コミットの差
「俺、鍼灸院行ってるんだけど、結構いいよ」
という話を、うちの患者さんが、幼馴染の友人にしたそうです。
「でも、6千円だよ?良い?」
と聞いたそうですが、構わない。行きたいと言って来たそうで、ご紹介下さいました。
その幼馴染の方も、今、当院の患者さんとして、むしろ紹介して下さった方より、頻繁に来てくださっています。
でも~~~やっぱり料金の高さというのは、すごくネックなんですよね。紹介する方も、良いけど、高いからなぁ…と紹介を躊躇してしまう。
その点、保険が使える整骨院は良いですね。
でも、本当に良いのか、ちょっと考えてみましょうか。
整骨院は、保険が使えるから安い。
鍼灸院は保険が使えないから高い。
確かにそれもあるんですが、じゃあ整体なんて、1万円超えるところもありますよね?それって不思議じゃありませんか?
整骨院は、柔道整復師。
鍼灸院は、はり師・きゅう師。
どちらも国家資格です。
それに引き換え、整体って、言ってしまえば無資格の治療家です。
三日くらい整体の学校行って、もう整体の看板上げている人が少なくないんです。
だとしたら、治療に関する、料金の差って何なんでしょう?
その差の秘密、それは・・・・・・
実は病院って、「治ります」とか「絶対治します」って、言っちゃダメなんです。
というか、鍼灸院でも、整骨院でも、法律で禁止されてます。
サプリとか、民間治療薬とかも、「~が治った!」「~に効く!」みたいなのが、規制されてます。
あと、ビフォーアフターってのも、これも法的に禁止されてるんですね。
エステで、前良くあった、「施術前と後」の写真をビフォー・アフターって載せていましたけど、今はそれ、見ないでしょう?
禁止されたんですね。
つまり、誇大広告だから。
病院の場合は、治療費が法律で決まってる(保険点数)から、腕の良い医者にかかっても、悪い医者いかかっても、料金は一緒です。腕の良し悪しは、評判でしか分かりません。
それ以外はどうか?
国家資格の整骨院が数百円から千円。
鍼灸院が数千円。
それに引き換え、無資格の整体は一万円。
エステに至っては、数万。
美容だから高いって、何ででしょう?
サービスの質が良いから?
丁重に扱ってもらえるから?
ゴージャスに部屋の中を飾り立てているから?
効果とは何の関係もありません。
治療院の料金の違いって、腕の差とか、技術の差ではないんです。
タイトルそのまんまですけど、ようは「コミットの差」
結果が出るまで責任を持つ。
だから高い。
それが、整体の値段の高さを正当化する根拠…だったわけです。
某パーソナルジムの宣伝文句と同じで。
でも病院だって、当然コミットしてくれてるハズ…ですよね。
鍼灸院でも、整骨院でも、コミットしてないはずがない。
本当は何が違うんでしょうか?
話は変わりますが、あなたのお給料は、月40万でしょうか?90万でしょうか?もっと安い?
口にしないでもいいので、思い起こしてみてください。
もし、その給料が突然半額になったとして、同じくらい仕事に向かって頑張れますか?
逆に、給料が突然倍になったとして、倍の結果を出せます?
どんな仕事をしているかによっても、違うでしょうね。
営業の人なんか、分かりやすいでしょう。でもそれなら猶更、「今のノルマだって必死になって、やっとこなしているのに、倍だなんて無理だよ!」と思うのでは。
もちろんノルマというのは、基本、ギリギリ達成できるかできないかのところで設定されるものです。だから給料倍になって、成果も倍出せ!と言われても厳しい。
(1)倍の成果を上げるには、商品単価を倍にして、今と同じ数売るか。
(2)商品単価が今のままだったとしたら、今の倍の数売らなくてはならない!
でも(2)は、無理!!
