見出し画像

卒業制作『捉える』という作品について

『捉える』という作品を作りました

こんにちは。はじめましての方ははじめまして。
多摩美術大学 統合デザイン学科 4年 8KOWEBと申します。

2021/01/20-24に開催されました多摩美術大学統合デザイン学科卒業・修了制作展2021では昨今の状況の中かつ予約制という縛りが多くある中で本当に多くの方にお越しいただきました。

その中で私は展示で来場していただいた方がどのように作品を鑑賞しているのか観察をし、実際に説明を通してよりこの作品についてどう感じているのかをお聞きしていました。

画像6

そこで私なりにどのように『捉える』という作品を制作していったのかをここにまとめていきたいと思います。
制作のきっかけから展示をしてみて感じた反省点まで書いていければと思います。

『捉える』について

色や形のどこを見てそのものと認識しているのか。
トリミングされた世界でそこにないものを想像させる作品。

画像1

私たちは色や形のどこを見てモノをそれと認識しているのでしょうか。
そこで私は最小限で伝わるまでに色や形を簡略化し、冊子の中にはないトリミングされた世界でそこにないものを想像させるグラフィックスを制作し、A4という普遍的なサイズで周囲のものを原寸大に切り取った冊子を制作しました。

【素材】
冊子: 210×297mm 48P Mr.Bスーパーホワイト110kg (9点)
B1ポスター: 728×1030mm(4点)
什器: H850×W1840×D440mm(4台)

例えば新聞紙などはしなやかグレーの紙の上面にあるギザギザの細かいディテールを目で追うようなグラフィックを制作しました。

sinbun_アートボード 1 のコピー


制作のきっかけについて

私の卒業制作がはじまったときはまだ出歩くのも散歩がやっとというくらいな自粛期間中の6月でした。

私はかねてより考現学が好きで、以前も電柱の横に立っている黄色のポール「支線」をあつめたZINEを作っていたりしました。

その散歩をしている最中にふと目に入った「徐行」の標識が気になり、自分はこの対象物の色や形のどこをみて標識と判断したのだろうか、また自分の背丈より高い位置にある標識を自分の目の前に持ってきたらどんなサイズの違和感が生まれるのだろうかと思ったのがきっかけでした。

画像11

画像12

また私はこの4年間で紙媒体の制作をする事が多く、その経験を重ねていくときに言われた「A4は見慣れたサイズ過ぎて格好いいと思えない」という言葉に引っかかりを覚えました。

つまりこの言葉は、自分たちの身の回りで一番普遍的で最も見慣れている平面のサイズはおそらくA4であるということを示唆していると感じました。
そこで私は普遍的なサイズから、実際のモノのサイズを制作物で相対的に再認識したいと考えました。

画像10


冊子という媒体について

また私はこの制作において本が本であり、実物でならなくてはいけない理由を探りました。この制作をしていく中で最終的にどのような展示をしていかなければならないのかということ考えおり、中間講評の時点は以下のようにA4に印刷されたポスターを250枚程度壁にずらっと貼り付けようとしていました。

A4_presen_アートボード 1 のコピー 15


ただそのような展示を行った場合、
壁に貼る=必然的に鑑賞者と作品の距離が遠くなってしまい、原寸大にトリミングした意味であったり、A4という普遍的なサイズを選んだ意味は薄らいでしまうのではないか、ということを考えました。

そこから私は冊子という媒体の制作に切り替えていくこととなりました。
冊子という媒体を選んだ理由としては以下の点があります。

・鑑賞するのに時間が発生する
=作品の順番を適切に置き換えることができれば、説明はなくともやりたいこと(例えば最小限の色面で構成している、実寸である、めくっていくにつれてA4というサイズであることが認識でき、相対的にサイズ感を認識できる)

画像6

冊子の一番初めのページに極端に形と色が単純化されたジップロックを持ってくることで、サイズ感やこの作品を通して感じさせたいことなど作品の傾向を提示し、導入のきっかけにさせる

