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悲しい黒

黒ばかり着ていた。

なにせ田舎。
近所や親戚で不幸があると、手伝いに行かなくてはいけない。
その時に着用するのは黒。
一日中台所にいても、だ。

最初のうちは、エプロンが黒ならばいいと思っていた。
ところが、こう言われる。
「出棺だから、お見送りして。エプロンはとってね」。

黒でない服を着ていると、目立つ。
紺色でも目立つのである。
嫌だった。
春夏用と秋冬用、それぞれの予備、一通りそろえた。

他の服をあまり買えなくなってしまった。
それで、黒を着ていたのである。

しばらくして、私は大変な事実に気づいた。
「黒は、悲しいくらい白(または赤)茶ける」。

これがまた、喪服の中で目立つのだ。

買い替えか。
しかし、手伝いに呼ばれなくなっていた。

家族葬が増えたからだ。
葬祭会館で行うことも多くなった。

色あせた黒い服は、今でも着ている。
貧乏くさいが、実際に貧乏なのでしかたない。

服を買う際は、霜降りグレーにしている。

色あせが目立たないから。