみついて 朝で溶かして」 ライナーノーツ)

クリープハイプ6作目のアルバム『夜にしがみついて 朝で溶かして』のライナーノーツを書きました。12月31日23時59分〆切なのに、22時に書き上げるという私のしがみつきよう…。主観、他感、体感 全身で感じたことを言葉にしました。よろしくお願い致します。

1.料理
ひとつのテーマに対して、関連する用語や気持ちで構成され、作られたクリープハイプの曲が好きです。お引越しや幽霊失格がそうですね。今回は料理。スーパーで材料を探して (言葉選び) 、下ごしらえをして (言葉遊び) 、盛り付けして〝歌詞〟のテーブルに並ぶ。出来合いのものではなく、調理の工程がある「料理」がテーマなのが良い。それだけでもう手作りの温かみがある。疾走感のあるイントロに、包丁でまな板をトントントンッとリズム良く鳴らすようなドラム。日常の何気ない行動をすくい上げて歌にする天才シェフです。生活に寄り添う曲ってきっとこういう曲。

でも、登場する「二人」が恋人同士や夫婦とは歌っていないんですよね。気づいた時に冷蔵されてる気分 (ゾクッ) となりました。やっぱり横にはツマでしょう。聴けば、夫婦。読めば………。正しいレシピなんてない。だって隠し味は涙でしょう?


2.ポリコ
アルバムがリリースされてから、イヤホンをしていなくても頭の中で常に流れているのが『ポリコ』でした。空気中をよく見ると無数のホコリが漂っていて、それらが溜まったものが汚れになるけど、逆で。一度聴いたら忘れられないメロディが頭にこびりついていて、ふとした瞬間に漂う。こう、油汚れをとる時に洗剤で浸け置きすると汚れが浮いてくるあの感覚。 そんな感覚で曲が頭から離れないのは初めてで不思議でした。多分、無意識に足りない足りない足りないまだ、ってポリコを求めているんだろう。

年末大晦日に気持ちが溢れて止まらないライナーノーツを書いてる今の私。〝混ぜるな危険〟の気持ち達を混ぜてしまい、余計落ちない。まとまらない。夏休みの宿題を最後の最後まで溜め込んでたあの時の私。計画表に書かなきゃいけない一日のできごとを覚えてなくて、記憶を辿って想像しながら書く。あたかも毎日記入していたかのように装って、字体も変えちゃったりして。何も変わっていない。ポリコをわかった気でいたんだ。だってずっと頭の中にいるから。いざ、ここに書くとなると時間が足りない足りない足りないまだ…。そして今この瞬間も頭から離れないの。


3.二人の間
なんだ…ここ…すごく心地がいい。ピタッとちょうどそのうまい空気…。あっ、クリープハイプの曲、『二人の間』の〝間〟ですか。こんなんなんぼでもあってもいいですからね〜 とでもいうように、某芸人のネタ冒頭で提供されてもおかしくない心地の良さ。いや、これはダイアンさんに提供した曲だわ!と自分でセルフボケツッコミをしました。メロディはもちろん、歌詞にもしっかり〝間〟があり、抜かりない。言葉にならない 「は」「え」「何が」「うん」「で」これらを歌詞にしてしまう尾崎さん、ゴイゴイスーです。気の許した相手にしか使わない相槌と会話の間をうまく入れて、二人の間を表現されている。それが心地良さを生んでいる。あと、「音以上気持ち未満」という歌詞が、この曲のすべてを表している気がします。言葉にならないそんな感じを言葉にするならば、これ。(それ言葉になっとるやないかい!というセルフツッコミはスべるので言わないでおく)


4.四季
〝四季のある日本に生まれてよかった〟
この曲を聴いた時、一番に思ったことです。クリープハイプがいるこの国で、四季を感じながら曲を聴ける。これ以上の幸せはあるだろうか。春夏秋冬、様々な表情をみせてくれる日本の季節。日常生活があってこその奇跡 、と以前に尾崎さんが言っていた言葉が沁みる。

