見出し画像

ユグド通信Vol.45 九領の領主達(前編)

ユグド大陸北東に浮かぶ火山島『炎の九領』数千年に渡って鬼達がしのぎを削る戦乱の大地。この地の歴史は災厄の大蛇オロチの封印から始まります(※)。

かつて九領の地に突如現れた九頭竜オロチは破壊の限りを尽くし九領の地は大混乱に陥ります。やがて紆余曲折の末に九人の鬼の長がオロチの封印には成功しましたが誰一人帰還することはありませんでした。オロチを再び甦らせない為に残された一族はオロチの首が現れた九つの火山を中心に国造りを進め武を鍛えます。そうして生まれたのが現在の九領。鬼達は長年に渡って九領の覇権を争い戦を繰り返してはいますが、なんだかんだ九つの国は存続して現在に至ります。

今では当主の内(五、八を除く)七人が義勇軍入りを果たしました。まず領主を知るには今代を理解するのが常道。そんな訳で今回は現在の九領を治める領主達について解説します。

(※)戦乱が続く地なのでこれ以上古い記録はあまり残っていない模様。


1.九領を治める領主達

左上から→順に一~九領の現在の領主。

 シュザが筆頭になって以降全ての領主が代替わりしましたがどんな人物達か覚えていますか? 

一.最強こそが筆頭

第一領主シュザ

九領の盟主である筆頭になるには如何にする?

最も確実なのが太宰御前試合に優勝すること。太宰御前試合は第一領の火山『単(ひとえ)』の噴火を合図に九領の中心にある『火中の祠』にて行われるトーナメント戦。試合という形式はとっていますが実質的には国の総力を挙げた合戦形式で雌雄を決します。(油断していると領主とて命はありません)ここで優勝した領主の治める国が新たな筆頭の率いる第一領と定められ、他の国々は順繰りに家格が一段下がります。(筆頭交代に併せて火山の名称も家格に合わせられます)

もうひとつの手段は九領最強と謳われる筆頭を手段を選ばず打ち負かす下剋上。どちらの手段を用いても筆頭にはなれますが、姑息に筆頭を闇討ちするような輩は早番返り討ちになる危険性が高いでしょうね。

では現在の筆頭であるシュザは如何にして現在の地位を得たのでしょう。彼は先代筆頭ゲンリュウサイの一族で第一領の家老の家系に生まれました。ゲンリュウサイには直系の子息はいないようなので家柄実力共に申し分ないシュザは後継の最有力候補と言えるでしょう。「普通の感覚ならね」

しかしそこはあのゲンリュウサイ。漢字で書けば『源流災』正に災いの源そのものの彼は死ぬまで筆頭の座を誰かに譲ろうなどとは露にも思いません。万が一自身が病なり戦なりで倒れようとも後のことなんて一切考慮しないでしょう、寧ろ自身の地位を脅かしかねない実力者なんて謀殺対象です。故にシュザの忠義がうわべだけのものであることは彼も看破していました。ここでシュザが他領の領主であれば太宰御前試合を待つか、隙あらば戦に持ち込んで勝利することも可能ではあったのですが、彼の地位はゲンリュウサイの家臣に過ぎません。全盛期に比べれば衰えたとはいえ未だ眼光鋭く臣下を震え上がらせる筆頭相手に下剋上を仕掛けるには地位も名声も不十分。そんなシュザに最大の好機が訪れます。

ゲンリュウサイは功を焦っていました。第九領には「九領最強では?」と噂される鬼姫がいます。しかし最強とは自分を置いて他にないという絶対的な自信と信念を裏付けるべく彼は第九領への戦を敢行します。ところが第三、第八領の加勢を得て十倍の戦力で包囲した筈の第九領の鬼姫相手に大敗を喫し引き揚げることと相成りました。この一件を契機にゲンリュウサイの求心力は徐々に低下の一途を辿ります。

だからこその起死回生を掛けた精霊島攻めに失敗は許されません。数に勝る九領軍が一度は集落目前まで進軍したものの戦線は膠着、決定力を欠いた九領軍は撤退を余儀なくされます。やがて戦果なき戦に駆り出された家臣達による謀反叛乱が相次ぐ中、かつて盟友だったボクデンは(地位への執着が)見苦しいとシュザと共にゲンリュウサイを切り捨てます。こうしてゲンリュウサイを排除したシュザは持ち前の頭脳と剣術で第一領を掌握。新たな筆頭として名乗りを挙げました。

二.命尽きるとも

第二領主ヨシツグ

第二領主の嫡男ヨシツグは功を急ぐあまり父の反対を押し切り精霊島への戦に参戦します。そこで出会ったのは後に九領歴代最強と謳われる生涯の好敵手シュザ。いつかシュザを打ち負かし九領筆頭の座に収まることを夢見た少年ヨシツグでしたが、突然の病に侵されて身動きすら取れなくなります。決まっていた縁談も破談になり家臣達からはヨシツグは廃嫡して弟ヨシカゲに家督を継がせるべきだとの声高まる中、弟の後押しもありヨシツグは病の床から領主の座に着きます。例え儚き命だとしてもシュザから筆頭の座を奪うまで彼の戦いは続きます。

