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弟切草が30周年らしいので思い出を語ってみる。こいつはトゥルーエンドの金字塔なのです。

弟切草が30周年を迎えたそうですね。
ノベル、映画等も作られたノベルゲームの金字塔。
テキストADVに似て非なる全てのノベルゲームの祖というべきタイトル。
Ainもリアタイでプレイしたわけではないですが、昔を思いだし筆を取る次第です。(少々のネタバレあり)

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1.誰でも最後までプレイ可能なゲーム

昔のインタビューでチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)の中村光一氏は、コンシューマーゲームに触れたことのない層がボタン一つでプレイ可能なゲームを目指して作られた旨が書かれていました。
堀井雄二氏はドラゴンクエストをテクニックで挫折させないゲームとして開発したそうですが、弟切草はさらにその先を見据えたシステムのようです。
しかしゲーム未経験の知人の感想は予想外の展開。
「名前入力が一番厄介だった」というもの。
まさか本編が始まる前に躓くとは、とんだ想定外が起きてしまいました。

2.弟切草との出会い

 さすがに先述の御仁のようなポカはやらかさなかった私ですが、別のやらかしをしてしまいました。
弟切草を知っているユーザー100人にこのゲームのジャンルを聞けば99人はホラーノベルと答えるでしょう。なんせデート帰りの若いカップルが車の故障のせいで謎の洋館に閉じ込められて怪奇現象に襲われるわけですから。

 ・そもそもホラーという認識がなかった

私にとって初のサウンドノベルが弟切草だったわけですが、その頃にはサウンドノベルというジャンルは黎明期を過ぎてはいたのですよ。他のSFC時代のサウンドノベルと言えば『かまいたちの夜』『学校であった怖い話』『夜光虫』『-赤川次郎-魔女たちの眠り』『晦-つきこもり』『ざくろの味』『月面のアヌビス』でしょうか。
全体的にホラーテイストの話が中心ですね。
しかし私は(※1)かまいたちの夜のイメージに引きずられたのか、弟切草をオカルトミステリーと認識していたようで「変わっているなあ」とは思いつつもホラーとは全然認識していなかったのですよね。

・終わりがあってない物語

サウンドノベル全般に言えることですが、物語が分岐すると登場人物達の立ち位置や設定がガラリと変わりますよね。
それがサウンドノベルの醍醐味なのですが、終わりどころが分からなくなるのですよね。
もっと正確に言えばピンク栞に辿り着けないまま挫折したというのが近い気がします。
それで私は弟切草を手放すことにしました。

(※1)【かまいたちの夜】チュンソフトのオカルトミステリー。雪山のペンションを舞台に連続変死事件が発生するが、選択肢次第でホラーやコメディ等多様な物語に分岐する。

3.弟切草との再会

それから何年の月日が流れたでしょうか、世はサウンドノベルから派生した(※2)ビジュアルノベル全盛の時代。ノベルゲームのプレイしやすさも段違いになり、私も色々なノベルゲームを経験しましたがここで一つ心残りがありました。

弟切草はピンクの栞に辿り着いていない

もうPS版も出ていた時代だったかと思いますが、弟切草がB-offで叩き売りになっていたのを購入。
この時はピンクシナリオのコメディ色の強いエンディングに到達して満足してしまい、まさかその先にトゥルーエンドが控えているなんて夢にも思わず弟切草は部屋の隅で埃を被ることとなります。

(※2)【ビジュアルノベル】主にギャルゲーのADV用に開発された手法。サウンドノベルと違い効果音演出が少なめで、キャラの立ち絵が用いられたものと認識。

4.なぜトゥルーエンドが語られない?

ここで閑話休題。弟切草はサウンドノベルの金字塔でありながらトゥルーエンドについて語られる機会が実に少ない。それは何故なのか? について独断と偏見に基づいて検証したいと思います。

・既読スキップがない

弟切草はノベルゲームの草分けであり、当時はそんな機能を搭載するという発想がありませんでした。

・読み戻しもない

うっかり選択肢を間違えると最後まで戻れませんし、バッドエンドもないのでボタン連打しても一プレイあたり数十分がかかります。

・中途SAVEもない

SAVEファイルを複数用意して選択肢毎に……なんてものもありません。SAVEはオートのみ。ファイルの共有もできなかった(と思います)。

・ED一覧表もフローチャートもない

ED(エンディング)の一覧表はありません。
当然ながらフローチャートもありません。そもそも弟切草は一般的なノベルゲームのように大木が枝分かれする作りではなく、川が複雑に絡み合って海に注ぐイメージがありますのでフローチャートには不向き。
もう少し細かく解説しますね。
・かまいたちの夜(他)
樹の幹は先に行く程細くなり、枝葉に繋がります。
この枝葉の先端一本一本がEDというイメージ。当然長い枝もあれば短い枝もあり、折れている場合(バッドエンド)もあります。
・弟切草
一つの水源を源流とした川を下ると、途中枝分かれと合流を繰り返しながら幾つかの河口(ED)に辿り着きます。川は逆流することはできませんし、特定の支流からのみ辿り着ける河口もあります。

・金の栞もない

栞と言えばチュンソフトのノベルゲームのお約束。
最初からプレイできる全てのEDを達成するとコメディ色の強いちょっとだけエチエチなシナリオが堪能できるピンクの栞が挟まれますよね。
かまいたちの夜以降は全シナリオ踏破記念の金の栞が挟まれます。
でもSFCの弟切草には金の栞はありませんでした。
どこまで読み進めるか委ねられた結果、多くのユーザーはピンクシナリオを堪能して満足してしまい、その先にあるトゥルーエンド(ちょっとルートが煩雑)に気付かなかったようですね。

