八丁味噌GI問題 行政不服審査会の答申書について

twitterの文字制限ではきついのでこちらで。とても長いです。

答申書の本文はこちらです。
https://t.co/zDVNhkKR9g?amp=1

全文を転載しておりますが、当事者が全て記号に置き換わっており読みにくいことこの上ないので、当記事では適宜固有名詞を補っていきます。当方で書き加えた部分は太字になっています。
原文は上のリンクにありますので、間違いなどお気づきの点があればお知らせください。

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令和元年度答申第35号 令和元年9月27日
諮問番号 令和元年度諮問第17号(令和元年5月27日諮問) 審査庁 農林水産大臣
事件名 特定農林水産物等の登録に関する件
答申書
審査請求人X(八丁味噌協同組合)からの審査請求に関する上記審査庁の諮問に対し、次のとおり答申する。
結論
本件審査請求については、参加人Z(愛知県味噌溜醤油工業協同組合)による特定農林水産物等の登録の申請に特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成26 年法律第84号)13条1項3号イに該当する登録拒否事由がないかについて、更に調査検討を尽くす必要があるから、本件審査請求は棄却すべきであるとの審査庁の諮問に係る判断は、現時点においては妥当とはいえない。

冒頭が結論になりますが、八丁味噌協同組合からの不服審査請求について「棄却すべき」という農林水産省の判断は「現時点では妥当ではない」なぜなら、県組合の申請について、本当に「13条1項3号イに該当する登録拒否事由」に該当していなかったのか「更に調査検討を尽くす必要があるから」ということのようです。

理由
第1 事案の概要
1  本件は、農林水産大臣(以下「処分庁」又は「審査庁」という。)が、平成29年12月15日付けで、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律 (平成26年法律第84号。ただし、平成30年法律第88号による改正前 のもの。以下「地理的表示法」という。)12条1項に基づき、参加人Z (以下「参加人」という。)の申請に係る特定農林水産物等の登録をしたこと(以下「本件処分」といい、本件処分に係る参加人の申請を「本件申請」 という。)について、審査請求人X(八丁味噌協同組合)(以下「審査請求人」という。)が、本件申請には地理的表示法13条1項3号イ及び同項4号イに該当する登録拒否事由(以下、それぞれ「3号イ事由」及び「4号イ事由」という。)があるから本件処分は違法であるなどと主張して、その取消しを求めて審査請求をした事案である。

「3号イ事由」及び「4号イ事由」はこのあと死ぬほど出てきます。この答申書では順を追って説明していますので次の項まで我慢してください。

2  法令の定め
 (1)特定農林水産物等の登録
地理的表示法6条は、生産行程管理業務を行う生産者団体は、明細書を作成した農林水産物等が特定農林水産物等(1特定の場所、地域又は国を 生産地とするものであること(同法2条2項1号)及び2品質、社会的評価その他の確立した特性(以下単に「特性」という。)が上記1の生産地 に主として帰せられるものであること(同項2号)のいずれにも該当する 農林水産物等)であるときは、当該農林水産物等について農林水産大臣の 登録を受けることができる旨を定める。
(2)登録の申請 
地理的表示法7条1項は、同法6条の登録を受けようとする生産者団体は、農林水産省令で定めるところにより、当該農林水産物等の名称、生産地、特性、生産の方法等、同法7条1項各号に掲げる事項を記載した申請書を農林水産大臣に提出しなければならない旨を定める。
(3)登録の実施
地理的表示法12条1項は、農林水産大臣は、登録の申請があった場合において同法8条から11条までの規定による手続を終えたときは、同法 13条1項の規定により登録を拒否する場合を除き、登録をしなければならない旨を定める。

ここまではGIとは何ぞや的な説明ですね。

(4)登録の拒否
地理的表示法13条1項は、農林水産大臣は、同項1号から4号までに掲げる場合には、登録を拒否しなければならない旨を定め、同項3号イは、 登録の申請に係る農林水産物等(以下「申請農林水産物等」という。)に ついて、特定農林水産物等でないときを、同項4号イは、申請農林水産物等の名称について、普通名称であるとき、その他当該申請農林水産物等について2条2項各号に掲げる事項を特定することができない名称であるときを掲げる。

「3号イ事由」
申請された農林水産物が「特定農林水産物等でないとき」

「4号イ事由」
申請された農林水産物の名称が「普通名称であるとき」、「2条2項各号に掲げる事項を特定することができない名称であるとき」

にはGIの登録を拒否しなければならない旨が定められているそうです。本件の争点はこのあたりになります。

地理的表示法13条1項4号イの定めについて、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律施行規則(平成27年農林水産省令第58号。以下 「地理的表示法施行規則」という。)16条2号は、地理的表示法13条 1項4号イの申請農林水産物等について同法2条2項各号に掲げる事項を特定することができない名称には、不正競争防止法(平成5年法律第47号)2条1項1号又は2号に掲げる行為を組成する名称を含むものとする旨を定める。なお、不正競争防止法2条1項1号には、「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の 間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、 ...他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」が、同項2号には、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のもの を使用...する行為」が掲げられている。

さらに「4号イ事由」について、拒否事由となる「同法2条2項各号に掲げる事項を特定することができない名称」には、不正競争防止法2条1項1号・2号にある
■他人の商品等の表示と同一もしくは類似の表示を使用し混同を生じさせる行為
■他人の著名な商品等
も含まれるとしています。

もうここで「名古屋八丁」とか「八丁赤だし」とか完全アウトじゃないかと思うのですが、なぜか農水省ではセーフになって審査が通ってしまっています。

3  前提となる事実
(1)当事者等
ア 審査請求人は、「A(八丁)味噌」との名称を付した豆味噌を生産、販売する 事業を行っているQ1社(カクキュー)及びQ2社(まるや)(以下、併せて「C(八丁味噌協同組合)2社」という。) が加盟する事業協同組合である。
C(八丁味噌協同組合)2社による上記豆味噌の生産は、B(愛知)県C(岡崎)市D(八帖)町において行われている。 イ 参加人は、「A(八丁)味噌」との名称を付した豆味噌を生産、販売するR1(イチビキ) 社、R2(盛田)社、R3(野田味噌商店=桝塚)社、R4(ナカリ)社、R5(あいち赤だし)社及びR6(マルサンアイ)社の6社(以下、併せて「B(県組合)6社」という。)が加盟する事業協同組合である。 B(県組合)6社による上記豆味噌の生産は、B(愛知)県C(岡崎)市外の同県内(上記掲記の順に、E市、F市、G市、H市、I市、J市)において行われている。
 (2)基本的な事実経過
ア 審査請求人は、平成27年6月1日、生産地の範囲を「B(愛知)県C(岡崎)市D(八帖)町」 とする豆味噌につき、名称を「A(八丁)味噌、K(HATCHO)(A(八丁)のローマ字表記) MISO」として、地理的表示法7条1項に基づく登録の申請(以下「本件先行申請」という。)をした。
イ 参加人(県組合)は、平成27年6月24日、生産地の範囲を「B(愛知)県」とする豆味噌につき、名称を「A(八丁)味噌」として、地理的表示法7条1項に基づく登録の申請(本件申請)をした。
ウ 審査請求人(八丁味噌協同組合)は、平成29年6月14日、本件先行申請を取り下げた。 
エ 処分庁は、本件申請に対し、平成29年12月15日、生産地を「B(愛知)県」とする豆味噌について、名称を「A(八丁)味噌」として、地理的表示法6条に基づき、特定農林水産物等の登録(本件処分)をした。
オ 審査請求人(八丁味噌協同組合)は、平成30年3月14日、審査庁に対し、本件処分の取消しを求めて審査請求をした。
カ 審査庁(農林水産省)は、令和元年5月27日、当審査会に対し、本件審査請求は棄却すべきであるとして諮問をした。 
これらの事実は、諮問書、諮問説明書、審査請求書、A(八丁)味噌の生産範囲、審査請求人及び参加人作成の各特定農林水産物等の登録の申請、取下書、登録について及び特定農林水産物等登録簿から認められる。

