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2015年 巨人軍は本当に暗黒だったか


来たる2020年シーズンに向けて、新外国人も揃って来日し、いよいよキャンプインに向けてチームが動き出した。

昨季のセ・リーグ覇者 巨人は当然リーグ連覇、そして8年振りの日本一奪還を目標に掲げる訳だが、昨季が始まるまでリーグワーストタイの4年連続でリーグ優勝から遠ざかっていた巨人。
その期間は暗黒期と囁かれる事も多く、Bクラスに沈んだ年もあったが、中でもダントツで''暗黒''だと言われてしまっているシーズンがある。リーグ2位でフィニッシュした2015年だ。


1. 2015年シーズン概要

なぜ2015年が暗黒と呼ばれてしまっているのか、様々な観点からこの年を振り返ってみたい。
まずは2015年シーズンのチーム成績から見てみよう。

143試合 75勝67敗1分 勝率.528 (リーグ2位)
・チーム防御率 2.78 (1位)
・チーム失点 443 (最小)
・チーム打率 .243 (6位)
・チーム本塁打 98 (4位)
・チーム得点 489 (4位)
・チーム守備率 .987 (1位タイ)

リーグ4連覇を目指したこの年は第二次原辰徳監督政権10年目 通算で12年目のシーズンで、リーグ優勝を果たした東京ヤクルトとは1.5ゲーム差の2位でフィニッシュした。
こうして見ると、貧しかった打線を投手陣がカバーし、守り勝つ野球で終盤まで優勝争いを繰り広げるも最後はヤクルトに捲られた といった印象か。貯金も8つ作り、ゲーム差で見てもそこまでの暗黒感は無いように思える。
次は主な各個人成績を見てみよう。


2.各個人成績

【先発投手陣】
・菅野智之          25登板 179回 10勝11敗 防1.91
・高木勇人          26登板 163.2回 9勝10敗 防3.19
・A.ポレダ          24登板 147回 8勝8敗 防2.94
・M.マイコラス 21登板 145回 13勝3敗 防1.92
・杉内俊哉         17登板 95.2回 6勝6敗 防3.95
・田口麗斗         13登板 66.1回 3勝5敗 防2.71
・内海哲也           5登板 23.1回 2勝1敗 防5.01
【救援投手陣】
・S.マシソン 63登板 3勝8敗 28ホールド 防2.62
・澤村拓一     60登板 7勝3敗 36セーブ     防1.32
・山口鉄也     60登板 4勝5敗 29ホールド 防2.73
・戸根千明     46登板 1勝1敗 5ホールド   防2.88
・宮國椋丞     39登板 3勝1敗 5ホールド   防2.94
・高木京介     33登板 1勝0敗 1ホールド   防2.20

まずは投手陣から。
チーム防御率がリーグトップなだけあり、投手陣はまとまっている印象だ。
同じ防御率1点台ながら援護の差もあり明暗が別れた菅野とマイコラス。初登板初勝利から5連勝でルーキーながらオールスターにも出場した高木勇。ポレダもマイコラスと共に来日1年目からローテーションを守った。
気がかりだったのは前年までの3連覇を支えた内海、杉内の両左腕が不本意な成績に終わったことか。
また、高卒2年目の田口麗斗が66.1回を投げプロ初勝利含む3勝をマークしたのもこの年だ。

救援陣は前年までの3連覇の看板 ''スコット鉄太朗''は解体になったものの、マシソン、山口鉄の2名が60試合登板をクリア。加えてこの年から抑えに配置転換となった澤村も60試合に投げ36セーブ 防御率1.32と結果を残した。
また、救援陣にも大卒ルーキー戸根、共に4年目の宮國と高木京など若い芽が出ている。

投手陣を簡単に振り返ると、前年までのリーグ3連覇時の主力には陰りが見え始めたものの、次代を担う若手が頭角を現しており、私が個人的に理想のチームバランスと考えている2009年型に似ているところも多い為、そこまで悲観的に見ることも無いように感じる。

【野手陣】
・坂本勇人 130試(479-129).269 12本 68打点 OPS.754
・長野久義 130試(434-109).251 15本 52打点 OPS.725
・片岡易之 113試(348-85).244 10本 36打点 OPS.672
・阿部慎之助 111試(343-83).242 15本 47打点 OPS.784
・亀井善行 109試(382-104).272 6本 35打点 OPS.712
・村田修一 103試(330-78).236 12本 39打点 OPS.683
・井端弘和 98試(269-63).234 1本 19打点 OPS.610
・立岡宗一郎 91試(339-103).304 0本 14打点 OPS.691
・L.アンダーソン 83試(234-59).252 7本 31打点 OPS.729
・高橋由伸 77試(133-37).278 5本 21打点 OPS.815
・小林誠司 70試(177-40).226 2本 13打点 OPS.605

