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妄想レイディオ #3

今日のゲストは、明日華・25歳。“送り人”やってます

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さて、「夜な夜な倶楽部・妄想レイディオ」です。
今日のテーマは「増える10代の自殺」と言うニュースをキッカケに、なかなかおじさんたちには理解出来ない「若者の死生観」について考えます。
今日のゲストは、25歳の若さでありながら湯灌師と言う仕事に就いていると言う明日華ちゃんと電話が繋がっています。

さて、明日華ちゃん!いよいよ、ここから「湯灌師」と言うお仕事についてお聞きしていこうと思うんですが、明日華ちゃんは、この湯灌師を、何て言うのかなぁ、生業(なりわい)にしてる訳ではないんだよね?
「生業の意味が今一つ分かりませんが、アルバイトと言うか、パートタイマーとして働いています」
正社員では、ないんだ?
「やりたいことが、たくさんあるので。でも、家計の収入の大きな柱ではあります」
そもそも、大学を卒業して就職はしなかったの?ぶっちゃけ、この大学出てたら、そこそこの企業には就職出来たでしょ。何故、就職しなかったの?
「週5日、同じことをしている自分の姿を想像出来なかったから」
ハァ?
「既存の会社の中で出来ることは、私じゃなくても、絶対誰かがやるから、まぁいいや!と」
あかん、オジサンの発想を完全に超えている。でも、誰か、と言うか、君の回りから、色々と言われたでしょ!
「もう、ムッチャ言われました。大変でした。大学のキャリアセンターから、バンバン電話がかかって来たんですよ。多分、某か色々と登録しなければならなかったと思うんですが、ずっと放置していたんですよ。その間もバンバン電話かかってきてたけど、でも、放置。すると最終的に親のところに電話が行っちゃった。『娘さん、電話に出ないので、どうにかしてくれ!』って。だから、仕方がないので、キャリアセンターに電話して、就職するつもりはありませんと伝えたんです。すると『じゃぁ、どうするんですか!?』って聞かれたので、やりたいことがあるんで、バイトしながらやろうと思っていますと言うと、『折角4年生の大学に入ったのだし、さらに、我が校は関西で、まあまあ有名なところですし、エントリーシートを送れば、書類は間違いなくパスすると思いますよ。貴女の成績であれば、大手企業も行けるでしょう。だから、やりたいことがあるのは分かりますが、まずは3年間働いてみてはいかがですか』みたいなことを言われる」
いや、まぁ、なんだ・・・そのキャリアセンターの人が言うのも、オジサンにしてみれば分からなくもない。石の上にも3年と言う諺もあるし・・・
「だけど、私には、『まずは3年間働いてみてはいかがですか』と言う、その根拠が分からない」
根拠なぁ。まぁ、確かに。
「しかし、何よりも辛かったのが、そうやって話されると、自分の選択が間違っている気がするじゃないですか。多分、相手の中では、私の選択は“不正解”なんですよ。だから、それを訂正したくなるんでしょうね。説き伏せてくる。きっと親切心から。でも、流石にそう言われるのが重なると、沈みますよね」
まぁ、我々、大人はそう言うよな。
「大人だけじゃないですよ。同級生も言ってきました。エ~って感じ。それよりも、自分の進路を考えろよ!と思いましたね」
まぁまぁ、まぁまぁ、って、さっきから、俺、まぁまぁしか言ってないな。ところで、手元の資料によれば、君、採用内定は、ちゃんと貰っているんだよね、企業から。
「そうですよ。内定が貰えなかったから、あの子は、就職しなかった。いや、出来なかったと言われるのが嫌だったから、一社だけ、ちゃんと面接を受けて、内定を貰いました」
もちろん、化粧品業界?
「はい、S社です」
え~~~!銀座に本社があるS堂さん!?って、もう、ほとんど社名、言うてもた。でも、結局、そこには就職していない訳だよね?