上記が時系列の経緯です。最後の「カ」はニュースになりませんでしたが、自分の非を絶対に認めたくない農水省官僚の鉄の意志を感じます。

 4 審査基準の定め
特定農林水産物等審査要領(平成27年5月29日付け27食産第679号食料産業局長通知。以下「審査要領」という。)は、地理的表示法7条1 項に基づく登録の申請等の審査の公正かつ円滑な遂行を図ることを目的とし て、審査を行うに当たって準拠すべき方法等を定めている。
審査要領は、申請農林水産物等が地理的表示法13条1項3号に該当するか否かの審査は、審査要領別添4の農林水産物等審査基準に従って行う旨を、申請農林水産物等の名称が地理的表示法13条1項4号に該当するか否かの審査は、審査要領別添3の名称審査基準に従って行う旨を定める。
(1)農林水産物等審査基準の定め
農林水産物等審査基準は、申請農林水産物等が、
 1 農林水産物等でないとき、又は
 2 地理的表示法2条2項各号に掲げる事項(「特定の場所、地域又は国を生産地とするものであること」(同項1号)及び「品質、社会的評価その他の確立した特性...が...(当該)生産地に主として帰せられる ものであること」(同項2号))を満たさないとき
に該当する場合には、 同法13条1項3号イに該当するものとする旨を定める。

この段で説明されているのは登録の拒否の事由となる13条1項の3号イです。上の方で「4号イ事由」のうち不正競争防止法に定義された「紛らわしい商品表示」について詳細に説明されていましたが、ここは「3号イ事由」に該当する「2条2項各号を満たさない場合についての説明になります。

上記2のうち、地理的表示法2条2項2号に掲げる事項については、
ア 確立した特性があるとは、申請農林水産物等が同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴を有しており、かつ、当該特徴を有した状態で、概ね25年生産がされた実績があることをいうものとし、申請農林水産物等が同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴を有した状態となっているか否かを判断するに当たっては、申請農林水産物等の生産地・生産の方法・特性その他申請農林水産物等を特定するために必要な事項について、当該申請農林水産物等の生産業者の合意形成が十分に図られているかどうかを斟酌するものとする、
イ 特性が生産地に主として帰せられるものであるとは、生産地・生産の方法が特性と結び付いていることを矛盾なく合理的に説明できることをいい、生産地の範囲に争いがある等により申請農林水産物等の生産地の範囲が特定できない場合には、結び付きは認められないものとする、とされている。

で、じゃあ地理的表示法2条2項2号って何ぞやということなのですが、
■確立した特性があること
■その特性が生産地に主として帰せられる(その生産地だからこそ生産できるという地域と産品との結びつきを合理的に説明できる)こと
が条件で、
■生産地の範囲に争いがあり特定できない場合、結びつきは認められない

ということなので、争いがあったら認められないという条文を信じて老舗側は一度引いたと考えられます。しかし、生産地の範囲について争いがあるにも関わらず、農水省は自分の勝手な思惑から生産地を「愛知県全域」とし、あとから申請してきた県組合の申請を通してしまいました。(老舗2社が農水省の担当者から「生産地を愛知県全域にしろ」と要請されたことはWebマガジンBAMPのインタビュー記事に載りました。)

(2)名称審査基準の定め
名称審査基準は、申請農林水産物等の名称が、1普通名称又は2申請農林水産物等について地理的表示法2条2項各号に掲げる事項を特定することができない名称に該当する場合には、地理的表示法13条1項4号イに該当するものとする旨を定める。上記1については、普通名称とは、その名称が我が国において、特定の場所、地域又は国を生産地とする農林水産物等を指称する名称ではなく、一定の性質を有する農林水産物等一般を指す名称(例:さつまいも、高野豆腐、カマンベールチーズ、伊勢えび等)をいい、農林水産物等の生産地の範囲に争いがある名称であっても、当該生産地に地理的限定があることが明らかな場合は、普通名称に含まれないものとする、とされている。上記2については、地理的表示法施行規則16条2号に掲げられた場合(申請農林水産物等の名称が、不正競争防止法2条1項1号又は2号に掲げる行為を組成する名称である場合)等のほか、需要者が、申請農林水産物等の名称から、当該申請農林水産物等について地理的表示法2条2項各号に掲げる事項を認識できない場合は、申請農林水産物等について法第2条第2項各号に掲げる事項を特定することができない名称に該当するものとする、とされている。

【13条1項4号イ】
登録できない名称1 (普通名称は登録できないルール)
■「さつまいも、高野豆腐、カマンベールチーズ、伊勢えび」等の名称は普通名称扱いで、商標には出来ない
■生産地の範囲に争いがあっても、生産地に地理的限定があれば普通名称とはしない
登録できない名称2 (上で解説のある2条2項を参照)
■不正競争防止法に引っかかる名称
■消費者が名称から確立した特性や生産地とのつながりを認識できない場合

