情けない山野の現実❹

自然界にゴミを捨てる事の実害です。20年も前の出来事でしたが、今でも鮮明に覚えている事実です。

東北地方での山行を楽しんだ下山後、ダートの林道を走行中、右側が道幅を広げるために土手状の大地となった杉の人工林の中、一匹の動物の姿が見えて、
…あぁ狸だな…
と確認出来ました。

しかし立ったまま動かず、私の車が見えている筈なのに逃げないので、
…何か様子が変だ…
と注視すると、異常事態を知り静かに走行して近付き、
…頼むから動かないでくれ…
と祈りながら狸の目前で停車し、即エンジンを切ってそっとドアを開けて車を降り、その狸を正面に見たのです。

それは痛ましい光景でした!

【プラスチックの容器を耳の後ろまで被っていたのです】

きっと美味しそうな中身に誘われて頭を突っ込み過ぎて抜けなくなり、力尽きて休んでいたのでしょう。

…よし、いい子だから逃げないでくれよな…

と、祈りながら両手を差し出したのですが、土手は私の胸の高さ程あり加えて足場は崩れやすい土で届きません。
でも何故か狸が前に歩み寄ってくれたので、

…一発勝負!…

と気合いを入れて崩れやすい斜面を蹴ると、見事に私の両手両指が顔の左右の容器の縁(ふち)を捉え、狸の頭の温もりも感じる事が出来ました。

…よーし、やったー!…

手応えを感じたのですが、ここからが格闘でした、抜けないのです!
当然、狸は暴れ回り前足で私の手を振り払うべく叩いてきました。
私は“指先が出るドライビンググローブ”を“はめて”ましたので痛くなかったのですが、何よりも届くのがやっとの距離で腕が伸びきり、足場も悪く引き寄せる力が出せません。狸の暴れるに任せて耐えるしかなかったのですが、それでも容器は抜けないのです!
そればかりか、少し容器が抜ける方向に動くと却って喉を圧迫するのか、声なのか鼻息なのか苦しそうな…グフグフ…と言う低い音(うめき声)が容器越しに聞こえてきました。

ここで私は怖気付いてしまったのです。
暴れようと、のたうち回ろうと助けたい一心で耐えたのですが、その音(うめき声)を聞いた瞬間に…怖い!…と感じてしまい、早く終わらせようと左手を喉元の縁(ふち)へと移動させましたが、残念ながら捉える事が出来ず逃げられてしまいました。

何の事はないです、堪えていれば良かったのに、声を聞いて弱腰となって【手を離した】のですよね。
腕が伸び切っているのに…手を移動させよう…だなんて、自分を偽る言い訳です。怖くなって手を離したのですよ。

プラスチックの容器を被ったまま走り去って行く後ろ姿を、背筋に悪寒を感じながら見送った映像と共に、顔を捉えた時の感触と狸の体温を今でも覚えてます。
午前中の下山後ですから、あの時あの瞬間その場に居た人間は私だけです。
しかも車を降りた私の前に歩み寄ってくれたのに、
…助けてやるぞ!…
と気合いを入れた割には、うめき声一つ聞いて恐怖心を抱き、手を離すという失態を演じたのでした。
情け無いでしょう。

狸の後ろ姿が見えなくなり、改めて土手を登って杉の人工林を見回すと、缶・ペットボトル・菓子袋などが所々点在するのを確認し、林道側から投げ捨てられたと推測出来ました。

…容器に顔を突っ込んだ現場はここだな。しかも匂いに誘われるとは、つい最近投げ捨てられたゴミだね…

狸の顔を捉えてから手を離す迄の一分程の悲しい現実でした。

次回、熊の生息地と山村開発について語ります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?