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DEPARTURESから音楽鑑賞の幅を広げてみる

2020/04/18


 今月の過去記事ではTM NETWORKのカバー曲を足がかりにして、そのアーティストのオリジナル曲にまで踏み込んでみた。今回は小室哲哉自らがメンバーとして所属するもうひとつのユニット・globeの代表曲「DEPARTURES」の別バージョンから、それに関わるアーティストの活動を深掘りする。このブログらしく、第一興商のカラオケサイト・DAM★ともの話題も少しだけ織り交ぜながら展開してみよう。
スポンテニア「DEPARTURES」、名取香り「Lovespace -Royal Mirrorball Mix-」

 カバー曲はどこまで行ってもカバー。やはりオリジナルは超えられない。そう思っている方にこそ、スポンテニアの「DEPARTURES」を聴いていただきたい。globe一番の代表曲でありながら、僕は本家のオリジナルよりもこのカバーの方が大のお気に入りだ。誰でも知ってる偉大な名曲でオリジナル超えを果たしたスポンテニアのメンバーには、心から拍手を送りたい。
 原曲の面影がまったくなくなってしまうようなアレンジではない。globeに興味のないリスナーにもこちらに振り向いてもらうためではなく、あくまでもglobeが好きなリスナーをターゲットにした作品だし、制作した当人たちもこの楽曲に並々ならぬ愛着と敬意を持っていると僕には感じられる。
 美しいピアノの響きはglobeの雰囲気を継承したまま、サビでは高音シンセサイザーの細かい動きでダンス・ミュージック色を強め、踊れるバラードを完成させた。新たな解釈を追加して大幅に尺の増えた男性パートも聴きどころだ。
 ボーカルの名取香りはダンスにも精通している。TRFのユーキ同様、実際に踊ることもできるボーカリストが歌うダンス・ミュージックというのは、そうではないボーカリストのものよりも格段に刺さる。どんな歌なら体を動かしたくなる気分になるのかを、クラブの現場でしっかり体感した上でレコーディングに臨めるというのは、この上ないイニシアチブだ。
 人前で披露するかどうかは別問題として、ダンスをかじってみたり、自分も踊るかどうかは抜きにして、クラブでのDJプレイを目の当たりにして、それを楽しむ人たちと場を同じくするなど、こういった経験は歌を志す上でも大いに活きてくるだろう。
 このバージョンを知ったきっかけは、DAM★ともの公開動画だったんだよね。歌もうまくて、何度もリピートしたものだ。今はもう聴けなくなっているけれど。
 さて、そんなスポンテニア自体はどんなオリジナル曲を持っているのか…と、これまでの過去記事の流れならそうなるのだが、今回はスポンテニアに加入する前に名取香りがソロ・シンガーとしてリリースした作品の方に焦点を当てよう。とっておきの楽曲がある。それが名取香り「Lovespace」だ。
 作曲したのは宇多田ヒカル「Movin'on without you」も手掛けた村山晋一郎。僕がこの「Lovespace」を最初に聴く動機になったのは、この作曲家がクレジットされていたから。ボーカリストの名取香りについては、当時ほとんど知識がなかった。どうやって知ったんだっけ。お店の試聴機に店員さんが手書きでコメントしてくれていたのかな。CDを開封しなくても制作に関わったミュージシャンが確認できるのは、購入の際に一助になる。
 シングル表題曲のバージョンは、幅広い層のリスナーを想定して作られているが、僕は併録のRoyal Mirrorball Mixの方が圧倒的に気に入っている。
 聴きどころを説明しようとしても、全部という答えになってしまう。これでは説明になっていないのは承知しているが、嘘偽りない本音の感想がこうなんだよね。
 その中でも更なるブチ上げポイントを敢えてあげるなら、鍵盤のグリッサンド奏法の部分。高音部から低音部まで、手を一気に滑らすように移動させて発音する表現方法。ピアノのことを大して知らなくても、ここのみ切り取ったように演奏するだけなら、初心者でも造作なくできて、出せるインパクトも非常に高い。
 しかし、こればかりを連発していても子供のいたずらと変わりない。グリッサンド以外のパートもそれ相応にクオリティーが高くないと、グリッサンドの部分だけが浮いてしまって楽曲としてうまく噛み合わない。故に、劇薬のような表現方法だと僕は思う。このアレンジはグリッサンド以外の部分が完璧だからこそ、グリッサンドが映えるのだろう。この点が先述の聴きどころが全部というところに帰結する。
 音楽制作をしている方は、グリッサンド奏法を採り入れる際、そこに持っていくまでにサウンドをどのように構築しているかに注目して、この作品を聴いてみていただきたい。
 これとは別にFreeTEMPOによるリミックスも存在する。こちらは間奏でまた一味違うブチ上げポイントが仕込んである。僕もクラブで実際に体感できて幸運だった。あのときの会場の盛り上がりはハンパなかったなあ。