続いて野手陣
こちらは投手陣とは対照的に物足りない成績の選手が並ぶ。
投手陣と共通して言えることは、前年までのリーグ3連覇時の中心選手が揃って打撃不振に陥っている事だ。
この年から新主将に就任した坂本は左ふくらはぎの張りの影響もありレギュラー定着後最小の130試合出場に留まり、打率も前年から大きく下げてしまった。
長野はほとんどの部門でプロ入りワースト、阿部、村田らも故障の影響もあり大きく数字を落としてしまった。
移籍組の片岡、井端らも物足りない成績に終わり、100打数以上の選手の中でOPS.800超えが高橋由のみというのもあまりに寂しい。アンダーソンは実力はあったが何せ怪我が多く、本来の実力は発揮できなかった。

そんなパッとしない野手陣の中でも光明だったのはソフトバンクから移籍3年目の立岡の台頭だ。5月から一軍に昇格し、後半戦からはセンターのレギュラーを掴んだ。規定打席未達ながら打率は3割を超え、飛躍の年となった。
また、プロ入り2年目の小林誠司が着実に一軍での経験値を積み、正捕手への階段を上るなど比較的若手には明るい材料はあったが、この年は投手陣様様だったのは確かだろう。

【新戦力の働き】
(投手)
・矢貫俊之 3登板 0勝0敗 0ホールド 0セーブ 防13.50
・A.ポレダ 上記参照
・M.マイコラス 上記参照

(野手)
・相川亮二 40試(99-31).313 4本 17打点 OPS.889
・吉川大幾 47試(56-14).250 0本 4打点 OPS.651
・J.フランシスコ 5試(18-3).167 0本 1打点 OPS.333
・堂上剛裕 59試(98-27).276 3本 13打点 OPS.781
・金城龍彦 36試(90-21).233 1本 10打点 OPS.566
・北篤 一軍出場なし
・A.カステヤーノス 6試(20-2).100 0本 1打点 OPS.332


(新人)
・岡本和真 17試(28-6).214 1本 4打点 OPS.612
・戸根千明 上記参照
・高木勇人 上記参照
・田中大輝 一軍登板なし

次にこの年の新戦力の働きを見てみよう。
投手陣ではポレダ、マイコラスの外国人コンビが上述の通り先発ローテーションを守る活躍をしたものの、6月に日本ハムからトレード加入した矢貫は僅か3試合の登板と、戦力になれなかった。
野手陣は7名の新戦力を迎えたがスタメンに定着した選手はおらず、シーズン途中に獲得した助っ人の2人も同じような成績に終わり、来日2年目で打率.000に終わったセペダと共にオフにまとめて解雇になった。
一方でルーキーは明るい話題が多く、ドラフト1位の岡本は高卒1年目ながらプロ初ホームランを記録するなど非常に将来に期待したくなる逸材だし、戸根、高木勇はそれぞれの期待以上の活躍を1年目から果たした。


以上、2015年の概要を振り返ってきたが、まず大きく言えることは、ベテランから若手への世代交代の時期であったこと。
主将も阿部慎之助から26歳の坂本勇人に引き継がれ、''阿部慎之助のチーム''から''坂本勇人のチーム''への移行が始まる年だった。
偶然にも主力陣の不振が同じ年に被ってしまった為、特に野手は寂しい成績に終わってしまったが、投手陣はリーグトップクラスであり、決してマイナスイメージばかりを持つことは無いと思う。どのチームにも必ず世代交代はやって来るし、FAを初めとする補強も軒並み不発に終わってしまったのでトータル面で物足りなさを感じたのだろう。


3.野球賭博問題

これまでチーム全体の成績や各個人の成績から振り返ってきたが、そこまでの暗黒感は感じられなかった。
そこで次にその他の観点で巨人軍を振り返ってみたいのだが、2015年はプロ野球氏に残る汚点ともいえる問題が発覚した年である事を忘れてはならない。2015年の暗黒感はここに凝縮しているのではないか。野球賭博問題である。

2015年10月 所属選手の福田聡志が野球賭博をしていた事が発覚。その後、笠原将生と松本竜也も賭博を行っていたと判明し、11月に3選手は失格処分となり、原沢球団代表も引責辞任と、球界内外に衝撃を与えた。

この件をきっかけに、世間からの巨人軍への風当たりは強くなり、球団のイメージも大きく落とすことになった。


4.野球賭博問題発覚後の巨人軍

問題発覚後の巨人は極力静かなオフを過ごすことになる。
ドラフトでは育成ドラフトも含め16名の選手を指名したが、競合は避け、目玉とされた選手の指名は無かった。
FAでも脇谷亮太の出戻りとロッテからL.クルーズ、メジャーリーガー ギャレット・ジョーンズを獲得したものの、大人しめのオフシーズンとなった。