5 審査請求人の主張(要旨)
本件申請には、次のとおり、3号イ事由及び4号イ事由がある。処分庁が本件申請に対してした特定農林水産物等の登録(本件処分)は違法である。
(1)3号イ事由があること
「A(八丁)味噌」の生産地は、B(愛知)県C(岡崎)市D(八帖)町かB(愛知)県(全域)か争いがあり、「A(八丁)味噌」との名称の本件申請に係る豆味噌は、その生産地の範囲が特定できない。そうすると、農林水産物等審査基準の定めによれば、生産地・生産の方法と特性との結び付きが認められず、その特性が生産地に主として帰せられるものであるとはいえないことになる。また、本件申請に係る豆味噌であるB6社(県組合)の生産する商品には発酵を抑制するために酒精を使用しているものがあるところ、仮に酒精を使用していないものもあるとすれば、両者の品質は大きく異なるから、この点からしても、その生産方法が特性と結び付いているとはいえず、その特性が生産地に主として帰せられるものであるとはいえない。したがって、本件申請に係る申請農林水産物等は、特定農林水産物等でないから、本件申請には3号イ事由がある。
(2)4号イ事由があること次の事情からすれば、「A(八丁)味噌」の名称によって本件申請に係る豆味噌の特性とその生産地とされているB(愛知)県が結び付いていることを特定することができるとはいえない。
ア C2社(八丁味噌協同組合)が生産する豆味噌と本件申請に係る豆味噌は、生産地及び産品の特性が全く異なっているところ(本件申請に係る豆味噌は、L(東海)地方(M(三重)県、N(岐阜?長野?)県)において生産されている一般的な豆味噌(いわゆるL(東海)豆味噌)の特性を有するのみであるのに対し、C2社(八丁味噌協同組合)の生産する豆味噌は、味噌玉の大きさがより大きい、重しが天然石に限定され量も多い、仕込み桶は木桶に限定される、熟成期間がより長い(2年以上)、酒精は使用しないなど生産方法が異なる。)、「A(八丁)味噌」の名称は、本件申請に係る豆味噌ではなく、C2社(八丁味噌協同組合)がB(愛知)県C(岡崎)市D(八帖)町において江戸時代から継承された上記のような伝統的な製法により生産している豆味噌を指す(少なくとも、当該豆味噌に極めて密接に結びついた名称である)と認識されているものである。
イ C2社(八丁味噌協同組合)が江戸時代から豆味噌を生産・販売し、遅くとも明治時代には「A(八丁)味噌」の商標を用いていたこと、その豆味噌がこれまで数々の賞を受賞するとともに、全国新聞や雑誌等で広く取り上げられてきたことからして、「A(八丁)味噌」が、C2社(八丁味噌協同組合)が生産する豆味噌の表示として、O(尾張?)地方、B(愛知)県近隣、同県内、同県C(岡崎)市内における需用者である取引業者、消費者の間はもちろん、全国的にも広く認識されていることからして、「A(八丁)味噌」の名称は、不正競争防止法2条1項1号又は2号に掲げる行為を組成する名称であるといえる。
ウ 本件申請(本件処分)は、中小企業地域産業資源活用促進法(平成19年法律第39号)に基づく地域産業資源の指定(生産に係る地域をB(愛知)県C(岡崎)市のみとする「A(八丁)味噌」と、生産に係る地域を同市ほか14市、3町等20の地域とする「B(愛知)の豆みそ(赤みそ)」が区別され、それぞれ指定されている。)や、「本場の本物」地域食品ブランド表示基準制度による認定(C2社(八丁味噌協同組合)が「A(八丁)味噌」の商標で生産・販売していた豆味噌のうち、P(三河)地産の大豆のみを使用している「A(八丁)味噌」について、名称を「P(三河)地産大豆のA(八丁)味噌」、産地を「B(愛知)県C(岡崎)市D(八帖)町(旧A(八丁)村)」としてされたもの。)と矛盾しており、取引業者及び消費者に多大な混乱をもたらすものであって、極めて不合理である。したがって、本件申請には4号イ事由がある。

上の節が老舗側の不服審査請求の骨子になります。

組合の味噌が3号イ事由により認められるべきでない理由
■生産地の範囲に争いがあり特定できない
■組合の味噌は酒精を使用しており同じ品物とは言えず、特性が生産地に帰するとはいえない

組合の味噌が4号イ事由により認められるべきでない理由
■まるや・カクキューの八丁味噌は組合の味噌とは製法が異なり、一般に消費者に認識されている「八丁味噌」はまるや・カクキューのものである
■組合の味噌は他県で作っている豆味噌と同じ特性しかもっていない
■まるや・カクキューの八丁味噌はマスコミにも取り上げられ各種の賞を受賞しており、一般にまるや・カクキューの製品が八丁味噌であると全国的に認識されているため、不正競争防止法2条1項1号・2号にある「他人の著名な商品等」にあたる
■他の制度においては、まるや・カクキューの「八丁味噌」と、組合の味噌は別々の産品として別個に認定を受けているため、組合の味噌を「八丁味噌」とすることは従来の定義と矛盾し消費者に混乱をもたらす

と、まあ当たり前といえば当たり前のことを主張しています。ここから農林水産省の言い分となりますので細かく突っこんでいきたいと思います。

第2 諮問に係る審査庁の判断

1 本件申請に3号イ事由があるかについて
本件諮問時に審査庁から提出された諮問説明書には、本件審査請求を棄却すべきであるとする理由は審理員意見書と同様である旨の記載があるが、審理員意見書には、3号イ事由の有無に係る判断が示されていなかった。そのため、3号イ事由の有無に係る審査庁の判断は明らかではなかった。

3号イ事由については審査時にスルーしていた模様です。結論ありきなので端折ってしまったのでしょう。こんな当たり前の突っ込みがこの時点まで入らなかったであろうことにちょっと絶望感を味わっています。

2 本件申請に4号イ事由があるかについての審査庁の判断は、審理員の意見と同旨と解され、その要旨は次のとおりである。
(1)次のとおり、
1 C2社(八丁味噌協同組合)の「A(八丁)味噌」とB6社(県組合)の「A(八丁)味噌」の特性が全く異なるものではないこと、

農林水産省および県組合は終始「味は変わらない」と主張しています。舌がおかしいのでしょうか。他地方の方はつけてみそかけてみそを八丁味噌だと思ってたりしますが、県組合までそんなレベルじゃ困ります。また、関東地方で確認できる組合の「八丁味噌」は添加物も大量に入っており、本物に比べ水っぽくふわふわです。

審査に使用した味噌は八丁味噌もどきぐらいにはなっているレベルだったのかもしれませんが、消費者に売っている味噌はまったく別物であることを意識されているのでしょうか。

2 需要者は「A(八丁)味噌」の生産地はB(愛知)県C(岡崎)市のみではなく、B6社(県組合)が生産する「A(八丁)味噌」の生産地(同市に限定されないB(愛知)県内)を含むものと認識していることからすれば、需要者は、「A(八丁)味噌」という名称がC2社(八丁味噌協同組合)の生産する「A(八丁)味噌」だけでなく、B6社(県組合)の生産する「A(八丁)味噌」(本件申請に係る豆味噌)をも指すものであると認識しているといえる。

こんな認識が県外で生まれてしまったのは、県組合各社が地元民に見つからないようにこっそり他地方で売りさばいてきたまがい物のせいです。そして、名古屋めしならなんでも八丁味噌みたいに調べもせず書いてきたメディアのせいです。そしてまた、そういった状態を放置してきたまるや・カクキュー各社のせいでもあると思います。

本物の八丁味噌の価値を知っている多くの消費者は、こんな認識はしていないと思います。

ア 上記1の点についてC2社(八丁味噌協同組合)の「A(八丁)味噌」とB6社(県組合)の「A(八丁)味噌」の生産方法は全く同一というわけではないものの、大豆と塩のみを原料とし、蒸した大豆で作った味噌玉の表面に麹菌を繁殖させて豆麹を作ること及び仕込みを行った上で重しをのせて熟成させることといった本質的な部分は共通している。また、それぞれの特徴についても、特有の酸味、うまみ、渋みがあり、色が濃いという点で共通している(このことは、参加人が行ったアミノ酸分析や官能検査等の結果によっても示されている。)。なお、B6社(県組合)の「A(八丁)味噌」に加えられている酒精は原材料ではなく、熟成後の劣化防止のための食品添加物にすぎず、特性の異同に影響しない。

小麦粉の麺を打って茹でるのは同じだからうどんもラーメンも同じだろ、ぐらいの暴論だと思います。どちらも汁はしょっぱいし同じですよね。成分もでんぷん、塩、水、アミノ酸です。

本物は酒精無しで長期の保存が可能です。
保存に酒精が要るのであれば、味噌として別物です。

そして、地理的表示保護制度は、産品の名称を特性・生産の方法等の基準と共に登録し、地域共有の知的財産として保護する制度であり、産品の品質だけでなく、社会的な評価も考慮されるところ、「A(八丁)味噌」は、「T(名古屋)めし」の代表的な調味料としてB(愛知)県内に定着し、同県の特産品として認知されているもので、C2社(八丁味噌協同組合)の「A(八丁)味噌」とB6社(県組合)の「A(八丁)味噌」が全く別の豆味噌であるとの社会的な評価が存在すると考えることはできない。