画像7

次のページで身の回りによくあるはがきと封筒を持ってくることで相対的なサイズ感、やりたいことが明確に感じられるようになる

・最大で2点の作品しか鑑賞ができない
=例えば作品をすべて壁に貼ってしまうと作品に対する認識や感情が一瞬で終わってしまう

・視点の距離・方向を一定にすることができる
=普段その視点の距離・方向ではないものを強制的に冊子の上に持ってきて
小さいながらもミクロとマクロの視点を行き来しているような感覚がし、存在そのものを触れている感覚を呼び起こすことができるのではないか

また直接的には展示とは関係ありませんが、本は実物のアーカイヴとして残り続ける媒体であると考えています。
私はこの制作の中で作ったグラフィックはできるだけ作ったその日中に公開していました。ただそれは延々に残り続けるわけでないですし、原寸大で表示されるわけでもないわけですから作品の本質からはかなりかけ離れています。

その点本は一旦配布してしまえばその人が廃棄などをしてしまうまで、その人のもとに残り続けることができます。
実際に卒業制作を完成させる前に大学の芸術祭にてZINEを販売しました。

オンライン上で急速に消費が行われる現代からは逆行していますし、また昨今の状況下で「なるべく手を触れないようにする」という観点から本はまたも急速に淘汰されているように感じていますが、私はこの制作を通してなぜ本が本でなくてはならず、実際に手で触れてみなければならないのか、という価値も再考するきっかけになったのではないかと感じています。

展示形態について

画像13

今回の展示は冊子を主軸に展示を制作するため、立ちながらでも冊子がめくりやすく、また冊子の邪魔にならないような見た目がレスな什器が必要であると考えました。そこで私は四六版21mm厚のシナランバーを加工・組み立てをし、4台の背の高い什器を配置しました。

その上に等間隔に冊子を9冊配置し、キャプションやフライヤーは済の一箇所にまとめるようにしました。

画像14

またポスターは天井から吊ることで、3次元的な空間性を出すようにしました。

展示をしてみて

今回の作品の反省点はたくさんあります。
まずアイキャッチとして用いたポスター。
これは捉えるの本質から逸脱してしまっているのではないか。冊子のサイズに意味をもたせ、原寸にこだわった作品にもかかわらず、突然B1ポスターにしてしまったことは目先の表現に走ってしまったと考え、反省しています。

画像3

次に捉えるなのかトリミングなのかそこをちゃんと決められていなかったということ。作品の中では捉えるもトリミングもどちらも両立していたかもしれませんが、掛け算にはなっていませんでした。
最終的に自分の線引きができておらず、作品としての軸がぶれてしまったのだと考えています。

それと入学したときから目標としていた優秀者作品に選ばれなかったこと。
こればかりはどうしようもないかもしれませんが、上記の反省点で申し上げたようなことが事前に把握していてかつブラッシュアップできていれば、と感じてやみません。

ただご来場していただいた方、お世話になった先生方、同級生、先輩、後輩、色んな人に「この作品は面白い」と言っていただけたことが本当何より嬉しく、幸せでした。誰かひとりでも私の作品を理解して評価してくれたらと思っていたので本当に沢山の方々に声をかけていただいたこと。感謝してもしきれません。

誰から指定されたわけでもない、自分が考えた制作に約半年本気で取り組み、展示し、作品が選ばれなかったことに本気で悔しがれたことがとても楽しかったです。

また「なるべくオンライン上で完結しなければならない」「なるべく手を触れない」「なるべく外出をしない」などの考えから全て逆行した「実物の本であり、めくらなければならず、実際に足を運ばないといけない」という作品を評価していただけたことは本当に嬉しかったです。ありがとうございました。

また今回の展示に来ていただくことが叶わなかった方のために
展示会場で配布していたフライヤーをネットプリントにて配布しています。
ご興味のある方はぜひ印刷していただけたら幸いです。

画像2

予約番号: 07625111(セブンイレブン)
A4 カラー:120円
期間:2021/02/01まで

また今までに作った作品はこちらから見ることができます。

最後の最後に宣伝です。
展示は終わってしまいましたが、今年は統合デザイン学科卒業・修了作品展示図録2021をオンライン販売することが決定しました!
(お届けは3月下旬になります。)

深澤直人学科長と学生の鼎談記事も掲載予定です!
購入予約フォームはこちら

画像15

最後までご高覧いただきありがとうございました。

制作・執筆 八子智輝(8KOWEB)
撮影    八子智輝・松尾光太郎あけ(敬称略)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?