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Spotifyで鑑賞できる、ここ1〜2年で開拓した邦楽女性ボーカリスト。

 前回はnoteのホットな企画に乗っかってみたが、本記事はその続編となる。spotifyが後援につくのを意識して書いてみたわけだが、今回は趣向を変えて、現在spotifyで聴ける曲縛りにしてみた。

 タイトルに相応しく、発見や開拓をテーマにしたい。よって、最近のヒットチャートで躍進中のLiSAやYOASOBI、はたまた何十年という長いキャリアを持つ竹内まりやに松任谷由実、さらに伝説となった安室奈美恵に美空ひばり…そういう誰もが知る大いなる存在には、ひとまず席を外していただき、知られていないところから拾い上げた。


 今回のアーティストは、いずれもまずYouTubeのカバー動画で存在を知り、もっと深くまで鑑賞したくなってオリジナル曲にも耳を傾け、その出来が良かったので、それ以降も興味を持ち続けている。

 知らないアーティストの知らない曲に飛び込むには、聴く動機がどうしたって必要。そこでカバー曲がアーティストと新規リスナーの接点を作る、大きな役割を果たす。僕も最初は、慣れ親しんだ曲を別のテイストで楽しめてラッキー!程度にしか思っていなかったが、最近は「これは!」と感銘を受けたカバーなら、そのアーティストの持ち歌も積極的に聴きにいっている。ヒットチャートからだけでは見つけられない、掘り出しものに巡り合えることもよくあるからだ。

 それでは早速、鑑賞していこう。


藤崎未花「"Progressive"」

 2人組ロックバンド・MINT SPECのボーカリストであるMiiの旧ステージ・ネームが藤崎未花だ。この曲はバンド結成前に制作されたもの。ソロ・シンガーとして活動していた頃の彼女の持ち歌は10曲以上あり、それらは現在も大切に歌われ続けている。

 ピアノとギターが生み出す、曲線を描くような大きなうねりのある旋律は、大波小波がザブンザブンと音を立てているかのようだ。そのサウンドの嵐の中を、Miiのボーカルが逆風に顔をしかめながらも、懸命に立ち向かって前へと進んでいく。恐れに対峙して勇気を振り絞りたい!そんなときに背中を押してくれる楽曲。いやいや、後方支援というよりは、前に立って道をこじ開け、リスナーをリードしてくれる強さすら感じる。

 彼女の存在を知ったのは、globeのヒット曲「DEPARTURES」の、MINT SPECによるカバー動画だった。それからYouTubeの生配信を見るようになったのだが、僕が見出した当初は、大半の視聴者はX JAPANのカバー目当てで、彼女の持ち歌に対する反応は薄かったように思う。かくいう僕もそんな1人で、当初はX JAPANの曲を歌い出すであろう頃合いを見計らって、チャンネルにアクセスしていたものだ。

 ところが現在は、新規の視聴者から「今の曲は何ですか?」という質問が寄せられようものなら、Mii本人よりも先に、長年のファンがコメント欄で答えてくれるような状況を生み出した。地道な努力が実って、オリジナル曲も着実に視聴者に浸透させてきたのである。

 さらに生配信の曲目を、Mii自身のオリジナル曲縛りでやってみてはどうかという声まで上がってきている。歌う本人は自分の曲だけで視聴者が集まるのかどうか不安に思っているかも知れない。しかし、仮に持ち時間を60分とすれば、それを丸々藤崎未花の歌で楽しみたいというヘビーリスナーは、確かに生まれている。僕がMINT SPECを知った当初は、想定できなかったことだ。その数が1000人を軽く超えて、Zeppを満席にできるとまでは言わないが、一人や二人どころではなさそうだ。

 もし藤崎未花縛りを敢行するときは、いつもはオリジナル曲で配信を締めるところを、DEPARTURESやTHE ALFEEなどの、X JAPAN以外の既出カバーに差し替えてみるのも、雰囲気が変わっていいだろう。

