新たな振り付けで踊り直される名曲

2019/09/01


 最近アツイのが、既存の振り付けに捉われず、独自の解釈で過去の名曲を踊り直してインターネット上に投稿したダンスミュージック。音楽制作において、主旋律であるボーカル・パートはそのままに、それ以外の楽器演奏の部分をごっそり作り直す手法は、現代では定着しているが、ダンス・パートの方を一新するのは、これまであまり馴染みがなく、僕には目新しく映る。今回はそういう動画を見ていこう。

DANCEROID「EZ DO DANCE」

 本家のTRF・DJ KOOから直々にオファーを受け、avexのスタジオを利用して撮影されたらしい。破格の待遇だ。
 繰り返しの視聴に耐えうる、高いクオリティー。さすがだ。隙がない。一番の盛り上がりは間奏の全員で両腕を大回しにするシーンだろう。初めて見たときは感動した。人数の多さを活かした、良い振り付けだ。
 本家TRFのものではなく、こちらの振り付けをコピーして投稿する視聴者もいる。それも一人や二人じゃない。楽曲の独り歩きというのはよく聞く話だが、こうなってくると、振り付けの独り歩きとでも言うべきか。とにかく素晴らしい作品を残してくれて、本当にありがたい。trfをデビュー時から聴いている身としては感慨ひとしおだ。「EZ DO DANCE」は作曲者の小室哲哉ですら預かり知らぬところで、この先長く日本の産んだダンス・クラシックとして残っていくんじゃないだろうか。海外には「ステイン・アライブ」などのような例があるけど、日本にはまだそういう存在、パッとは思いつかないよね。



広島県呉市「呉ー市ーGONNA呉ー市ー」


 まず、最初に曲名を見て目がまんまるになった。ツカミはOKだよね。再生する前から「なんじゃコレは!?」と見事に思わされた。TRFのヒット曲「CRAZY GONNA CRAZY」をベースに、広島県呉市が地元のPR用に制作したのがこの動画。アーティスト名をつけるとしたら、キャラクターになっている呉氏ということになるのか。何と紹介したら良いのか分からないが。こちらも本家とはまったく異なる振りつけ。TRFの出演したTV番組を録画して何度も見た上に、ライブにも足を運んだ僕の目から見ても、見ていて楽しい!

 公開当時は、カメラアングルが必要以上に切り替わらない、ダンスのみを追ったバージョンもあった。今もどこかで見られるんだろうか。

マスコットキャラクターの呉氏が恋人とのデートを楽しむも、途中で険悪な雰囲気になってしまい、落ち込んでいるところを仲間たちに励まされ、最後にはヨリを戻すという、ちょっとしたストーリー仕立てになっている上に、絶景ポイントの撮影にも力が入っている。呉市に興味を持ってもらおう!という意図は十二分に汲み取れる。連れ立っての旅行はもちろん、カメラとか運転が好きな方なら、ドライブ・ツーリングがてらに写真撮影を楽しむ独り旅もいいだろう。
僕は広島県呉市には縁もゆかりもないけれど、この動画の公開以降、確実に呉市を身近に感じるようになった。PRは成功なんじゃないかな。キャラクターデザインは、ダンスすることは微塵も考慮されていないと思うが、このギャップが逆に良かったのかも。



ミギヒダリ アリサ「Mista Swing」


 野崎良太を中心とする音楽プロジェクト・Jazztronikの楽曲・「Mista Swing」。これは僕もかなり繰り返し聴いた。何度聴いても摩耗することのない屈指の名曲だ。部屋でCDをかけるだけではなく、実際にライブ会場やダンスフロアでも体感したが、本当にテンションがブチ上がる!先述の2曲は、元々オリジナルの振り付けが存在していたが、こちらはまったくのゼロから構築していったものだ。テクニックも確かなものを感じるし、その場の思いつきだけで動いているのではなく、楽曲をしっかり租借して丁寧に作りこんでいる。イントロの段階から、打楽器のフィルインやキックの打ち方に呼応して動いているのが分かるので、この曲に詳しければ詳しいほど「オオッ!」と思えるだろう。映像が終わった途端に、「ああ~っ、これは最後まで見たかったな」と思ったが、後でご本人のブログを見て「たしかに一人でフルコーラスはさすがにしんどいな」と思い直した。

 TRFとJazztronikには接点がある。Jazztronikの「Love Tribe」のMVにはSAMが出演しているし、TRFの「GOING 2 DANCE'06」はJazztronikのリミックスだ。さらに野崎良太のFMレギュラー番組「ジャジン・ザ・ナイト」にはSAMがゲスト出演したこともあった。

 TRFは後進の育成にも積極的で、自らのライブに駆け出しのダンサーを多数出演させてきている。この方がもう少し早く産まれてきて、何かの巡り合わせで「Mista Swing」制作時の野崎良太と出会っていたら…という妄想を起こさせずにはいられない動画だったと思う。あと2人くらいダンサー仲間が呼べて、ちょっと景色の良い場所で、衣装も微妙に変えながら、いろんなアングルから撮ったものを上手く繋ぎ合わせたら、いっぱしの映像作品として成立しそう。