妄想レイディオ #20

人生会議と、新型コロナと、集中治療医(後編)

「夜な夜な倶楽部・妄想レイディオ」
今日は、ゲストに、集中治療専門医の、ガンジー先生をお迎えしてお話しを伺っています。先生には、最近よく聞く「人生会議」について伺おうと思っていたんですが、流石に、このコロナ禍における集中治療室での、先生方の“格闘”とでも言うのか、その奮闘ぶりについてお伺いする時間がどうしても長くなっちゃってます。ごめんなさい。しかし、今の曲の間にお伺いすると、先生は、このコロナ禍での対応に、“もどかしさ”を感じておられた、とか。それは、どう言うことなんですか?
「例えば、レッドゾーンに入って患者さんを診る回数も減らさざるをえないんですよね。となると、人工呼吸器の調整も、事細かには出来ない。また、鎮静と言って、患者さんを寝かす状態にもっていくことが増えました。昔の集中治療室って、患者さんが皆寝ているイメージがあったかもしれませんが、今は、出来るだけ起きていてもらって、動けるところは動いてもらうんですよね。その方が集中治療室を出た後の回復が早いんです。でも、今回は、感染などのリスク管理の観点から、寝ている状態でいてもらう時間が長くなりました。本当にもどかしかったです」
でも、先生、それは・・・
「そうなんです。それは仕方なくて、僕らが感染しちゃうと診る人がいなくなっちゃうんで、先ほども申し上げましたが、一番怖いのが、医療崩壊なので」
先生!それは、ボクらも理解してますよ。でも、でも、もどかしさで言うと、残念ながら亡くなられた患者さんの家族の方々も、何とも言えない、もどかしさと言うか、辛さを感じられたでしょうね?
「そこは、今回は、確かに特殊でしたね。早い段階で、面会制限がかかり、家族への病状説明も、僕らはビデオを使って行っていましたし、患者さんが亡くなられた後も、家族でさえ、会えない。その区域内に、家族が入ってくることも出来ません」
亡くなられたことは、先生が、ご家族に説明されるんですか?
「普段ならそうですが、うちの病院では、この期間は、家族とのコミュニケーションは主治医が行いました。僕らは治療だけ。出来るだけ、他の人々と接触する機会を減らすためには、致し方なかったかと思いますが・・・」
でも、その“最後”の家族への説明までも、集中治療医の仕事だと思っておられたガンジー先生にしてみれば、モヤモヤしてる、と言う感じですか?
「まぁ、モヤモヤはしてますね」
本当に、何と言うか、このコロナ、酷な病気ですよね。
さて、この新型コロナウィルスの話は、ここまでにして、今日のもう一つのテーマであります「人生会議」に関して先生にお話しを伺いたいんですが、今もお話しがあったように、集中治療医と言うのは、お仕事柄、人生の最期に立ち会うシーンが、どう考えても一般人より多い。多分、もうメッチャ多く経験されておられる先生は、どうお感じになられているのかをお聞きしたいと思います。リスナーの方もご存知ですよね?「人生会議」。人生の最終段階の、いわゆる終末期に、どんな医療やケアを受けるかを、事前に家族や医師などと話し合っておきましょう、と言うものですが、ズバリ先生は、この「人生会議」を、どう思われますか?
「あるにこしたことはない、と思いますよ」

