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藤子・F・不二雄が記す【〈子供向けではない〉SF短編マンガを描き始めたきっかけ】

●愛蔵版● 藤子不二雄 SF全短篇 第1巻 カンビュセスの籤(くじ)』(1987年/中央公論社) の「まえがき」より引用。 後に↑「藤子・F・不二雄」に

《_昭和四十四年(※1969年)でした。一時期ブームを呼んだ「オバケのQ太郎」がブラウン管を去り、雑誌連載も終了し、続く「パーマン」も意外に短命。「21エモン」「ウメ星デンカ」、これが作者としては大いに肩入れして書いたわりには読者の反応がイマイチで……。世は挙げて劇画ブーム。コミック読者の主流が、子どもを離れて大学生、サラリーマンにまで広がり、こうなると昔ながらの生活ギャグマンガなどかったるくて、というわけです。_当時の『ビッグコミック』編集長小西さんが、ひょっこり顔を見せて一本書いてみろというのです。「冗談じゃない。書けるわけがない。ぼくの絵を知ってるでしょ。デビュー以来子どもマンガ一筋。骨の髄までお子さまランチなんだから」いや、それでいいから書いてみろという。はっきり覚えていないけど、民話特有の残酷な小話でした。「面白そうですね。それ、なんとかやってみましょう」と書いたのが「ミノタウロスの皿」でした。触発されて書いたことは事実です。_これが意外に、実に実に意外に好評でした。自分にもこんな物が書けるのかという、新しいオモチャを手に入れたような喜びがありました。翌四十五年(※1970年)「ドラえもん」連載開始。誰にも注目されず、ひっそりとスタート。そこへ『SFマガジン』から依頼がありました。実は“SF”には少年時代からの、空想科学小説と呼ばれていたころからの激しい思い入れがありまして、『SFマガジン』も創刊以来の愛読者だったわけです。幸いに編集長からはおほめの言葉を頂きました。 _以来二足のわらじを履いています。ところでこのわらじ、はた目には全く異質の物に見えるらしい。たしかに、こうやって全集にまとめてみると、ばかにシリアスで重苦しくて暗い話が多いのですね。ふだん書いている明るい楽天的な生活ギャグマンガとは、はっきり対称的な位置にあります。別に意図して深刻ぶってるわけではないのですが、[]ふだんやれないような変わったことをしてみたい。ひなたの物を、時には日陰から見てみたい。_しかし、SF―日常性からはみ出した異常な話―と考えれば、これは「オバQ」「ドラえもん」と根は一つなのです。そもそもぼくたちがマンガに惹(ひ)かれた最大の要素が、この“日常性からのはみ出し”にあったのです。ぼくらに限らず、おおげさにいえば人間は皆、日常性から飛躍した不思議な話が好きなんだと断定していいのではないでしょうか。何よりの証拠が世界中に古くから伝えられてきた神話、民話、伝承です。古代人の世界にも三角関係とか家庭内暴力とかあった筈なのに、そんな日常茶飯のニュースストーリーは全く残っていません。これはつまり聴衆にウケなかったから語られなかったと考えざるを得ないのです。_ぼくたちもグリムやアンデルセン、「アラビアンナイト」や「西遊記」が好きでした。「のらくろ」や「冒険ダン吉」に夢中になりました。山中峯太郎、南洋一郎、海野十三に熱中し、国民学校六年生の夏に終戦を迎え、それぞれ中学(旧制)に進学し、そろそろ空想の世界ばかりに浸ってもいられないという時期に、巡り合ったのが「新宝島」(※手塚治虫)なのです。新鮮な衝撃でした。この衝撃の大きさは、いくら具体的に説明しても経験した人でなければ通じないと思います。今、復刻版を読んでもダメです。あの時代まで溯(さかのぼ)り、ぼくらと同じ年代になって読んで貰わねば、到底実感できないでしょう。以後、年間八冊ほどのペースで刊行される手塚マンガに、ぼくらは本当にのめりこんだものです。一冊ごとに、新しい世界がありました。地底に密林に、大宇宙に未来社会に、繰り広げられる大冒険。人間の空想力に限界はないのだなと、つくづく感じ入ったようなわけです。こんなマンガをぼくらも書いてみたいと思いました。この思いは今も変わりません。だから、ぼくらのマンガには、[]ほとんどの作品に空想的な部分が大きな比重を占めています。「オバQ」も「ドラえもん」も「カンビュセスの籤」も、一言で言えば不思議話です。根は一つ。表現法が少しばかり違うだけなのです。~~

P.4~P.6


※私の感想※
 他には、映画を観て自作の短編マンガとの類似に驚いた、SF映画『ウエストワールド』(1973/米)と『休日のガンマン』(1973年)、SF映画『ソイレント・グリーン』(1973/米)と『定年退食』(1973年)は、盗作でもマネでもない!と書かれています。SF作家のウィリアム・ギブスンがSF映画『ブレードランナー』を映画館で観て、構想中の自作と共通する世界観に驚き、影響を受けたくなくて、途中で退席したとか昔に読んだことがある。



「まえがき」を引用した「愛蔵版」の判型は「A5判(タテ210×ヨコ148)」。

中央公論社の愛蔵版は「全3巻」
https://order.mandarake.co.jp/order/detailPage/item?itemCode=1219831846

↑『カンビュセスの籤(くじ)』の目次

https://aucview.com/yahoo/1046826382/
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「帯(おび)付き」の『カンビュセスの籤(くじ)』

帯無し

なぜか値段が高騰してるAmazonのページ

2023年4月から『藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス全10巻


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