仕事とプライベートを詰め込みすぎてキャパオーバーになってしまった時に丁度『四季』がリリースされた。「年中無休で生きてるから疲れるけどしょうがねー」「でもたまには休んでどっか行きたい」そう思い、日常から離れたくて電車で遠出した時、この曲を聴いていたら、車窓の外で流れる景色と電車の揺れが本当に本当に『四季』のメロディとぴったりハマって…「その時なんか急に無性に生きてて良かったと思って」「意味なんてないけど涙が出た」。この曲のリズムは歩くテンポにしては早すぎる。仕事に向かうその足には合わなかったのに、〝どっか行く〟その足には合って、クリープハイプってこういう風に寄り添ってくれるんだって思った。こんなバンド、後にも先にも彼らしかいない。知らない。

最後、春の思い出で終わるのも一年が巡り、またはじまる感じがして好きだ。「忘れてたら 忘れてた分だけ思い出せるのが好き」温かい気持ちが込み上げてくる。自分に優しくなれる曲。


5.愛す
自論ですが『愛す』の登場人物は『手と手』『手』の登場人物に似ている気がします。「自分でその手を離したくせに」のワンフレーズで彼らの関係がみえてきて胸が痛い。素直に言えない気持ちを〝ブス〟という言葉で表現している。悪口の類を愛の言葉にしてしまう、日本語の面白さを再発見した曲です。また、AC部作成のMVで「都会って明るいね」の字幕が出るのも感動しました。(とか言って = 都会って) 情報量が多すぎる、なんだこれ?の中のなんだこれ!な発見が面白い。曲調や歌詞は切なくもどかしいのに、クリープハイプの曲だ、と思うのは、こういう発見が散りばめられているからだと思う。肩にかけたカバンのねじれと関係のねじれをかけてるのもたまらない。年越し〝そば〟には〝君〟がいいな。クリープハイプの皆様、良いお年を。


6.しょうもな
『愛す』と『しょうもな』この2曲を続けたところにセンスを感じる。ことばのおべんきょう でおっしゃってましたが、『愛す』を作詞した尾崎さんに『しょうもな』を作詞した尾崎さんが諭してると聞き、その伏線をここで回収してくるとは…。アルバムを曲順に聴くと気づく。サビの「今は世間じゃなくてお前にお前だけに用があるんだよ」はじっと見つめられながら言われてる気分に。この曲を聴いていると見えない何かをみたくて、目を合わせたくて、目を見開いてしまう。何度聴いても新鮮で、何度聴いても衝撃で、何度聴いても心に響く。疾走感と音の連続で私の身体を突き破って、その後ろにいるお前まで届くような勢い。真摯に受け止めて立っていられるほど、私は強くないけれど、倒れても大丈夫。倒れたら受け止めてくれる優しさと強さもこの曲は持っている。だから安心して倒れる。倒れるからその後ろのお前に、お前に、お前に、世間に届け。

どう〝しょうもな〟く クリープハイプがすき。


7.一生に一度愛してるよ
つい先ほど『しょうもな』で貫通するほど奥まで突き刺されたよ。と思いつつ、「ちゃんと奥まで刺してよ」と、この気持ちを曲にしてしまう事に驚いた。言わば、世界館のDIS展示のような、否定的なものですらモノにしてしまう。私がクリープハイプに出会ったのは2013年『憂、燦々』。憂鬱の憂と真逆の燦々という対比する言葉を組み合わせたタイトルが衝撃的だった。歌詞になる言葉って圧倒的に肯定的なものが多いと思う。もし〝歌詞に登場する言葉ランキング〟があったら日の目を浴びないような言葉たちに目をつけて、指名してドラフト1位で歌詞に選抜する。この曲はその気持ちバージョンだと思った。バンドとしては目を背けたくなるファンの本音や気持ちを歌うなんて、簡単に出来ない。《…おい、気持ちって何だ?気持ち気持ちって私の気持ちが分かってたまるかよ。えっまって、好きなバンドが私の気持ちを歌ってる。なんでこんなに私の気持ちを分かったように歌うの。》《っていやいや、お前のために歌ってないよカッコ笑い》曲から声が聞こえる。曲が主張している。生きている。

歌詞にラブホテルと愛の標識の歌詞が出てくるのがたまりません。死ぬまで一生愛されてると思っててよ。1回も減らさないでよ。大切にしてよ。一生に一度愛してるよ。
そう、私も主張している。


