妄想レイディオ #19

人生会議と、新型コロナと、集中治療医(中編)

「夜な夜な倶楽部・妄想レイディオ」
今日は、ちょっとヘビーですよ。
「人生会議と、新型コロナと、集中治療医・・・」と言うテーマでお届けしています。ゲストは、その集中治療専門医の、ガンジー先生です。って、インドと電話を繋いでいる訳じゃありません。もちろん、ラジオネーム。でも、ガンジー先生に、曲の間にお話しを伺うと、この集中治療専門医って、歴史を振り返ると、まさに、感染症対策で誕生したんですってね?
「そうですね。1950年代、ポリオが大流行したことに対応するため、デンマークのコペンハーゲンの病院にて、世界で初めてICUが誕生したと言われています」
ポリオって、小児麻痺とも呼ばれる病気ですよね?あれも、感染症なんですか?
「ポリオは急性灰白髄炎と言う名前なんですが、病原体はポリオウィルスと言うウィルスで、感染力が非常に強い。感染しても多くの場合は発症しないんですが、発症すると、風邪に似たような症状が出て、呼吸困難で亡くなると言うケースもあるんです」
おぉ!今回のコロナに似てる。
「そう。実際、当時も人工呼吸器が大量に必要となって、もちろん、今の人工呼吸器とは、その性能などは大きく異なっていたと思いますが、それでも数が足らなくなって、『人工呼吸が必要な患者を一箇所に集合させて一括に管理しよう、それが効率的だ』と言う発想で、世界初のICUが誕生したんです」
なんと、感染症と集中治療専門医って、そんな関係があったんですね。なんか、やっぱり歴史って、繰り返すんですね。重要なのは、そこから何を学ぶかですが、今回も、世界的には人工呼吸器が足りないと言うニュースもあって、ちゃんと学んでいるのだろうか?何だかなぁ、とは思いますよね。でも、その一方で、医療業界とは全く異なる自動車メーカーなども、この人工呼吸器の製造に着手したと言うニュースもありましたので、まぁ、一歩ずつ歩んでいくしか、仕方がないのかなぁ?とも思いますね。
「これを機会に進歩すればいいんです。新しい発想も、こうやって生まれてくると思いますよ。そう言う意味からすれば、今後に期待したいです。」
ところで、新しい発想と言えば「ECMO(エクモ)」と言う言葉を、ボクは初めて聞きました。「体外式膜型人工肺」と日本語では言うそうですが、残念ながらお亡くなりになられた志村けんさんの治療の際に使われた、と言うところから、我々も知るようになったんですが、簡単に言っちゃうと、本当に簡単に言っちゃうと、血液の中に直接酸素を入れちゃう、と言う装置なんですよね?
「このECMOって、実はかなり危険な治療なんですよ。大量の血を採り出して、人工の肺と心臓に通して、また人に戻すものなんですが、出血が起こりやすかったり、感染が起こりやすかったりするんですよ」
そうなんだ!すっごく失礼な質問ですが、このECMOと言う言葉、ボクは初めて聞いたんですが、先生は、当然、ご存知でしたか?
「医者は、全員知っていると思いますよ。ただ・・・」
おっと、何かありますね。聞きたい、聞きたい!裏事情を聞きたいです。
「一般的にECMOって、2種類あるんですよ。肺に対するECMOと、心臓に対するECMOがあるんですよ。この心臓に対するECMOを使える医者は多いです。循環器内科医なら出来る。でも肺の方のECMOはその管理の仕方が違う。それを分かっている人は少ない。いえ、そもそも、ECMOに2種類あることを知らない医療関係者も、そこそこいるんじゃないかな。それを実際使った人は、もう一握り。多分、我々、集中治療医のみ、だと思います」
ほぉ、そうなんだ。扱い方が、相当、難しいと言うことですか?
「肺は、長期間付けることがあって、長期間になると言うことは、それだけにトラブルの起こるリスクも高くなります。例えば、回路内に血が固まったりと、色々なことが起こりえるのです。そうしたトラブルを、きちんとモニターしていかねばなりませんし、あっ、起こりそうだな、となった時には、それに対応しなければならないし、そのためには訓練も必要になってくるわけですよ。ですから、医療現場にECMOが少ない、もっと準備すべきだと言う声も上がりましたが・・・」
おっと、また、言い淀まれましたが、と言うことは、何か先生には思うところがあるんですね。
「ECMOって、結構、人手がかかるんですよ。また、管理に人的コストもかかるんです。現状では、たとえECMOが普及したとしても、万一、コロナの第二波、第三波が来て、オーバーシュートしちゃったら、もうECMOどころではないんですね。そもそも・・・」
おぉ、今度は「そもそも論」ですね。聞きたい、聞きたい、そこんとこ聞きたいです。
「ECMOが、本当に良いかどうかは分からないんです。まだ完全に、その効果は証明されていない。何でもかんでも、ECMOがいいかと言うとそうではないんです。もちろん、このECMOが無いと助からない人がいるのは間違いないんですが、これって、諸刃の剣なんですよ。合併症を起こすリスクがある。なので、『何でもかんでもECMO』と言う声に関しては危機感がありますね。確かに、現状のECMOの台数は少ないと思います。では、適切な必要台数は?と聞かれると、分からないと答えざるをえません。ただ、台数を増やすのであれば、使える人も増やしていく必要があろうかと思いますね」
今のところ、肺のECMOに関して精通しているのは、集中治療の先生のみ、とのことでしたが、集中治療医そのものが少ないんですよね?スタッフが用意してくれた「ICU・集中治療室物語」では、集中治療医は1600人と書いてありましたが、そこから増えていたとして、まぁ、2000人。一方、日本にはおよそ32万人の医師がいると言われていますから、集中治療医って、全体の僅か0.6%ぐらいしかいない訳でしょ。それって、何故なんですかね?