「はい、内定だけ貰って、内定、蹴りました」
いやはや、本当にもうオジサンには理解不能。ベタな表現だけど、“もったいない”と思っちゃうよな。
「でも、そこでは、私が思う“美容×福祉”と言うことが出来ないと思ったんです。たとえ出来たとしても、多分、それは事業のメインじゃない。私は、この“美容×福祉”一本でやっていける仕事に就きたかったんです。そうした仕事が見つかるまでは、バイトでいいやと。今の世の中、バイトでも十分生活は出来ると分かっていたので」
君の言っていること、確かに、決して間違いじゃないよな。ただ、それを実際にやるかどうか、と言うか、やれるかどうか、だよね、きっと。で、結局、大学を卒業してから、当面はバイトしながら暮らしていたんだよね。
「卒業してから2年近く、化粧品工場とか、化粧品の販売員、新幹線の売り子さんとか。でも、その後、引っ越しをして、新たな場所でバイトを探さなければならないなぁ、となった時に、お仕事の検索サイトに、キーワードで、化粧、美容、そして以前から知っていた“湯灌”を入れて、週3日程度みたいな条件を入れると、たまたま今の会社がヒットしたんです。それも、1件いくらだけど、今までのバイトに比べたら時給もいい。で、履歴書を持って面接に行ったんですが、普通のアルバイトの面接って、店長と向かいあって一対一で行うじゃないですか。それが、そこの現場の長だったり、直属の上司になるような方、さらに人事の人、もう5~6人に囲まれて行われたんですよ」
そりゃ、分かるよ。会社側も、何故?と思ったにちがいないよね。こんな若くて可愛い女の子が、それも履歴書を見れば、4大、それも有名私立大学卒。何故?と思うよね。
「そうだったと思います。何故?どうして?と何度も聞かれました。私からも、週5日固定で働くことは出来ない。やりたいことが他にもある。シフトで我が儘を言わせてもらうと思うなど、色々とお話しをさせてもらいました。会社側からは『この仕事、いつまで続ける気ですか?』とも聞かれましたが、正直、分かりません、と答えました。その他、本当に色々、全部喋りましたね。でも、結局、採用してもらえることになりました。超ありがたかったです。本当に嬉しかった。入った後も自由にやらせていただいていますし、『勉強出来ることはしていきなさいね』と言うスタンスで接して下さるので、本当にありがたいですね」
さぁ、ここからようやく湯灌師としての一歩を踏み出す訳だね。それが、今から、ちょうど1年前のこと。君は、湯灌に関しての知識はあったとのことだけど、それまで、実際に、その湯灌を体験したことはあったの?
「ないです。ないです。プライベートでも、私が参列したのは、ひいおばあちゃんのお葬式だけですもん。ですから、採用が決まってまず10日の研修が行われ、そこで学びました」
10日間も!?
「だって、道具すら分からないんですもん。普通のものじゃないし。まず、湯灌車って、特殊車両なんで、その車の使い方、例えば、ホースがどうたらこうたらって、その使い方を覚え、で、その後、湯灌の一連の流れとか、お着物の着せ方、例えば浄衣とか、仏衣とか、チョゴリとか、そうした一つ一つの名前とか、どう言う風に着せるとか、そう言うことを、まず、ザッと一通り学ぶんです」
例えば、その道具って、どんなものがあるの?
「大きいものから言うと、まず浴槽ですね。もちろん、湯灌専用の浅い浴槽。その上に担架みたいなものを置くんですよ。その上に寝ていただく。そこからホースを這わせますが、ホースにもいくつか種類があります。あと細かい道具。化粧品や、お手当のもの、あとお身体を洗うものになるんですが、うちの会社の場合は、ご遺体専用ではなく、私たちが普通に使う日常品を使っています」
たしか、俺の父親の葬儀の際にも、湯灌をしてもらった記憶があるけれど、どう言う手順で行われたのか、全く記憶がない。
「葬儀会館にご遺体が運ばれてきて、ご家族の皆さんと一緒におられるところに、私たちが入っていって、湯灌を担当させていただきます、よろしくお願いいたしますと挨拶をさせていただきますよね。その後、準備にかかります。まず、浴槽をセットして、お湯を引き、それと並行して、お着替えの準備です。お着替えの確認はご家族さんと一緒に湯灌師一人があたり、もう一人がその間に、今お召しのものをお脱がせていきます。そうです。湯灌師は二人か、三人のチームであたります。」
う~ん、そんなシーン、まったく覚えていない、と言うか、見た記憶がない。
「そうです、そうです。基本的に、お肌はお見せしないようにしています。ご家族さんを背中にした担当者が、タオルで隠しているので。考え方としては、普段のお風呂と一緒ですよ。そんな見せびらかしながらお風呂に入らないじゃないですか。私たちも、なるべく見ないようにしています。そして、ご家族様に、ご準備整いましたので、始めさせていただきます、って。KUNIさんは、お父様の時に逆さ水と言う儀式はされました?」
逆さ水?
