塗料の歴史 4(紀元前1000年頃、樹脂編)

■紀元前1000年頃の樹脂

中国では紀元前1500〜770年頃の殷、周時代には車や弓に漆が使用されており、東洋では漆を樹脂とするが一般的であった。

一方、西洋ではエジプトで蜜蝋やエゴノキ油をバインダーとするワニス(ニス)が作られている。その他には化石樹脂と亜麻仁油を溶融させて高粘度なワニスを使用していたが後にテレピン油を薄め液として粘度を下げ使用していた様である。

■植物油について

植物油が塗膜形成後にバインダー成分として構成されている事に違和感があるが、植物油は立派な樹脂である。(正確には樹脂モノマー)

植物油はグリセリンと脂肪酸の化合物で脂肪酸の種類、含有量、組成で性質が決まる。

また、脂肪酸には大きく分けて2種類の脂肪酸がある。

・不飽和脂肪酸→-C=C-の二重結合を含む脂肪酸(オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸など)
・飽和脂肪酸→-C=C-の二重結合を含まない脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸など)

植物油は不飽和脂肪酸の炭素二重結合と空気中の酸素が酸化重合して樹脂が形成される。(植物油が重合することを乾燥と言います)

よって、不飽和脂肪酸が多いほど乾燥が早くなり、不飽和脂肪酸が少ないほど乾燥が遅い、または乾燥しない植物油となる。

また、不飽和脂肪酸量を示す指標としてヨウ素価(ヨウ素と炭素二重結合は容易に付加反応する為、反応したヨウ素量で炭素二重結合の数を測定)が有り、植物油はヨウ素価から以下の様に分類されている。

・乾性油(ヨウ素価130以上)→アマニ油、桐油、エノキ油、向日葵油など
・半乾性油(ヨウ素価100〜130)→綿実油、ごま油、コーン油など
・不乾性油(ヨウ素価100以下)→椰子油、オリーブ油、なたね油、サフラワー油など

当時はリサージ(一酸化鉛、PbO)をオリーブ油に添加すると乾燥を速めるとの記録も残っており、反応促進剤を感覚的に使用していた様である。

紀元前にかけて人類はバインダーとして植物油、卵白、天然アスファルト、蜜蝋を使用してきたが、近代まで西洋では植物油、東洋では漆が主体として使われていた様である。

近代の洋式塗料の合成樹脂が発明されるまで塗料の樹脂が紀元前でほぼ確立されていた事は非常に驚きである。

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