「八丁味噌は名古屋の味噌」みたいな誤解はあります。「八丁味噌はなんかあの真ん中へんの味噌でしょ」みたいなアバウトな理解をしている方もいます。でも、「八丁味噌は愛知の味噌」なんて、誰が思ってるのでしょうか。

地元では八丁味噌は特別な贅沢品であり、他の豆味噌とは別物として扱われてきました。また、八丁味噌が苦手で他の豆味噌を使うという方も一定数いらっしゃいます。別の豆味噌である、という認識が一般的なのです。

八丁味噌の名前をどうしても欲しい県組合が地元の認識として虚偽の説明をした、そして農水省が調査もせずそれを鵜呑みにしたとしか思えません。こちらのほうが、農水省が描くストーリーにマッチするからという理由で。

なお、B6社(県組合)の豆味噌には、M(三重)県やN(岐阜?)県等においても生産されている豆味噌の生産方法等と類似する点が存在するが、これらの豆味噌につき「A(八丁)味噌」との名称の使用はなく、本件申請に係る「A(八丁)味噌」は、上記のような社会的評価を受けているという点で、他の地域で生産されている豆味噌とは異なるといえる。

M県やN県の業者さんは愛知の県組合と違ってまともだから他人の商標にただ乗りしないってだけですよ…それだけですよ…。

イ 上記2の点について昭和時代以降、「A(八丁)味噌」という名称を付した豆味噌を生産する業者は増加し、現在では、B(愛知)県C(岡崎)市外の同県内に所在するB6社(県組合)も「A(八丁)味噌」という名称を付した豆味噌を生産しており、その生産量は相当規模となっている。そして、B6社(県組合)は、「A(八丁)味噌」の文字をその構成の中に含む商標の登録を受けて、各自社の商品を示す名称として当該商標を使用し続けてきたのであり、取引業者の間でも、C2社(八丁味噌協同組合)以外にも「A(八丁)味噌」という豆味噌を生産する業者が存在することが認識されている。

関東の安いスーパーで猛威を振るう「あいち赤だし八丁味噌」、メーカーの公式サイトに載ってないイチビキの業務用八丁みそ、紛らわしい名前で誤解を誘発する「名古屋八丁」「八丁赤だし」といった各社の味噌のことを言っていると思いますが、特許情報プラットフォームで確認すると各社とも「○○八丁味噌」で登録してしまっています。八丁の名前を使っていないナカモさんもちゃっかり登録だけはしています。

商標の登録を先にして、紛らわしい商品を流通させ、既成事実を作ってからおもむろに攻撃してくるという作戦だった模様です。こんなのにまんまと騙される農水省もどうかと思います。

そうすると、需要者としては、「A(八丁)味噌」の生産地はB(愛知)県C(岡崎)市のみではなく、同市外のB(愛知)県内を含むものと認識しているといえる。以上によれば、「A(八丁)味噌」の名称は、本件申請に係る特定農林水産物等である豆味噌の特性がその生産地であるB(愛知)県と結び付いていることを特定できるものであるといえる。

GI登録がニュースになったときの「需要者」つまり私達一般市民の反響の大多数がこの部分について「え?違うよ?」というものでした。もう一度言うけど、違いますよ。

(2)その他の審査請求人の主張について
ア 「A(八丁)味噌」の名称が不正競争防止法2条1項1号及び2号に掲げる行為を組成する名称であるとはいえない。
すなわち、不正競争防止法2条1項1号及び2号にいう「商品等表示」とは自他識別機能又は出所表示機能を有するものでなければならないところ、裁判例(東京高等裁判所平成2年4月12日判決)では「「A(八丁)味噌」なる文字部分に取引上識別機能があると認めることはできないから」「Q1社(カクキュー)」との商標は「何人かの業務に係る商品であるかを認識することができない商標といわざるを得ない」と判示されているし、「A(八丁)味噌」の名称は、C2社(八丁味噌協同組合)だけでなくB6社(県組合)によっても広く使用されている。そうすると、「A(八丁)味噌」との名称は、不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に当たらない。

上記に挙げられた判例についてはカクキューさんに深く反省していただきたいところです。一社で「合資会社八丁味噌」を商標登録しようとしたときに「まるやさんも八丁味噌って商標使ってるでしょ、無茶は駄目だよ」と登録を蹴られた案件ですが、このときの判決文にはっきりまるやの名前が出ていないために全然関係ないイチビキや桝塚に「そうだそうだ俺たちだって使ってるぞ」と付け入るスキを与えてしまったと思っております。

この判決は組合と農水省に都合よく利用されてしまっていますが、全文を読めば当時「八丁味噌」のブランド名を使用していたのはまるやとカクキューのみだったことも記載されています。

イ 次の事情からすれば、審査請求人の指摘する地域産業資源の指定や「本場の本物」の認定がされているとしても、本件申請(本件処分)が消費者等に多大な混乱をもたらすものとは評価できない。

消費者は混乱していません、怒ってます。

すなわち、地域産業資源の指定の根拠である中小企業地域資源活用促進法は、地域産業資源を活用する中小企業者に対し経済的な支援措置等を講ずることを通して地域資源の活用を促進することを目的とするのに対し、地理的表示法は、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(平成6年条約第15号)附属書1Cの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定に基づき、特定農林水産物等の名称を知的財産として保護することを目的とするものであり、その要件等も異なる。

海外の偽物を排除するために国内の偽物を認定するとか本当に無意味どころか有害なことを様々な御託を並べて正当化しようとしています。「あれはあれ、これはこれだよぜんぜん違うんだよ」と言いたいのでしょうが、消費者にとっては同じ「公的な認定制度」です。

また、確かに「本場の本物」地域食品ブランド表示基準制度は地域ブランドを保護するという目的において、地理的表示保護制度と共通する部分があるが、それぞれの要件、効果(名称表示規制等の可否)において異なるし、「P(三河)地産大豆のA(八丁)味噌」に係る「本場の本物」の認定によって、「P(三河)地産大豆のA(八丁)味噌」以外に「A(八丁)味噌」が生産されていることが否定されるものでもない。

もうここに至ってはただの屁理屈にすぎませんが、
三河産大豆の八丁味噌が本場の本物認定される→他の八丁味噌の存在を否定するものではない→そりゃそうですよ。ありますよ。まるやとカクキューにはね。

(3)なお、地理的表示法13条1項4号イは、申請農林水産物等の名称について、普通名称であるときをも登録拒否事由としているが、「A(八丁)味噌」との名称については、商品の一般的な名称でなく、B(愛知)県という特定の範囲を生産地とする豆味噌を指すといえるから、地理的表示法上、普通名称であると評価することは適当ではない。
(4)以上から、本件申請に4号イ事由があるとはいえない。

愛知県という特定の範囲を生産地とする豆味噌全てを八丁味噌としたいのは一部の人だけです。「八丁味噌」は「法律で保護されていなかった、2社だけの商標」なのです。2社あったために商標登録のハードルが高くなってしまっただけなのです。イチビキ盛田枡塚といった部外者に申請の権利なんてありませんし、「他社の著名な商標」を盗んでいるわけですから4号イ事由そのものだと思います。

第3 当審査会の判断

当審査会は、令和元年5月26日に審査庁から諮問を受けた。その後、当審査会は同年7月5日、同年8月2日、同月28日、同年9月6日、同月11日及び同月20日の計6回の調査審議を行った。なお、審査庁から、諮問説明書の補充書及び資料並びに主張書面2通の提出を受け、審査請求人から主張書面及び資料の提出を受けた。
1 審理員の審理手続について
一件記録によれば、本件審査請求に係る審理員の審理の経過は次のとおりである。

