歌ってみた動画で楽しむ、小室哲哉復帰作(乃木坂46編)

 引退して表舞台から退いていた、音楽プロデューサー・小室哲哉。今年の夏は2曲の新作を発表してファンを喜ばせた。僕も「あんな終わり方はあんまりだ」と思っていただけに、非常に嬉しい。今回はその反響で、数多く掲載された復帰作のカバーやリミックスの中から、ビビッ!ときたものをピックアップしてみた。


Play.Goose「Route 246」

 まずは生演奏によるバンド・アレンジから。これは編成が良い。小室哲哉の復帰第一弾ということで、画面中央のマナミの持つショルダーキーボードが絵面的にポイント高い。4人が4人ともリード・ボーカルを取れるぐらいに歌唱力がある。これを活かした多彩なコーラス・ワークが聴きどころ。オリジナル歌手の乃木坂46では、なかなかやらなさそうな技だ。男女混成なのに主旋律を順繰り回して歌っても違和感なく通して聴ける。ここは何気に凄い。各自が練習しておくのはもちろんだが、キー設定も綿密に抜かりなくやっているんじゃないだろうか。これは聴いていて面白い。

 キンキンのEDMはちょっと耳が痛くなるよというリスナーも、このアレンジなら聴きやすいのではないか。


DJ Margarine「Route 246(Margarine's EDM Remix)」

 続いては打って変わってシンセサイザー全開サウンド。さっきの例えを引っ張り出すと、こちらはいかにもキンキンのEDMだ。長年の小室哲哉ファンからすると、乃木坂46のオリジナル版のアレンジでは、ちょっと肌触りが柔らか過ぎるんじゃないかと思っている方もいるだろう。そういうリスナーにこそこちらのリミックスを聴いていただきたい。「コレコレコレ!このぐらい派手にかましてくれないと!」となるのではないか。

 発売から少し日が経った今だからこそ、振り返って思う。僕は「Route 246」を小室哲哉の復帰作という位置づけで聴いているけど、これは乃木坂46の持ち歌だ。彼女たちがこの曲で「さあ、今からデビューします!」という状況なら話は別だが、既に20作以上のシングルをリリースして人気も確立しているグループだ。これまで聴いてくれたファンをア然とさせるような急転回をしてもいいのかどうか。「Get Wild」や「EZ DO DANCE」が好きなリスナーへ贈る以前に、「しあわせの保護色」や「夜明けまで強がらなくてもいい」を買ってくれたリスナーへ、次に何を届けるかということも考慮に入れなくてはならない。そのあたりも踏まえて、あのオリジナル版の仕上がりに留めておいた、という憶測をしてしまう。

 このMargarine's EDM Remixで触れておきたいのは、アウトロの一節。制作者の、小室哲哉復帰が嬉しくて仕方ない心情が溢れ出ていてこちらもジーンとくる。仮に引退の件がなく、ここまで小室哲哉が音楽活動を継続していたら、最後のフレーズはなかっただろうからね。


chi4「Route246]

 最後は歌と鍵盤1台だけのシンプルな編成のもの。こう書くとおとなしいアコースティック・バージョンのような印象を持つかも知れないが、パフォーマンスは熱量溢れる、聴きごたえのあるものだ。

 カバー動画を作る際に、伴奏を生楽器1台だけで全部まかなおうとすると、歌唱だけではなく演奏面でもおおいに歌い上げて変化に富むものにしないと、視聴者を最後まで引き付けておくのは難しい。

 原曲自体がシンプルでおとなしく、その感じを良さとして押し出しているのならともかく、フルバンド編成の曲をアコースティック・バージョンでカバーとなると、たいていのリスナーは元のゴージャスなアレンジを聴いてしまっているので、そこへ終始4ストロークのコード弾き伴奏を持ってきても、眠くなってしまうだけだ。その点、こちらのカバーは演奏も熱い。

 分厚いバッキングに乗る際は、あえてやたら歌い上げ過ぎないのも立派な方法のひとつだと僕は思うが、弾き語りスタイルだと、やはり一番大事なのはボーカル。可能な限り目いっぱい表情をつけて歌うのがいいだろう。「Route246」は歌詞にwow wowが多過ぎという感想をチラホラ見かける。でも、作詞におけるwowの多用自体はさほど問題ではない。それよりも、同じ歌詞が続くからといって、歌い方まで一本調子になってしまうのは要注意。この曲をカラオケで歌ってみようという方は、chi4がwow wowのフレーズ締め部分をどのように歌い回しているのか、よく聴いてみてはいかがだろう。聴き手を退屈させないテイクとはどういうものか、掴めるのではないか。