そもそも給料は、売り上げからしか出てきませんが、経費だって、仕入れだってかかってるわけです。税金だって。
会社で高単価の商品を取り扱うことになっても、その場合、新しい顧客の開拓が必要になったりして、商品単価が変わって、すぐに給料があがるということは、めったにありません。
一方、事務などの仕事はどうか。
どんな仕事にも、「最低限」やるべきことというものがあります。
給料が半額になったところで、いきなり仕事量が半分になったり、責任が半分になったりしません。
給料が半分になったら、やるべき仕事量はこなすとして、でも「あとちょっと」の頑張りは、出せないでしょう。というか、大抵の人はその仕事、辞めるんじゃないでしょうか。
形通りやれば、形通り結果が出る職業というものもあります。
ベルトコンベアーに乗せれば、がっちゃんがっちゃん…、「はい、自動車」「はい、冷蔵庫」
製品を倍作れれば、倍売れて、倍利益が増えるか?というと、それもそんなことはありません。
値段を安くしろと、市場から圧力がかかります。
レア度が下がって、価値が下がります。
必ずしも、たくさん作れば、たくさん売れるわけではない。
豊作の年にリンゴが余って、腐るから出荷したいけど、リンゴが少々安くなったからと言って、買い手が急に増えたりはしません。
ところが、ある仕事は、当事者の能力や、取り組む姿勢で、まったく違った結果が出る。そういう職業もあります。
政治家や教師といった仕事は、能力の差と、やる気の差がモロに出る仕事だと思います。
そういう能力によって、成果が変わる職業に関しては、「型通り」の仕事しかしない人には、その仕事について欲しくない!とさえ思います。
医療も、そういう仕事です。
ちゃんと患者を診てくれない医者も腕の良い医者も、料金が同じだったらなおさらです。
治療の世界は、基本の型はあるものの、結果には、個人個人の能力の差が大きく影響します。
なんといっても、治療の世界は、「あとちょっと」の「やる気」、頑張りの差が大きい世界です。
治療家の「やる気」と、患者さんご本人の「やる気」とが、合致すれば結果が出やすいし、そうでなければ結果が出ないという世界です。
私は昔、鬱になったことがあるので分かるのですが、同じ治療をやっても、鬱の患者って、治らないんです。
たかが風邪で、「なんで治らないんだろう」と医者が冷や汗をかくほど、こじれるんですよ。
何か危険な病気が隠れてるんじゃないか?と血液検査を繰り返すんだけど、何にも出てこない。
私自身も治りたい気持ちはあるし、真剣に薬を飲んで、安静にしてるんですが、治らない…。たかが風邪なのに、何回、抗生物質飲むやら…。ウイルスだったら、抗生物質なんか効かないんですが、手立てがないから、今から思えば必死だけどヘボなお医者さんでした。抗生物質をバンバン出されるんです。
「鬱だから、薬を飲んでも治らないんですよ。基本的な生活習慣をきっかり守って生活しましょう。落ちてしまった免疫力を上げましょう」
それしか正解はなかったのですが、お医者さんは、おそらく面倒くさかったんでしょう。そこまで踏み込まなかった…。
結果にコミットというのは、患者さんの生活や、患者さんのメンタルにまで踏み込むってことです。
踏み込む側としても、覚悟がいる。
なんせ面倒くさい。
アホで頑固で、知識が浅く、テレビなどの似非情報に踊らされ、古い常識にしがみつく、そんな患者ほど、説得と理解に至るまで、手間と時間がかかる。
つまり、「手離れの悪い」仕事になるんです。
1時間に4人の患者を捌かなきゃ、売り上げが減る…っていう、保険診療のシステムの中で、そんな面倒なことをしてくれるお医者さんは、少ないです。
一人の患者に長く時間を使えば使うほど、売り上げが減るという、現行の保険システムの中では、「能率」が神です。
能率が悪いものは、能率を上げるにはどうするか、ということだけしか考えない。
バカな患者の考えを改めさせるより、薬をバンバン出した方が、能率が良い…かくして、薬漬け医療になる。
