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迷わず行くよ。

< 退職まで 0 日 >(実質 0 日)

●どうしてこうなった

 結局、最終出社日から現在まで、公式な連絡は何もなかった。

 経営層は胸をなでおろす。やっぱりアイツは大した仕事をしていない。俺の判断は間違ってなかった。とんだ食わせ物だと嘯いていたという情報は入ってきている。まあ、そうなんだろう。そういうことにしておいたほうが、お互い幸せである。

 問い合わせなんて発生するはずがないのだ。入退社のアカウント操作とキッティングくらいしかまともに引き継げなかったのだ。問い合わせが発生するとしてもおそらく月末近く。最終日まで連絡が来ないところを見…あ、そうですか、また退職者がでたと。じゃあもうっかい復習ってことで手順を一緒にやりますか。


 結局のところ、経営層は無駄な出費をすることがないと認識し、私は影でバカにされながらも平穏な2周間という時間を得ることができたのである。素晴らしい。世の中捨てたものではない。


 諸行無常。

 

 そもそもどうしてこうなったのか。


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 一言で言えば、忖度したことが原因である。

 社長は基本的に社員との時間を持ちたがらない。また、役員も社長と社員が直接やり合うことを嫌っていた。退職というセンシティブなものに対しては特にだ。

 よって、直上の取締役に全てを任せた。それがその取締役の希望でもあったからだ。現場とも打ち合わせを行い、後継者が採用できるまでソフト・ランディングしつつ、なるべく費用がかさまないような提案書を、なるべく専門用語を使わずに提出し、「取締役の承認」が得られたという事実のみで満足してしまった。つまりは、経営層の都合の良いように忖度して動いてしまったこと。これが原因だ。

 ので、会社のためを思うのであれば、もっと直接、社長とコンタクトを取るべきだった。全ての準備が整うまで社長への挨拶を先延ばしにするのではなく、辞めると決めた時点で一度社長と話をすべきだった。

 その時点で話にならない可能性もあったが…すくなくとも、社長に状況と報告、これからどうするかをきちんと伝えられる可能性も合ったということだ。そのパイプの構築を作ることを、怠った。

 私も、取締役も、怒鳴られたくない。社長は社員に興味がない。

 三者三様の忖度が、「どうしてこうなった」という状況を生んだのだろう。これは反省すべきところだ。

 11月最終日。この時間でも現場から問い合わせのLINEが来る。私も、現場も、どうしてこうなった…と思いながら処理に追われている。その原因は上述したとおりだ。

●さりとて、失敗ではない

 情シスの退職及び引継ぎとしては、失敗であろう。現在、表面的には入退社関連の問い合わせしか来ていない。だが、サービスの更新や機器の購入、トラブル時にどうするか等々については現場も大変に不安視をしているようだ。そのときには、私は問い合わせには答えないし、答えることはできないと伝えてある。現場から見ても大失敗だ。

 しかし、私自信にとっては、成功ではあった。

 まず第一に、表面上はお互い円満に縁を切ることができたことだ。コレまでの退職者のうち、実力のあるものは退職後も社長から連絡が来て辟易してるということを聞いていたのだ。

 それがまったく、ない。

 これは精神衛生上大変によろしい。

 次に、情報システムの安定稼働やセキュリティの不安から逃れることができたということだ。これは、負け犬の遠吠えなのだが…社風として、セキュリティよりも楽さを求める傾向にある。

 どんなにシステム的に・制度的に固めていたとしても、そのシステム・制度から逸脱することを是とするような社風は、私には破裂寸前の爆弾に見えていた。「面倒くさいことは悪、そういう事を言うやつは攻撃をしていい。営業が最優先だ!」という状況下では、私は責務を全うできなかった。

 いくらプライバシーマークをとっても、ISMS をとっても、それは表面的にできたと言うだけでしか無いのだ。内情はどうでも、外部監査のときだけなんとか凌げばいいだけでしか無い。個人情報の大事さや重さを理解させることはできなかった。そのために組織を変える必要があることを主張しきれなかった。仕組みを変えても踏みにじられるだけで、社員の目線を変えることは、私にはついぞできなかった。

 ― だが、もう心配しなくていい。私にはもう関わり合いのないことだ。

 変にこのまま関わっていたら、おそらく私に全ての責任を被せてきただろう。そのリスクから逃げ出せたのだ。万々歳である。

 第三に、社員への説明の手間が省けたことだ。いつぞや書いたが、社長は退職者の悪口を社員に吹聴する悪癖がある。おそらくそこでアイツは恩知らずだ、大した仕事をしないくせに金銭を要求してくるなどと説明したのだろう。基本的には、社内の空気は私へ同情的であった。これは、退職が公表されてからの社内生活では大変に助かった。居心地の悪さは殆どなかった。ありがとう社長。

 最後に、対外から問い合わせが増えたことだ。どうも社長仲間に情シスがやめてしまって…という話を(おそらく悪口とともに)していたようだ。おかげで「次は決まっているのかうちに来ないか」「副業でやってもらえるのか」「ちょっとこっち手伝ってくれないか」といったようなお問い合わせをいろいろと頂いた。おかげでこの二週間は本当に、有意義に過ごさせてもらった。あちらへ行っては打ち合わせ、家に帰ってはWebで面談。その中のひとつはきちんとプロジェクトとしてスタートしそうだ。こんなにありがたいことはない。社長、あなたの悪口に私はとても感謝しています。

●これからどうする?

 これからも情シスとして働いていくつもりだ。また、私のような情シスを産まないための活動もしていくつもりだ。会社にただ勤めるだけではなく、新しいことをやっていくことも同時に楽しみたい。そのきっかけを与えてくれた現職には本当に、嫌味でも皮肉でもなく、感謝している。間違いなく人生を変えてくれた。

 その恩義に応えるためにも、これからまた、1社会人として頑張っていくつもりである。

この道を行けばどうなるものか。
危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。
踏み出せばその一足がみちとなり、その一足が道となる。
迷わず行けよ、行けばわかるさ。

 人生、失敗したか成功したかなんてのは死ぬときに決めるか、自分以外に評価されるかでしかない。危ぶんでいる暇はない。どんなに遅くとも、拙くても、一歩一歩、歩いて道を作っていく。そんなふうに生きていくつもりだ。


 今までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 あなたの人生にも、さち多からんことを。

(了)

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