小室哲哉ゆかりの洋楽アーティスト3選

2020/05/05


 今回は小室哲哉の作品に軸足を置いて音楽鑑賞をしつつも、もっと他の分野へも鑑賞の幅を広げてみようかという方へ向けて、海外の楽曲をピックアップした。ご贔屓のアーティストの歌詞カードなどに掲載されている楽曲クレジットから、参加ミュージシャンの作品を辿ってみよう。思わぬ新しい発見があるかもしれない。それぞれのアーティストをデビュー当初から知っている、現地の生粋のファンからすればベタな選曲をしているものも中にはあるだろう。まあでも僕のように知識が浅い段階だと、そのベタが良かったりするものだ。

ダフト・パンク「ゲット・ラッキー」


 2014年にグラミー賞を受賞。当時の洋楽シーンを知る方なら、日本にいても聴いたことはあるだろう。この楽曲に参加しているギタリストのナイル・ロジャースは今から30年以上前に、自身の手がけた作品を日本のヒットチャートに既に送り込んでいる。それがTM NETWORK「COME ON EVERYBODY(with Nile Rodgers)」だ。
 僕が昔から愛聴している「COME ON EVERYBODY」から時を経て、名誉ある賞を授かったナイル・ロジャース。仲間たちと新たに制作した楽曲には興味津々だったが、さすがに素晴らしい。
 ダフト・パンクやファレル・ウィリアムス目当てでこの曲を手に取ったリスナーにも、なかなかお目にかかれない組み合わせになったのだから、ナイル・ロジャースのギター演奏に注目していただきたい。
 カッティング・ギターの演奏は、自分の気持ち良いようにチャカチャカ鳴らしているだけだと、まとまりのあるアレンジにはならない。要の大枠となる強弱はドラムなど他の楽器と歩調を揃えつつ、誰も音を出していない僅かな隙間を見つけて、ここぞとばかりに自分を主張するのがベストだ。常に右手を動かしっぱなしだとリズムが単調になってしまうので、どこかで発音しないポイントを作る必要もある。その抜き差しをしつつ、ドラムやベースなど他の楽器との共同作業で心地よいグルーヴを作っていくわけだ。
 カッティング・ギターを深く知れば知るほど、「休符は休みではなく、演奏の一環」と言われる所以がわかる。同じギターの腕前といっても、一般の楽曲でよく見かける2コーラス目が終わった後のディストーション・ギターのソロパートは完全に個の能力が問われるのに対し、カッティング・ギターは楽曲全体への理解度・アンサンブルの対応能力が問われる。
 DTMで音楽制作をしていて「俺はギターなんぞなくてもオケを作るのには困らない」と思っている方も中にはいるかも知れない。実際にギタリストを楽曲制作の際に呼ぶかどうかはさておき、ギター演奏の真髄に少しでも触れておくのは、アレンジを構築する立場にある者として悪い話ではないだろう。そういう意味でも、この楽曲には要注目。なんと言ってもグラミー賞の受賞曲だ。教養のひとつとして押さえておく価値はある。
 それにしても、ナイル・ロジャースもダフト・パンクもファレル・ウィリアムスもみんな、酸いも甘いも嗅ぎ分けた、熟練の匠の技としか言いようのない、心地よいグルーヴを届けてくれた。これは耐用年数の長い、完璧なトラックが完成したなー!
 いっそこの4人で新たなユニットを結成して継続的に活動して欲しいぐらい。そうなったらナイル・ロジャースもヘルメット被った方が盛り上がるかなー。まあでも、全員のスケジュールを取りまとめられるスタッフは存在しないだろうな。


ダニー・ミノーグ「パーフェクション」

 小室哲哉が90年代に海外進出プロジェクトとして立ち上げたのがEUROGROOVE。これにゲスト・ボーカルとして参加したのが、ダニー・ミノーグだ。自身が参加したうちのひとつ「Rescue Me」は後にアジア人歌手・翠玲による日本語版と中国語版も制作された。2019年11月9日の過去記事では、カイリー・ミノーグとの共作について取りあげている。
 これを聴くとなぜだか無性にグロリア・エステファン「ターン・ザ・ビート・アラウンド」も聴きたくなってしまう。こちらも2019年5月26日の過去記事でとりあげたが、リリース当時から僕も気に入っている。
 節々に共通項を感じられる両曲。相性の合う2つの異なる楽曲の、かたやボーカル、かたや伴奏部分のみを抽出してその組み合わせを楽しむ、マッシュアップ動画というものがある。この「Perfection」と「Turn The Beat Around」もいけるんじゃないの!?と思うぐらいだ。ラストの転調でキーが変わるから、その辺りがキビしいか…
 「Perfection」は後の時代に制作されたこともあってか、ダンス・ミュージックのオイシイ要素をギュッと詰め込んである。2コーラス目が終わってから、ラストのサビへ繋ぐ間奏に注目。特定のフレーズの頭の部分だけを切り取り、繰り返し演奏するフレーズ・サンプリングという表現方法を用いている。これを「Turn The Beat Around」でもやってみたら面白そう!グロリア・エステファンの「Turn The Beat Around」は、何の細工も必要ないほど完璧なトラックだとは思うが、そこにあえて、もう一盛り加えるというのも刺激的だ。
 姉のカイリー・ミノーグは日本国内でも相当の知名度があるが、ぜひ姉妹ともども聴いていただきたい。

シーラ・E「グラマラス・ライフ」

 安室奈美恵の大ヒット・アルバム「Sweet 19 Blues」は、90年代のJ-Popを熱心に聴いていれば入手した方も多いだろう。このアルバムに参加していたのがシーラ・Eだ。複数種類のジャケットでも話題になり、後に加藤ミリヤによる、新たな解釈をプラスしたタイトル・チューンのカバー「19 Memories」も制作された。
 シーラ・E参加曲の中でも、特に「Body Feels EXIT -Latin House Mix」がアツい。前奏が長くて嫌だ、シングルの形のまま収録して欲しかったという意見もどこかで見かけたが、僕はあの長い長い前奏が大好きだ。TM NETWORKのゲッゲゲゲゲ…Wildという表現方法が好きな方ならもう病みつきだろう。サンプリング・ボイスの連打を速打ちのパーカッション演奏でさらに盛り上げている。
 この他の参加曲には安室奈美恵「MI CORAZON」、TM NETWORK「Happiness×3 Lonliness×3」がある。後者は演奏はもとより歌声も聴くことができる。
 レコーディング参加だけにとどまらず、日本人アーティストのカバーも2013年に発表。それがシーラ・E「あの日にかえりたい」。スロー・テンポながらも情熱的なパーカッション演奏が胸を打つ。僕は荒井由美本人のオリジナルよりも、このカバーの方が好きだ。今回とりあげる中では日本の音楽へ最も深く関わっているアーティストだろう。
 シーラ・Eについては映像で触れられるのなら、ぜひそちらで鑑賞してみていただきたい。歌も歌えるパーカッション奏者というだけでも貴重な存在だが、パフォーマンスもインパクト抜群。演奏する姿そのものが売りになる。