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ヨウナシとナイフ

ある冬の話。本当の話。


私は、病みに病み、じわじわとこの身から精神が離れていくのを知覚しながら、なんでもない一日を、何日も何日も過ごしていた。


きっかけは失恋だった。と言うか、
失恋を理由にしているだけかもしれない。


失恋よりも前に、もっと酷いことがあったのは事実だが、追い討ちを喰らった。


私は、一人の人が離れていくだけで、こんなにもボロボロと醜態を晒すような奴であることは、自分でもわかっていた。

しかし、こうも醜いものか。


なんでも、自分は可哀想な奴だと喚いた挙句、このような醜態を晒すのだ。


気色が悪い。

殺せるものなら、殺してほしい。

そんなことを日毎に考え、積み重ねているうちに、一つ思いがけない行動をした。



食後に洋梨でも食べようかと、その梨を片手に、台所の引き出しから一丁のペティナイフを取り出した。そのときだった。

ナイフは逆手にもたれ、切先は腹を向いたまま、私に方目掛けて近づいてくる。


なぜあのとき、そのまま腹にナイフを刺して死ななかったのかはわからない。

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