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    北海道…❝原野❞に帰る

きつつき…気づき_Vol.002_

 連絡船に乗って「北の国」へ、はじめて津軽海峡を渡ったのは高校時代。
 大沼(公園)のほとりで、大の字に寝転がって天空を満喫していたら、「この辺いまなら坪50円で買える…どうだい1000坪ほど」土地の人からもちかけrられ、(からかわれた)と感じた己が不愉快になった。

 大学に進むと、脚は「北の大地」の核心「道央」から、さらに北辺の大雪へと向かう。「開拓地」踏査に新聞学科同志を募ってのりこんだのは名寄なよろの西奥、朱鞠内しゅまりない湖に近い茫漠とした原野。
 真夏でも明け方にはブルッと冷えこむ、砂埃が風に舞うばかりの、イジメとしか思えない  ごろた石だらけの「開拓地」と蹴って、「こんな畑でジャガイモなんか育つんですか」後輩が怒りを叩きつけるように言った。

「大学じゃ薪割りなんか教えてくれんもんな…」
 そんな憎まれ口たたきつつ、夏休みの教室を宿所に提供してくれた分校の小学校長先生。僻地へきち校ばかり希望して渡り歩く  この先生一家につれて半世紀…先生の最後の任地は十勝岳山麓、❝富良野❞に近い美瑛町北瑛だった。

 いまでこそ、富良野は「北の国」花のふるさと、また「北海へそ祭り」でも賑わう観光地だけれど。この地を貫いて走る根室本線には十勝山脈越え狩勝峠という一大難関があって、それだけで道東への想いを遠くしていた。
 ぼくは校長先生が棲む美瑛から富良野へ出、狩勝峠越を目指すことが多かったのだが。それはいつも「遠くへ…」覚悟の旅であり、同じ根室本線列車の座席に乗りあわせる土地人たちの表情にも、緊張の予感がただよっていたことを忘れない。(この鉄道が途絶えたら…そのことであった)
 
「北の国」の玄関口・函館に遅い桜の便りが届く5月の連休頃、「狩勝峠は吹雪…」の報を聞きながら。花見の客たちがふと厳冬に想いを馳せるのは…下校の子たちに襲いかかる猛吹雪のこと。国道でバスを降りたあと、わが家までの道にはぐれ命をおとす幼な子が、いまもある。

 この半世紀の鉄道交通は、蒸気から気動車、電車、新幹線へ。
 この間、テレビ・ドラマ『北の国から』(1981~2002年、脚本=倉本聰、出演=田中邦衛・吉岡秀隆・中嶋朋子ほか、ロケ地『麓郷の森』は富良野市東麓郷、近い駅は「布部」)、映画『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年、監督=降旗康男、主演=高倉健、舞台の終着駅「幌舞」になったのは根室本線の南富良野町「幾寅」駅)で愛されながらも…。
 24年3月31日(1907年の開通から117年)に、JR北海道・根室本線は滝川-根室362.1 ㎞のうち、富良野-新得81.7㎞の運行を終え。ついに狩勝峠からレールが消えた(それより前の16年8月、幾寅駅のあたりは台風に被災、以来バス輸送に替わっていた)。

 この根室本線そのものが、本線にもかかわらず全線単線・非電化という稀有な路線であり。地図を見てもらうえばナルホド…
 新得 - 帯広 - 釧路間は、そののち開通した石勝線とともに札幌市と帯広市・釧路市を結ぶ幹線ルートの一部に出世。一方の滝川(函館本線) - 富良野と釧路 - 根室は地域輸送のみのローカル線の位置に据え置かれたまま。

 ぼく  じつは、この日の来ることをずっと怖れつづけてきた。
 世に盛衰はつきものだし、いまは全国的に鉄道交通の世紀末…事情はやむをえない…けれども心中さむざむと沈むものがある。
 道東へなら❝道❞路がある、❝空❞路だってあるじゃぁないか…だが。
 じつは、ほとんどのレールが道に添ってつづくのであって  絶えて道のないところにはレールも駅もない  からだ。
 北海道は、ふたたび孤島の❝原野❞に帰ろうとしている  のではないか……

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