妄想レィディオ #13

大丈夫なの?環ちゃん(後半)

「夜な夜な倶楽部・妄想レイディオ」
今日は、アメリカで心臓移植をした環ちゃんのお父さん、青山竜馬さんをゲストにお迎えして、この新型コロナウィルスが蔓延する中で、本当に生死を分かつような大きな大きな手術をされた方々は、どう暮らしておられるのかをお聞きしております。
青山さん!引き続き、よろしくお願いいたします。
「はい!こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
曲が流れている間に、環ちゃんの声が電話口から聞こえてましたよ。なかなかヤンチャそうですね。
「パッと見であれば、あれほど大きな手術をしたようには、もう見えませんね」

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しかし、環ちゃんのように臓器を移植された皆さんは、免疫抑制剤と言うのを服用されておられることから、免疫力が弱く、すぐ感染してしまう。それだけに、普段から、とことん衛生管理を徹底されている。青山さんの場合は、外出先から戻られたら、即、お風呂に入って、ウィルスを流しちゃう、と明るくお話ししていただきましたが、今、改めて伺うと、やっぱり怖いものは、怖いんですよね?
「ボクらと同じように臓器移植をした家族を持つ方々は、戦々恐々としておられると思いますよ、多分。ビクビク、ビクビクしながら暮らしておられると思いますね。だからと言って、何か取り立てて出来ることがある訳でもないし。とりあえず、自分が感染しないよう努力するだけ。でも、ウイルスは誰しもが感染しちゃう可能性はある。綱渡りのような状態だと思いますね。」
綱渡り、ね。環ちゃんはじめ青山さんのようなご家族の、今の状況を言い得ている一言だと思います。
「その中で、一番恐れているのは医療崩壊ですよね。今までかかっていたお医者さんに『今は、面倒見られません』と言うのを一番恐れていると思いますね。僕らの通院している大学病院なんかは、平時でも崩壊しているようなものなのに・・・」
う~ん。青山さんの口から出ると、ホント、医療崩壊の怖さがリアルに伝わってきますよ。
ところで、青山さんには、実は、もう一つの顔がある。トリオ・ジャパンの会長でもあるんですよね。
「そうです」
このトリオ、決して、てんぷくトリオじゃない。って、てんぷくトリオなんて、誰も知らない?三波伸介、知らない?伊東四朗は知ってる?まぁ、トリオ漫才のトリオの意味じゃなく、綺麗に発音いたしますが、Transplant Recipients International Organizationの略。日本語に訳すと国際移植者組織となるのかな。元々アメリカ発祥の団体ではありますが、日本でも、移植医療を広く社会に定着させるために1991年に、移植者が中心となって設立された任意団体のことです。まぁ、ウィキ情報をそのまま紹介しているんですが、誤解を恐れず、ザクッと言いますと「臓器移植しか助かる道はない」となった患者さんや、患者家族の“駆け込み寺”的存在のような団体ですよね。
「まぁ、そんな感じかもしれません」
で、実際に、青山さんも、環ちゃんが心臓移植しかない、アメリカに行って手術を受けるしか助かる道はない、となった時に、このトリオ・ジャパンに、駆け込んだんですよね。その時の様子が「なんでもない日は とくべつな日」が描かれているんですが、ここは、ボクのええ声で朗読させていただいきますね。

