妄想レイディオ #8

大谷邦郎

もし、貴方が突然、言葉を無くしたら?

中島みゆきの「ファイト!」をお聞きしましたが、いやぁ~ファイトだよね、失語症の皆さん!もうファイトとしか言えません。
今日の「夜な夜な倶楽部・妄想レイディオ」では、「失語症」をテーマに進めていますが、この「失語症」、ただ話せないと言うことだけでなく、その名の通り、頭の中から、脳の中から、すっぽりと言葉・言語が抜けちゃうと言うか、いや、抜けるんじゃなくて、その言葉や言語を司る脳の中の部位に回路が繋がらない障害のことを言います。ですから、話せないだけでなく、上手く聞けない、読めない、書けない、と実にやっかいな障害。それだけでなくって、お話しを伺ってビックリしたんですけど、計算もままならなくなる。数も数字ですから、言語だと言うんですね。ですよね?“くるみ”さん!

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「はい。その通りです。でもね、例えば音を聞き分ける回路にあまり障害を受けておられない方は、かけ算は出来たりするんです」
えっ!えっ?足し算でなく、かけ算?
「そうです。かけ算は、歌で覚えている人が多いからです」
あっ、ににんがし、にさんがろく、とか、リズムで覚えますよね。
「そうです。ですから、音を聞き分ける回路が繋がっていれば、比較的、かけ算は出来るんです。一方、足し算は、数字の概念が分からないと、なかなか難しい」
なるほど、そう言うことね。やはり、相当、複雑ですよね。
「計算だけでなく、絵が描けないケースも出てきます。私たちは、リハビリにおいて、声にして出せないのあれば、絵に描いてみましょうか、と言うこともよくするんですが、絵も描けないと言うか、絵が拙劣になるんです」
いや、いや、絵は絵でしょ。
「絵も、シンボルでしょ。シンボルだから悪くなるんです」
そう言うことですか。人間にとって、その言語中枢と言うのが、いかに重要か、だんだんリアルに理解出来てきた気がします。しかし、今もおっしゃいましたが、失語症の改善のために行われるのがリハビリ。それを行うのが、言語聴覚士のお仕事なんですよね。そのリハビリって、どんな風に行われるのですか?
「まず、リハビリにかかる前に、その方が、どんな種類の、例えば、音の聞き分けが苦手なのか、とか、リンゴのことを上手く言えずゴリンと発音しちゃうのか、それとも、リンゴのことをバナナと言い間違うのか、あるいは、単語はある程度理解出来るけれど文法が理解できず、“子どもがお母さんを叩く”と“子どもをお母さんが叩く”の違いが分からないなど失語症にも様々な種類があるので、この方は、どの種類の失語症で、その障害はどの程度なのかをまず検査して、その人にあったリハビリプログラムを用意します。そして、実際にリハビリに入っていく訳ですが、私が大切にしているのは、“聞いて”“理解する”と言う能力の回復をまず目指す、と言うことです」
話せるようにする、ではなく、聞くことファースト、と言うことですね。
「そうです。ご本人さんも、ご家族さんも『話せるようにして下さい』とおっしゃいますが、まず“聞いて”“理解する”ことが出来ないと、話すことは難しいと思います。例えば、音の聞き分けが苦手な人には、“赤と青”“エビとヘビ”“タマゴとタバコ”と言ったような言葉を何度も聞いていただいて、その差を理解してもらえるよう努めます」
何度も何度もやっているうちに、脳の中の回路は、次第に繋がっていくんですか?
「軽症の人を除くと、目に見える回復ではありませんが、それでも徐々に、確実に変化はあります。ですけど、月単位、年単位の話ですから、まぁ、気の長い仕事ですよね。患者さんのご家族には『先生、根気強いね』とよく言われます」
その他、リハビリでは、どんなことを?
「絵が描かれたカードを見せながら、これは鉛筆だとか、これは鍵、これは鍋などと何度も何度も繰り返し伝えるんです。ここでも、絵が分からない人もおられますので、時には現物をお見せしながら、これは鉛筆ですよ、これは鍵ですよ、と伝えるんです。でもね、ここで言語聴覚士の技量が問われると言うか、腕の見せ所なんですが、どんなカードを選ぶか、どんなモノを選ぶかと言うのが、なかなか重要なんですね」