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やっぱり、そうなんだ。
「患者さんの意識が無くなって、その意思を確認出来ない状態になって、その後、治療を続けても、何処にもたどり着けないと言うか、おそらく数週間、数ヶ月で亡くなるのは目に見えているのに、呼吸器とか透析とか、ECMOをいつまでやるか、と言う問題が出てくる時があるんです。見通しが絶望的になった時に。」
でも、先生!絶望的と言っても、家族側からすれば、数パーセント、いや、1パーセント以下でも、回復の可能性があれば、そこに賭けてみたい、と言う思いはありますよね。
「確かに。でもね、僕らからすると、そう言う状態って、やっぱり、ディメリットが大きいんですよね。そう言う状況で、医療資本をズッとつぎ込み続けると言うのは、辛い。僕らの気持ちも辛い。何処にもたどり着かないので辛い。コスト的にも大変ですし。また、その患者さんがおられるので、他の患者さんがICUに入って来られないと言う場合もある。ICUのベッドは限られているので。すなわち、その人のために、治療を受けられない人も出てくる訳ですよね。そういった色々な理由から、ちょっと“不適切な”こともあるんですよ。そうなった時に、ご家族に、治療を、そろそろ諦めないといけないと言った話し合いをしなければならない時が来るんですね。そう言う時に、本人の意向を、もともと分かってる家族は、変な言い方ですが、話が早いんですよね。やっぱり、本人の意向を尊重しなければならないと言う医療倫理と言うのがあって、そんな中で、事前に人生会議で、延命に繋がるようなことはしたくない、と言った話をしていれば、そこはやっぱり尊重されますよね。一方で、そうした話し合いをしてこなかった場合は、さぁどうする?と家族が決定を迫れる訳ですよね」
おっと、たしかに、そうなりますよね。
「となると、治療を止めて下さいと決定した場合、自分が殺してしまったと言う感情が起こる場合がある。もちろん、そうならないよう我々もちゃんと説明するんですが、そう思っちゃう人もいるんですよね」
わぁ、そう思っちゃうかも。
「家族がそう言う気持ちにならないで済む一つの材料としては、本人がこう言ってた、とか、本人はこう言う人だったとか、そう言うことが分かっていれば、家族も、その本人の願いを叶えてあげようかと言うことに結びついていくと思いますね。そう言う材料が全くなかったら、それを決める家族の負担になると思いますね」
なるほど、その必要性はよ~く分かったんですが、でも、その患者家族に、「さて、どうされますか?これ以上は・・・」って、話を切り出すのは、集中治療室の中であれば、先生ですよね?それって、どうなの?って、何とも漠とした質問になっちゃうんですが。
「その決定は、一人ではしません。いざ“撤退”となった時には、多職種集まって、カンファレンスをします。治療方針はそれでいいのか?家族のケアがどれぐらい必要なのか?緩和ケアをどれぐらいの強度でやるのか?等話し合って決めます。一人で決定しません。一人で決定するのは負担がデカすぎます」
そりゃ、そうだわな。
「ご家族に、『この人は、もう助かりません』と言うのを、一人でやると、毎回、本当にこれで良いのかと思い悩むでしょうね。それは大きな負担です。また、時には患者さんのディメリットにもなりえます」
ディメリット?それは、どう言うことですか?
「正直、経験の差が出る場合もある。『あぁ、これはもうダメだ』と見立てても、ベテラン医師が診たら『あぁ、これは多分、大丈夫』と言う場合だってありえると言うことですよね」
う~ん、ちょっと怖い話ですが、無い話ではないんでしょね。
「また、多職種集まるのは、医師だけなら医療的価値観から決めちゃうから。なので、ホスピスケア、緩和ケア専門のナースや、薬剤師、ソーシャルワーカーと言って経済的な面からアプローチをしてくれる人など、様々な方々に集まっていただいてディスカッションするんです」
経済的側面って、患者さんの懐具合も、考慮するってことですか?
「そうなんです。方針決定には経済的理由も重要な要素です。例えば『たとえこの人、生き残ったとしても介護が必要になるのなら、お金がないので止めてくれ』と言うケースもあるんです」
わぁお!“金の切れ目が命の切れ目”と言う話ですね!実際、そうしたケースもあるんだ。
「そうした場合は『こうしたサービスがあります』『こうした援助がありますよ』と伝えると、家族の方から、『じゃぁ、やっぱり助けて下さい』となる場合もあるんですよ」
なるほどなぁ。チームで対応される、と言うことなんですよね。それでも、その中核におられるのは、ガンジー先生のような集中治療医と言うことなんですよね?
「まぁ、そうですね」
いやはや、本当に、お疲れ様です。しかし、先生のご家庭では、この人生会議は開かれたんですか?ご両親とそんな話はされたのですか?
「えっと、実は、兄も医師でして」
おぉ、兄弟そろってドクターなんですね。で?
「まぁ、ドライではありませんが、両親がもしもの場合も、こっちが、ある程度判断出来るので、親とは・・・、直接・・・、話は・・・、してません!」
してへんのか~い!?
「はい!なので、世間の人にも『人生会議をしろ!』とも、言いません!(笑)」
さぁ、残り時間も少なくなってきましたが、最後に、先生は大丈夫?医療従事者に差別の目が向けられているなど、とんでもないニュースを、最近よく見聞きしますが、先生は大丈夫ですか?
「幸い、僕は経験したことはありません。でも、何と言うか、外には出づらいと言うか、僕を医師と知っている医療関係者以外の人と会うのは、何となく控えようかとは思いますね。もちろん、会っても、向こうはそんなこと言ってきませんけど。また、僕の周囲では、そうしたことを受けたと言う人もいません。むしろ、毎回、エールを送られて、恥ずかしいような」
って、そりゃ、エールを送りますって。それが正解!頑張っておられる医療関係者を差別するって、言語道断だと思うけどな。
「いや、まぁ、それはそれでしょうがないのかなぁ、とも思いますね」
でも、先生!やっぱり第二波、第三波もあるかもしれないので、頑張って下さいね。
「はい!頑張ります」
って、でも、本当は、先生が活躍しない方がいいんですよね?何も起こらずに。
「そうです、そうです!」
ゆっくり出来るのが一番ですよね?
「そりゃ、そうです!(笑)」
ガンジー先生、本当に長時間、ありがとうございました。本当に、お身体を大事に!
「はい!皆さんも」
では、最後は、この曲で締めましょう。これも先生からのリクエストです。
カネコアヤノで「光の方へ」♪
そう、光の方へ、光の方へ。一歩ずつでいいので、進んでいけたらいいなぁ、と思います。
皆さん、おやすみなさい。また、良き明日、良き朝をお迎え下さい!(了)

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