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落陽

渋沢栄一のお膝元に住いする事から、彼が登場する小説をと『落陽』(朝井まかて著・祥伝社文庫刊)を読んだ。平成31(2019)年4月20日初版第一刷発行。発売時の帯には

平成の天皇から新天皇へ。まさに、今読むべき一冊

とある。

人工の杜

明治天皇の墓所が京都に決まった後、「東京に明治天皇を祀る神社を」と提案し実現したのが渋沢栄一や当時の東京市長ら。明治神宮という人工の杜は、150年後に完成するものとして造られたという。

自粛

明治天皇崩御は、1912年7月30日。翌日から5日間、歌舞音曲が禁止された。しかし、その期間が過ぎても、国民は喪に伏し続けた。花火、芝居なども興行主が自主的に中止。往来を行く人もまばらになったという。自分から進んで、行いや態度をつつしんだわけだ。文字通りの自粛である。

さて、近日中に緊急事態宣言が再発例される見通しという。原発、いじめ、虐待などの問題でも「学ぶ力を活かさず過ちを繰り返す」感が否めない。新型コロナウィルスの蔓延で、誰もが他人ごとでは済まされない不自由さを共有し、人気や流行りに安心する図式は鳴りを潜めるかと期待するも、社会の喉元を過ぎる速さは過激だった。

自粛は要請されるものではない。この矛盾も抱えつつ、再度、社会は止まるのかもしれない。しかし、150年かけた人工の杜造成は、先達と後世の学び無くしてあり得ない。この力をやっぱり信じたいが…それは、本当にひとりひとりにかかっている。まずは、その自覚を新たにー。

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