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【読了】コトラーのB2Bブランド・マネジメント~B2Bのブランディングの有用性~

2020年に読んだ本の中で、これほどまでに再読欲にかられた本はなかった。
というのも、昨今のB2BマーケティングはTHE Modelのような所謂フォーマンス・マーケティングが必ずしも正解ではないと考えていたから。

また、以前読んだ、トライバルメディアハウスの池田さんのnote
これからは「一番最初に思い出してもらえるブランド」しか生き残れない
を読んで以来、B2Cでは当たり前に語られるブランディングって、B2Bではなぜあまり語られていないんだろう?と疑問にも思っていた。

そんな時、この本に出合った。
『コトラーのB2Bブランド・マネジメント』
あのコトラー大先生が、しっかりとB2Bのブランディングについて語ってくれているじゃないですか!
これできっと僕のモヤモヤも晴れるはず!

以下に、一部引用と私見を挟みながら感銘ポイントを記します。

B2Bにもブランディングが必要な理由と、そうなった背景

巷のブランディング関連書籍に掲載されている事例の多くは、B2Cに関連するものが多い。だからと言って、B2Bにブランディングが不要であったり、優先順位が低いというわけでは決してない。
同書では以下の3つの要因からその重要性を説いている。

・類似の製品やサービスの普及
・複雑性の増大
・価格圧力の強さ

いずれの要因も、B2Bでビジネスをしている方であれば多かれ少なかれ直面したものだと思う。
これらを戦略的に解決するために、ブランディングが必要なのである。

また、B2Bブランディングは

『産業用の製品とサービスのブランド・マネジメントは、持続的競争優位性を確立するための唯一かつ有効な機会である。』

とも述べられており、ブランディングの有用性が強調されている。特に注目したいのが、“持続的競争優位性”という文言だろう。
つまり、一部の刈り取り型マーケ施策のようにワンショットで効くものではなく、持続的かつ継続的に、顧客が自ら選んでもらえる状態を創り出すことができるのである。

そもそも、B2Bにおけるブランディングの役割は?

B2Bマーケティングにおいてのブランディングの役割は3点ある。
・情報効率の向上
・リスク低減
・付加価値及びイメージの改善

B2Bブランディングの機能①:情報効率の向上

そもそもB2BとB2Cでは購買の意思決定のプロセスやトリガーが異なる。
主な違いとして同書で挙げられているのが、

・製品・サービスの複雑性
・はるかに少数の顧客
・一個客当たりの取引量(顧客単価)
・長期にわたる緊密な取引関係

である。
ここで気になったのが、この文脈でよく言われる『B2Cは直感的、B2Bは理論的』というありがちな結論にはなっていない点。
それよりもむしろ、購買におけるプロセスやマクロの条件に焦点が当てられている。
上記の4項目からもわかる通り、B2Bの購買条件はとにかく複雑で、少人数が高価なサービスや製品を購入し、その関係が継続することが多いのが特徴である。

また、同署ではB2Bにおける購買を3つに分類している。

 ①単純反復購買:特に比較検討することなく、自然と同じものを買う
 ②修正再購買:いわゆるブランドチェンジやリプレイス
 ③新規購買:新しく製品やサービスを導入する

このような複雑な購買プロセスにおいて、顧客は製品やサービスを購入する際に、B2Cとは比べ物にならないくらい多くの情報を収集し、比較検討しなくてはならず、且つ購買プロセスにおけるプレイヤーが多い(購買センターの存在)なかで、強固なブランディングが構築されていると、この情報収集を大幅に効率化できると説いている。
つまり、世の中の膨大な情報すべてを収集することは困難なため、ブランドがある企業のやサービスの情報に絞り込んで比較検討することで情報効率をたかめられる。

B2Bブランディングの機能②:リスク低減

上述のとおり、B2Bにおける購買には多くの関与者が存在し、使用期間も長く、効果であるため、購入における判断ミスは事業にとって致命的なリスクになりうる。
一方で、強固なブランドが構築されている製品・サービス世の中に多くの成功事例・導入事例があり、顧客にしてみればそのような先輩たちの成功は強力なリスクヘッジになりうる。
B2Bマーケティングにおいて「導入事例」は鉄板コンテンツであるが、事例が鉄板足りうる要因の一つがこの、リスク低減への期待と言える。

