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長編 支配者スイッチ 「支配への道」

こんばんは、闇と光の伝道師、愛を叫ぶじゅにーです。

遂に完成しました。書く書く詐欺と言われそうなくらい長い時間を掛けて。

もう皆様に飽きられてやしないかと冷や冷やしておりますが、満を持してリリースしたいと思います。

では、大長編支配者スイッチ、ここに開幕です。





プロローグ

「私は…もうダメなのかもしれぬ…」

男が一人、行き倒れていた。暗いくらい闇の中、一人孤独に。

「ああ、今まで必死に生きてきたが、人生とは酷なものよ。私に残されたものは、もうこの一欠けのパンのみ。これではどうにもならぬ…。」

これを最後の晩餐に、というには寂しすぎる内容だが、食べてしまえば思い残すこともなくなるだろうと口にしようとしたその時、一匹の野良猫が寄ってきた。

「お主も、お腹を空かせておるのか?私が食べてもどのみちそう足しにはならぬ。お主に譲ろう、さあ、食べるがよいぞ。」

野良猫は差し出されたパンのようなものをいぶかしげに覗き込んで、そして咥えて去っていった。

「これで良いのだ、猫にならあの量でも足しになるやも知れぬ。もう思い残すこともない。私の代わりに、強く生きて行ってくれ…。」

意識が段々と朦朧としていく中で、男はふと柔らかい光を感じた。

「これがお迎えというものなのかの…」

ふと、心の中に青い猫が浮かび上がり、傍らに佇んでいる。猫というには珍妙な面持だ。二足歩行で体も丸い。どちらかというと、たぬ

{君の望みは何だい?先ほどのパンのお礼に、何か一つ望みを叶えてあげるよ}

男の感覚を遮り、その猫のようなものが声を掛けてきた。

「か、金がない故にこのような境遇に陥ってしまった。お金さえあれば…」

ささやかでも良いから、そう告げる前に男は気を失ってしまった。

{お金だね。じゃあ君には世界のお金を自由にできる力をあげるよ。目が覚めたら君の望みは叶っているよ。楽しみにしていてね。}

男が次に目を覚ました時、世界は一変しているのだった。


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


時を同じくして、ヨシヒコなる男が、あるものを求め奔走していた。

「金を自由にすることさえ出来れば、私の知識をもってこの世を牛耳ることが出来るのに、何故私には知識しかないのだ。嘆かわしい。私の求める力は、一体どこに在るというのだ!」

苦悶の日々。そのような状況に精も魂も尽き果てたころ、とある宿場で床に就いていると、神のお告げのようなものを聞いた。

{君の求める力を持った者が、この先の街道で行き倒れているよ。早く助けに行ってあげて。}

ヨシヒコは飛び起きた。普通に考えれば夢と思うかもしれない。しかし、そうではないと叫ぶ心のまま、ヨシヒコは走った。

「だ、誰か本当に倒れておる!」

ヨシヒコはその男を担ぎ上げ、暗闇の中を走っていくのであった。


出会い

「こ、此処はどこじゃ?余はまだ生きておるのか…?」

「お早う御座います、閣下。お目覚めは如何ですかな?」

「そ、そちは一体…?」

「私はヨシヒコと申します。閣下にお仕え致すため馳せ参じました。何卒よろしくお願い致しまする。」

「余…?そち…?頭がはっきりとせぬ。何があったのじゃ…?此処はあの世なのか…?」

「違います。神の御声に導かれ、倒れているところを私がお助け致しました。閣下は、まごうことなき人の上に立つお方でありまする。」

「そうか、余は行き倒れておった筈じゃな。何があったのか説明してくれぬか?」

「私にも詳しいことは分かりませぬが、倒れている貴方を見た途端、何が何でもお助けせねばという思いに駆られてしまいました。不思議なことに、運び込んだ医者も夜中だというのに必死に治療に当たってくれましたし、衣服も屋敷も献上されました。」