 オリジナル曲を持つ歌い手は、なんとか披露する機会をみつけて、アピールしていこう。コツコツと継続するのが肝心だ。そうすれば、Miiのような状況を生み出せるかも知れない。

 spotifyの楽曲の再生回数の表示は、1000回未満のものは実数の表示は省略されている。Miiの持ち歌で再生回数が表示されているのは、しばらくの間「夢花火」1曲のみだったが、つい最近新たにもう1曲、再生回数が1000回を超え、表示が出るようになった。

 この「"Progressive"」にも再生回数の表示が出るくらい、多くのリスナーに聴かれて欲しい。



mikkomiko feat. Nanao「EDEN」

 続いても、先の「"Progressive"」同様、スリリングな1曲をとりあげよう。この曲のボーカリスト・Nanaoの存在が強烈に印象に残ったのは、機動戦士ガンダム逆襲のシャア主題歌「BEYOND THE TIME~メビウスの宇宙を超えて~」(TM NETWORK)のカバー動画を鑑賞してからだ。

 動画投稿のみならず、YouTube生配信も始めた彼女だが、レコーディングされた音源と実際の生歌のギャップがないのに驚く。この歌唱力は本物だ。歌のラインナップも、ありきたりで通り一遍にならないようにしてある。難曲にも果敢に挑み、緊張感が途切れない配信だ。

 配信自体はまだまだブレイク前夜という状況。よって、個々のコメントにも目が届くし、視聴者と配信者のやりとりも、今のうちならまだできる。Nanaoの歌が良いなと思った方は、生配信で応援のコメントを送ってみてはいかがだろうか。僕は、今の状況のままでは終わらないだろうと思っている。いずれはコメントひとつ目に止めてもらうのも、なかなか厳しくなるほど繁盛しそうだ。

 mikkomikoとNanaoのコラボレーションによるオリジナル曲を聴きだした契機は、Nanaoのカバー動画の数々を聴くうちに、この歌い手なら何を聴いても気分良く聴ける!という確証が持てたから。まずカバー動画でリスナーを何度も満足させておかなければ、オリジナル曲の再生までには至らない。これから楽曲投稿を始めようとする歌い手は、撮った端から量産するのではなく、出来の良いものを選んで公開しよう。明らかに失敗したなと思ったら、リテイクして良質なカバーを出しておきたい。

 歌詞を間違えるとか、トリッキーな間奏の後の歌い出しでフライングしたり出遅れたりとか、そういう技術がなくても練習でどうにかなるようなミスはぜひとも撮り直したい。Nanaoの動画には、そんなガッカリさせる作品はない。

 「EDEN」も先行の2作品同様、速いパッセージでめまぐるしく展開する、予測のつかないメロディー・ラインがリスナーを魅了する。旋律の動き方も急発進・急停止さらに急上昇・急下降を頻繁に繰り返し、スリリングで聴きごたえ抜群だ。

 mikkomikoのソングライティングには非の打ちどころがないように見えるが、ひとつ落とし穴があるとすれば、難曲がゆえにボーカリスト探しは難航するだろうという点。新曲ができても、もしNanaoが首を縦に振らなかったら、楽曲を歌いこなせる歌い手は見つからないまま、せっかくの傑作も絵に描いた餅に終わってしまうかも知れない。

 お互いが自分の地盤は大切にしつつも、今後も良好な関係を続けて欲しい。シンガーとして、またソングライターとしてそれぞれの才能が素晴らしいと思うからこそ、そんなふうに願うのである。

 普通なら、ひいきにしている作曲家やシンガーの作品はドシドシ発表してもらいたいところだが、彼らに関してはNanaoの準備がしっかり整うまで待って、万全を期してのリリースが良い。この「EDEN」ひとつでかなりの間、楽しめることは間違いない。だがその上で次回作があるとすれば、願ったり叶ったりだ。