5.現在から見た2015年シーズン

2015年は選手成績も不本意で、社会的にもバッシングを受けた巨人軍だが、翌年以降のチームにどのような影響を与えた年だったのかも見ていきたい。
まずは選手から見ていこう。

【2015年 不振に喘いでいた選手たち】                    内海哲也 …                                                                      翌年中盤から先発に復帰し9勝を挙げ、復活をアピール。しかし2017年以降は思うように調子が上がらず、2019年から西武でプレー。

・杉内俊哉 …                                                              2015年10月に行った右股関節の手術を行い、翌年はリハビリに費やしたが、その後3年間公式戦の登板はなく、2018年オフに引退。2019年から巨人軍コーチに就任。

・坂本勇人 …                                                                  前年までの不本意な成績に危機感を持ち、打撃フォームの改造に取り組む。その結果、翌2016年はセ・リーグ遊撃手初となる首位打者と最高出塁率のタイトルも獲得。現在まで安定した成績でチームを牽引。

・長野久義 …
翌年に選手会長に就任 3年振りの全試合出場。好不調の波がありながらもシーズン終了時にはある程度の成績でまとめてくる。2019年から広島でプレー。

・阿部慎之助 …
翌年から捕手での出場は無くなり、一塁手としての出場が続く。捕手時代ほどの負担が無くなり、打撃に専念。
2000安打や400本塁打等節目の大記録を達成。
2020年から二軍監督に就任。

・村田修一 …
翌年は打率を意識した打撃に取り組み、結果的に全試合に出場、打率.302 25本塁打 82打点と復活を遂げた。
BCリーグを経て2019年から巨人軍コーチに就任。

・片岡易之 …
翌年以降も相次ぐ怪我に悩まされ、2017年に現役を引退。翌2018年から巨人軍コーチに就任。

【2015年 一定の活躍、成績を残した選手たち】
・菅野智之 …
翌年以降も巨人の絶対的エースとして、また、日本のエースとして圧倒的な成績を残す。
2017年,2018年2年連続沢村賞。

・M.マイコラス …
翌年は怪我の影響もあり4勝止まりも、2017年には14勝 防御率2.25 187奪三振でタイトルも獲得するなど、ローテーションの柱となる。
2018年からMLBに復帰すると、いきなり18勝を挙げ最多勝に輝く。

・A.ポレダ …
翌年は4月に登録抹消されると、左脇腹を痛めるなど思うようにプレーできずその後の一軍登板はなし。オフに自由契約。

・マシソン …
翌年以降もリリーフエースとして献身的にチームに貢献。また外国人選手の兄貴分としてリーダーシップも発揮
2019年に日本での現役を引退。

・澤村拓一 …
翌年も抑えで37Sをマークしセーブ王を獲得。
2018年からはセットアッパーとしてブルペンを支えている。

・山口鉄也 …
翌年も60試合登板をクリアし前人未到の9年連続60試合登板を記録。一方他の成績は不本意で2017年18登板、2018年は一軍登板なしに終わりオフに引退。
2019年からジャイアンツアカデミーコーチ就任。

・高橋由伸 …
2015年は代打打率.395と切り札として活躍したが、オフの原監督退任に伴い、監督就任要請を打診され、それを受諾。現役は引退した。
その後の由伸政権にて、代打不足に悩んだ事は皮肉な話だ。

【2015年 ブレイクを果たした選手たち】               ・高木勇人 …
翌年以降は起用法が定まらず、先発と中継ぎを転々とし、2018年からは西武でプレー。
2020年からはメキシカンリーグへ。

・田口麗斗 …
翌年はプロ初の2桁勝利をマークし、ローテーションに定着。翌翌年も13勝を挙げ2年連続の2桁勝利を挙げたが、2018年に成績を落とすと2019年は主にリリーフとして55試合に登板。フル回転した。

・戸根千明 …
2年目も40登板をクリアしたが2017年,2018年はほとんど一軍で投げれず。2019年は前半戦好投が続いたが怪我で再び登録抹消となった。

・小林誠司 …
翌年以降は正捕手に定着。打撃に課題は残すが、国際大会やお祭り事にめっぽう強く、2017年WBCでは代表トップの打率.450をマークした。
守りの面では年々レベルが上がっており、リーグトップクラスの捕手力を持つ。

・岡本和真 …
2年目、3年目はレギュラー定着とはならなかったが、4年目にフォームを改造すると、打撃が開眼。史上最年少で3割30本100打点をクリアした。
翌2019年も4番として30本塁打をマークするなど、チームの主砲に成長。