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「まずは、まだまだ新しい医療分野だからですよね。先ほども申し上げましたけど、世界で初めてのICUが誕生したのは、1950年代初頭。日本では、その10年後ぐらいにようやく誕生しました。まだ歴史としては60年も経っていない。そして集中治療専門医制度が出来て、ようやく30年。認知度や、その理解度は、残念ながら、まだまだ低いと言わざるをえません」
それと、ガンジー先生には怒られるかもしれないけれど、やっぱり地味だから敬遠されているんじゃないですか?お医者さんって、「吾が、吾が」って言う人、多いんじゃないんですか?なので、地味な分野は避けると言うか・・・
「確かに、地味ですよね。一方で外科とは分かりやすいですよね。取ったりとか繋いだりして治すので。内科でも、例えば、循環器内科医であれば、ステントを冠動脈に入れて心筋梗塞を治したとか、消化器内科医であれば、胃カメラで出血を止めたであるとかがあるんですよね。でも、僕らはそうした術を一切持たないんですよ。技術的な面で治すと言うようなことは、一切ないんですよ。なので、目に見えにくいんですね」
じゃぁ、じゃぁ、先生は何してるんですか?って、メッチャ失礼な質問だけど。
「集中治療室に入ってくる患者さんって、色んな病気を抱えている。コロナの場合もそうですが、色々な臓器に障害を抱えているんですよね。なので、色んな科の先生方と一緒に、その患者さんを診る形になるんですけど、その“とりまとめ役”と言った感じなんです」
「とりまとめ役」、う~ん、もうちょっとイメージを膨らませて下さい。
「司令塔ですかね。ボクは、学生時代バスケットをやっていたので、それで例えると、ポイントガードですかね?」
おぉ、マジック・ジョンソンにジョン・ストックトン!日本人選手で言えば、小さなエース・富樫勇樹選手。スラムダンクで言えば、山王工業高校のキャプテン・深津一成君みたいなものですね。って、これでリスナーの方に伝わったのかなぁ?まぁ、司令塔で十分分かったかも。
「そのポイントガードの役割と同じで、皆が同じ方向を向かすようにするんです。例えば、肺のことを考えている呼吸器内科医と、心臓のことを考えている循環器内科医とで、全く真逆の治療をしちゃうことって、よくあるんですよ。その臓器だけを診ていたら、釣り合いがとれなくなっちゃう。バラバラにやっていたら、上手くいかないことって、よくあるんですよ。それを調整する役ですかね」
おぉ、それならよく分かります。でも、先ほども言いましたが、お医者さんって、「自分が一番!」と思っている人多いでしょ!その先生方を、諭したり、時には止めたり、いやはや、それって大変でしょ?
「そうなんですよ。僕らは司令塔ではありますが、周囲には、司令塔だって気付かれないように振る舞う。気付かれちゃいけないんですよ、司令塔であると言うことにね(笑)」
アハハハハハ!プライドの高い人の扱い方の、見事な処方箋ですね!しかし、高いコミュニケーション能力が求められるお仕事ですよね。
「しかし、その前に、大前提として様々な医療の知識を持っておかねばならない、と言うことです。その知識も、日々アップデートしておかねばなりません。けれど、その一方で、常に自分を戒めておかねばばらないのが、僕らが持っているそれ以上の知識を、専門の先生方は持っているに違いないと、リスペクトする姿勢を忘れてはなりませんよね」
先生!!かっくいい!!!でも、でも、司令塔でありながら司令塔であることを見破られてはダメだし、今回のコロナ禍で、ようやく日は当たったけれど、基本的には地味な仕事じゃないですか?先生の仕事での喜びって、どんな時に感じるのですか?
「他の先生方の間で、なかなか診断がつかないときに、それをピシッと診断した時であったりとか、色々な科が入っていてゴチャゴチャになっていたのを、我々集中治療医が先導して何事もなかったようにスムーズに治療が進んだ時とか、多分、誰も、我々のお陰、なんてことは気付いていないけれど、まぁ、良かったなと思いますね。あと一番僕らが輝いている時って、院内で急変した患者さんがおられた時に、僕らが駆けつけて、容態を立て直したり、後は、こちらでやりますよ、と言うような時が、一番快感ですよね」
先生、SかMかと言えば、絶対M、マゾ系ですよね?
「あはははは!(大爆笑)」
そうでないと絶対務まらないお仕事に違いありません。本当にご苦労様です。では、ここで、もう一曲行きましょう。これは?
「ニューヨーク出身のロックバンドのストロークスの曲です。学生時代によく聞いていました。彼らは今回のコロナ禍の最中に7年ぶりの新作を発表したのですが、初期の曲を彷彿とさせるサウンドの懐かしさに昔をちょっと思い出したり、コロナ禍のニューヨークから届けられたという事実に、思わずジーンとしたりして、初めて曲を再生した時は少し泣きそうになりました。」
了解しました。では、改めて泣いていただきましょう!
The Strokesで、「Bad Decisions」♪ です。(続く)

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