・PS版そこまで売れてない

SFC版に便利機能を搭載、ヒロインルートも追加したPS版やDL版もあるにはありますが、SFC版程は売れてないのですよね。で、弟切草を語るのはSFC版のピンクシナリオまでを達成した人が中心になるのでトゥルーエンドを語れる人が少ないものと思われます。

5.偶然辿り着いた真実

弟切草の初プレイからどれ程の月日が流れたでしょうか。その日たまたま弟切草をプレイしていた私はSAVEファイルに謎の数字があることに気が付きました。この数字、選択肢を一つ選ぶ毎に増えていくのですよね。それで全てのルートを制覇したら何かあるのかな? という衝動に駆られたようです。
とはいえ先に述べた通り弟切草の分岐はとて~も複雑怪奇。感覚だけでプレイしたら間違いなく挫折します。仕方ないので(※3)ゲームブック方式のフローチャートをノートに書いてひたすらトライ&エラー。
(何度同じルートに帰結したことやら)
これの厄介な所はA,Bどちらの選択肢を選んでも結果は同じなのにCを選ぶと更に選択肢が3つ出て、その内の2つが先のA,Bルートに合流、3つ目の選択肢のみ別ルートになる場合。この部分だけで5回も周回しなければいけないこと。
選択しなくても支障のないダミールートもあったのでしょうが、やってみなければ分からないせいで数十回では済まない周回をやりましたとも。

やがて追加されていく選択肢が一巡した頃には主人公視点からでもこれが周回であることを匂わせるメタ的な選択肢が散見されるようになります。
ついついそれを選びたくなるのですが、結果的にそれを選ばないことで物語は一つの終着点に辿り着きます。そこで待っていたものはヒロイン奈美の家族。
弟切草における全ての物語はこの終着点の為に用意されていたといっても過言ではない。哀しくも切ない愛すべき家族達の物語が幕を閉じました。

(※3)【ゲームブック】ストーリーを読み進めて途中の選択肢からページジャンプすることで物語の結末が変わるアナログRPG,ADVとも呼べる書物。

6.たぶん業界初のトゥルーエンド

トゥルーエンド。それは別名『真エンディング』とも呼ばれる物語の終着点。PCタイトルは疎いので分かりかねますが、コンシューマーにおける最初のトゥルーエンド作品は弟切草ではないでしょうか。
(※4)マルチエンディング方式はFC時代からあるにはあります。(※5)魔界村なんかは二週目が本番ですし、(※6)妖怪道中記も最終面の行動で分岐しますよね。
では一般的なマルチと弟切草のトゥルーは何が違うのか。マルチエンディングにもグッド、ノーマル、バッドといった区分けはあります。でも各々のEDは独立した別の時間軸ですよね。(魔界村の場合は一週目が通過点に過ぎないですけど)
一方の弟切草は全てのルートが同じ時間軸の延長線上にあります。すなわち主人公は時間逆行、ループ、時空の捻れた異次元空間の何れかをヒロイン奈美と共に彷徨っています。

(※4)【マルチエンディング】プレイヤーの行動次第でEDが複数に分岐するゲームシステム。
(※5)【魔界村】カプコンのアクションゲーム。騎士アーサーが大魔王に拐われたプリンセスを魔界村から救出する話。ただし一週目は大魔王の幻術に阻まれもう一度大魔王討伐に出かける。
(※6)【妖怪道中記】ナムコ(現バンダイナムコ)のアクションゲーム。地獄に落ちた悪戯少年たろすけが閻魔大王の審判を受けにいく話。最終的に積んだ徳に応じてEDが分岐する。

そんな展開あったっけ? と思う方もいるかも知れませんが、奈美の生家を中心とした一帯は外界から隔離された閉鎖空間になります。
それを端的に示すのが本筋では一切出番のない奈美の祖父。彼はピンクシナリオのEDで初めて姿を見せ、それまでに起こった怪奇現象は全て主人公が孫娘の彼氏に相応しいかの試験であることを告げます。(しかも結果は再試験)これだけなら数あるルートのネタエンドと受け取られたでしょう。(実際私も最初はネタだと思っていました)
しかしトゥルーエンドを迎えると、このネタみたいな展開が重大な意味を持っていたことが判明します。
そしてそれまでに辿り着いた全ての復讐物語とEDが、トゥルーエンドへの布石に過ぎなかったことを思い知らされます。そう、全ての物語はトゥルーエンドに包括されて収束するのです。

何が言いたいのかちょっと分かりにくいですかね。
近い物語展開としては(※7)シュタゲや(※8)ひぐらしのループに近いと言えばいいのでしょうか。(厳密には時間を巻き戻したり、別の世界線に飛ぶわけではないのですけど)

(※7)【シュタインズ・ゲート】主人公岡部倫太郎が、偶然完成させてしまったタイムマシンを駆使して最悪の結末を回避するADV。
(※8)【ひぐらしのなく頃に】寒村の村祭りで毎年起こる失踪&変死事件に巻き込まれた転校生と彼を取り巻く人間模様が複数の時間軸&視点で描かれるホラーサスペンス。

こればかりは実際にトゥルーエンドを見ていただかないと伝わらないと思うので詳細は避けますが、弟切草を構成する(吸血鬼の話だけは混ぜて良いのか疑問ですけど)全てのお話はトゥルーエンドの為にある。
ということです。
そんな凄い物語がSFCの初期に既に形作られていたことを知った時は衝撃ものでしたよ。
しかしね、先にも述べましたが弟切草はルートが複雑な上にトゥルーエンドが分かりにくい構造なので、どれほどの人がこの構造に気が付いたのでしょうね。
もし興味と根気のある方は是非プレイしてほしいものです。泣けるかも知れませんよ?

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