「で、今の状況であるか。」

「むしろこちらがお聞きしたい。あなたのような御方が何故行き倒れておられたのか。」

「はっきりとは覚えておらんのじゃ。猫のようなものに願掛けした気がするのじゃが…。」

「とにもかくにも、閣下は私が長年追い求めていた主君に御座る。何卒お仕えさせて頂きとう御座る。」

「ふむ、命の恩人とあらば断わる理由はないの。しかし、余で良いのか?きっと何も出来ぬぞよ?」

「私には閣下の力となれる知識が御座います。閣下と私、二人の力を合わせれば、叶わぬことなど御座いませぬ。」

「ほう。凄い自信じゃな。じゃがよもや世界征服などは出来まいて。

「閣下がそのお心積もりでしたら、喜んで成し遂げて見せましょうぞ。」

「じょ、冗談のつもりだったのじゃが、本気であるか?」

「勿論で御座います。」

「面白い、ではそちの思うようやって見せよ!…とは言ったものの、余は何をすれば良いのじゃ?」

「閣下は必要に応じて、私に名やお言葉、場合によっては顔を貸してくだされば良いでする。準備は私が進めていきます故。」

「それだけで良いのか?というより、余の言動にそこまでの影響力があるのか?」

「何を仰いますか。閣下がお持ちの権力、通貨発行権は何物にも代え難き資本主義において最大の権力に御座る。」

「通貨発行権…?」

「簡単に言えば、世のお金を自由に出来る力で御座る。」

「…それを余が?」

「身に覚えが無いのですか?とはいえ私も、何故閣下がかような権力を持っている事を知っているのか、分かり兼ねておるのですが。」

「ふ。ふむ…。(余の願掛けはささやかな暮らしをできる程度の金だったと思うのじゃが、何故こうなってしまったのであるか…。)」

「何にせよ、宜しくお願い致しまする。」

「あいや分かった。全てそちの思うがままやって見せよ!」

「御意!」


策略

「ではまず手始めに、情報統制から始めまする。」

「情報…とうせい…?」

「こちらにとって都合の良い情報を流布し、意図的に民を操っていきまする。」

「そんなもの、民は安易に信じるものかの?」

「日常生活にに役立つ真実と、娯楽性の高いものを用意し、そこに民を操る情報をほんの少し織り交ぜていきまする。さすれば疑り深い民以外は意のままに出来るでしょうや。」

「その疑り深い民は何とする?」

「我が国は農耕民族故、足並みを揃えることに重きを置きまする。十人中九人が従えば、残る一人も従わねばならなくなります。」

「ふむ、良くできているものよな。」

「併せて、民を若干弱らせていきまするぞ。」

「ん?そんなことも必要なのか?」

「民が我らの支配に刃向かうには、情報と金と力が揃わねばなりませぬ。弱らせることで金と力を剥ぎ取りますぞ。」

「…してどう行う?」

「例えば、薬や医療で民を縛り付ける事が出来まする。我々の用意するそれらがなければ健康を享受出来ぬようにしてしまえば良い。」

「ほう。」

「元々健康な民には、先述の情報統制で健康維持に良いと謳うものを宣伝し、興味を持たせます。それを緩い毒のような物にすれば金を使い弱ってくれまする。」

「そちの頭の中は一体どうなっておるのじゃ?良くもまあ妙案がポンポンと。」

「力のない私に出来ることは頭を捻ること。そればかり鍛錬して参りましたからな。しかし、いざ実行しようにも先立つものがない。よって閣下のような御方が私には必要だったのです。」