・立岡宗一郎 …
翌年以降は一軍と二軍を行ったり来たりし、なかなか一軍定着できていない。
タイプが似ている選手が多く、今季が正念場と言える。

【2015年のドラフトで入団した選手たち】
・桜井俊貴 …
ドラフト1位で入団の大卒投手。入団後、なかなか成績は残せなかったが、2019年6月に先発初勝利をマークするとその後のローテーションに定着し8勝を挙げ、チームのリーグ優勝に貢献した。

・重信慎之介 …
ドラフト2位で入団。1年目から一軍での経験は積んでいたが、レギュラー奪取とはならず。それでも2019年には自己最多の106試合に出場し、チーム2位の盗塁数をマークした。

・宇佐見真吾 …
ドラフト4位入団の捕手。2年目にプロ初本塁打をサヨナラで飾るなど派手にデビューし、4本塁打を記録するも、正捕手争いにはなかなか加われず。2019年途中から日本ハムへ移籍。

・山本泰寛 …
ドラフト5位で入団。1年目から年々出場機会を増やし、2019年には200打席に到達。キャリアハイの成績を残した。

・中川皓太 …
ドラフト7位で入団した左腕投手。2018年にプロ初ホールド、初セーブを記録すると、2019年には中継ぎ、抑えでフル回転。67試合に登板し17ホールド、16セーブ、防御率2.37とチームのリーグ優勝に大きく貢献した。

・増田大輝 …
育成ドラフト1位で入団。2017年に支配下登録を勝ち取ると2019年には75試合に出場し、代走の切り札としてチームトップの15盗塁をマーク。また、優勝を決めた試合では決勝のタイムリーを放つなど飛躍の1年となった。

次に野球賭博問題の翌年以降の影響を見てみよう。

【野球賭博問題発覚後の主な出来事】
(2016年)
・新たに高木京介の賭博関与が発覚し、契約解除に。
➡2017年に処分が解除され、3月27日に巨人軍と育成
選手として再契約。

・白石興二郎オーナー、桃井恒和会長、渡邉恒雄最高顧問の3名が引責辞任。


6.まとめ

以上、非常に長くなったが、2015年 巨人軍は本当に暗黒だったかというテーマの下、様々な観点で振り返ってみた。

最後に2015年シーズンのプラス面、マイナス面をまとめたい。

【プラス面】
① 2015年シーズン(の不振)を機に、自身のスタイルを見直して翌年以降の好成績や選手生活に影響を与えた選手がいた。(坂本、村田、阿部等)

② 2015年シーズンのブレイク(経験)をきっかけに、その後のチャンスを掴んだ選手がいた。(田口、澤村、小林等)

③ 2014年ドラフトで入団した選手が、1年目から一軍で経験を積み、結果も残した。(高木勇、戸根、岡本)

④ 2015年のドラフトで入団した選手が着実に経験を積み、2019年のリーグ優勝に貢献している。(桜井、中川、重信、増田等)

⑤ 外国人投手が揃って結果を残した。(マイコラス、ポレダ、マシソン)


【マイナス面】
① 野球賭博問題で球団の世間からのイメージが転落。
球団のトップが揃って辞任するなど、その後数年はゴタゴタが続いた。

② 球団の事情で翌年以降のプロ野球生活が大きく変わった選手がいた。(高橋由)

③ 自身の過ちにより翌年以降の生活が変わった選手がいた。(福田、笠原、松本竜)

④ 菅野とマイコラスの援護格差(菅野3.11、マイコラス4.41)によりファンの打線への不満が蓄積。

⑤ 外国人野手が近年最低レベルで機能していなかった。(フランシスコ、カステヤーノス、セペダ)

⑥ 年長FA選手獲得による人的補償で高卒2年目の若手流出(奥村展征)。若手選手の扱いについてファンの不満が蓄積。


7.最後に

こうして振り返ってみて、2015年は主力の不振が重なりリーグ4連覇が叶わず、更には野球賭博問題の発覚により球団のイメージが転落したことも大きく、ファンの間でも球団への不信感を大きく抱くこととなった。
更には原監督退任からの高橋新監督就任の一連の流れや、人的補償で高卒2年目で放出となった奥村の件等、選手の扱い方などに対してもファンの不満や不信感を募る結果になってしまった。
これらの事もあり、暗黒のイメージが強く付いてしまったのだ。

社会のルールから逸脱する事は許されることではないし、擁護するつもりも全くないが、チームとしては、翌年以降に良い影響を与えた要因も多くあった1年であったし、決して悲観的になるばかりでは無い。

とても長くなってしまったが、同郷の推し 立岡宗一郎の復活を強く願い、〆とさせて頂きます。

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