親友が俺受けの人外凌辱本を作っているんだが……?(4)
夢は、実在する本当の記憶だ。
どうして今になって思い出したんだろう。
二人が人外なのが分かって、あの頃の不思議な体験を重ねてしまったのかもしれない。
段々意識が浮上していく。
目を覚ますと、金縛りに遭っているかのように体がピクリとも動かなかった。
胸にも腰にも足にも、何かが置かれて巻き付くように戒められている。
「だからっ、何でお前らいるんだよっ!?」
セミダブルしかないベッドの上で両側から抱きしめられると窮屈過ぎる。
金縛りの正体は2人だった。
——もう本当に勘弁して欲しい。
痛む頭を両手で抱えていると、ふと今し方まで見ていた夢を思い出した。
「ア……? アル……ǮȽɋȾȶȿǮ・ȼǮȽȢ……、ȽɋȾȶȿɀɋɇ・ȼǮȽȢ(アルミナ・ケイル……、ルミナス・ケイル)」
妙な生き物たちが俺に言った言葉だ。
確か、こんな発音だった。
まるでお伽話の呪文のようで、幼かった俺は分からなくても心が躍っていたから覚えていた。
「!!」
その瞬間、誉と秀が飛び起きてこっちをガン見してくる。
「え、なに? どうしたんだお前ら?」
数分間瞬きもせずに2人から見つめられた。
——人外て瞬きしなくて平気なの……? 目、乾燥しない? ドライアイになるよ? 足は乾燥するからってすぐ人間に戻してたのに?
そんな事を考えていると、破顔した2人に両頬にそれぞれ口付けを落とされる。
「は? マジで何!?」
思わず手で拭き取った。
「思い出してくれてありがとう律希! 俺がアルミナ、秀がルミナスだよ」
「え?」
真名には言霊が宿る。
それは神聖な誓いの場でしか本来は紡いではいけないしきたりだった。
昔、命を助けた2人が求愛の証に名を口にした。
それは正確な発音で、相手側からも呼ばれて初めて真の効力を発揮する。
2人の求愛が今身を結んだ。
「「律希、——ȶ ɏȶȽȽ ȽɀɍȢ ʯɀɋ ȥɀɆȢɍȢɆ(貴方を愛し続けます)」」
「? ああ……、うん」
初めて聞く言葉に、何が何だか良く分からずに頷く。
また何か間違えてしまったような妙な焦燥感に襲われたが、誉と秀が心底幸せそうに微笑むから、反応に困って否定の言葉は口にしなかった。
——良く分からんけど、もういいや……。
気恥ずかしさが勝り、自嘲めいた笑みを浮かべる。
「死にかけて、そのまま忘れてた。ごめん、あの生き物たちってお前らだったんだな……っ、て、うわ!!!」
ベッドの下に引き摺り落とされて、剥ぎ取ったベッドシーツを被せられる。
3人で中に籠った。
朝陽が透けて見えて、どことなく神秘的に見える。
唐突に左手の薬指が熱くなって、思わず「熱っ!」と言いながら飛び跳ねてしまった。
「何これ……」
熱さが引いた指には見た事もない記号に似た模様が出来ていた。しかも発光している。
「結婚指輪は必要でしょ! 発信機付きで律希の居場所すぐわかるし、音声も拾えるんだよね、超便利」
——はい!?
何か言い返す前にまたシーツの中に引き込まれる。
「「ȶ ɄɆɀȾȶɇȢ ʯɀɋ ȢɉȢɆȿǮȽ ȽɀɍȢ(永遠の愛を誓います)」」
唇の両端に降ってきた口付けは、結婚式場で交わす誓いの口付けみたいだった。
【了】
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