三.持たぬが故に

第三領主ズイハ

第三領分家の家に生まれながらも剣術の才に恵まれず無益なお嬢様と虐げられてきたズイハは彼女に従う僅かな手勢と共に家を出奔。やがて自らに弓術の才があることを知ったズイハは戦場で名を挙げていきます。そんな折当主が臥せったことで跡目争いが激化した第三領では宗家兄弟の後見人を務める重臣が合い争う内乱状態に。ズイハはこの混乱に乗じて後見人達を排除したことで内乱に疲れた人々の喝采を浴び第三領を平定。有り余る野心は九領の覇権を虎視眈々と窺います。

四.閉塞からの脱却

第四領主オウシン

第四領は聖域でもある火中の祠を守るべく代々鎖国制度を敷くことで諸国との争乱を避け、異国の政治文化と距離を取りつつ伝統継承を重んじる国として異彩放ってきました。特に前当主であったメイゲツは人一倍九領の伝統、習慣、制度に厳格な人物で、九領全体から異国文化を排除すべく大妖怪シロガネと結託して九領支配を目論んだ結果、息子オウシンに当主の座を奪われました。一時は謀反鎮圧の名の下にシュザ率いる第一領に国を乗っ取られかねませんでしたが、第二、第九領主の仲裁もあり鎖国解除を条件に矛を収めてもらいます。オウシンも伝統は重んじるものの閉鎖的な第四領を改革すべく他領との外交にも力を入れながら領地の発展を推進していきます。

五.富国強兵

第五領主代行シダレ

織物と貿易が盛んな第五領は富国強兵を推し進めるべく民衆への鉄砲を用いた戦闘訓練を義務化。次期当主も鉄煙に留学中であることから、現在は分家筋の若き主にして軍を率いるシダレが領主代行を務めている。

六.鬼の沙汰も金次第

第六領主アキカゼ

かつて貧しかった第六領を九領有数の観光地に仕上げ商業を推奨して九領経済の中核を担う国に育て上げたのが現当主アキカゼ。剣の腕も決して劣るものではありませんが彼の十八番は商才。九領全体の流通に大きく関与し第六領抜きでは立ち行かないまでに経済を掌握。金の力で武力に頼らない国造りを担っています。

七.成り上がりの下剋上

第七領主代行シュレン

第七領の領主代行を務めるシュレンは分家の秘蔵っ子。当主や政敵から守る為に長年に渡って存在が秘匿されてきたこともあり少々世間知らずな側面もありましたが、義勇軍での活動を通じて他者の力を活用する重要性を学び、実力さえあれば生まれや地位に関係なく側近として雇い入れています。普代の家臣が不足している彼にとって志を共にする臣下の確保は正式な当主として活動するに辺り不可欠なのでしょう。

八.忌み地の神経衰弱

第八領主イザナミ

古来より妖が跳梁跋扈する忌み地と噂され、他国との交流にも消極的な辺境の第八領を治めるは式神使いのイザナミ。先代当主が急死したのか本人も執政に不安を感じながら統治を行っており、妹クチナシが成人した暁には早々に家督を譲りたがっている。日中は城に籠っていることが多く夜になると式のイザナギと共に城下を見回っているが、巨体の式を引き連れた姿が返って城下の人々の不安を掻き立てて在らぬ噂が囁かれていることに本人は気付いていない。イザナギは主の精神状態で性格が豹変するようでイザナミが正気を失うと狂戦士の如く暴れだし手がつけられない一方、普段は事務仕事を肩代わりする器用な一面もあったりする。妖怪達と不可侵条約を維持していることからも当主としての力量が劣っている訳ではない模様。

九.泰平こそ悲願

第九領主ツル

年中各地の地侍や豪族達による小競り合いが絶えない九領の地に置いて平和な国を築こうと奔走するのが第九領主のツル姫。争いなき泰平の世を夢見た両親の意志を引き継ぎ、幼いながらもしたたかに利用できるものはしっかり利用する姿勢で筆頭相手と言えども決して物怖じせずに啖呵を切る意志の強さを有する一方で年相応の無邪気さから多くの鬼達にも慕われてもいる。かつては毎日の飯にも事欠くほどに貧しい国へと衰退していたが、ツル姫の努力の甲斐あってか現在は平均水準まで経済も持ち直した模様。

十.九領の海から世界を目指す

第十領主ミシマ

ここからはちょっと番外編。九領の大地には当然九つの国しか存在しませんが、近海の海と島々を統治するのが(自称)第十領主率いるミシマ水軍。ミシマは近隣の水軍や海賊達を平らげ一大勢力を築き九領筆頭の座を狙っていました。しかし丘の事情に疎いミシマは筆頭が代わったことすら気付かず、挙げ句海の上なら独壇場とばかしにシュザ率いる第一領軍を罠にかけるも敢えなく壊滅的な敗北を喫します。

自らの未熟さを痛感したミシマは水軍を再編。九領全土は勿論のことユグド本土や外海に至るまでの情報網を構築して九領各地に拠点となる隠し港を設置。更に鉄煙の技術を取り入れた最新鋭の軍艦を居城に世界の海の覇権を夢見ている。

まとめ

以上が現在の九領を治める領主達になります。ところで先代領主をご存知ですか? 主に回想にはなりますが、作中にはツル姫やアキカゼの父なんかも少しだけ出てくるのですよね。次回はそんな先代領主と親族達がどんな活躍(?)をしたかについて検証したいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?