もっと強い薬、もっと効率の良い装置が必要になり、薬や機械の開発費が嵩んで、医療費はますます高額に。ますます経費がかかって、ますます能率を求め…
最悪の車輪が回っています。
いずれ破綻するのが目に見えている、こんなやり方を、医療崩壊まで続けることが、賢いとは言えません。
コミットとは、人が、人に対してすることです。
コミットの差というのは、医者と、患者さん本人の意欲が高いか、低いかです。
コミットは、心の熱量なので、能率の良し悪しを問題にしません。
コミットとは、教育です。
コミットとは、一人の愚かだった患者さんが、賢くなることです。
コミットとは、だから人件費なのです。
つまり、お金がかかるのです。
鍼灸院は、整骨院とは違い、ほぼほぼ保険は使えません。
それが良かった。
患者さんにコミットする点でしか太刀打ちするすべがなかった無資格の整体と同じく、鍼灸師も患者さんにコミットし続けました。
だから、厳しい市場競争にさらされて、腕の良い、治療に対して真摯な鍼灸師だけが生き延びました。
患者さんにコミットする力を、鈍らせることなく、磨いてきたのです。
当院は、患者さんに食事にも、メンタルにも踏み込みます。
特に、青タンができることを、女性の患者さんは嫌がりますが、なんで青タンができるのかというと、患者さん本人の食生活に問題があります。
食事でタンパク質を取れていないからです。
男性の患者さんで、青タンができることは、ほぼ皆無。
女性と高齢者、特に女性は、青タンができやすい。
女性でも、しっかり食べられている人は、高齢でも、青タンができにくいのです。
一人一人の患者さんを、しっかり観察し、全身状態を把握することに、注力した結果分かったことです。
さて、料金の高さは、治療家のコミットの高さに直結するということは、わかっていただけたかと思います。
「整骨院になんか行っても治らないよ」
「揉んでくれて、電気の機械当てるだけじゃん」
という会話をよく聞きますが、
本来整骨院の先生の腕が、整体に比べて悪いはずはないんです。
でも、料金の安さが、コミットの低さになり、
コミットの低さが、結果の悪さに繋がる。
「あとちょっと」の本気度が、結果の違いになる医療の世界で、本気を出さないまま、何年も治療を続け、業界の慣習、腐った水の中で、いつしか腕が錆びると、そうなります。
整骨院にかかって、医療費がたった500円…、私は問題だと思ってます。
とはいっても、国民皆保険制度には賛成なんです。
でも、医療って、良い薬、良い装置じゃない。それは医療の効率をあげるかもしれないけど、医療ってそういうもんじゃない。
一人一人の治療家、医療関係者のモチベーションの高さが、医療の質の差を作るということを考えれば、医療費500円は安すぎて、危険だと感じます。
治療費の高さは、コミットの高さに直結する。
日本の医療の質が落ちつつあります。
薬や、機械の質が下がったというわけではありません。
お医者さんのコミット力が下がる方に働く、保険システムが元凶です。
今はまだお医者さん個々の優秀さや、責任感によって支えられていますが、次第に崩れつつある状態です。
整骨院の乱立と、保険の乱用は、その崩壊の序章でしかないのです。
でも、繰り返しますが、国民皆保険には、賛成です。
大事なのはやり方で、そのやり方が明らかに不味いと言いたい。
ちゃんとコミットに対して報酬を払うシステムを作っていかないと、逆に医療はますます国家財政も、個人のお財布的にも負担になってくるはずです。
コミットを売り物にした、パーソナルトレーニングで30万とかです。
お医者さんの報酬が、それ以下であっていいはずがない。
コミットに、喜んで、お金を払う、そういうマインドが、患者さん側に必要です。
ケチな根性で、モノや、オマケにつられて喜んでいるようじゃ…、日本の夜明けは遠い。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?