「余は…気付けば何となく手にしていたみたいでの。なんだか申し訳ないわい。」

「無いことを嘆いていても仕方ありませんからな。しっかり仕えます故、何卒お力をお貸し頂きとう御座います。」

「命の恩人であるからして、そこに手を抜くつもりはないぞ。思う存分やってみるが良い!」

「御意。」

「いや、しかし食うこともままならぬ環境にいたはずの余が、世界を我が手にせんと動き出すというのは、人生は何があるか分からぬものよな。」

「閣下と私が出会えたことも何かのお導き。必ずや成し遂げてみせましょうぞ!」

「うむ、その意気や良し。」

「それでですな閣下。あとはアレをこうしてソレをなんとして…。」

「ふむふむ、何と、そんな事が…。」

「策は編み目のように張り巡らせていくものですぞ。」

「ちょっぴりワクワクしてきたわい。」


支配

「そちと出会ってしばらく経ったが、こうも世の中は都合良く変わるものなのかと、驚きの連続じゃわい。」

「世界をこの手にするのでしょう?まだまだこれからですぞ。」

「民は役に立たぬ健康食品を喜んで買いに走るし、テレビで名の知れた人物がああだといえば民もああだと思う。」

「テレビは有益な真実しか述べぬ物と思っておりますからな。」

「お陰で怪しさ満載だと思っていた、大気汚染を軽減する薬品散布、という名目の毒蒔きすら誰も不思議に思わぬ。」

「あれは計画の最終段階でも別の目的で使うのです。単にそれだけで健康被害が出ては流石に怪しいでしょう?」

「それはそうだが…、どうするのだ?」

「閣下、病を防ぐための薬、覚えておいでですか?」

「何とかチンとか云うアレか?あれもその実予防効果はあまりなく、毒のような物を仕込んでいるのであろう?」

「左様で。最終的にはそれに仕込みし成分と、この屋敷の電波塔から発する特殊な電波を合わせることで民に甚大な被害をもたらします。」

「甚大な被害か…。具体的にはどのような物なのだ?」

「長期的には、子を成す能力の低減を発揮し、増えすぎた民の数を減少に向かわせます。」

「…短期的には?」

「息苦しさや発熱など、風邪を酷くさせたような症状が出る者も居るでしょうな。取り込みし空気を全身に巡らせる力を奪っていきますので。」

「ううむ、恐ろしい物だな。」

「この方式の良きところは、どちらかが欠けるとあまり効果が出ない点にありまする。」

「それはどういうことだ?」

「電波単独で被害が大きければ、我々にも影響が出るでしょう?もう片方の成分を体内に取り込まなければ我々は平気でおれるのです。」

「何というか、悪魔的な所業のように感じるの。」

「民が苦しめば、そこにまた新たな産業が芽吹きます。それを繰り返し我々とその他の民の隔たりを大きくしていくことで、我々は盤石たる支配者へとなれるので御座います。」

「支配…か。話を聞いているときはワクワクしておったが、いざ眼前に迫ってくると躊躇してしまうのう。」

「ここまで順調にきているのに、何を戸惑うことが有りますか。」

「計画には澱みなどないと分かっておるよ。…うむ、続けてくれ。」

「閣下、まずは試験的にこの近辺の民に成分の空中散布で効果の程を見てみる予定です。それがうまくいけば、薬に仕込んでいきますぞ。」

「試験的…か。怪しむ者はおらんかのう?」

「普段空中で薬剤を散布していることはもうありきたりですし、電波塔がなければテレビも見れぬ故ここを訝しむ者もおりませぬ。」

「そうか…。では準備を進めていくが良い。」

「御意。」


満月

「閣下、そろそろ計画も最終段階に移りたいと思いまする。心積もりはよろしいですかな?」

「ヨシヒコか。そんな事より今宵の月を見よ。見事な満月であるぞ。」

「今宵は望月で御座いましたか。閣下もかの道長公のようになる時が来たという事で御座いますかな。」

「ヨシヒコや、本当にやるのか?少なからず民にも被害は出るのであろう?」

「今更何を仰いますか。これが閣下の望む道だったのでしょう?」

「余の望みか…。余は、本当にこんな事を望んでおったのだろうか。」

「盤石たる支配には、痛みは付き物で御座る。今宵の閣下はお疲れなのでしょう。ゆっくりお休みくださいませ。」

「そうか、疲れておるのかもしれんな。うむ、下がって良いぞ。」

「はっ!」

「余の望み…。ヨシヒコの望み…。考えていても仕方あるまいな。寝るとするか。」


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


「閣下、昨夜はよく眠れましたかな?」

「ヨシヒコか。うむ、迷いはない。余の望みを叶えるため、見事成し遂げて見せよ。」

「御意。者共、例の物の空中散布、行って参れ!」

「ヨシヒコや、余は自室で休んでおるぞ。」

「了解に御座る。よもやと思いますが、外に出向いてはいけませぬぞ?」

「分かっておるよ。」


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


「ふう、今頃外界では例の毒が散布されておるのじゃろうな。単独では害は成さず、この屋敷の電波塔と組み合わせて害をなすなど、よく考えつくのものだ…。」

外を眺めていると、一匹の猫が窓の方へとやってきた。何やら苦しそうにしている。

