第7章(第2稿) 八方塞がりでどうしようもなくても、明けない夜はないと信じる

見出し画像

フリーランスのITコンサルタントとして独立して8年以上経ち、こうして曲がりなりにも仕事ができているのは感謝しかありません。でも、独立当初から順風満帆で過ごしてきたわけでは当然ありません。

過去に33年間会社員生活をしてきたわけですが、その間一度も給料を遅配されたこともなく、年に二度支給されるボーナスも金額について程度の差はあれ必ず頂いてきました。

それが、フリーランスとして独立した途端になんの保障もなくなりました。さぼっていたら月の売上などすぐにゼロになります。手がけていた案件が終了して一定の報酬をもらっても、次の依頼がなければ すぐに報酬ゼロです。

また、契約の条件にもよりますが、契約途中でクライアント都合によりいきなり解約され、突然収入が絶たれることもあります。いってみれば今年(2020年)猛威を振るった新型コロナウイルスのせいで各種イベントや催し物が開催自粛となり、それに携わっていて突然仕事がキャンセルになったフリーランスの人たちと同じことが、コンサルタントの世界でも起こるのです。

そうすると当てにしていた収入が入らず、生活に困窮してしまいます。事実、僕も独立して2年目にそういう経験をしました。まあ、そうした事態も想定して1年やそこら収入が途絶えても食べていける蓄えは備えてありましたが、それでも早く体勢を立て直さないといけません。

新たなクライアントを開拓すべく東奔西走しますが、すぐに結果が出ることもなく八方塞がりで途方に暮れた 時期を過ごしました。

そんなときに力をくれた言葉たちがあります。

どんな冬もいつか終わる。そして、春は必ずやって来る。
ハル・ボーランド
明けない夜はない。やまない雨はない。
格言

思えば、日本は第二次世界大戦で敗戦後、あの焼け野原で全てを失った状況から奇跡の復活を遂げ、高度経済成長を成し遂げました。

近年でも多くの災害を経験し、一瞬で家族も家も何もかも失ってしまった人々がいます。軽々に言葉を発するわけにはいきませんが、それでも強く生き抜いている人が多くいます。

そんな大きな絶望に比べれば、目の前が真っ暗になったとしても僕の場合はたかがしれています。未来に絶望するなど恥ずかしくてできません。
でも、いつか一筋の光明が差す瞬間が訪れるはずです。

夜明け前が一番暗いといいます。そして、東の空に一筋の光明が差すと、みるみるその光は明るさを増し、周りを広く照らすようになります。

僕の場合は、以前お世話になったある社長さんから連絡をもらい、別の会社の社長さんを紹介してもらったのが、一筋の光明でした。そこで、すぐ新しい会社に出向き、社長さんのお話を聞いてみたのです。

その会社では、中小企業にありがちなことで悩んでいました。それまで経理処理については全てこの道30年のベテラン女子社員(要するにお局様)が牛耳っていて、会社の製品を売ってから請求書を発行し、入金処理を行うまでの業務プロセスがブラックボックス化していて、お局様以外、誰もよく分からない状態だったのです。

他の社員はお局様の指示に従い、言われたことを言われた通りやるだけでした。なぜその作業が必要なのか、そのやり方で本当に正しいのか判断できる知識も経験ももっていませんでした。

社長さんはその状態に危機感を抱いていて、経理業務のプロセスを明らかにしてシステム化できるところはシステム化し、ある程度の経験を積み知識を身につければ誰にでもこなせる仕事にしたいと考えていたのです。

社長さんには、とりあえず3ヶ月の期間で業務分析とシステム化提案を作成することで了解を得て、業務委託契約を締結しました。

それからお局様との戦いの日々(?)が始まりました。 何せ相手は30年の経験を持つ強敵です。自分のやり方を変えられてしまうことなど、まっぴらご免なのはありありと見えます。例え社長の命令でも、社外のコンサルタントなど目の敵のはずです。

しかし、敵もさるもの、表面的にはにこやかに現状の業務プロセスを丁寧に説明してくれます。そして、なぜそういうやり方をしているのか、その理由もさりげなく説明して自分のやり方が正しいことをしっかりアピールしてきます。

2週間程度で現状の業務処理についてフローチャートを概略書くことができました。ここからは、お局様のガードを切り崩すべく新たな業務フローとシステム化の提案を作成しなければなりません。

まず作成したフローチャートに基づき、一つひとつの作業工程について確認していきます。「ここでなぜこの作業が必要なのですか?二重手間ではないですか?」と問えば、「2年前にこういうミスが発生したので、それを防ぐためのチェック作業なのです。」と即答されます。

「これとこれのチェックを別々のタイミングで行っていますが、もっと川上の作業でチェックすれば1回で済むのではないですか?」と問えば、「理屈ではそうですが、次の段階で例外処理が発生した場合に備えて、ここのチェックは外せないのです。」という答えが返ってきて、自らの業務の正当性をことさらに強調してきます。

……といったやり取りを繰り返していくうちに、「これは、なかなか手強い案件を引き受けてしまったぞ」と途方に暮れてしまいました。それまでの僕自身の経歴でいえば、経理業務についてそれほど知識があるわけではありません。お局様の理論武装に対抗するためには、売掛金や買掛金、未収金や未払金などの勘定科目や実際の仕訳処理 についての知識を深める必要がありました。

そこで、学生時代に学んだ簿記の参考書をひっくり返したり、他の企業ではどのような経理処理を行っているのか知り合いの税理士先生に教えを乞うたりと、多くの時間を勉強につぎ込みました。

そして、期限ぎりぎりにシステム化の提案書を提出し、お局様にも自分の仕事がもっと早く正確にできるようになり、残業も減らせることをなんとか理解してもらい、システム化を前に進めることに成功したのです。その後も、具体的なシステム化についてコンサルティングを行うことができました。

結果的に、最初の3ヶ月についてみると、投下した時間の多さに対して報酬はまったく割に合いませんでしたが、この時に本気で経理の勉強をして得た知識が、その後の仕事に大いに役に立ってくれました。

というわけで、こうした経験も「人間万事塞翁が馬」であるな、と感じた次第です。

「人間万事塞翁が馬」
良いと思ったことが悪いことに、悪いと思ったことが良いことにいつ転じるか分からないので、安易に喜んだり悲しんだりするべきではないという格言。

昔、中国北方の塞(とりで)近くに住む占いの巧みな老人(塞翁)の馬が、胡の地方に逃げ、人々が気の毒がると、老人は「そのうちに福が来る」と言った。やがて、その馬は胡の駿馬を連れて戻ってきた。人々が祝うと、今度は「これは不幸の元になるだろう」と言った。すると胡の馬に乗った老人の息子は、落馬して足の骨を折ってしまった。人々がそれを見舞うと、老人は「これが幸福の基になるだろう」と言った。一年後、胡軍が攻め込んできて戦争となり若者たちはほとんどが戦死した。しかし足を折った老人の息子は、兵役を免れたため、戦死しなくて済んだという故事に基づく。
「准南子」人間訓

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?