(1)審理員の指名審査庁は、平成30年3月30日、本件審査請求の審理手続を担当する審理員として、農林水産省食料産業局バイオマス循環資源課長(当時。同年7月27日、農林水産省大臣官房検査・監察部調整・監察課長に異動)であるSを指名した。
(2)参加人に対する参加の求め審理員は、平成30年4月25日付けで、参加人に対し、本件審査請求への参加を求めた。
(3)審理手続
ア 処分庁、審査請求人及び参加人は、次のとおり、弁明書、反論書及び意見書を提出した。

平成30年5月11日弁明書(処分庁)
同年6月11日反論書(審査請求人)同月12日意見書(参加人)
同年7月17日弁明書(処分庁)
同月19日反論書(審査請求人)
同年8月20日反論書(審査請求人)、意見書(参加人)
同年9月18日弁明書(処分庁)
同月20日反論書(審査請求人)同年10月22日意見書(参加人)
同月23日反論書(審査請求人)同年11月26日反論書(審査請求人)
同年12月27日意見書(参加人)
平成31年1月25日反論書(審査請求人)
イ 審理員は、平成31年3月4日付けで、審理関係人に対し、審理を終結した旨並びに審理員意見書及び事件記録を審査庁に提出する予定時期が同年4月8日である旨を通知した。
ウ 審理員は、平成31年4月8日付けで、審査庁に対し、審理員意見書及び事件記録を提出した。以上の本件審査請求に係る審理員の審理の経過については、特段違法又は不当と認められる点はうかがわれない。

ここまでは、今回の不服審査請求への対処の手続きを時系列に沿って述べたものです。

2 本件諮問に係る審査庁の判断の妥当性について
(1)本件の争点等
ア 本件の争点は、本件申請につき3号イ事由又は4号イ事由があるかどうかであることが明らかであったものの、審理関係人の審理手続における主張は、本件申請に4号イ事由があるかといった点を主としてされ、審理員意見書には3号イ事由の有無についての判断が示されていなかった。そして、諮問説明書の記載も、本件審査請求を棄却すべきであるとする理由は審理員意見書と同様であるとするにすぎないものであったため、3号イ事由の有無に係る審査庁の判断は明らかではなかった。
そこで、当審査会が、3号イ事由の有無に係る審査庁の判断について、諮問説明書の補充書の提出を求めたところ、審査庁から提出された書面(令和元年6月19日付け)の要旨は次のとおりであった。

こっそりスルーした「3号イ事由」についてコメントがないぞと突っ込まれた農水省の反論が以下になります。

「A(八丁)味噌」の発祥の地がB(愛知)県C(岡崎)市であることに争いがないことやB(愛知)県の各所で「A(八丁)味噌」が生産されている事実等を踏まえれば、「A(八丁)味噌」の生産地はB(愛知)県に特定されているといえる。
また、「A(八丁)味噌」に酒精が加えられていることについても、酒精が添加物として使用されることによって「A(八丁)味噌」の特性が変化するとはいえないことから、そのことによって、審査請求人が主張するように生産方法と特性との結び付きが認められないとはいうこともできない。
本件申請に3号イ事由があるとの審査請求人の主張は認められない。

「愛知県の各所で八丁味噌が生産されている」ことがそもそも異常であり、ブランド泥棒行為なのですが、それを前提にして「だから愛知の味噌でいいんだよ!」と主張されています。「酒精だって使っていいだろ味変わんないし」とのご主張には本当に食品の味に興味ないんだな…という感想しかわいてきません。

イ 地理的表示法13条1項4号イの文言は「当該申請農林水産物等について第2条第2項各号に掲げる事項を特定することができない名称であるとき」とされ、申請農林水産物等が地理的表示法2条2項各号のいずれにも該当するか、すなわち特定農林水産物等であるかどうかの判断を踏まえて、申請に係る名称が当該特定農林水産物等を特定できる名称であるかが問題とされているものと解される。そこで、本件申請に3号イ事由がないとの審査庁の判断からまず検討することとする。

審査会はこの「3号イ事案には該当しない」という反論について以下で検討します。つまり審査会答申の本体はここからです。

(2)本件申請に3号イ事由がないとの審査庁の判断について
ア 地理的表示法13条1項3号イは、特定農林水産物等の登録拒否事由の一として、申請農林水産物等が特定農林水産物でないとき、すなわち、申請農林水産物等が2条2項各号のいずれにも該当する農林水産物等でないときを掲げているところ、農林水産物等審査基準は、申請農林水産物等が地理的表示法2条2項2号について、
1「確立した特性」があるというためには、申請農林水産物等が同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴を有していることが必要であり、その判断に当たっては、申請農林水産物等の生産地・生産の方法・特性その他申請農林水産物等を特定するために必要な事項について、当該申請農林水産物等の生産業者の合意形成が十分に図られているかどうかを斟酌するべきこと、
2「特性が生産地に主として帰せられるものである」とは、生産地・生産の方法が特性と結び付いていることを矛盾なく合理的に説明できることをいい、生産地の範囲に争いがある等により申請農林水産物等の生産地の範囲が特定できない場合には、結び付きは認められないことなどを定めている(上記第1の4(1)ア)。

この部分は、答申前半で解説した拒否事由のおさらいです。

イ しかるところ、本件申請には3号イ事由がないとの審査庁の判断の要旨は上記(1)アのとおりであり、L(東海)地方の他県(N(岐阜?)県やM(三重)県)で本件申請に係る豆味噌に類似する豆味噌が生産されているといった審査請求人の指摘(本件申請の審査段階(審査請求人の意見書)でも同様の指摘がされていた。)を踏まえた上で、
1 本件申請に係る豆味噌について、いかなる「確立した特性」があると認めたものか、その判断の際に当該申請農林水産物等の生産業者の合意形成が十分に図られているかどうかが斟酌されたのか、どのように斟酌されたのか、そもそも農林水産物等審査基準の当該定めはいかなる範囲の生産業者の間の合意形成を問題とするものなのか、
2 本件申請に係る豆味噌について、その生産地の範囲に争いがあると判断されたものか、どのような争いがあると判断されたものか(B(愛知)県内に限られるか、L(東海)地方の他県(N(岐阜?)県やM(三重)県)を含むかといった争いがあるものと捉えたか)、なおその生産地がB(愛知)県に特定されていると判断した根拠はどこにあるか、
といった、農林水産物等審査基準の上記定めに沿って本件申請の審査をしたのであれば、当然に問題となると思われる事項について、いかなる調査、検討がされて上記の結論に至ったものかは明らかではなかった。

