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松方コレクション展

1959年6月10日に開館した国立西洋美術館は、2019年の今年で60周年を迎え、『国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展』が開催されたので鑑賞してきました。

この展示は美術館の成り立ちを知った上で観なければいけない展示だと思うので、備忘録も兼ねて記しておこうと思います。

【 美術館の成り立ち 】

「松方コレクション」は川崎重工業の初代社長松方幸次郎が集めた貴重なコレクションで、浮世絵が約8000点、西洋絵画、素描、版画、彫刻などは3000点近くあります。

松方は第一次世界大戦で巨万の富を形成し、その財力で美術品を収集していきます。「若い画家たちに本物の西洋美術を見せるため」に松方は「私は芸術の事は分からない」と言いながらコレクションしていったわけですが…
指南役がいたからとは言え、すごいコレクションなのです。
また、短期間に猛烈に収集していくのは美術館設立への並々ならぬ情熱があったからこそだと思います。

順調にコレクションしていましたが、軍艦製造禁止や関東大震災、金融危機などの煽りを受けて川崎重工業の経営は悪化していき、松方は会社を支えるためにコレクションを売却することとなります。

その際に国内に留まった作品もありますが、海外に流出した作品もあり、ロンドンとパリにも作品が保管されましたが、ロンドンの倉庫に保管していた300点ほどの作品は、火災で全焼してしまいました。
一方、パリのロダン美術館に預けていた作品は大戦中に「敵国人財産」としてフランス政府に差し押さえられましたが、吉田茂の返還要求もあり、「寄贈」という形で多くの作品が日本へ還ってくることに。

しかし、数百点もの美術品を保管する場所がない!!

ということで、これらを所蔵するために国立西洋美術館が設立されました。

そして、今回の目玉作品とされるモネの「睡蓮、柳の反映」が、2016年にルーブル美術館で発見・返還され、松方家を経て国立西洋美術館に寄贈されたのでした。

「睡蓮、柳の反映」など気になる方は以下のサイトで情報を確認してください

松方コレクション展の公式サイト (こちらに画像があります)


【 観覧後の感想 】

展覧会の構成は年代順に整理されており、コレクションがどのようにして集められたかがわかるように展示されています。
松方コレクションとは本来どのようなものであり、どういった形で散逸してしまったのか。
美術品としてだけではなく、歴史的資料として鑑賞することで国立西洋美術館の見方がこれまでと変わってくると思います。

音声ガイダンスだと、なぜ、ここまでコレクションに情熱を傾けたのかについてサラッと説明していたのですが、もう少し突っ込んで説明してくれたらもっとよかったのに。と。
かなりの人で混雑していたので、キャプションを読むことは諦めて、音声ガイダンスを頼りにしていたためちょっと残念でした。

さてさて、どの展示室にも「有名」で「観たことのある」絵画が展示されています。

■オルセー美術館所蔵のゴッホの《アルルの寝室》

こちらも実は松方コレクションなのですが、フランスから返還してもらえませんでした。
まあ、素晴らしい作品ですから返したくない気持ちは分かりますけどね。
《アルルの寝室》の横に展示されていた、ゴッホの《ばら》が大変美しかったです。

■クロード・モネの作品「睡蓮、柳の反映」

展覧会入り口に、クロード・モネの作品「睡蓮、柳の反映」のデジタル推定復元図が公開されていました。AIを用いて復元したとのことで、こういったことにも活用されているのですね。

修復された「睡蓮、柳の反映」は一番最後に展示されていて、本物は作品の大半が損傷しており、修復されたとはいえ満身創痍。

公式サイト 「見どころ 02」   (こちらに画像があります)

しかも、通常なら2~3年かけて修復するところをこの展覧会にあわせて1年という短期間で修復。
作品の大きさから考えるとこれはかなり大変な作業だったと推測します。


松方がモネと直接交渉して作品を譲りうけたというエピソードからも分かるようにそれほどまでに熱心にモネを口説きコレクションしていった数々の作品。

展示を観てからだと「睡蓮、柳の反映」だけでなく、今、目の前にしている作品たちは数々の苦難を乗り越え、これだけの時を経て松方の手に戻ってきたのだ…と思うとじわりと涙が。
(しかも、「睡蓮、柳の反映」はまるで開館60周年にあわせるかのように発見された)

芸術的、歴史的なんてカテゴリーにはめられない。
時代の証人のように感じられ、人々が守り抜いてきた「想い」を感じずにはいられません。
こんなにも言葉にできないことがあるものだろうか…とさらに熱いものがこみあげてきました。

上半分が損傷し、痛々しいながらにも所々に咲いているピンクの睡蓮の花。
その筆づかいまで感じ取れる様子が何とも言えずまた胸がいっぱいに。じっくりと鑑賞し、名残惜しくその場を去りました。

常設展とセットで今回の展示だよね。。。と思い、常設展もゆっくりと鑑賞。

同時開催の「モダン・ウーマン―フィンランド美術を彩った女性芸術家たち」も鑑賞してきました。(こちらの展示もなかなかおもしろかったです)
こちらの展示は撮影OKとなっていました。

「若い画家たちに本物の西洋美術を見せるため」にと集められた作品群を観た後に、北欧の絵画をいとも簡単にスマホで撮影できてしまう。

時代は変わりゆくのだと改めて感じ、皮肉めいた気持ちになりながらも鑑賞、撮影したのでした。松方を初めとする、絵画を守り抜いた人々の想いを受け、「当たり前」に絵画が観られているこの状況にまず感謝したい。

そして、この状況をどう感じ、何を考え、そこから何を生み出していくのか…過去があるからこそ今がある。これからの私たちにできることを考えていきたいと思わせてくれる素晴らしい展示でした。

あと、最近歴史を勉強する機会があり、そのおかげで、この作品がどれだけ貴重であるかが分かり、歴史の重みを感じました。

しっかりと学ぶことは自分の人生をより豊かにしてくれるのだと痛感…一生勉強、一生成長、ですね。

#フィンランド #国立西洋美術館#モネ#西洋絵画

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