「お父様のご遺体にお湯をかける時に、左手で柄杓に水を汲んで、足もとから少しずつ身体に向かってお湯を掛けていったかと」
あぁ、確かに、そんなことやったような。それを逆さ水って言うんだ。
「で、この後は、私たちが・・・、と言う感じで始めていくんです」
これまた、思い切り基本的な質問だけど、あれって、洗ってんの本当に?
「洗ってますよ。タオルの上からお湯を掛けて、タオルの下で洗っています。ボディソープをつけて、普通に、全身洗います。そして、洗っているのと同時に、もう一人が、お顔剃りもします。そして、それらが終わったらシャンプーも。後はお身体をお拭きして、髪にはドライヤーもかけます。それも終わったら、お着替えに」
で、お化粧はいつ?
「お化粧は最後ですね。まず、ファンデーションでお肌色を整えて、お疵痕などがあれば、ドーランで隠し、軽く粉をはたいて、眉書いて、紅入れて。男性ですか?男性にも、基本、口紅をひかれることをお薦めします。今、お顔色が綺麗でも、その後、どうなるか分からないので、こっちとしてはしておきたいな、と」
もう今のままでも十分綺麗、と言う場合は?
「そのまま、と言うことはないですね。どこまで“変わる”かは、個人個人で、分からないのですが、今後、やはり“変化”は出ますよ、とご説明させてもらいます。このお化粧で5分から10分。時間的に決して余裕はないので、全体でも1時間ちょっとかな。その後、納棺して、ドライアイスをして、お飾りをして、納棺品などがあればご相談をして、お布団をおかけして、お蓋をしめて、式場に移動。それが、一連の流れですかね」
淡々と説明してくれたけど、君の目の前にあるものは、まさに遺体だよね。君は、この1年間で、何体の遺体に湯灌師として向き合ってきたの?
「う~ん、多分、200ぐらいかと」
200!そんなに!!それも、何年も前に亡くなった方じゃなく、本当に2日前、1日前、あるいは数時間前に亡くなられた方々だよね。つい数時間前、数日前まで命あったものが、ある一瞬から、死体、遺体と呼ばれる。その場に君はいて、何を感じるの?
「確かに亡くなっておられるけれど、確かにご遺体で、もう人じゃなくなっているけど、ご家族さんにしてみれば、大切な人で、愛していた人。そんな大事な方との最後の大事な場に、私がいて、その大事な時間を大事に過ごす役割のその一端を私が担っている。それは、私が、毎日出会う人を笑顔にしたいなと思っていたことと、何ら変わりがない、ずれていないと思えたことが良かったですね。確かに、故人の方を今更笑顔には出来ないけれど、家族さんを笑顔に・・・もちろん笑顔じゃなくてもいいんですが、なんか、ご家族の心の中に落ちるもの、一人一人の方の胸の中に、何か、納得出来る状態に、私も出来るかなと思えました」
上手く表現出来ないけれど、何かスゲェな!俺だって、そこそこの年齢なので、親父だとかお袋を始め、様々な死に向き合ってきたけど、25歳の若さにして、200もの遺体と向き合ってきたと言うのは、何だか凄いな。
さぁ、ここからは、もう少し、我々が聞いたことのないような湯灌師としてのエピソードだったり、明日華ちゃんが、今、抱いてる死生観について聞いていこうと思いますが、まずは、ここで、もう一曲お聞きいただきましょう。
エリック・ クラプトンで、「Tears in Heaven」です。(続く)

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