8.ニガツノナミダ
CMサイズでもしっかりクリープハイプだし、かつ商品もPRしている素晴らしい曲だけど、フルサイズで聴くと…。「30秒真面目に生きたから」と歌い、曲のメロディもガラリと変わる。表向きの顔がふたつ。世間に対する顔とファンに対する顔。その二面性がみえる曲だった。好きなアーティストの曲ってMVが公開されたら見るじゃないですか。アルバムを買っても、自然とフルサイズで曲を聞くことになる。この曲は〝そこまで辿り着いた人〟にだけ、曲の本筋(全て)を見せてくれているようで、ひとつの曲の中でここまで表現する事が出来るのかと驚いた。あいつ魂売りやがったって、思う前にフルサイズで聴こう。


9.ナイトオンザプラネット
イントロからアウトロまで聴こえる音、思い浮かぶ光景、響く歌声、どこを切り取っても〝好き〟しか詰まっていません。この曲を初めて聴いたのはライブ。一目惚れならぬ一耳惚れだった。ライブの帰り道に頭の中で記憶をたぐり寄せて、この曲を思い出しながら帰った。寒くなり始めた10月下旬、Zepp Tokyoを背に歩いたあの時間を忘れない。無数のミラーボールの光の中で、ナイトオンザプラネットを歌うクリープハイプを忘れない。目に焼き付けて、心のフィルムで何度も再生している。ゆっくりとしか思い出せないから、早送りも一時停止もできない。その代わりに繰り返し繰り返し何度も再生する。安心してほしい、この時に出来上がったフィルムはとても丈夫で擦り切れる心配は無いから。

アルバムのリード曲にもなっているこの曲は、約9年間クリープハイプを聴いている私からみて新しいステージに上がった曲だと思った。昔と変わってしまったのではなく、しっかりクリープハイプの良さを残しつつ、新たな魅力を生み出している。映画の中の人物が色褪せないように、クリープハイプも色褪せない。「このまま時間が止まればいいのになって思う瞬間」をこれからも共に作っていきましょう。何度も焼き増しして、「最高の場面を焼き付けよう」


10.しらす
唯一無二のワールド。カオナシさんの頭の中がなんか出てきちゃってる状態!「しらす」「天の川」「猫」「美味しそう」この言葉達をいれてひとつの曲を作りなさい。そう言われてもこの曲は作れない。歌詞ができたとしてもこのメロディを合わせられない。でも『しらす』という曲は誕生して、アルバムの10曲目に入っていて、何度も聴くほどスルメ曲になっているんだからすごい。民謡のような、昔話のような懐かしい音色と太鼓の音。日本の曲と言われてもうなずけるし、世界の国の曲と言われてもうなずける。ワールドワールドな1曲です。「今日も食べるんだ美味しいご飯」の部分に、アルバム1曲目『料理』と15曲目『こんなに悲しいのに腹が鳴る』の関連を彷彿とさせる。尾崎さんの甥っ子ちゃんのコーラスが可愛い。


11.なんか出てきちゃってる
新しい。聴きながら今、ライナーノーツの文字を打ってるんだけどなんか出てきちゃってるんですよ。もう少しで出るんだけど、書きたいこともね、まとまりそうなんだけど。え?なんかって何って?何か分からないから〝なんか〟なんだよ。ところで、ネジって留めるの大変ですよね。ドライバーがぴったりハマらないと留められないし。だったら外した方がラクじゃんって思うんだけど、どう思う?え?ネジのことじゃなくて曲を聴いて思ったことを書けって?思ったことを書いたのがコレなんだけどな、先入観をぶつけないでくれよ。…なんてね、ごめん。人の頭の中って分からないもんね。出しちゃった方がいい?あーもう、じゃあさ『せーの』で同時に出さない?そうしたらお互い思うことも分かるでしょ?