強力なブランドを構築している製品・サービスは、顧客の購入前の不安や、購入後のリスクを低減させる効果があるため、双方の信頼をより強固なものにできる。

B2Bブランディングの機能③:付加価値及びイメージの改善

昨今のD2Cのように、ブランディングと関連して“世界観”や“クレド”を伝えることで、購入者と自己表現のつながりを得ることができる。B2Bにおいては、同書でもこの項に関しては「すぐにはつながらない」と明記されており、決して即効性のあるものではないが、顧客だけではなく、従業員、出資者といったステークホルダーへのイメージ改善という意味で、インナーブランディングの側面からこの3つ目の機能を評している。

また、B2Bにおいて強固なブランド構築により得られるメリットとして、上述の意思決定プロセスの単純化のほかに、プレミアム価格の機会提供に触れられている点からも、付加価値やイメージ向上は経済的なメリット(つまり売り上げの向上)につながるものといえるだろう。

ブランド構築がなされた際に想定される効果

では、上記3つの役割をもったブランドが構築されると、どのような効果が見込めるのだろうか。

・差別化
・将来事業の安定
・ブランドロイヤルティの生成
・マーケティング活動の差別化
・選好の形成
・プレミアム価格の設定
・ブランドイメージの創出
・売上げの増大

この8つが具体的な効果である。

これらは昨今のB2B企業においては、開発部門、マーケティング部門、インサイドセールス部門、セールス部門、カスタマーサクセス部門、そして経営 といった部門で別々に意識して活動している内容ではないだろうか?
しかし、ブランディングにおいてはこれら8つはすべて「ブランド構築における効果」としてくくられている。

つまり、ブランディング戦略は、単にマーケの活動(PRや広告)だけで成されるものではなく、顧客接点すべてにおいて、一貫したビジョンを体現していくことが求められる。

ブランド・エクイティとその構成要素

では、実際にどのようにしてブランドを構築していくのだろう。
その前に、ブランド・エクイティという概念を理解する必要がある。
ブランド・エクイティには様々な定義があるが、同書では下記の記載がある。

ブランド・エクイティは、「製品やサービスに付加される(または差し引かれる)ブランド名や記号に結び付いた資産(または負債)」のことである。

また、このブランド・エクイティの構成要素は以下の4つ

・知覚品質
・ブランド認知
・ブランド連想
・ブランド・ロイヤルティ

これらの見慣れたキーワードは、それ単体でとらえるのではなく、ブランド・エクイティの構成要素として4つセットで意識しておく必要がある。

このブランド・エクイティを強固にするためには、言わずもがなブランドと顧客との間で一貫した印象を与え続ける必要があり、(これをブランド・プロミスという)これを徹底することが、顧客の情報収集や選択の複雑さを低減していくことにつながる。

このブランド・エクイティに関連しては、『顧客ベース・ブランド・エクイティモデル(CBBEモデル)』で概念的にとらえることができる。

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※コトラーのB2Bブランド・マネジメント を参考に作図

このCBBEモデルは、顧客がブランドへの関与度を高める4つのステップを示している。
①ブランド・アイデンティティ
ブランドのアイデンティティを正しく理解することでブランド認知を確立する
②相違点の認識
ブランドの提供価値やメッセージを適切に知ることで、他ブランドとの相違点を認識する。
③ポジティブな反応
この段階でようやく顧客が主体的な行動が生まれる。ブランドに対してポジティブな反応を示す。具体的には、SNSでの言及や検索だろうか。
④ブランドとの関係の構築
ブランドロイヤルティが生成され、主体的にブランドと関係を構築しようとする。

ブランド構築のプロセス

強固なブランドは、当然一朝一夕で作り出されるものではなく、一定の手順を踏むことが求められ、そのプロセスを経ることでより強固なブランドとなっていく。その手順とは以下の5ステップである。

