刺さったトゲは自分で抜く〜プロとして生きるという事〜
1.その発言に驚いて
『22年間お世話になった会社を辞めました』
という趣旨の発言だった。
サンウルブズの特番
メンバーの集合日に沢木ccが発した言葉だ。
もちろん、沢木さんがサントリーを退社されている事は知っていた。
しかし驚いた。退社の事実に、ではない。
退社、という一身上の都合をあの場で口にした、ということに、だ。
退社、とは沢木さんにとってそれ程までに重い決断だったのか、その事実に改めてショックを受けたのだ。
2.1975年生まれの人生
よくよく考えてみた。
沢木さん、サンウルブズヘッドコーチの大久保さん、日野レッドドルフィンズの新監督の箕内さんは、偶然にも『1975年』生まれだ。仮に『75年組』としておく。
『75年組』が誕生された年、キャンディーズはトップアイドルだった。中高時代の人気アイドルは小泉今日子、今井美樹。高校時代にはドリカムが大ヒットを飛ばしている、そんな世代だ。
大学ご入学は1993年ということになるが、この時既にバブル景気は崩壊していた。そして大学ご卒業の年、失業率は当時の過去最高に達して、大手都市銀行にも公的資金が投入される緊急事態となっていた。
まさに『就職氷河期』だった。
Canon永友GM世代の私も卒業時には既に不景気だったが、加速度的に景気は悪くなったから、75年組の卒業時はどれ程大変だったか。
我が家には、このコロナによる大不況が予想される中で就活準備をする娘がいる。だから断言できるが、75年組の親御さんたちはとてもお喜びになっただろう。誰でも知っている超一流企業、サントリー、NECに息子さんの就職が決まったのだ。しかも好きなラグビーまでできる。親にとって子供の自立は切なる願いだ。まずは就職、ラグビーはその次、そんなお気持ちだったかもしれない。
人生は80年、としても75年組は今年45歳、ようやく折り返し地点を過ぎたばかり、あと半分近く人生は残っている。
沢木さんの発言を過去から紐解くと、サントリー退社の重みをグッと感じてしまう。
ラグビーマガジンでも、プロになられた経緯について誌面を割いて語られていた。
3.プロフェッショナルの定義⁈
プロフェッショナルの厳しさとは何だろうか。
私は自由業の父の下で育ち、自由業の夫と暮らしている。
プロフェッショナルというのは
『忙しくても愚痴、暇だともっと愚痴』という因果な職種だ。顧客あっての商売なので、自由なのか不自由なのか分からなくなる時さえある。はっきりしているのは『顧客ファースト』。私はかなり大きくなるまで一泊以上の旅行に行った事はなかった。主人の休日出勤はもはや日常だ。
プロフェッショナルの使命=結果を出す、これが至上命題だが、これは『成功する』とはちょっと違う。
『顧客が納得する』ここが肝だと思う。
野村克也さんは阪神タイガースの監督を引き受けたが結局3年連続最下位だった。しかし、多くの人材を育て、後任星野仙一さんの元で阪神は優勝、今阪神のベンチには、矢野監督、福原忍ピッチングコーチを含め多くの『野村チルドレン』が在籍している。記憶は定かでないが、ネット上で、ファンが選ぶタイガースの名監督を選ぶ企画があった。ダントツで一位だったのはムッシュ吉田でも星野さんでもなく野村さんだった。
4.贈る言葉
沢木さんは退社してプロになられた。と同時にコロナが世界を飲み込んでしまった。来季トップリーグが無事開幕しても、中止試合を全く作らずに最終節まで終える事はまず不可能だろう。昨日名古屋グランパスが試合を中止、大リーグも開幕早々中止試合がでている。楽観視できる要素は何一つない。
先は全く見通せないが、ラグビーについて力の限り頭を悩ませ、動いて汗をかく沢木さんの姿をチームもファンも望んでいる。逆にいえばそれだけでいい。
ラグビー漬けの前のめりな人生
多分それがプロフェッショナルとしての人生であり、沢木さんご自身を幸せにする人生だと思う。
なぜ、ここで今更沢木さんにエールを送る記事を書いているのか。
それは、今あまりにこの世界で沢木さんが注目されているからだ。そして今後その度合いは益々高まるばかりだろう。
光が強く華やかに当たれば当たるほど、後ろに伸びる影は濃く長く、深い闇となる。自分を支える『核』を常に意識しないと、人はあっという間にその闇に飲み込まれていく。しかもSNSが発達した今、光は瞬時に闇に転じ目の前に広がっていくことを私達は最近痛感している。
5.刺さったトゲは自分で抜く
それは誰だったのか。宝塚のトップスターが退団する際、大物の元宝塚トップスターから餞の言葉を送られた。
今までは刺さったトゲは全部劇団が抜いてくれたけれど、これからは全部自分で抜くのよ
それは難しい言葉に響くかもしれない。しかし、『生粋のラグビー人』に徹して、チームのため、ファンのためとは何か、常に心を研ぎ澄ませていれば、抜けないトゲはない。決して。
6.最後に
ここまで書いてわかった。
私は沢木さんに元気よくエールを送っているのではない。
祈りを捧げているのだ。
退路を断って困難な道を進む一人のラグビー指導者が、神から授かった『ラグビー人を育てる』という才能を余すところなく発揮し、その人生が実り多き幸せなものになるように、と。
神よ これから起こるあらゆる苦難と試練から キャノンイーグルス監督沢木敬介を 守り給え
そして 才能を遺憾無く発揮できたその時 祝福と栄光を 彼に与え給え
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?