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歌ってみた動画で楽しむ、機動戦士ガンダム・逆襲のシャア主題歌「BEYOND THE TIME」

 YouTubeで人気のコンテンツ・歌ってみた動画。僕はこれを鑑賞するのが好きだ。この醍醐味は自分のお気に入りの楽曲が広まっているのが嬉しいのと、たとえオリジナル・アーティストが介在していなくても、歌い手や演奏者の情熱に心を動かされることもあるからだ。オリジナル音源との落差にガッカリしたくはないという視聴者がいるのもわかるが、僕はその歌い手・演奏者ならではの解釈を楽しんで聴いていられる。活発に活動している投稿者には、「今後も頑張って欲しいなあ」という感情も自然と芽生えてくるから不思議なものだ。

 今回は僕のルーツになっているアーティスト・TM NETWORKの楽曲から、映画・機動戦士ガンダム逆襲のシャアの主題歌「BEYOND THE TIME」のカバー動画をピックアップしてみた。


雅-Masa-「BEYOND THE TIME」

 まずは男性ボーカルから。オリジナル歌手・宇都宮隆よりも低域成分が強めな声質で、どっしりした印象を受けた。この声質にルックスも相まって、いかにもビジュアル系ロックが似合いそうな感じ。このジャンルのボーカリストというと、クセの強い歌唱スタイルをついつい連想してしまう。自分のバンドのオリジナル曲を歌うのであれば、もちろんこのジャンルならではのアクの強い歌唱法を前面に押し出すべきだが、これはカバー曲。雅の場合は我を貫き通し過ぎていない。「BEYOND THE TIME」という楽曲が好きなリスナーに伝わる、ていねいな歌い方を心がけているように感じた。この曲を歌うことに関しては自信があるという男性歌い手の方々も、この動画を見ればなにか奮い立たせられるものを感じるのではないだろうか。僕はまさにそうなんだけど。

 彼のYouTubeチャンネル「えむちゃん」には、TM NETWORK以外のアーティストの楽曲もカバーされているのだが、その中でもGakctの曲にはご本人からのリアクションもあったようだ。僕の知っている範囲だけでも、こうした事例は他にもある。チャンネル登録者が30万人を超す人気チャンネル「ひろみちゃんねる」では、BAKUFU-SLUMPのサンプラザ中野くんから直々にリアクションがあったり、2人組ロックバンド・MINT SPECのツイッター・アカウントには、X JAPANのYOSHIKIからフォローがあったり。さらにポケット・ビスケッツとして90年代に活動した千秋のチャンネル「千秋の歌YouTube」に至っては、globeのカバー動画でメンバーのマーク・パンサーご本人とコラボなんてことまで起きている。YouTubeって本当に夢があるなあ!


Nine Universe「BEYOND THE TIME」

 続いては女性ボーカル。こちらのカバーはNine Universeという音楽ユニットによるものだ。歌い手の歌唱力もさることながら、アレンジから映像に至るまで、見どころ・聴きどころ盛りだくさん!YouTubeというメディアの特性を余すところなく活かした傑作だ。

 映像面では、画面に映っているのは曲名・アーティスト名などの文字だけという動画よりも、歌唱の様子が見てとれるなど、動きのある映像の方が優位だとは思う。この動画もレコーディング・ブースにカメラを置いて、映像としても楽しめるようにしてある。彼らが抜きんでているのは、ボーカリストの映像だけでも何種類かのアングルがある上に、ギター演奏も差し込まれている点。だから変化に富んでいる。さらに楽曲の世界観を表すのにもう一押し貢献しているのが、地球のグラフィック。ここまでは楽曲への愛がないとなかなかできない。徹底しているなあと思った。こういう動画は見ていてアツい。

 風景の映像を差し込む手法は、歌ってみた動画を撮っている方には参考になるだろう。僕が今パッと思いつく限りでは、猿岩石の「白い雲のように」のような曲で、空の映像を使うなど。フリー素材もたくさんありそうだし、自分で撮るのもハードルはそう高くはなさそうだ。

 あとは最後の最後で、ギタリストが弦の上で指を滑らせていって、まさに弾ききろうとしている瞬間に暗幕する締め方も最高。これはタイミングが絶妙だ。

 聴きどころはやはりボーカリストの卓越した歌唱力。特に注目したいのは、終盤で音が一瞬途切れる前のパートで、「時の向こう」はストレートに伸ばした歌い方にする一方、「闇の向こう」では少し転がした歌い方にして、変化をつけている点。なんでもかんでもむやみやたらに持っているテクニックを散りばめると、場合によっては鼻についてしまって素直に鑑賞を楽しめないこともある。

 例えばビブラート。かけようと思えばできるけど、あえてかけないという判断も有効だ。僕は世の歌い手に、こういう考えがもっと広まって欲しいと思っている。これを踏まえて、今一度彼女の歌い分け方を聴いていただきたい。

 音程が最も高くなる部分「Time~」のロング・トーンまででも十分過ぎるほど感動するだろう。あとはアウトロで収束していくだけだと普通は思ってしまうが、この動画に関しては本編を歌い終わってからの、ここからがむしろクライマックスだ。ここで披露されるボーカリストの渾身のアドリブ・パートが、1コーラス目と2コーラス目・それにラストのサビまで聴き終えたはずのリスナーに、それ以上の感動を与えてくれる。


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