①ブランド計画
②ブランド分析
③ブランド戦略
④ブランド構築
⑤ブランド監査

①ブランド計画

ブランドの計画は長期にわたり自社ブランドと顧客がそのような関係性を築いていくかを定めることである。ここには5つの原則が存在する。

・一貫性(Consistency)
 ⇒メッセージや顧客体験が一貫していることが最も重要なブランディングの法則。ブランドが顧客に約束する内容と、顧客が享受するメリットが一貫している必要がある。
・明瞭性(Clarity)
 ⇒自社と顧客が、そのブランドの意味合いや存在理由を明確に理解できている状態にする必要がある。
・継続性(Continuity)
 ⇒ブランドの意味合いは時々で変化することは問題ないが、変えること自体は目的ではなく、むしろ継続性(軸)を持っていることが重要である。
・可視性(Visibility)
 ⇒いくら自社でブランドを声高らかに叫んでいても、そのメッセージが顧客に届かなければ意味がない。最適なコミュニケーションプランニングにより、顧客の認知と維持を担保する必要がある。
・真正性(Authenticity)
 ⇒ブランドは顧客や従業員が心から信じて行動に結びつけられる正しいものでなくてはならない。

②ブランド分析

ブランドを構築するためには、自分たちのブランドがどのような状態なのかを調査し、分析することから始まる。
これは言い換えれば、ブランド・レレバンス(ブランドの関連性)を判断することがポイントになる。
ブランド・レレバンスは以下の観点で評価できる。

・市場におけるサプライヤー構造
・競合企業の数
・購買プロセスの複雑さ
・購買センター(顧客内部の関与者)の規模
・ブランドの「大衆に対する」可視性

これらの基準でブランディングへの投資が妥当かどうかを判断する。

また、ブランド戦略立案の前段としてのブランド分析では以下の問いに答えられるようになっているとよいとされている。

・自社は何者か?
・自社にとって重要なことは何か?
・自社は何のためにあるのか?
・顧客にとって重要なことは何か?
・競合とは何が違うのか?
・5年後にどの位置で、どうありたいか?

この5項目を見ると、ブランド分析は必ずしもマーケティング観点だけではなく、企業のミッションやビジョンといった組織論にも関連が深いことがわかる。前述のブランド計画における“一貫性”のコンテクストからも、企業文化やアイデンティティ、発信するメッセージ、顧客への提供価値や体験といった分析がやはり重要なのだとわかる。

③ブランド戦略

ここでいうブランド戦略というのは、広義のマーケティング戦略のプロセスに酷似しており、前述の「計画」「分析」のフェーズを経て、“顧客が自社に何をもとめているのか”を正確に把握し、いわゆるSTP(セグメント・ターゲット・ポジショニング)を通じて、価値を提供することとされている。
この戦略を強力に実行し続けることで、ブランドが構築されていく。

④ブランド構築

ここで重要なのが、前述のCBBEモデルだろう。

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ブランドは決して短期で構築されるものではなく、果てしなく構築され続けるものである。
上図三角の中の6つのブロックもブランドの構築に深くかかわる。
これらは三角形の下から順に確立するものである。
ブランド・セイリエンス(際立った特徴)
・ブランド・パフォーマンス
・ブランド・イメージ
・ブランド・ジャッジメント
・ブランド・フィーリング
・ブランド・レゾナンス

上記のロジックは、すでに一定のブランドがある場合に、効率的にブランドを構築するためのステップであるが、例えばスタートアップやリブランドのように、新しくブランド構築を始める場合には別のアプローチが取られる。

①士気を高めるビジョン・ステートメントの策定
ブランドアイデンティティを定義する前に、インナーブランディグの一環として、強力なメッセージをビジョン・ステートメントとして策定しなくてはならない。ブランドは一貫した顧客体験を提供することが必要なので、まずはどのような体験を提供するのか?という志を明文化する。

②変革戦略
顧客はブランドとの関係性をバリューチェーン全体から理解する。そのため、部門横断的なアプローチへの変革や、価値観を変化させる必要がある。特にブランドのTOPやブランドマネージャーが大企業からの移籍組の場合には、特にこの変革には一定の抵抗やマインドチェンジが必要になることがあるだろう。

③マーケティング計画
特にスタートアップやスピンオフした新ブランドにおいては、大規模な広告予算を投じたマーケティング活動をすることは難しい。短期的な目標を達成するための計画や施策実行ではなく、ブランディングを目的とした中長期のマーケティングプランを平行して計画しておく必要がある。

