もっと! EUROGROOVE その2

2020/05/23


 EUROGROOVEのコンピレーションCD収録アーティストの楽曲をさらに深く掘り起こす企画の続編。前回はダンス・ミュージック入門者に送る内容だったが、今回はもっとディープなラインナップにした。家庭用の再生機器で個人的に鑑賞を楽しむというよりも、現場のDJに回してもらって、実際にダンスフロアで体を動かしながら楽しみたいものばかり。前回の記事では渡辺貞夫の名前を出して、れっきとしたジャズという例え話をしたが、今回とりあげるのはどの曲も、れっきとしたユーロダンスといえよう。

ユーログルーヴ「Dive To Paradise(Anthology Mix)

 EUROGROOVEは音楽のジャンルを指すと同時に、小室哲哉自身が率いるユニット名でもある。現在では、この手のジャンルを指す言葉としては、ユーロダンスという方が浸透しているようだ。

 コンピレーションCD「EUROGROOVE #02 」にて本邦初公開となり、「EUROGROOVE #03 」「EUROGROOVE #04 」でも別バージョンで収録。僕の気に入り度としても、デビュー曲「MOVE YOUR BODY BABY」よりやや上回る。国内盤で入手できるバージョンはシングルを除きどれも発売日に購入、いやいやフライングゲットだったかな。とにかくリピートで聴きまくったが、このAnthology Mixは最近知ったばかり。見つけたときは、こんなバージョンもあるんだ!?と感動したなあ。

 これは完全にダンスフロア仕様。ソファに腰かけながら家庭用の再生機で個人的に鑑賞しても、100%効力を発揮するかというと…どうだろうねえ。クラブに縁がないリスナーには、尺が長過ぎてなかなか展開しないなあと感じるかも知れない。

 でも、ダンスフロアで体を動かしながら楽しむとなると、これぐらいの長さが必要になるんだよね。リフの後に高音で思いっきり音を伸ばすパートがある。そこで手の平を天井に向けて、肘をピーンと伸ばしている様子が目に浮かぶほど気分良い。自分で再生するよりは、DJに回して欲しいタイプの曲。

 ちゃんとみんなにお酒が行き渡って、動きが見え始めてからかけて欲しい。入場したばかりで、まだ1杯目も飲み終わってないよ、というときにかけられても、「まだ早いわ!」となってしまう。その後に回すキラーチューンをたんまりとストックしているのなら話は別だが。この曲をかけられる状態になるように、いかにして繋いでフロアの沸点を上げるかだね。それを考えるのもまた楽しいんだけど。

テクノトロニック「Move It To The Rhythm」

 コンピレーションCD「EUROGROOVE #04 」では「RECALL」が収録されたのがTechnotronicだ。良い楽曲はいくつもあるアーティストだが、ユーログルーヴのコンピレーションの世界観に最もマッチするのは、このナンバーだろう。和音進行といい、ベースライン、リフのカッコ良さ、何から何まで理想通り。これぞユーログルーヴ・サウンド。このジャンルの象徴のような仕上がりだ。

 DJの立場では、ここ一番のピークタイムはもちろん、今夜はこういう感じで攻めますよ、という挨拶代わりに序盤から出してしまうというのもアリか。開場直後で、本当にまだ誰も人がいない場合はさすがに無理があるが、他のDJから交代したてで、すでにある程度の客入りがある状態でならOKだろう。回すタイミング的にも、自由度の高い曲調のような気がする。

 卓越したラップスキルにも注目したい。数多いるこのジャンルのラッパーたちの中でも、ひときわ光る存在感。このジャンルに詳しくないリスナーの耳には、単調過ぎてお経のように聞こえてしまうラッパーも中にはいないわけではない。それとは明らかに一線を画す表情豊かなライミングは、確実にリスナーのハートを射抜くことだろう。

カペラ「Tell Me The Way」

 EUROGROOVEを語る上で、絶対に外せない最重要アーティストがCappella。コンピレーションCD「EUROGROOVE #01 」「EUROGROOVE #02 」の2枚に跨って、Cappella絡みで4曲が収録されている。この曲では、コンピレーションに収録された楽曲の頃から、ボーカリストが交代している。アグレッシブかつスリリングなサウンドの方は健在だ。

 ボーカルに対して大胆に音響的な加工を施す、スライサーの効果テキメン!前触れでロングトーンを聴かせておいてからの、この切り刻み方はインパクト抜群!料理に例えると長ネギを包丁で細かく切っていくようなイメージか。こんな表現方法があるのか!と初めて聴いたときは度肝を抜かされた。一番のブチ上げポイントだ。

 日本の楽曲でこの手法を使ってチャート・インした曲となると、TM NETWORKの「GET WILD DECADE RUN」がある。また、チャート・インこそしていないが、ダンスフロアを熱く湧かせたナンバーだと、名取香り「Lovespace(FreeTEMPO Remix)」もある。これは福岡のクラブでFreeTEMPOのリリースツアーに訪れたときに現場で体感し、大いに熱狂した思い出があるなあ。あとは2000年にavexより発売された、女性3人組・Trinityのシングル「Just the way to love(D-Z ZERO WIZARD MIX)」もある。2コーラス目でスライスした声の断片の音程まで動かしてくるあたりが凄い。これもハマったなあ。

 音楽制作をしている方は、ぜひこの手法を採用してみてはいかがだろう。ここはロングトーンがくる!という予感をプンプン漂わせてからの、思いっきり切り刻んでたたみかける表現方法。みんな思わずハンズアップ間違いなしだ。スライスポイントに到達するまでにどのように構築するかが、腕の見せ所だろう。