うん?それは、どう言うことですか?
「例えば、それまで一切料理をして来なかったような高齢の男性に、鍋や人参と言ったカードを見せても、なかなか興味が湧かないじゃないですか。練習するにも、モチベーションがあがらない。そこで、その人の興味があるものは何だったか、身近だったものは何だったか、ご家族さんにお聞きしながら探し出すんですよ。その方が、習熟度がアップするのが早くなります。例えば、タバコとか、今だったらスマホとか、パソコンとかね。ですから、まず最初に行うのが、その人の名前です」
なるほど~、って、思わず言っちゃいましたが、自分の名前を言えなくなるのか。
「そうですよ。まず、お名前を言ってもらいますが、言えなかったら、私がその方のお名前を何度も言って、聞いていただいて、もう一回言ってもらう。または、じゃぁ、書いてみましょうか?と書いてもらう。書けないのであれば、まず、私がお手本を書いてみて、模写してみましょう、と申し上げます。そこで、その模写する様子を横で拝見していて、ある程度、書き順が合っていれば、思い出しやすいんですね。その語の形が、頭の片隅には残っている。それが、書き順がバラバラで、まるで、絵を描くようにその漢字を書いているような人は、なかなか回復は難しいですね。でも、それでも名前って、人生で一番寄り添ってきたもので、自分にとって大事なものだから思い出しやすいんですよね。例えば、1ヶ月経って、名前が書けるようになったら、自信に繋がるじゃないですか」
なるほどね。名前ね。名前って、自分のアイデンティティそのものだもんね。映画「千と千尋の神隠し」も、実は名前を巡る自分自身のアイデンティティをテーマにした映画だと思うんですが・・・
「KUNIさん、話、続けてもいいですか?」
あっ、ハイ!「千と千尋の神隠し」については、また改めさせていただきますので、“くるみ”さん、どうぞ続けて下さい。
「結局ね、自分の中で一番大事なものが強固に残るんですよ。それまでの人生で利用頻度が高い言葉、自分と親密性が高いものが残るんです。ですから、私たち言語聴覚士は、その人の性格や、その背景を知らなければならないんです。そうそう、そう言えば・・・」
って、“くるみ”さんが急に笑い出したけど、「そう言えば」って、何があったんですか?
「リハビリをしていた男性ですが、私の言っていること、理解出来ているのかな、聞こえているのかな、と言うような方だったんですが・・・」
なかなか、“くるみ”さんの声がけには反応しない方だった訳ですね。
「そうそう。その方が、後ろでついたままになっていたテレビに、バッと反応したんですよ」
テレビからは、何と聞こえたんですか?
「ニッケイヘイキンと」
株価!!
「そうです。日経平均、と言う言葉には反応されたんです。その方は、もともと証券マンでした」
もう毎日毎日、その言葉を使っていたんでしょうね。利用頻度も高く、親密性も強い。
「そうです。ですから、その後は、新聞を見ながらリハビリをしていました」
株式市況面?
「そう。トヨタとかニンテンドウと言えば、そこに印を入れることは出来るようになって。『ウリ』『カイ』は、発語出来るようになられました」
売り、買い、ね?なんかスゲェな~
「人生を振り返って、よく使っていたような言葉を早く見つけて、掘り出してあげて、それで練習する。リハビリは成功体験が大事なので、その人の出やすい言葉から入るんです。そうやって、患者さんといかに信頼関係を築くことが大事なんですよ」
でも、自分が、そう言う立場になって、出てきた言葉が、変な言葉だったら嫌だなぁ。
「オネーチャンの名前とか?」
もう最悪。あと卑猥な言葉だったら、どうしよう?この人、これまで、どんな人生を歩んでこられたんだろうと、白い目で見られるのは、嫌だなぁ。
では、ここで一旦ブレイク。一曲、お聞きいただきましょう。
これは、曲のタイトルですからね、ボクが、リハビリの途中、そんな言葉を最初に言ったとしても、曲のタイトルですからね。
さぁ、お聞きいただきましょう!
サザンオールスターズの「マンピーのG★SPOT」です。(続く)

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