審査会は農水省に対してまず「3号イ事由に該当しない」とした根拠の薄弱さ、結論へ至る経緯の不明瞭さについて指摘しています。

ウ そこで、当審査会は、行政不服審査法(平成26年法律第68号)74条に基づき、審査庁に対して、上記イに指摘した事項についての主張書面の提出を求めたところ、審査庁から提出された令和元年7月22日付け主張書面の要旨は次のとおりであった。
(ア)上記イ1の点について
A 「A(八丁)味噌」とL地方において広く生産される豆味噌との間に、原料や生産方法に関して類似する部分(原料として大豆と塩のみを使用し、それを蒸してみそ玉にするなど)があることは否定できないが、「A(八丁)味噌」の名称は、B(愛知)県で生産された豆味噌のみに限って使用されており、いわゆる「T(名古屋)めし」の代表的な調味料としてB(愛知)県内に定着し、B(愛知)県の特産品として広く認知されているという社会的評価を考慮すれば、他地域で生産されている豆味噌とはその社会的評価の面で全く異なるものとみることができる。
B 農林水産物等審査基準にいう合意形成とは、原則として申請生産者団体の構成員の間におけるものを指すものであるが、申請名称と類似する同種の農林水産物等の生産業者の存在が認められる場合には、必要に応じこれらの者との合意形成についても考慮することが適当であると考えるが、本件申請の審査に当たっては、審査請求人の生産する「A(八丁)味噌」の特性等が、(本件申請に係る)申請農林水産物等とかい離するものとはなっておらず、当該申請農林水産物等の特性等の特定において問題とならなかったため、審査請求人との間での合意形成を考慮する必要は認められなかった。

あっちの味噌もこっちの味噌も一緒なんだから合意形成なんて要らないよ、とここでもまた「味は同じだし」で押し切る気満々です。それを言うなら、ただの豆味噌である愛知の味噌は三重岐阜の味噌と変わらないのですが、結論ありきの農水省にはそのおかしさがわからないようです。

(イ)上記イ2の点について本件審査請求人(八丁味噌協同組合)と参加人(県組合)との間では生産地の範囲(B(愛知)県C(岡崎)市D(八帖)町に限られるか、B(愛知)県内か)について争いがあるものの、本件申請の審査においては、B(愛知)県C(岡崎)市以外の同県内の生産業者においても「A(八丁)味噌」の名称を使用している実態が認められており、当該名称を冠する産品の生産地をB(愛知)県C(岡崎)市に限定する合理的理由は無いと思料される一方で、現在の生産地はB(愛知)県内に限定されていることから、申請農林水産物等の生産地の範囲が特定できないとまではいえない。

ここでも、偽物の八丁味噌の出荷実績が大きな存在感を持ってしまっています。偽物を愛知県各所で作っているから岡崎市だけを産地にするのはおかしい、愛知全域にするべきという論調になっています。だったら千葉でも台湾でもドイツでもいいじゃないですか…。

エ 当審査会は、審査庁の上記主張書面を含めた一件記録を精査しても、本件申請に3号イ事由がないとの審査庁の判断は、必要な調査、検討を尽くしてされたものとは認められないと考える。
その理由は次のとおりである。

ということで、ツッコミどころ満載の農水省答弁に審査会が素直に突っ込んでいきます。不服審査請求などという最後の手段を使うまで、こんな基本的なことを誰もチェックしていないなんて日本大丈夫か。

(ア)上記のとおり、農林水産物等審査基準において、「「確立した特性」があるというためには、申請農林水産物等が同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴を有していることが必要」とされているところ、審査庁の判断は、「「A(八丁)味噌」とL(東海)地方において広く生産される豆味噌との間に、原料や生産方法に関して類似する部分...があることは否定できない」としながらも、「「A(八丁)味噌」の名称は、B(愛知)県で生産された豆味噌のみに限って使用されており、いわゆる「T(名古屋)めし」の代表的な調味料としてB(愛知)県内に定着し、B(愛知)県の特産品として広く認知されているという社会的評価を考慮すれば、他地域で生産されている豆味噌とは全く異なる」とするものであり、これは、専ら審査庁の考える社会的評価の点に着目して、本件申請に係る豆味噌が農林水産物等審査基準にいう「同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴を有している」と認めたものと解される。

ここでは、農林水産省が「GI味噌は他県の豆味噌と類似している」ことを認めながら、「八丁味噌=名古屋めし」というイメージに準拠して「八丁味噌は愛知の味噌」と強弁していることについて述べています。「専ら審査庁の考える社会的評価に準拠して」というのは「あなた達は調査もろくにせず思い込みだけで語ってますよね」という意味ですが、農水省のお役人にこの上品な批判が通じる日は来るのでしょうか。

そして、審査庁の上記判断は、「A(八丁)味噌」との名称が付された豆味噌に対する社会的評価を認定した上で、かかる社会的評価が、本件申請に係る豆味噌に対する社会的評価(地理的表示法2条2項2号にいう「社会的評価」)であって、その「確立した特性」たり得るとしたものということができる。

農水省においては「八丁味噌=名古屋めし」のイメージだけを根拠に「確立した特性がある」としているわけだよね、と念押ししています。

(イ)まず、「「A(八丁)味噌」の名称は、B(愛知)県で生産された豆味噌のみに限って使用されており、いわゆる「T(名古屋)めし」の代表的な調味料としてB(愛知)県内に定着し、B(愛知)県の特産品として広く認知されている」との「A(八丁)味噌」との名称が付された豆味噌の「同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴」としての社会的評価の認定について、これを裏付けるに足りる具体的な資料は見当たらない。

審査会はまず「八丁味噌は名古屋めしの代表的な調味料であり、愛知の味噌として広く認知されている」ことが「他の豆味噌とは違う差別化した特徴」であるという農水省の主張に具体的な裏付けがないことを指摘しています。

※その前に、「名古屋めし=八丁味噌」のイメージと「だから八丁味噌は愛知の味噌である」という主張の間にも飛躍がありますよね。

この点、一件記録中には、本件先行申請に対する意見書の添付資料として参加人が提出した資料(広告代理店が実施した「「A(八丁)味噌」に関する調査」と題するアンケート結果)があるが、その調査エリアはU都道府県、対象者は300人にとどまっており、結果を見ても、A(八丁)味噌はT(名古屋)の味噌とするものが27%と最も多く、A(八丁)味噌はL(東海)地方の味噌であるとするものが14.7%あり、A(八丁)味噌はB(愛知)県の味噌であるとするものは、20.7%にすぎないというものであり、上記認定の基礎とするには足りないというべきである。

こんな大事なことを決めるのに300人アンケートはしょぼすぎるし、しかもこじつけじゃないですか…いかにお手盛り認定だったかよくわかります。農水省というのは普段からこんな雑なお仕事をしているのでしょうか。

上記に挙げられていない「その他」の回答が最も多く37.6%になりますが、その中には「岡崎の味噌である」という正解が相当数含まれているのではないでしょうか。

そして、審査請求人(八丁味噌協同組合)は、審理手続において、「T(名古屋)めし」の調味料として他地域で生産されている一般的な豆味噌ではなく本件申請に係る「A(八丁)味噌」が使用されていることを示す証拠はない旨の指摘をしており、さらに、当審査会における調査審議手続においても、N(岐阜?)県及びM(三重)県でも原料及び生産方法が本件申請に係る豆味噌とほぼ同じ豆味噌が生産され、「A(八丁)味噌仕立て」、「C(岡崎)A(八丁)味噌の流れをひく」などと説明、広告された豆味噌が生産されているとする主張書面(令和元年8月11日付け)及びその裏付けとなる資料を提出している。これらに加え、生産に係る地域をB(愛知)県C(岡崎)市のみとする「A(八丁)味噌」と、生産に係る地域を同市ほか14市、3町等20の地域とする「B(愛知)の豆みそ(赤みそ)」が区別され、それぞれ中小企業地域産業資源活用促進法に基づく地域産業資源の指定を受けているといった状況にも照らすと、「T(名古屋)めし」の調味料としてM(三重)県やN(岐阜?)県、B(愛知)県内の一般的な豆味噌が用いられている可能性も否定できず、審査庁の認定に係る「A(八丁)味噌」との名称が付された豆味噌の社会的評価が、これらの一般的な豆味噌と区別されたものといえるかも判然とはしない。