globe「DEPARTURES(Shinichi Osawa Remix)」、信近エリ「Voice」

 FPMや小西康陽などの2000年代中頃に日本のクラブ・シーンを熱くしたハウス・クロスオーバーの精鋭たちが集結してglobeのリミックス・アルバム「house of globe」を完成させた。こちらに収録されている「DEPARTURES」はモンド・グロッソの大沢伸一がリミックスを手掛けている。2019年5月12日の過去記事では、このアーティストの楽曲「Everything Needs Love feat. BoA」を取り上げている。
 オリジナルのクリーンな印象から一変した。定番中の定番をよくここまでマイナー感で満ち溢れさせることができたなと思う。まったく寝つけない夜の午前3時とか4時に、一人で聴いてズンとハマるようなリミックス。
 400万枚売れたアルバムの収録曲中、最も知名度の高い曲をこんな風に聴かせられるのは凄い。いくらテイストを変えようとしても、オリジナルの持つ強いパワーに引き寄せられてしまいがちだ。しかし大沢伸一は元のイメージから完全に脱却した、まったく別なアプローチからの「DEPARTURES」をここで示している。
 ヒットチャートの1位を何週も突っ走るような、誰でも知ってる、「みんなのDEPARTURES」ではなく、深い所までくまなく潜らないと探し当てられないような「俺だけのDEPARTURES」に変身したと言えよう。
 さて、このリミックスを担当した大沢伸一が他に手掛けたプロデュース作品の中からひとつピックアップしてみたい。信近エリ「Voice」だ。 
 リリース当時の信近エリはまだ10代だったと記憶している。多く見積っても二十歳やそこら。作品が世に出る頃には成人していたとしても、10代の頃から制作には着手していたはずだ。しかしながらベテラン・ボーカリストにもまったく引けをとらない存在感。
 DAM★ともの話をすると、この信近エリの楽曲を歌って公開しているテイクがあったんだよね。歌の出来云々よりも、これに目をつけているというその事実だけで「マジですか!?」と、一瞬目を疑ったほどだ。カラオケのサイトとしては驚きの選曲。これは鑑賞していてアツかったなー。
 我こそは!と思う歌自慢のリスナーに、ぜひともこの曲が届いて欲しい。一聴してすぐについていける人はそうそういないだろう。難曲中の難曲には違いないが、きっちりトレースできたときの満足感は、そこいらの楽曲の比にはならない。
 コーラスを担当しているのは有坂美香。あの彼女を脇役に回しても埋もれない歌声を、未成年のうちから持ち合わせている。そういう点でも要注目のボーカリストだ。コレ、制作時には有坂美香が仮歌を歌ってたのかなー。もしそうなら、それを聴きながら練習していた信近エリはどんだけ贅沢なんだ、とか思ってしまう。
 You Tubeは無理でもニコニコ動画なら聴けるかな。MVは楽曲の尺が若干縮んでいるので、ビビッときた方は配信やCDで入手するのが良いだろう。