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『竜馬パパは覚悟を決めます。もう海外を目指すしかないと。アメリカでの心臓移植を決意します。病院も決まりました。しかし、その病院が提示してきたデポジット・保証金は日本円で2億2000万円ほど。さらに、それ以外にも渡航費や滞在費がかかります。そうした莫大な費用がかかることも覚悟しました。しかし、その資金はどうするのか?それは募金に頼らざるをえません。そして少しでも早くそお募金活動をスタートしなければなりません。そこまでは思いつきます。では、そのためにはどうすればいいのか。そこで竜馬パパは早速東京のとあるマンションの一室を訪ねました』と書かれているんですが、そのとあるマンションの一室こそが、トリオ・ジャパンだったと言う訳ですよね。
「そうです。ただ、今は、そのマンションからは引っ越していますが・・・」
細かい情報まで、ありがとうございます。(笑)そこで、竜馬パパ、すなわち青山さんは、その団体のメンバーから、こう言われる。「募金活動は、あなた方の人生が評価される。あなた方の今まで生きてきた生い立ちや、生き様が評価されるのです」と、何とも厳しい言葉を投げかけられるんですよね?
「そうです。その際は、本当に怖かったですね。でも、その後は、本当にボクたちに寄り添うようにサポートしてくれました。それこそ、募金の仕方とか、募金箱の準備なども」
しかし、その後、青山さんは、支えられる立場から、今度はトリオ・ジャパンの会長として青山さんのような方々を支える立場に変わられた、と言うことですよね。
「環の場合は、募金も集まりアメリカに行け、そして無事手術も成功し、元気に帰国も出来た。当時からトリオの皆さんの高齢化も心配でしたし、何かお返しをしたい、しなければと思っていた際に、トリオの先輩の皆さんから、『このままだとトリオの看板をたたむことも考えている。よかったら会長を引き受けてくれないか?』と打診されたんですが、ボクには、もう断ると言った選択肢などなかったですね。反射的に、Y E Sと即答しました。」
さぁ、そこですよ、そこ!青山さんの場合は、と言うか、環ちゃんの場合は、アメリカに行けました。まぁ、「なんでもない日は とくべつな日」を読むと、日本を離れる直前、離陸する直前の飛行機の中で手術をするなどの、ホント医療ドラマのような危機的瞬間もあった訳ですが、それでも行けた、アメリカに。しかし、このコロナ禍の中では、渡航制限、出国制限、入国制限があって、アメリカで移植を、なんてことが出来ない状態ですよね。番組の冒頭に生後8ヶ月の女の子がアメリカ・ニューヨークの病院で、心臓移植の手術に成功したと申し上げましたが、彼女たちがアメリカに渡ったのは2月24日だったと言うことでしたから、多分、それがギリギリ。今は、無理ですよね。
「多分、医療ビザが下りないでしょうね」
じゃぁ、その医療ビザがいつになれば発給されるかと言えば、それも分からない。先行きが見えない状態。さぁ、心配なのは、今のこの時点で、当時の青山さんのように「この子の命を助けるお手伝いをして欲しい」と駆け込んで来る家族がいないのか、と言うことです。実際は、いかがなんですか?
「駆け込んで、ではありませんが、問い合せは絶えません。先日は、メールが届きました。生後数ヶ月のお子さんが拡張型心筋症と診断され、移植も視野に入れて下さいと医師から言われたそうです」
あぁ、ジーザス!病気は待ってくれない。どんな環境下においても起こりえますもんね。
「『絶望の淵に立たされ、毎日恐怖、不安に押しつぶされそうになり、子供の顔を見るのが幸せなはずなのに辛くて・・・』とありました。」
安易に「分かります」とは、決して言えないことは分かっていますが、それでも、言わせて下さい。分かります、不安で仕方ないでしょうね。
「ご家族は、出口の見えないトンネルの中に、ただズッといると言う感じの心情だと思うんです。」
暫くは、国内で待つしか仕方がない。
「移植って、生き方の選択なんです。どの時点で、どんな生き方を選ぶか。その選択肢が、次から次に迫ってくる。『さぁ、どれを選ぶ?』と言うように。ボクらには、とりあえず渡米と言う選択肢がありました。実にリスキーだったけど。そのリスキーと言うのは、環の健康状態のこともあったけれど、様々な中傷や批判を受ける社会的リスクを含めてね。そのリスクは覚悟の上で、また、海外渡航移植は本来間違っているという複雑な心情を抱えてでも、ボクらはチャレンジ出来た。しかし、今は、そのチャレンジさえも出来ない。これは辛いです。」
「選択肢が次から次に迫ってくる、それが移植」と言う青山さんの言葉は、重いなぁ。待ったなしの選択を迫られる、と言うことですよね。
ところで、青山さんは、そのメールに返信、されたんですか?
「しましたよ、もちろん」
教えていただける範囲で結構なんですが、どう返信されたんですか?
「不安だとは思うけれど、どうか絶望なさらずに、希望を持って日々を過ごして欲しいと」
まず、希望ね。それから?
「我々の多くは海外渡航移植によって救われたけれど、海外渡航移植は避けられるなら避けた方が良いと」
先ほどおっしゃったリスクのことですよね。
「そう。患者自身のリスク、家族や救う会への社会的リスクです。実に、理不尽で不条理です。出来れば、ああした経験は、もう誰にもして欲しくないと。それに、そもそも相談者さんの今の現状では、移植が全てじゃないし、内科的治療で良くなるかもしれない。それがダメでも、VAD・小児用補助人工心臓の力を借りて、心臓を休めて、心筋が回復して日常生活が送れるまでに回復した子どももたくさんいます。実は移植医療に精通しているお医者さんって日本ではごくわずかで、ほとんどのお医者さんは移植については詳しくないんです。移植医とそうじゃないお医者さんは、フランス料理屋と蕎麦屋くらい違う。ですからそのお医者さんから言われたことが全てではないよ、ということを丁寧に説明します。たとえ移植しか残された道はないとなっても、国内においても臓器提供件数が着実に増えている。心臓移植の場合は脳死者からの提供でなければなりませんが、2014年には、提供者は50人。でも、去年は、その倍近くにまで増えている。日本も確実にそう言う社会になってきているんだと、そう励まします。全ての可能性を視野に入れ、“生きる”ということにしがみついてください。“生きる”ということを諦めないで、と言ったような内容をお返ししたと思います」
“生きる”ということにしがみついてください、なんだか、このコロナ禍の今聞くと、誰にでも当てはまる言葉のような気がしますね。青山さん、お忙しい中、お付き合いいただき、本当にありがとうございました。
「こちらこそ、ありがとうございました」
この新型コロナウィルスの感染拡大で、様々な価値観が変わってきました。臓器移植に関しては、これまで渡航移植と言うのが、確かにリスクも大きかったんですが、一つの大きな選択肢ではありましたよね。実際、環ちゃんも、それで助かった。でも、でも、今回のような事態が起こっちゃうと、その選択肢が消える。じゃぁ、今後どうするんだ、と言うことを国をあげて考えないといけないんだ、と言うことが、こんなボクでも、ちょこっと感じられた気がします。
「移植って、正解は一つではないんですよね。臓器を受けると言う選択肢もある。臓器を受けないと言う選択肢もある。臓器を提供すると言う選択肢もある。臓器を提供しないと言う選択肢もある。もしかしたら、考え中っていう選択肢もあるかもしれない。どの選択肢を選んだとしても、いずれも正解なんですよね。ただ、それまでに知っておいて欲しい。自分が、そして自分の家族が、もし、と言う場合のことを考えておいてほしいですね。今日のボクの話が、そんなことを考えるキッカケになったのであれば、嬉しいです」
では、最後に、曲を流して終わりたいと思うのですが、これは青山さんからのリクエスト?
「いえ。環の今の“ドはまり”曲です」
わっかりました。では、最後は元気にまいりましょう。
改めて、青山さん、ありがとうございました。
「はい!ありがとうございました」
では、ももくろちゃんZで「HERO」です。♪
皆さん、おやすみなさい。また、良き明日、良き朝をお迎え下さい!(了)


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