せーの (冒頭に戻る)


12.キケンナアソビ
MVに向日葵が出てきますが、向日葵の花言葉は〝あなたを見つめる〟だそうです。男女のどちらの気持ちなのでしょうか。サビ終わりの「って嘘だよ」がもう、苦しい。苦しい苦しい。この一言でそれまでに綴られた言葉たち全てが真逆の意味になる。でもこの言葉、一回しか出てこないんですよね。それがまた苦しい。最初、1番と2番で男女それぞれの気持ちを歌っているのかな、と思ったけどどうなんだろう。実はどちらも同一人物で2番に関しては「夢みたいな話」だったりして。なんて考察をグルグルと考えられるほどに文学的な歌詞の曲。チャイムが鳴っても帰りたくない子供時代の反発心を比喩して歌っているのも良い。よい子は自分の目の届く範囲にいなければ心配だからね。もし、この曲が不健全な男女の事を歌っていたとしたら、家に帰ったら誰が〝よい子〟を見ますか?不倫だったら?浮気だったら?隠している部分まで見られているかも。

もう一度言います、向日葵の花言葉は〝あなたを見つめる〟だそうです。


13.モノマネ
クリープハイプの曲ってどんな男女の関係にも寄り添っていると思う。ひとつの形に執着せずに色んな形の苦しさや愛しさを歌っている。だから自分の恋愛経験を重ねて聴いてしまうことも多いんですが…。モノマネのカップルも、憂、燦々も、寝癖もオレンジもエロの男女もみんなみんなクリープハイプの曲が鳴っている中で生きてる。例えフィクションでも、それは誰かのノンフィクションに成りうる。だからクリープハイプの歌う恋愛ソングが好きです。

『ボーイズENDガールズ』のふたりの2年8ヶ月後を歌ったこの曲、歌い出しの音程も歌詞も同じで、もうそこから〝モノマネ〟が始まっている。ギターのコードも同じで何から何までそっくりだったのは驚いた。タイトルが『モノマネ』なのに〝違う気持ち〟を許すことを〝幸せ〟だと歌っていて、〝同じ〟や〝おんなじ〟ってワードが歌詞中にたくさん出てくる中で、違うことを幸せだと歌っている、そこに愛を感じました。涙を流し、泣くほどの大きな愛を感じました。


14.幽霊失格
幽霊が出てきそうな雰囲気から一変、優しいイントロが鳴る。この曲のメロディラインがたまらなく好きです。優しくて温かい。幽霊と言われるとマイナスイメージを持ちがちだけど、歌詞も愛で溢れていて、凄く熱いラブソング。 尾崎さんが「幽霊 = 怖いというイメージを成仏させた」と言っていてまさしくその通り。そしてまた、この曲も自分と重ねてしまうんだ。ふとした時に思い出してしまうあの人は、私の中でまだ成仏できていないから『幽霊失格』だよ。なんて言わせる。

この曲がリリースされた当時はコロナ禍でまったくライブが無かった時期。サブスクリプションが普及して、様々な媒体で音楽が聴かれる世の中。聴かれなくなると他の曲に埋もれて消えてしまう、そんな世の中。皮肉も込めて作られたこの曲は成仏することなく、私のプレイリストの中で今も生き続けている。なんて言わせる その曲名は『幽霊失格』


15.こんなに悲しいのに腹が鳴る
2020年冬、コロナウイルスでライブツアー中止。そこから会えない日々が始まる。当たり前に行けると思っていた残りのツアーのチケットを払い戻しにコンビニへ。躊躇いもなく現金になって返ってきて、店員さんにイライラしてしまう。誰も、何も悪くないということにイライラする。そんな自分に対して悲しくて、悔しくて。こんなに悲しいのに腹が鳴る。返ってきた現金で食べるものを買い、日々増える感染者をみて、また悲しくなる。そんな繰り返しだった日々。逃げたくても逃げられない現実。生きがいを無くした抜け殻の私を満たしてくれたのは紛れもなくクリープハイプでした。曲を作り、配信をし、ファンと繋がるコンテンツを届けてくれた。そしてアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』をリリースしてくれた。ファンにとって新曲を聴く瞬間は本当に幸せで、かけがえの無いものです。今回は特にそう思った。だって、こんなに生きづらい時代を共に生きていて、彼らも辛かったはずだから。どれだけ生きづらいか知っているだろうから。そんな中、こんなに素敵なアルバムを届けてくれた事に感謝する他ありません。

既に思い出がある曲もあれば、これから思い出がついてくる曲もあるだろう。貴方たちの音楽を聴ける今を生きれる限り、生きてやろう。死ぬほど生きてやろう。腹が鳴るから『料理』をしよう。そうして、このアルバムを繰り返し『愛す』。『四季』が巡るように何度も何度も。


クリープハイプにしがみついて、心を溶かして
私は明日も死ぬほど生きたい。

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