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TM NETWORKから音楽鑑賞の幅を広げてみる

2020/04/08


 前回は「Get Wild」をカバーしたアーティストに注目し、そのオリジナル楽曲にまで踏み込んでみたが、今回はこの他のTM NETWORKカバー作を見ていきたい。

浜崎あゆみ「SEVEN DAYS WAR」「Hana」

 90年代の小室ファミリー全盛期においては、浜崎あゆみと小室哲哉のかかわりはそんなに深くはなかったが、現在では、彼女のレパートリーからTM NETWORK・globe・TRFの3組のカバー作が出ている。これに小室哲哉による提供曲を加えると、1枚のコンピレーション・アルバムができそうなぐらい、曲数は揃っている。観月ありさが小室哲哉作曲によるナンバーのみを集めた「ARISA'S Favorite T.K Songs」を90年代にリリースしたが、あれと同様のことをやろうと思えばできるわけだ。

 もしも「YOU ARE THE ONE」を面子も新たに録り直そうか!ということになれば、この中に浜崎あゆみも当然入ってくるだろう。さて、そんな浜崎あゆみの歌う小室哲哉提供曲の中でも、感慨深いリリースなのが「SEVEN DAYS WAR」だ。TM NETWORKによる80年代のヒット曲で、角川映画「ぼくらの七日間戦争」主題歌。

 TM NETWORKに縁のない層にも楽曲が届く機会になったんじゃないかな。僕も「Stayin' Alive」はBee GeesよりもN-Tranceのバージョンで覚えた。こんなふうに、TM NETWORKではなく、浜崎あゆみのバージョンでこの曲を覚えたというリスナーもいるだろう。カバー作には常に賛否両論がつきまとう。必ずしも満足いく結果が生み出せるという保証はないが、トライすること自体に価値はある。僕はドシドシやって欲しい。

 浜崎あゆみはこの曲を丁寧に歌っているなという印象を受ける。カバーとなると、必然的に他人の書いた歌詞を歌うことになる。このあたりは当の本人も新鮮に感じながらレコーディングしていたのではないだろうか。


 では浜崎あゆみのオリジナル曲の方に目を向けてみよう。僕の一番のお気に入りは、デビュー・アルバム「A Song for ××」に収録の「Hana」だ。このアルバムは良曲揃いだったが、リリースから長い年月を経てふるいにかけられても、「Hana」は最後まで残るなあ。発売当時からリアルタイムで聴いているにも関わらず、現在も尚、入手したとき同様にドキドキしながら鑑賞できる。

 「大人になってゆくことと」の直後に入ってくる、アタックの強い2発のブラス。この切れ味の鋭さは最高だ。また、間奏ではしばしば速いパッセージの駆け上がりフレーズで高揚感を煽る。Bメロの「待ってていいのですか」の後からサビへと繋ぐベースの動きも聴き逃せない。音程の動きもリズムの取り方も、急激なギアチェンジでスリル満点だ。この楽曲はアレンジが本当に素晴らしい。

 サビの締めのフレーズにも言及しておく。「あなたが咲くのなら」という歌詞を聴いて、僕はリリース当初から後半の「くのなら」の部分は「普通ならここは英語をハメるよな」と、素人考えながらこう思っていた。「For You」とか「Tonight」とか、「Right Now」とか、ハマりそうな英語はいくらでもありそう。英語でなくとも、最もアクセントの強い結びの4音は、そこだけ独立したパートとして言い切れる単語を持ってきそうなものだ。

 しかし浜崎あゆみは、結びの4音をそれ以前のフレーズと切り離さなかった。歌詞を書く際に自分の直感・言いたいことを最優先した結果だろう。湧き出たアイデアも、こねくり回し過ぎると、最初の段階からずいぶん姿形が変わってしまう。この飾らないストレートな表現が、同年代の女性リスナーの支持を得た。デビュー当初の浜崎あゆみの歌詞は、各方面で評判良かったのをいまだに覚えている。


meg「STILL LOVE HER」「Stereo 04」

 中田ヤスタカの音楽に早くから注目していた方なら、megの存在は知っているかもしれない。彼女もPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅと同じく、楽曲提供を受けていたアーティストの一人。そのmegがTM NETWORKの「STILL LOVE HER」をカバーすることになった、というのを知ったときは「へえーっ!」と驚いたものだ。フランスでのリリースということで、なかなかチェックできないままだったが、最近では日本国内でも聴けるようになっている配信サイトがでてきた。

 縁もゆかりもないところから、一方的に制作したカバーではない。メンバーの小室哲哉が直々にコーラスでも参加している。TM NETWORKのファンも見過ごすわけにはいかない。

 異性曲のカバーは敷居が高くてなかなか手が出せない印象を、僕は持っている。だがTM NETWORKの市販カバー曲は、女性が歌っても不思議と違和感ないことが多い。過去にも小室みつ子・globe・鈴木亜美など、さまざまな女性カバーが発表され、それぞれに楽しく鑑賞できた。それは今作でも同様だ。

 小室みつ子とglobeについては、元々の音楽の素養があり、キャリアを十分に積んでからのリリースだったが、鈴木亜美は素人の状態からシングル3作を制作しただけの段階でのリリースだ。それでも、TM NETWORKのオリジナル版を愛聴してきた僕が何度もリピートしたのだから、異性曲のカバーを成功させる秘訣というのは、歌唱力以外のところにもきっとあるんだろう。それが何なのかは非常に興味深い。

 さて、そんなmeg自身のオリジナル楽曲はどんな感じなのだろうか。さきほどはしっとりナンバーを紹介したが、彼女の真骨頂はお洒落で軽快なダンス・ビートだ。僕のイチオシは「Stereo 04」。リリース当時、シングルの購入には地団駄を踏むことが多かった僕だが、これは思い切って入手した。お店の試聴機で聴いた感触があまりにも良すぎて、シングルなんて割高だという感覚が覆るぐらいに、所有欲をくすぐるクオリティーだったんだよね。TM NETWORKのメンバーの誰一人として関与してはいないが、ファンの方にも自信を持って薦められる楽曲。一回聴いたらハイおしまい、とはならないだろう。僕も購入当初は「何回聴くんだ!?」と、自分でも不思議になるほどリピートしまくっていた。

 イメージをざっくり言うと、「Get Wild」のBメロ伴奏の、高音シンセサイザーの速いパッセージがほぼ全体通して鳴り続けているという感じ。聴きどころはサビのメロディーの締め。予定調和なパターンではなく、ちょっとフェイント効かせた音運びがイイね。