「野良猫か。なんだか放っておけぬ気がするの。ささ、中へ入るが良いぞ。」

その刹那、散布に出ている飛行機が屋敷の近くを掠めていった。

「こら!!屋敷の近くを飛んで何とする!はよう方々へ蒔きに行かぬか!」

「…今のはもしや…。気にしていても仕方あるまいな。どうしても野良猫は気になってしまうのじゃ。何故かのう?」

「閣下、散布は順調に進んでおりまする。今夜にでも、電波塔を起動させまするぞ。」

「あいや分かった。ヨシヒコよ、大義であった。そちも休むが良い。」

「御意。」


ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


「では閣下、いよいよ起動させまするぞ。この実験に成功すれば、これを世界各地に広めていき、やがて世界の全てを手中に出来まする!」

「そうか。そちの願いは一貫して変わらぬのであるな。ならば思うがままやって見せよ。」

「はっ!では、起動の時に御座る!」

「…さて、我が身はどうなることか…。うっ!」

重く低い起動音が響くと共に、膝をつき蹲る閣下。歓喜の表情を浮かべるヨシヒコが振り返った視線の先には、閣下は居なかったのである。


「閣下、如何なされました!」

「ヨ、ヨシヒコか…?体が熱いのじゃ。息もうまく吸えぬ。」

「その症状…!よもや、外気を吸ったのではありますまいな!?」

「ま、窓の外で苦しそうにしている猫を…招き入れた際に吸ったかもしれぬ…。」

「何たることを!あれほど説明したでしょう。何故野良猫などのために!」

「そ、そちには話しておらなんだの…。余の命を救ってくれたのは、そちと逢わせてくれたのは、野良猫が繋いだ縁なのじゃ。無下には出来まいて…。」

「だとしても、何故教えてくれなかったのです!此処は最も電波の影響を受ける場所。日を改めれば、そこまでの影響も出ずに済みましたものを!」

「満月が欠ける前に、そちの夢を叶えてやりたかったのじゃ…。余には大して望みなどなかったからの…。そちの望みこそが余の望みなのじゃ。結果余が死んだとて、お主の望みは叶えてみせる!」

「な、何ということを!」

「ヨシヒコや、余は気付いておったぞ…。そちが余の権力を欲しがっていた事を…。余が亡き後は全ての権限をそちに譲ろう。余の自室に念書を用意してある…。これで…全てを手に…入れられるのであろう?」

「き、気付いておられたので!?」

「余を…見縊るでないぞ…!」

「確かに、一人で世界を手中に収めたいと思った時期もありまする。何故このような何も知らぬ、何も出来ぬ者に権力があるのだ、とも。」

「伊達にそちの傍に居たわけではないぞ…ぐふっ!」

「閣下!!そんな思考は過去の産物。閣下がいない世など、何の魅力も感じませぬ!」

「ふふ…、嬉しいことを…言ってくれるではないか…。主従ではない、友情のようなものを感じていたのは…余だけでは…なかったのだな…。」

「閣下が居たから!閣下と成し遂げるから嬉しいのではありませんか!!閣下、お気を確かに!」

「ヨシヒコや…。最期にありがとうと言わせてくれ…。そちと過ごした日々…楽しかったぞよ。」

「閣下~~~!!!」

「思い残すことは…ないと思ったあの日から…、随分と生き…永らえて楽しい時を…過ごすことが出来た……。余の人生に…一片の悔い…ごはっ!」

「閣下!閣下!!気を失ってしまわれたか。この起動した電波塔、もはや止める術など…ない。あの手段以外には!」

おもむろに振り返り、ヨシヒコは臣下の者に言い放った。

「これよりこの電波塔を破壊する!者共!早急に取り掛かれい!!」


エピローグ

「ヨシヒコや、本当にこれで良かったのか?」

「閣下、何を今更。」

破壊された電波塔の前に佇みながら、二人が立ち尽くしていた。勿論、屋敷もただで済むはずがなく、瓦礫と化している。

「そちの望み、叶えそこなってしまったの。」

「閣下こそ、家なき子になってしまいましたぞ。」

足元に、どこからか野良猫が擦り寄ってきた。閣下と呼ばれた男は、その猫を愛おしそうに抱き上げた。

「野良猫様のお導きかのう。二度も命を永らえてしまったわい。これから、どうしたもんかの。」

「閣下と私、二人が居れば叶わぬことなど御座いませぬ。前と違い、今は絆も芽生えました。向かうところ敵なしでは御座らんか。」

「その気になれば、なんだって出来る…か。余に望みを叶える覚悟が足りなかっただけのかもしれぬの。」

「一人の望みでは、叶うものも叶いませぬ。今度は、波長を合わせて頂きますぞ!」

「あい分かった。じゃが、余からも頼みがある。なるべくなら、民や動物が苦しまぬ道で願いを叶えたいぞ。波長、合わしてくれるのであろうな?」

「仕方ありませんな。しかし、今の私の知識では遠く及ばない領域故、時間は掛かりますぞ。」

「構わぬ。その分そちと楽しむ時間も増えるのであろう?」

「そういうことになりますな。しかし、人を傷つけぬ道は、それはそれで険しゅう御座いますぞ。覚悟は宜しいか?」

「勿論じゃ。」

「では、また一から頑張りますかな。まずは…猫と住める屋敷を手配せねば。」

「そうじゃな、ではヨシヒコよ。これからもよろしく頼むぞ!」

「御意!」




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