④強力な実行
マーケティングプランの実行というよりは、顧客体験に一貫性を持たせるための、部門横断的な戦術の実行という意味合いで言及されている。

⑤診断の測定基準
ブランド戦略と戦術を結びつけるためには、ブランドの力を測定するための基準を決めなくてはならない。この基準は必ずしも月次KPIのように短期で測れるものではなく、中長期的に増減が判断できる指標であることが望まれる。

⑤ブランド監査

ブランド構築がなされればそれで万事完了というわけではもちろんない。監査というよりは、PDCAのように、ブランドがどのように成長しているかを測定しなければ(し続けなければ)ならない。
広告の投資対効果がROASであらわされるように、ブランディングに関してもROBI(Return on Brand Investment)という指標で効果が測定される。
例えば、外部調査によるブランド・レレバンスの増減や指名ワードによるキーワード検索やサイテーションの総量、そして中長期的な売り上げや利益をビジネスインテリジェンス(BI)によって可視化することでROBIを測ることができる。

全体的なブランディング戦略で失敗しないために

同書では、ブランディングが失敗する可能性を高める要因にも言及している。実際にブランディングを手掛ける際には以下の点に注意して進めなくてはならない。
・ブランドは自分のものであるという誤解
・ブランドは時間とともに自然に育つという誤解
・ブランド認知とブランド・レレバンス(関与)の混同
・ブランドを自社内だけで閉ざさない
・ブランディングを外部パートナーに丸投げしない

実際には他にも注意すべき点や落とし穴は無数にあるのだが、特に上記の誤解や行動には気を付けなくてはならない。
大切なことは、これまでにも述べてきた通り、ブランドは自社とステークホルダーとの約束事であり、戦略的に成長させていくものである。また、認知を取るために代理店に丸投げして大量の広告を打つことはブランディングとは呼ばず、自らブランド・アイデンティティを明文化して可視化することが第一歩であるという原則を忘れてはならない。

まとめ:B2B企業におけるブランディングとは?

自分自身、長いことマーケティングに携わっている中で、B2CとB2Bの違いは認識していたものの、抽象度をあげて双方を見つめなおすと、結局やるべきことは一緒だな、、と思っています。
ただ、コンテンツマーケティングや広告といった施策での共通項は多々あるものの、ブランディングに関しては自分の中でモヤッとしていた部分もあった。
でも、この『コトラーのB2Bブランド・マネジメント』に出合って、そのモヤモヤは徐々に晴れてきているという実感もある。

同書の中に、下記の一説がある。

最高のブランドは、2つの決定的な真実の瞬間で常に勝利する。
第一の瞬間:顧客が競合っ製品をすべて検討した後に、選別し、選択し、購買の契約を行うとき。
第二の瞬間:個客が自宅や職場、あるいは生産現場で、そのブランドを使用し、経験し、満足や不満を感じるとき。

これが、B2Bでもブランディングに取り組むべき最大の理由で、前述のとおり、
・情報効率の向上
・リスク低減
・付加価値及びイメージの改善
という、自社・顧客双方にメリットをもたらすことになる。

確かに、KPI管理による定量的な月次進捗という観点ではなかなか優先度を上げることは難しいのかもしれないが、その月次KPIを大きく伸ばすためにも、中長期的なブランド戦略という視点はもっていなくてはならないと確信した。

また、ブランディングはマーケティング部が単独で取り組むものではなく、経営がビジョン・ステートメントを発し、顧客体験に一貫性を持たせる必要があるので、全社で取り組まなくてはならない。

冒頭で触れたTHE Modelも全社的な取り組みといえるが、THE Modelはどちらかというと完全分業体制の構築により内部の業務効率や生産性を向上させるという、Sales Orientedなものであるのに対し、ブランディングは“顧客が”一貫したブランド体験を得るための戦略という点で、よりCustomer Orientedといえるのではないだろうか。

マーケティングに限らず、ビジネス全体も可視化される情報が増えていることに伴い、従来以上に顧客目線が必要となってくる。この顧客目線をさらに一歩進めた考えとして、顧客体験(CX)により一層本気で取り組むきっかけになるのではないだろうか。

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