LIPSELECT「Can't Stop Emotion」

 最後はボーカルとキーボードの2人組・LIPSELECT。彼らを知ったのは、TM NETWORK「Get Wild」のカバー動画だ。100万回再生を超える人気作。音楽的なルーツが僕と同じところにあるので、聴いていてシックリくるし肩入れしやすい。

 サブスクプリプションが普及して、リスナーもオイシイ所をかいつまんで聴くようになったと思う。かくいう僕も、以前はアルバムばかり購入していて、シングルを買うのはあまり気が進まないタイプだったが、今やすっかりつまみ聴き派になってしまっている。いざ、プレイリストを組むとなると、演者が入れ替わり立ち替わりする傾向になりがち。一組の演者の曲をまとまった時間流し続ける機会も、減ったように思う。

 そんな中でも今年、僕が新作アルバムを最初から最後までスキップせず、キッチリ曲順通りに聴いたアーティストは、YOASOBI・LIPSELECT・Black Flavorの3組だけ。そのうち、後者2組は同一人物による別名義ユニットなので、実質2組だけだ。アルバム形態でも、僕の心を捉えて離さないのがLIPSELECTなのである。

 彼らの今年の新作「Dynamite Summer」も全編通して楽しめる作品。実際に制作したMasakey、歌ったAyumiの両者に対して、どの曲を一番聴いて欲しいかと尋ねても、きっと「全部聴いて下さい!」と答えることだろう。僕もこのアルバムには、駄目な曲は入っていないと思う。

 それでもあえて、他の曲を押し退けても一際輝きを放つリード曲を無理矢理にでも選んでみよう。これはアーティスト本人ではなく、僕が単なるいちリスナーだからこそ、ひとつに絞れるのかも知れない。僕が推すのは「Can't Stop Emotion」だ。

 言葉数の多いフレーズで一気にたたみかけるサビは、僕の大好きな展開。「I your emotion」から「I love emotion」へと移るときの音程のシフトの仕方がグッとくる。前のフレーズからは想起しにくい、意外なところへ良い高さへの音程の上がり方だ。サウンド面では頻繁な転調でハラハラドキドキを生み出すのだが、奇をてらうことだけに躍起になった音楽ではない。ポピュラリティーも大切にして作られているので、聴きやすく、それでいて興奮もある。

 彼らは音楽のパフォーマンス以外にも、楽曲解説を中心に、自分たちが話す様子も公開している。そこでボーカルのAyumiがしばしば話の本筋から脱線して、予定通りに事が進まないチグハグな状況に、キーボードのMaskeyが頭を抱える場面がある。

 僕はこの噛み合わないチグハグっぷりを楽しみながら視聴している。Masakeyひとりですべてを説明しきってしまった方が、理路整然としたスマートな動画が仕上がるとは思う。しかし僕は、2人揃った解説動画の方が断然良い。Ayumiは音楽の専門知識ではMasakeyには敵わないかも知れないが、臆することなく思うがままに発言して、もっともっと解説動画や質問コーナーを盛り上げて欲しい。Masakeyにはダメ出しを喰らうだろうが、僕はこのあっち行ったりこっち行ったりする話の流れは、むしろ楽しさを生み出す素になっている気がする。

 それとAyumiはルックスの良さをもう少し活かして、Masakeyが制作作業でスタジオから出られない間も、自らがユニットの広告塔となり、単独でできることを何かやってみても良い。

 LIPSELECT名義としてのアルバムリリースに加え、別名義ユニットのBlack Flavor、さらにMasakey単独のインストゥルメンタル作品と、今年はリリースラッシュの彼ら。今後も精力的な活動を展開していくに違いない。


 今回とりあげたアーティストはどれもYouTubeの生配信などでリスナーとのやりとりの場を設けており、僕も過去に3組とものチャンネルでコメントが読まれたことがある。楽曲が気に入ったら、ぜひとも彼らのチャンネルを訪れて、激励のコメントを送ってみてはいかがだろうか。


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