働くあなたも知っておくべき。    雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金

 雇用調整助成金と緊急雇用安定助成金(以下両者で「助成金」)についての実務的なポイントを紹介します。
 この制度は、4月1日から「新型コロナウイルス感染症対策の特例措置(6月30日まで)」として、手続きの簡便化や助成率の引き上げがなされています。まだ改善すべき点はあるものの、活用のメリットはあります。ぜひ、「解説ビデオ」をご覧いただき、以下のポイントを確認してみてください。

 この制度は、事業主を対象とし、支給も事業主宛てですが、わたしたちは労働者が積極的に活用を促し、実務も担うことを推奨します。
 なぜなら、①休業せざるをえない事業状況で雇用を維持するための助成金で、②労働者への休業手当の支払いが前提とされ、③書類は労働者が作成することもでき、④休業計画には使用者だけでなく、労働者代表の合意が必要だからです。
 経営者まかせにせず、事業と雇用を守るため、雇用されて働くみんなで雇用調整助成金に詳しくなりましょう。
※タイトルに「実は儲かる?!」と打ち出しましたが、ケースによります。詳しくはビデオで。

【はじめに:いちばん大切なポイント】

1.助成対象は、売上が前年より5%以上減っている事業所です。最初の計画届が出せるのは「前年同月比で5%以上売上が減った翌月」となります。3月に売上が5%以上減った事業所(※)は、4月中に計画届(等)を、 4月に売上が5%以上減った事業所は、5月中に計画届を出しましょう。

※ 生産指標要件(売上が前年同月比5%以上低下)を判定する「事業所」の単位は、「雇用保険適用事業所番号」単位です。

2.とにかく助成金の書類を書いてみましょう。わからないところは雇用調整助成金フリーダイヤル0120-60-3999(9-21時受付) に「夜」電話して聞きましょう。ハローワークは混んでいるので、上記フリーダイヤルがおすすめです。

・助成金の様式
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyouchouseijoseikin_20200410_forms.html

・雇用調整助成金の記入見本など https://www.mhlw.go.jp/content/000623230.pdf

・緊急雇用安定助成金の記入見本など
(厚生労働省未発行)

・「雇用調整助成金FAQ(4月27日現在版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000625730.pdf

3.「雇用調整助成金」は、雇用保険加入者を対象とした助成金です(※)。
1つ目のリンク先の【雇用保険被保険者】の書式を参照してください。
「緊急雇用安定助成金」は、雇用保険未加入者を対象とした助成金で、コロナ対策で初めて実現した制度です。1つ目のリンク先の【雇用保険被保険者以外】にある書式を参照してください。

※ 労働保険料の未納や労働関係法令違反の場合は、本来、不支給ですが、「 緊急対応期間の特例 」では、コロナ危機下における雇用維持を最優先とし、労働保険料の未納や労働関係法令違反の不支給要件に該当していても、特例的に利用可能とされています(一定の条件がありますので、まずは、管轄の労働局に御相談を)。

【手続きの概要】

【1】計画届出と支給申請
(1) ハローワークでの「助成金」手続きは、大きく2つ(計画と支給申請)
① 最初の計画届等の提出 5%以上売上が減った月の翌月←★重要★
② 支給申請(「助成金」支給を申請する手続き。毎月なら毎月1回)

(2) 最初の計画届の提出はいつ?
① 3月に5%以上売上が減っている場合→4月中に計画届等を提出。
② 4月に5%以上売上が減っている場合→5月中に計画届等を提出。
③ 5月に5%以上売上が減っている場合→6月中に計画届等を提出。
※ 6月に5%以上売上が減っている場合→現時点では特例対象ではない
※ 例えば、3月に5%以上減った場合、最初の計画届等を提出できるのは4月のみです。その場合の手続きは、5月以降はできません。
※ 事業所設置から1年に満たない場合や、災害その他やむを得ない事情で前年同月を比較対象月とすることが適当でない場合(等)は、比較する月が変わります。詳細は、記載例をご確認ください。

(3) 「助成金」の対象となる休業は?
→4~6月のいずれの月の提出でも、雇用調整助成金(雇用保険加入者が対象)は、1月24日以降の休業についても遡って適用することができます。
(5/1付修正です。対象期間の初日が2020年1月24日以降であれば、計画届の事後提出が認められますが、「※3 対象期間の初日が2020年4月1日より前である場合は、10%以上の減少が要件となります。」(厚労省資料より)。内容に間違いがあり、申し訳ありませんでした。
 一方、緊急雇用安定助成金(雇用保険未加入者対象)は、4月1日から6月30日の期間の休業が対象です。

