第1章 (第3稿) 世間体やプライドに負けていたら人生は変えられない
2011年3月、それまで33年間勤めてきた会社を、55歳でアーリーリタイアメントした時、まず直面したのは周囲の人たちのドリームキラーぶりでした。
曰く、「フリーランスのITコンサルタントなんて、安定して稼げないからやめた方がいい」「なんでそんな仕事をするんだ。いい会社に転職した方がいいぞ」などなど。
そして、もう一つは自分の中にある思い込みです。戦後の高度成長期は、いい大学を出て、いい会社に入って、マイホームを建てて、出世して、いつかは役員、社長を目指す、という昭和生まれの世代の多くの男性が目指す定められた路線がありました。
自分も例外ではなく、そうした思い込みがあり、その路線から外れることは、世間体が悪いんじゃないか、自分のプライドに反するんじゃないか、という葛藤がありました。
そうした葛藤を続ける中で、まず、自分の中で反芻した言葉は次の通りです 。
「もし今日が人生最後の日ならば、今日するつもりでいることを本当に行うだろうか?」と自問する
スティーブ・ジョブズ 米国スタンフォード大学の卒業式(2005年)で行ったスピーチより
「もし今日が人生最後の日ならば、今日するつもりでいることを本当に行うだろうか?」と自問する、という言葉は、スティーブ・ジョブズの伝説のスピーチに登場する言葉です。説明の必要がないくらい有名なスピーチですが、ジョブズが癌に冒されたあと、2005年6月12日に米国スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチです。
この中で語られた「ハングリーであれ、愚か者であれ」(Stay hungry, Stay foolish)や「点と点を繋げる」(Connecting The Dots)といった言葉と共に、とても印象に残る言葉でした。
ジョブズは、続けてこう言っています。「そして、ノーという答えが何日も続くようならば、何かを変えるべきときが来ているのです。」
このスピーチは、YouTubeで公開(字幕付き)されているので、リマインダーを設定して毎年誕生日に見直すことにしています。
同じ内容のスピーチを聞いても、1年経つと自分の内部に響くものが違ってきます。それが幾重にも刷り込まれて、自分の「あり方」をアップデートできています。
独立起業するにあたって、「自分が今日、本当にしたいことはなんだろう?」と繰り返し、繰り返し自問自答しました。 そして、自分が今したいことは、どのように将来の自分に繋がっているのだろう、という問いも自分に投げかけました。
そうして自らの胸に手を当てて考えたとき、ドリームキラーや世間体、プライドなど自分を縛る目に見えない鎖に負けてしまっては、人生を変えることなどできないと確信しました。
そして、自ら進みたい道を選んで数年後、イチローのある言葉に出会います。
2019年で現役を引退したイチローは、2016年に日米通算4,257安打の歴代最多安打記録を達成しました。
その日のインタビューで、イチローが答えていた内容がとても記憶に残っています。それは次のような内容です。
(Q)・・・・・・
常々、50歳まで現役したいということもおっしゃっていますが、あと1,000いくつというのをアメリカで、というのは?
(A)・・・・・・
僕は子どもの頃から人に笑われてきたことを常に達成してきているという自負はあるので、例えば小学生の頃に毎日野球を練習して、近所の人から「あいつプロ野球選手にでもなるのか」っていつも笑われてた。
だけど、悔しい思いもしましたけど、でもプロ野球選手になった。何年かやって、日本で首位打者も獲って、アメリカに行く時も「首位打者になってみたい」。そんな時も笑われた。
でも、それも2回達成したりとか、常に人に笑われてきた悔しい歴史が僕の中にはあるので、これからもそれをクリアしていきたいという思いはもちろんあります。
イチロー 日米通算4,257安打を放った試合後のインタビューにて(2016年6月16日)
子どもの頃から笑われても、その悔しさをバネにして、努力して努力して「有言実行」を貫き、夢を実現してきた……なかなか凡人にはできないことです。
でも、周囲からのプレッシャーに負けそうになったときやバカにされたときは、イチローの言葉を思い出し、そして、独立起業を目指していたときの初心を思い出し、これからも自分を貫いていきたいと思うのです。
今、振り返るとスティーブ・ジョブズの言葉、そしてイチローの言葉の力で、自分の中の弱さを克服する勇気を貰ってきたのだと思います。
どう逆立ちしたって、自分はスティーブ・ジョブズやイチローのようになれるわけはありませんが、その言葉や生き様から学べることは多々あります。
そして、その言葉や生き様が自分に響くタイミングがあるでしょう。20代や30代にジョブズの言葉を聞いても「なるほど、いいことを言っているな。」で終わっていたはずです。
イチローの生き様も、その価値が分かるのは人生の経験を積んでからではないでしょうか。
そうした意味で、若い頃から気になった言葉は大切にストックしておいたらいいと思います。そして、定期的に見直し反芻することで、あるとき本当に大切な意味を見出し、自身に刷り込んでおきたい言葉になるはずです。
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