塗料の歴史 3(紀元前3000年頃)

■紀元前3000年頃の塗料


紀元前3000年頃になると各地域で文明が開化し、大きな国が出来ることで技術も進歩しています。

バインダーとしては天然アスファルトが使用され防水剤、接着剤、エジプトではミイラの防腐剤としても使用され始めてました。

また、当時使用されていた主な顔料を下記に示しています。

前回の紀元前5000年前では鉱物でも弁柄、黄土が多かったですが、アズライトやマラカイトなど緑、青系の顔料が登場し、色彩表現の幅が広がっています。


紀元前3000年頃に使われていた顔料(一部)

・白亜(チョーク、未固結の炭酸カルシウム CaCO3)
・石膏(硫酸カルシウム CaSO4)
・カーボンブラック(木質材の焼成によるスス C)
・赤土(天然酸化鉄 Fe2O3)
・天然群青(アズライト 2CuCO3・Cu(OH)2)
・孔雀石(マラカイト CuCO3・Cu(OH)2)
・黄土(酸化水酸化鉄(Ⅲ) Fe(OH)3)

■エジプシャンブルー


上記の様に緑、青系の顔料の使用することが古代エジプトでも増えて来ます。

特にアフガニスタン付近で産出されていたラピスラズリ(ウルトラマリンとして有名、主成分はラズライト(Na,Ca)8(AlSiO4)6(SO4,S,Cl)2)が珍重されていましたが、その希少性と難加工性の為、それに代わる顔料としてエジプシャンブルーが発明されます。


製法としてはシリカ(石英砂)、酸化銅やマラカイト、石灰、反応の媒介としてのソーダ灰(Na2CO3無水物の融点は850℃)を破砕混合し800~1000℃で数時間加熱します。

850℃付近では青色、1050℃付近では緑色と反応温度で色が変わる特徴があり、人類で最初の化学反応を伴う青顔料とされています。


エジプシャンブルー反応式

Cu 2 CO 3(OH)2 + 8 SiO 2 + 2CaCO 3 →2CaCuSi 4 O 10 + 3CO 2 + H 2 O


エジプシャンブルーの製法に関して古代エジプト人は記録しておらず、エジプト王朝の衰退と共に製法も謎のまま、後世の人々がトライしましたが成功したのは実に1815年になってで、ハンフリー・デービー(イギリスの化学者 1778−1829 Na,K,Ca,Mg,Ba,Bの元素の発見者)が再現に成功しています。


何故、ここまで古代エジプト人が青を特別視していたかと言うと、青は空、ナイル川、水の象徴であり、エジプト神話の原始の神ヌンを表す色でもあります。

また、ウルトラマリン色は夜空を表し、夜空は死を象徴させます。

この様に生命の誕生から死までを象徴する色として青は特別な意味を古代エジプトでは持っていたと言えます。


バズワードとしては古いですが、宗教というフィクションが人類初の人工青顔料を生んだ動機と考えれば感慨深いものがあります。

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