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美しいストーリー

そのお話に出会ったのは数日前の事である。ある漫画の、それはどこにでもありそうで、でも特別なストーリーだった。場所は漫画喫茶だった。たまに行くそのお店にはドリンクバーの他にソフトクリームの食べ放題がある。バニラ味と、日替わりでショコラいちごとかメロンとかほうじ茶とか色んな味が楽しめる。それでもだいたい私はバニラ味を食べる。これは大人になって分かったのだけど、バニラのアイスがどうやら私は特別好きみたいだった。

出会った漫画は谷川史子の「はじめてのひと」という恋愛のストーリーである。「はじめて」だから「初恋」に関する物語なのかなと勝手に想像してたのだけど、初恋に限らず、それはその人にとっての「はじめて」を描いたものであった。そこには私が求めていた以上の瑞々しい世界観が広がっていた。まるで感情が紙面から浮き出てくるみたいだった。オムニバスみたいに短編の物語が散りばめられた作品なのだけど、今回私が一番トキメキを覚えたのが、最後のストーリーだった。

男の人は女の人の「はじめて」の男になりたいという願望があるというのをどこかで聞いた気がする。それを狙ってか「こんなのはじめて」を初めてじゃないのにいかにも初めて経験したかのように、初々しさを演じてしまうような、強かさのある女の子「エマ」と、その子に片思いの男の子「タナベ」の話である。エマは普通のOL。玉の輿狙いの婚カツ女子でもある。タナベは地位も名誉もお金もない小説家志望。タナベはエマに恋をしてるけど、エマの婚カツを応援してしまうのだ。

なんだか美しいストーリーに出会えたなと思った。儚いけれど、どこかで永遠と続くような、どこにでもありそうで、二度と出会えないような話だと思った。漫画喫茶の個室の中で、涙を拭いながら下手すると嗚咽みたいなものが漏れるんじゃないかと、必死に鼻水の音で誤魔化した。そんな私の姿はちょっとお見せできないほど汚れていたであろうけども、その宇宙レベルのお話は間違いなく美しかった。私の鼻水の話はどうでもいいのだけど、二人が出会った雪の日とか、二人が一緒に歩いた夜空の下とか、なんでもないひとコマまでも美しかった。最後は二人は付き合うまではいかないのだけど、でももしかしたら付き合うのではないか、というキラリとしたものを残して終わった。エマは玉の輿に乗れたかもしれない相手とサヨナラをしてタナベのもとに向かったのだった。エマはこの短編集の他のストーリーにも登場していたのだけど、私はまさか「はじめてひと」の締めくくりがエマだとは思ってなかった。自分がなんでこんなに感動してるのか正直なところは分からないくらい理屈を超えたものがあった。何も持たない二人が、ただ相手を大切に思う事実だけがそこにはあった。

私にはその時に見たかったストーリーが見れるという謎の直感力がある。直感に関しては今までnoteでも綴っているけど「至って普通」で、でもその時ばかりは自分はもの凄い才能があるのじゃないかと錯覚してしまう。今回もそんな奇跡を感じる事が出来たのだった。もちろん見る前になんとなくこれはこういう系の話なんじゃないかとか、うっすらと予感めいたものもある。そして見終わった時に「やっぱりこれだった!」自分って凄いってなるのだ。もちろんイマイチしっくりこない時もある。多分、その作品がイマイチなわけじゃなくて、自分とのタイミングが合わなかっただけなんだと私は思う。

今回のタイミングもものすごい勢いで襲ってきた。今までに何度も普遍的なラブストーリーを見てきて、もちろん素敵な話はいっぱいあってその度に感動するのだけど、今回はまさに「はじめて」だと言えるくらいの、なんてゆうか、一周回った感があった。こういう話の存在を長い間忘れていたような気さえした。

現実はまたちょっと違うよなーと、冷えた頭の片隅で、それでもこの地球上に愛の物語がたくさん生まれて、誰かの心に残っていくのはすごくすごく素敵なことだと思った。

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