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不自由たち


 小さい頃にどこかで見た、指を滑らせてピアノの鍵盤を鳴らす音が好きだった。自分もやってみたくて真似してみたものの、力がないためか指が全然滑らない。痛い。試しにおもちゃを手に持ち滑らせてみる。いい感じに音が鳴った。嬉しくてもう一度やってみようとすると父にものすごく怒られた。今でもはっきりと覚えてるくらい怒鳴られた。ピアノを指以外で鳴らすのはいけないことらしい。何故ってそういうルールだからだ。

 6年間ピアノを習った。毎週木曜日が大嫌いだった。決められた曲を言われるままに弾いて花マルをもらう。もうおもちゃを使わなくても弾けるようになっていた。でもつまらなかった。

 音楽は不自由だ。楽譜の中に閉じ込められた音たち。音は自由だ。しかし音のままでは人はそれを再現できない。人は不自由だ。何故って指でしかピアノを弾いてはいけないからだ。けれど音楽は人を救う。不自由を救うのは自由ではない。いつだってもうひとつの不自由なのである。

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