「密室の中の亡霊 -幻視探偵-」小ネタ(Kiramune Presents READING LIVE)


多重解決もの

一つの事件に対し、複数の推理や解決が示されるミステリーの形式。
アントニイ・バークリー「毒入りチョコレート事件」(1929年)が有名で、作家・有栖川有栖も創元推理文庫40周年記念小冊子にて「『毒入りチョコレート事件』が推理合戦のルーツ」と語っている。

本作も三条虚霊3人の弟子全員に動機があり、玄十朗はそれぞれが犯人の場合の幻視を視ることになった。

続編「幻視探偵 -笹嘉神島の殺人-」のパンフレット内の対談で、脚本・相沢沙呼が「(脚本執筆)当時の日本のミステリーシーンで『多重解決もの』が流行していた」と語っており、同氏の代表作「マツリカ・マトリョシカ」(2017年)、「medium 霊媒探偵城塚翡翠」(2019年)もそれに当てはまる。

キャラクターのネーミング

登場人物の命名には規則性がある。

名前に数字を含む

0.三条虚(霊→零)
1.浅野宗
2.鹿島正(次→二)
3.笹木

3名の容疑者の名前に数字を入れ、更に被害者である虚霊にもイレギュラーな形(霊→零)で数字を入れることで、自死(および密室トリックの犯人)の可能性を示唆している。

苗字の頭文字があ弾(母音が「あ」の五十音順)

  • 浅野宗一(さの そういち)

  • 鹿島正次(しま まさつぐ)

  • 笹木三郎(さき さぶろう)

  • 田辺 清(なべ きよし)

  • 中村平助(かむら へいすけ)

4番目が田辺清。3名の容疑者に次ぐ4人目の容疑者の示唆。
(4=シ=死の含みも?)

清(きよし)と三条虚霊の長男・博(ひろし)は、3字とも子音が一致している(→同一人物説の緩やかな肯定?)。
名前の頭文字(「き」と「ひ」)は、い弾(母音が「い」の五十音順)で4つ離れている(き→し→ち→に→ひ)。

ロウソクの火が消えるトリック

脚本の相沢沙呼先生は「奇術愛好家」を自称するほどマジックに精通している。
作品内で三条虚霊が用いた「ロウソクの火を自動的に消す」トリックを摂理が「マジックみたい」と評したのもこのため。

「幻視探偵」の能力

作中で「(超能力のようなものかという問いに対し)違います」と食い気味に答えたように、暁玄十郎の「幻視」というのはあくまで「関係者の証言や物証から事件の実像に近付ける能力が異常に高い」だけで、オカルティックな超能力ではない、というのが語られている。
犯人を含む登場人物の思考や行動原理を推測し、何十、何百通りの再現(シミュレート)する中で最適化された、より真実らしい結果を「幻視」と呼んでいる。
(ただし、摂理曰く「(幻視能力の一環で)相手の思考を理解しているつもりでいるが、相手の気持ちに立ててはいない」)
そんな、犯人が仕掛ける「超常現象」、「霊能力」に見える事象にも、必ず科学的に証明可能なトリックが存在する、という暁玄十朗の基本思考があるにも関わらず、自称・亡霊の斗真摂理が目の前のいる現実を説明すること出来ず、"幻覚"と言い聞かせているアンバランスさが作品の魅力の一つである。
脚本・相沢沙呼の代表作「medium 霊媒探偵城塚翡翠」における、「霊媒」をストーリー前半の推進に使用しつつ、結末では…という流れにも類似する。

斗真摂理が"視えている"こと

"観客"のダブルミーニング

暁「心霊と魔術の立証だ」
摂理「心霊と魔術を…どうやって?」
暁「観客幽霊視せてしまえばいいのだから」

「密室の中の亡霊 -幻視探偵-」

このセリフには2つの意味がある。

  • 三条虚霊のトリック
    三条虚霊は、心霊(三条雪の亡霊)と魔術(交霊の儀式)を立証するために3人の弟子を黒書館に呼び寄せ、観客(目撃者)に仕立てることを計画したと、暁玄十朗は推理(幻視)する。

  • 本作品のトリック
    この朗読劇自体も、"信頼できない語り手"暁玄十朗により「開演直後から斗真摂理が登場し続けている」という、観客を巻き込ん(メタ視点)での二重構造のトリックとなっている(あえて「観客」というワードを選択しているように見える)。

「君のせいだぞ斗真摂理!」

劇中の時間を少し遡る。

暁「君のせいだぞ斗真摂理!」
摂理「僕のせいだって!?」
暁「そうだ!君のせいで私は『幽霊が存在するかもしれない』と当たり前のように受け入れてしまっていた!」

「密室の中の亡霊 -幻視探偵-」

この朗読劇の観客も、当真摂理が"視えている"(登場し続けて、玄十朗と会話している)ことが"当たり前"になっている。

「こんな事件、普段の私ならものの数秒で解けていたはずだ」は大袈裟ではない

暁「こんな事件、普段の私ならものの数秒で解けていたはずだ」

「密室の中の亡霊 -幻視探偵-」

作中の時系列

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\begin{array}{ll|l|l}\hline
1909年 & (明治42年)頃 & 三条虚霊が心霊研究に傾倒する。& 明治末の"千里眼事件"前後 \\ \hline
1919年 & (大正8年)頃 & 黒書館殺人事件で三条虚霊が殺害される。 & 2019年からおよそ100年前 \\ \hline
1926年 & (昭和元年)頃 & 田辺清が手記を発表。 & 「アクロイド殺し」(1926年発表)より後年 \\ \hline
2009年 & (平成21年) & 斗真摂理が冤罪で誤認逮捕されそうなところを暁玄十朗に助けられる。 & 「10年前に~」 \\
& & 斗真摂理、暁玄十朗の助手になる。 & 「10年だ。今年で10年になる。」 \\ \hline
2018年 & (平成30年) & 斗真摂理が凶弾に倒れる。暁玄十朗が肩を負傷し探偵を休業、療養に入る。 & 「1年後、令和元年」 \\ \hline
2019年 & (令和元年) & 三条透が暁探偵事務所を訪れ、暁玄十朗に調査を依頼。 & (同上) \\ \hline
& & 笹嘉神島(離島)で殺人事件が発生。暁玄十朗に調査が依頼される & 再演時の追加エピソード \\ \hline
\end{array}
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