車窓

少しも痛くないよ。

湿気を最近ジメジメと、けれでも確かに感じている。

湿気がどうも苦手で(みんな苦手だろうけど)
一つの指標としてこの季節になると
髪の毛がうねるうねる。
会社に行くと先輩に

「クルンクルンだね~ワカメみたいじゃん」

「それ褒めてないすよね?」

「褒めてるよ」


--------------------------------

少し前の雨の日。
通勤電車で、顔がそっくりの兄妹が、
こちらに背を向けてしきりに、窓ガラスを伝う水滴を指で追っかけて
キャッキャ遊んでいて。
母親らしき女性は吊革につかまって二人を見守っていて、
その光景がとても暖かくて、そこだけ優しい靄みたいなもので
包まれているような、そんな気がして「はぁ~今日も頑張るか」と思えた。

なんだろね、「今日の昼メシは絶対あそこのカツカレーを食べるんだ!」って時も同じように今日も気張るか!って思うけども、その日は無理やり自分を奮い立たせるような、何か後付けの理由なんてなく自然に「やる気」というか「今日を乗り越えよう」みたいな。
そういう時ってあるよなぁ。

子供って最強だ。赤の他人をこんなに「やる気」にさせるなんて。


子供ってすげ~な~。
そんなことを考えながらその幼い兄妹を見ていると、
電車がグラッと大きくうねる様に揺れた。
みんなも揺れた。そのお母さんも吊革がグイッと地面と平行になるぐらい
揺れていた。

ふと子供たちを見ると、
車窓から外を見ながら妹ちゃんが後ろ向きでちょうど座席から落ちるところだった。


ごづんっ

その音を聞きたくなくて目を逸らした。
けど明らかに、鈍く、何か重くてでもそんなに固くなさそうな
そんな音がした。

同時に妹ちゃんの口から放たれた高周波が車両を揺らした。

「そうだよなぁ、そうなるよなぁ。痛かったよなぁ」と思いながらも
何もできなかった。

そうしたら、おにーちゃんが妹ちゃんの後頭部をさすさすしながら
言ったんだよ。
「痛くないよねー?すこーしも痛くないよねー?ねー!」

そしたら、泣きじゃくってた妹ちゃんが笑うのね。
「痛くないー!すこしも痛くないー!」
お母さんもそれには驚いたようで拍子抜けしたような、
でも、やさしい眼差しで二人を見ていた。

大人になって、自分の機嫌を取りにくくなったなぁって最近になってすごく感じていて。
大人になって食べたい物を食べたい時に食べられて、
欲しい物だってある程度買える。
行きたいところに行けるし、会いたい人にも会おうと思えばすぐに会える。
本当は子供の時より、何倍も機嫌を取りやすくなっているのにね。

結婚して一番変わったのは「自分の機嫌を瞬時に取れる達人がそばにいること」なのかなと思う。語弊ありまくりだけど。(笑)
付き合っている時とやっぱり何か違う。何だろう。
そして気づいたのが
「痛い」と素直に言えるようになったことかなと思う。
「えっと、マジ痛いんで。しかも手が届かないんで、そこ湿布貼ってもらっていいい?」と素直に言えるようになったことかもしれない。
そして「うーわマジ痛そうだね・・大丈夫?ちょっと休む?いんじゃない?死ぬわけじゃないしさ。ところでお腹空かない?」
言ってくれる人がいるから、
それはあの電車で見たおにーちゃんの「少しも痛くないよ」と妹ちゃんに寄り添う気持ちと同じなんだなって。


嫁さんにだけじゃない。
自分の周りの大切な人には「おいおいメッチャきついな・・話聞かせてよ」って言える人間でいる。

そう思った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?