【2】休業手当の支給率 10割支給を推奨します
(1) 労使協定で休業手当は6割以上(10割が基本ですが)と締結します。

(2) 労使協定の日付は、休業手当支給開始日より前の日付にしてください。

(3) 労使協定は最初の計画届と一緒に提出します。一度休業手当6割で提出済みでも、労使合意の内容が変われば、割合を10割等に変更して、後日(遅くとも支給申請日に)再提出することも可能です。←★重要★

【3】事業所とは?
(1) 「助成金」対象事業所となる生産指標要件(1か月5%以上低下)は、「雇用保険適用事業所番号」の「事業所」単位で判定されます。法人単位ではなく、また、事業所内の一部門でもありません。←★重要★

(2) 「雇用保険適用事業所」であれば、例えば労働組合なども対象となります(新型コロナウイルス感染症の影響を受けることが前提です)。労働組合であれば、労組費収入などが「生産性指標要件」となると考えられるでしょう。

【4】「助成金」の金額は?
(1) 雇用調整助成金(雇用保険加入者対象)の単価は、「事業所」の全労働者の平均をもとに計算されます。具体的には、
①前年度の雇用保険料の算定基礎となる賃金総額から、非保険適用の労働者数と所定労働日数で割って計算(労働基準法第12条の平均賃金のように暦日で割らないのが基本です)した額に、②労使協定(休業協定あるいは一時帰休協定)で定めた休業手当の支払い率をかけ、③その額に助成率をかけて算出します。ただし、金額は上限額8,330円で頭打ちです。

(2) 実際に支払われる個々の休業手当の金額に対して、助成金が決まるわけではないため、例えば「1人日当たりの助成額単価」が8,330円となった事業所において、日給3万円の正規労働者(8時間労働)と、日給3,600円(4時間労働)の非正規労働者が一日休んだ場合に支給される雇用調整助成金の金額は、ともに8,330円となります。
 こうしたことから、一日の賃金が相対的に安い非正規労働者だけが休業となると、休業手当の総額より、雇用調整助成金の総額が多くなるケースがあります。ですから、多くの場合、休業手当の支払い率は10割にしたほうが、事業主側にもメリットがあります。←★重要★

(3) 一方で、今回新しく創設された、緊急雇用安定助成金(雇用保険未加入者対象)では、実際に支給される休業手当の総額にもとづいて計算するものとされています。

【おわりに】

 「申請手続きの書類と記載する事柄が膨大」、「短時間パートの方が除外される」、「助成率が低すぎる」といった声が、多くあげられていた雇用調整助成金ですが、この3カ月で、かなり改善されてきました。
 記載事項は77項目から半減され、対象業種は全業種となり、雇用保険被加入期間が6か月未満の人や、労働時間が週20時間未満の人も適用対象となりました。休業に加えて、教育訓練を同時に行う場合(パソコンをつかった自宅学習も含む)は、加算金が付きますが、その金額も1200円/日から、大企業1800円・ 中小2400円へと引上げられました。助成率も、解雇や雇止めをしないで頑張っている事業所の場合は、中小企業で9割に引き上げられました。そして、今後は休業要請を受けたケースでは10割助成とする等、さらなる助成率の改善も検討されています。これらは、多くの労働組合や市民団体(「わたしの仕事8時間プロジェクト」も)が、改善要求を出し続けてきたことの成果です。

 ただ、なお改善すべきところが残されています。まず、申請にかなり時間がかかる点。これは、厚生労働省のハローワークの現場で受給申請に携わっている職員の皆さんが、この20年におよぶ人員削減で人手不足に陥っているところに多くの申請が寄せられているからです。政府は、非常勤の職員の追加予算をだしていますが、まだ間に合っていないのが現状です。申請手続きの簡素化でスピードアップははかられるでしょうが、さらなる改善、そして職員定数を増やすことが必要です。

 もうひとつは、助成金の振り込みが事後とされている点です。事業によっては、休業手当を先に支払うだけの資金がない、というところも出てきています。雇用維持は待ったなしの状況ですから、「わたしの仕事8時間プロジェクト」では、助成金の先払い方式(一時金の前払い方式)を、政府に提案しています。休業計画の届出を受理し、要件が確認されたところで、(一定額を)振り込むことで窮迫した事業に資金を渡し、雇用の維持をはかる。そして、事後に雇用実績・休業手当の支払い実績を確認して、不正がないことを確かめる、という制度運用に替えるという案です。海外ではそうした運用がなされている事例もありますし、もともとの制度にも、臨検や事後のチェックという制度はあるのですから、制度改善は可能だと考えています。

 みなさんも、活用にあたって、改善すべき点に気づかれましたら、政府に改善を要求してください。もちろん、私たちに、アイデアをよせてくださってもけっこうです。コロナ危機から、わたしたちのくらしと雇用、事業を救うために、力を尽くしましょう。
                                以上