名古屋めしに使われている豆味噌の産地なんてまちまちです。三重や岐阜の味噌を使ってはいけないなんてルールはありません。三重の味噌か、豊田の味噌かなんて誰も気にしていません。

名古屋めし=八丁味噌という観光客のぼんやりしたイメージを悪用して、名古屋めし=八丁味噌=愛知の味噌というこじつけを強行しているだけです。

その主張には根拠がないよね?という審査会の突っ込みで、老舗側が他県で「八丁味噌仕立て」、「岡崎八丁味噌の流れをひく」などと称した味噌が製造されている証拠を提出していることを明らかにしています。農水省・県組合は「八丁味噌は愛知県だけ」と主張していますが根拠は示されておりません。

老舗側の「組合の味噌は他県の豆味噌と何も変わらない」という主張には根拠があり、農水省・県組合の「八丁味噌は愛知だけで、岡崎の味噌とは同じで、他県の味噌とは違うんだ」という主張にはしっかりした根拠がないのです。

さらに、審査請求人が審理手続において提出した資料(本件処分の見直しを要望する署名結果)によれば、C(岡崎)市内において21,905人、同市を除くB(愛知)県内では25,342人、合計53,081人が本件処分の見直しを要望する署名をしたというのであって、かかる結果からは、B(愛知)県においては、「A(八丁)味噌」との名称が付された豆味噌は、C2社(八丁味噌協同組合)がC市内において生産する豆味噌が、(B(愛知)県ではなく)C(岡崎)市の特産品として相当程度認知されていることがうかがわれることをも考慮に入れて総合すれば、「T(名古屋)めし」の「代表的な」調味料が「A(八丁)味噌」との名称が付された豆味噌であり、これがB(愛知)県内に「定着」し、(T(名古屋)市やC(岡崎)市にとどまらない)B(愛知)県の特産品として「広く」認知されているとの認定をすることが相当か、これが「同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴」たり得るものかどうか、更に具体的な資料に基づく十分な検討を要するものといわざるを得ない。

署名どこで使うんだろう…と思っていましたがここで活きましたね。八丁味噌は愛知の味噌、というアンケート結果は300人の20%ですから60人程度です。八丁味噌は岡崎の2社のものとして登録見直しを要求する署名は5万3千人以上ですから、どちらが根拠として価値があるかバカでもわかりますよね。

だから、「八丁味噌は愛知の味噌」って本当か?ちゃんと調査したのか?と審査会から言われているわけです。

(ウ)また、審査庁(農林水産省)の上記判断において、「A(八丁)味噌」との名称が付された豆味噌に対する社会的評価が本件申請に係る豆味噌に対する社会的評価であることが前提とされている点も、審査関係人の主張、具体的な資料を吟味した上での再検討を要するものと考えられる。

「名古屋めしの味噌は八丁味噌で、それは岡崎2社の味噌だけじゃないよイチビキ桝塚盛田の味噌だって名古屋めしだから八丁味噌だよ味同じだし」というのがGI認定の前提条件ですが、その前提おかしいよね?と普通に突っ込んでいます。

すなわち、「A(八丁)味噌」の発祥の地であるC(岡崎)市(この点については審査関係人に争いがない。)において、「A(八丁)味噌」との名称を付した豆味噌を生産しているC2社(まるや・カクキュー)が加盟する審査請求人(八丁味噌協同組合)は、C2社(まるや・カクキュー)の生産する豆味噌の特性と本件申請に係る豆味噌の特性が異なるものであるとの立場から、参加人とは別に本件先行申請を行い、本件申請に対する意見書を提出するなどしていたのであるし、本件審査請求においても、味噌玉の大きさ、重しの素材や量、仕込み桶、熟成期間の長さなどの点を具体的に指摘して、C2社(まるや・カクキュー)の生産する豆味噌と本件申請に係る豆味噌との相違を強調した上で、「A(八丁)味噌」との名称を付された豆味噌に対する社会的評価は、専ら(上記のような相違点のある)C2社(まるや・カクキュー)の生産する豆味噌に対するものであることをうかがわせる資料(甲38から45まで。「A(八丁)味噌」との名称が付された豆味噌に係る一般向け雑誌記事等において、審査請求人(八丁味噌協同組合)が指摘する相違点が取り上げられてきたことがうかがわれる。)が提出されている。そして、(イ)に指摘した署名の結果もここでの参照に値するものである。

まるやとカクキューは2社の八丁味噌と組合の自称八丁味噌の違いについて製法、社会的評価両面から具体的な証拠を提示しており、また署名の結果もこの違いを明確にするものです。ここでは子供に言い聞かせるように繰り返し、丁寧に、農水省の結論ありきの強引なGI認定が正当性を欠いたものであることを説明しています。

このような経過や審査請求人の主張、提出資料にかかわらず、「A(八丁)味噌」との名称が付された豆味噌に対する社会的評価が、そのまま本件申請に係る豆味噌に対する社会的評価であり確立した特性であるとした審査庁の認定、評価において、審査請求人(八丁味噌協同組合)が指摘するC2社(まるや・カクキュー)の生産する豆味噌と本件申請に係る豆味噌の相違点が、それぞれの社会的評価において何らかの意味を持つものなのかどうかといった観点からの検討がされていることをうかがうことはできない。

農水省は八丁味噌協同組合(まるや・カクキュー)からの詳細で具体的な証拠の提出を無視して、根拠のない結論ありきの思い込みを優先して県組合を支持しており、真面目に調査も吟味もしていないことを審査会から指摘されています。

この点、審査庁は、(4号イ事由の有無の検討においてではあるが)C2社(まるや・カクキュー)の「A(八丁)味噌」とB6社(県組合)の「A(八丁)味噌」の生産方法は本質的な部分は共通しているとし、また、特徴も、特有の酸味、うまみ、渋みがあり、色が濃いという点で共通しているなどとして、本件申請に係る豆味噌とC2社(まるや・カクキュー)が生産する豆味噌には大きな違いがない旨認定しており、かかる認定を前提に上記判断に至ったものと考えられるが、これでは社会的評価の観点からの検討としては不十分というべきである。

製法も大して変わらないし味も一緒だろという乱暴な認定に根拠がないこと、検討が不十分であることを重ねて明記しています。審査会はかなり思い切って踏み込んだコメントを出してくれていますが、強制力はないのが惜しまれます。

(エ)以上に指摘したとおり、審査庁の諮問に係る判断においては、審査請求人(八丁味噌協同組合)の主張及び提出資料についての十分な検討、判断が示されていないというべきところ、この点は本件申請に対する審査においても同様であったことがうかがわれるが、登録申請の公示(8条)、意見書の提出(9条)、学識経験者の意見の聴取(11条)など、地理的表示法所定の申請の審査に係る手続としては、その履践に欠けるところは認められなかったことなどをも考慮して、当審査会として、直ちに本件処分が取り消されるべきと結論付けるまでには至らなかった。

「直ちに県組合のGI認定を取り消すべき」という結論は出してもらえませんでした。手続き自体に瑕疵はない、ということのようです。
学識経験者の意見の聴取については恣意的な人選も可能ですし、大学教授やそれなりの肩書の方に黙って座っててもらえれば体裁は整いますのであんまり意味がないと思っておりますが手続きとしてはそれでいいことになっています。

ところで、農林水産物等審査基準によれば、申請農林水産物等に「確立した特性」、同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴があるどうかの判断に当たって、「申請農林水産物等の生産地・生産の方法・特性その他申請農林水産物等を特定するために必要な事項について、当該申請農林水産物等の生産業者の合意形成が十分に図られているかどうかを斟酌するべき」とされているところ、審査庁(処分庁)は、本件申請に係る豆味噌に「確立した特性」、「同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴」があるかについての判断において、「審査請求人の生産する「A(八丁)味噌」の特性等が、(本件申請に係る)申請農林水産物等と乖離するものとはなっておらず、当該申請農林水産物等の特性等の特定において問題とならなかった」ことから、審査請求人との間での合意形成を考慮する必要を認めなかったとする(上記ウ(ア)B)。

農林水産省は県組合の「岡崎の八丁味噌と我々の味噌は同じですよ」という主張を盲信して「同じだから調整は要らない」としましたが、同じじゃないことは農林水産省のお役人様以外みんな知っていますよね。もちろん県組合も知ってます。

しかし、本件先行申請を含めた一連の経過、本件申請に対する審査請求人の意見の内容等に照らせば、本件申請については、審査請求人と参加人との間の本件申請に係る豆味噌の特性に関する争い、認識の相違があり、これが登録拒否事由(3号イ事由)の有無に関わる点であることが明らかであったのであるから、登録を巡る紛争の回避といった観点をも加味すれば、審査請求人と参加人との間の合意形成を考慮する必要を認めなかった判断の妥当性について疑問がないではない。そして、3号イ事由の有無の審査、農林水産物等審査基準に従って本件申請に係る豆味噌に「確立した特性」、「同種の農林水産物等と比較して差別化された特徴」があると認められるかどうかを検討するに当たっては、(これを合意形成の有無を斟酌するものというかどうかはともかく)地理的表示法9条1項が登録の申請について意見書の提出を認めた趣旨からしても、既に述べたとおり、審査請求人の主張、提出資料が吟味されなければならなかったことは当然である。

結論ありきで強権を発動し、関係者の意見調整を行わなかったことについてもう一度苦言を呈してくれています。また、3号イ事由に該当するか否かの判定において、「本当に組合の味噌は八丁味噌と言えるのか?他の豆味噌と差別化された特徴はあるのか?」という点についても、岡崎の八丁味噌協同組合(まるや・カクキュー)の主張を無視したことを指摘しています。

なお、審査庁の上記主張書面における説明は、農林水産物等審査基準において合意形成が十分に図られているかどうかを斟酌するものとされている「当該申請農林水産物等の生産業者」は、原則として申請生産者団体の構成員を指すとし、「申請名称と類似する同種の農林水産物等の生産業者の存在が認められる場合には、必要に応じこれらの者との合意形成についても考慮することが適当である」との考え方を前提としたものであったが(上記ウ(ア)B)、そもそもこのような考え方が採られていたというのであれば、農林水産物等審査基準において明確にされ、合意形成を考慮するのはどのような場合であるかも具体的に示されているべきであったと考えられる。

農林水産物等審査基準そのものにも不備があるのではないかという疑問を呈している節です。今回八丁味噌協同組合と県組合との意見調整が全く行われなかったのは、どのような場合に調整が必要なのかという具体的な規定がなかったからではないのか、だから第三者が見れば当然必要と思われる調整を、制度の穴をくぐってすっ飛ばしてしまったのではないか?という指摘です。

この基準も、作ったのは農水省ですし…。

オ 以上の次第で、当審査会は、本件申請については、本件申請に3号イ事由がないかどうかについて、更に調査検討を尽くす必要があると考えるものであるが、審査庁から提出された主張書面(令和元年7月22日付け及び同年8月29日付け)の内容等にも鑑み、念のため、次の点を指摘しておきたい。
すなわち、地理的表示法において、申請農林水産物等が「特定農林水産物等でないとき」(3号イ事由)と、申請農林水産物等の「名称」について、「普通名称であるとき、その他当該申請農林水産物等について第2条第2項各号に掲げる事項を特定することができない名称であるとき」(4号イ事由)とが別個の登録拒否事由として掲げられていることからすれば、各事由の有無は、それぞれ区別して検討されるべきものと考えられる。この点、審査要領においても、3号イ事由に係る農林水産物等審査基準と、4号イ事由に係る名称審査基準とが、それぞれ設定されている。
そうすると、特定農林水産物等の登録の申請に対する審査においては、いかなる名称による申請であるかについてはひとまず措いた上でも、3号イ事由の有無が検討されるべきものと解される。このことは、「確立した特性」たり得るものの一として掲げられている社会的評価が、その名称と密接に結び付いて形成されるものであるとしても、十分に意識されなければならないものと考えられるのであって、当審査会のこれまでの検討、説示はこのような解釈、判断枠組みによったものである。
しかるところ、審査庁から提出された上記各主張書面には、本件申請に係る豆味噌の特性に関して、(同様の「特性」を持つ豆味噌、ではなく)「A(八丁)味噌」(との「名称」が付された豆味噌)がB(愛知)県外において生産されていないといった事情を指摘し、「A(八丁)味噌」(との「名称」が付された豆味噌)の社会的評価をもって、本件申請に係る豆味噌の社会的評価と認定、評価する(この点について再検討を要することは、上記エ(ウ)において説示したとおりである。)など、上記のような解釈、判断枠組みによらずに、専ら、本来4号イ事由の有無の審査、検討において問題となるものと考えられる申請に係る名称に着目、依拠して3号イ事由の有無を審査、検討していることをうかがわせる記載がある。そこで、裁決においては、3号イ事由及び4号イ事由の有無の審査、検討はいかなる解釈、判断枠組みによって行われるべきものか、処分庁でもある審査庁としての考え方が示されるべきものと思料する。

ここはわかりにくいですが…

■3号イ事由と4号イ事由は別々に検討されるべきである
■今回のGI認定においては、主に4号イ事由のみを調査検討し、それに依拠して3号イ事由についての裁定が行われている
■農林水産省は3号イ事由と4号イ事由それぞれの有無の審査・検討をどういうつもりでやってるのか表明しなさいよ

という指摘かと思われます。

(3)そうすると、本件審査請求は棄却すべきであるとの審査庁の諮問に係る判断は、本件申請に4号イ事由があるかについての審査庁の判断の当否についてみるまでもなく、現時点においては妥当とはいえない。
本件申請に4号イ事由があるかについては、処分庁でもある審査庁において、本件申請に係る豆味噌の社会的評価の認定、判断のために必要な調査、検討の結果を踏まえた上で、裁決において適正な判断が示されることを求めるものである。

「不服審査請求に対して「棄却すべき」という農林水産省の判断は妥当ではない、4号イ事由の有無について見るまでもなく調査不足である」

というのが今回の不服審査会答申の結論となるかと思います。

3 よって、結論記載のとおり答申する。
行政不服審査会第3部会
委員 戸塚誠
委員 佐脇敦子
委員 中原茂樹

委員の皆様おつかれさまでした。時間はかかりましたが、本当に農林水産省の何億倍も誠実に本件に取り組んでいただけたと思っております。

ものすごく読みにくいし、強制力のない文書ではありますが、初めて行政側から今回の不自然極まりないGI認定に疑問を呈する内容の答申が出たことの意義は大きいと思います。

この真摯な答申が少しでも農林水産省のお役人様の心に届くといいのですが…。偉い人が自らの過ちを認めるのは難しいらしいですね…。

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