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【吹奏楽コンクール2024】注目の選曲:邦人オリジナル作品編

 前回投稿した海外オリジナル作品編の個人的な注目作品紹介noteが思いの外反響があったので、今回は【吹奏楽コンクール2024】注目の選曲:邦人オリジナル作品編です。

紹介するポイントは以下の通りです。詳細は前回のnoteを参照してください。
・今年のコンクールで個人的に気になった選曲を紹介
・ピックアップ対象は「大編成部門(A部門)」かつ「支部大会(全国大会の1つ前の大会)に出場した団体」の選曲
・今回紹介するのは「邦人作曲家による吹奏楽オリジナル作品」

 さっそく作品の紹介に入っていきます!

【吹奏楽コンクール2024】注目の選曲:邦人オリジナル作品編

地水火風空 5つの打楽器群とウインドオーケストラのための(阿部勇一)

支部大会での演奏団体:川崎市立橘高(東関東)
※参考音源なし

 阿部勇一氏の2024年の新曲で川崎市立橘高等学校吹奏楽部の委嘱作品。2024年3月18日に初演されたばかりの作品です。

 演奏時間は9分半程度、曲名の示す通り打楽器セクションをフィーチャーした作品のようで、バンドを取り囲む5つの打楽器郡など独特の配置がどのような音響効果をもたらすのかが気になるところです。

交響詩「鯨と海」(阿部勇一)

支部大会での演奏団体:柏市立柏高(東関東)、文教大学(西関東)、ルロウブラスオルケスター(東海)、京都共栄学園高(関西)など

 グラールウインドオーケストラの第41回定期演奏会の委嘱作品として2022年6月に行われた同楽団の第41回定期演奏会にて初演された作品。

 北極海の冷たい海中を泳ぐ鯨の描写、突如目の前に現れた黒い山の如く巨大な鯨の描写、太陽の光を受けて輝く南の海のキラキラとした景色…など「鯨と海」に着目した様々な描写が音楽で表現されています。

 昨年発売された「令和新風4」のCDで初めて聴いたときにすっかりハマってしまい、私のnoteでも個別に楽曲を取り上げて紹介させていただきました。

 こちらのnoteの最後に「これから演奏する団体がぜひ増えてほしい」と書きましたが、1年でこんなに演奏されるようになるとは…!非常に嬉しいです。

波瀾万丈(天野正道)

支部大会での演奏団体:柏市立酒井根中(東関東)

 2021年6月12日に行われたグラールウインドオーケストラ創立30周年記念第40定期演奏会の委嘱作品として作曲された天野正道氏の『波瀾万丈』は、同楽団の指揮者・佐川聖二氏の波瀾万丈な人生を表現した3楽章構成・約30分の作品。

 天野正道氏による吹奏楽オリジナル作品としては交響組曲「ガイア」(演奏時間50分)、交響曲第1番「グラール」(演奏時間40分)に次ぐ長大な作品のため、30分ほどある楽曲のどの部分を抜粋するのか気になるところです。

 団員の急逝、指揮者である佐川氏の妻や天野氏の母の逝去という度重なる不幸などもあり、"哀悼"という副題が追加された「巻之弐」は聴いていて自然と涙が流れてしまいそうになる楽章です。

地球 一地上の平和一 (伊藤康英)

支部大会での演奏団体:創価大学パイオニア吹奏楽団(東京)
※参考音源なし

 今年の吹奏楽コンクールの東京都大学吹奏楽コンクール予選のプログラムを見たところ、創価大学パイオニア吹奏楽団の自由曲に『地球 一地上の平和一(Fried auf Erden)』という楽曲がありました。

 伊藤康英氏が2005年に作曲した楽曲に『地球(The Earth)』(副題:三部作「惑星」より)というものがありますが、こちらと同じ楽曲を指しているのかは不明です。

 作曲者本人による『地球』の楽曲解説に「地上の平和」という単語と、ドイツ語に訳した「Friede auf Erden」というワードも出てくるので何となく『地球』と同じ楽曲(もしくは『地球』をもとに再構成した楽曲)かと思いますが、詳細は分からず…。
 どなたかご存知の方は情報いただけると助かります。

→2024/9/2更新
こちら、関係者の方より『地球』をもとに再構成した別の作品であることが分かりました!情報提供ありがとうございます!m(_ _)m

吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」(伊藤康英)

支部大会での演奏団体:創価学会関西吹奏楽団(関西)

 伊藤康英氏の代表作とも言える『吹奏楽のための交響詩「ぐるりよざ」』が久しぶりに全国大会に登場です。
 最近のコンクールでは『ピース、ピースと鳥たちは歌う』の方ばかり演奏されていたので、全国大会で『ぐるりよざ』が演奏されるのは素直に嬉しいです。

 この作品は1990年に海上自衛隊佐世保音楽隊の委嘱により作曲されました。長崎の隠れキリシタン文化からインスピレーションを受けて作曲された楽曲で「祈り」「唄」「祭り」の3楽章構成で全20分程度の楽曲です。

 AppleMusicでもプロ・アマ含め様々な団体の録音が聴けますが、ここはやはり私が初めて聴いたときに衝撃が凄かった小野田宏之(指揮)&東京佼成ウインドオーケストラの演奏を推したいです。

半音階的狂詩曲(酒井格)

支部大会での演奏団体:松山南高(四国)

 今年の課題曲3『メルヘン』の作曲家でもある酒井格氏が2017年に作曲した10分程度の楽曲。

 プロオケ奏者が年に1度集まって吹奏楽に取り組む「なにわ《オーケストラル》ウィンズ」のために委嘱された作品で、「各プレイヤーの素晴らしい音色をいかに活かすか?」という点を最優先に考えて作曲されており、どの楽器も活躍する"全員主役"のような曲です。

 酒井格作品の中でもかなり自由に書かれた作品という印象の曲で、個人的に大好きな作品です。『森の贈り物』などが大人気ですが、バンドの全員が活躍するこの作品がもう少し演奏されて欲しいですね…!

フィリグリック・モノリス(鈴木英史)

支部大会での演奏団体:デアクライス・ブラスオルケスター(東京)
※参考音源なし

 2024年7月7日に行われたデアクライス・ブラスオルケスターの創立15周年記念演奏会で初演された同団体の委嘱作品です。

 初演されたばかりの作品のため、楽曲の詳細情報が見つからないので曲目からの推測となりますが、
 ・filigree(フィリグリー)は「線条細工」という意味で、フィリグリック(filigric)で形容詞になった単語と考えて、「線条細工的な」という意味になるかと思います。
 ・monolith(モノリス)は「巨大な一枚岩」「石柱」「一枚岩的な組織」という意味です。

 つなぎ合わせると「繊細さと巨大さ・頑丈さを兼ね備えたようなもの」を表現した楽曲でしょうか…?
 同氏の代表曲『カントゥス・ソナーレ』のような壮大な楽曲だと個人的には嬉しいです。

Always the way remains(長生淳)

支部大会での演奏団体:日立市民吹奏楽団(東関東)
※参考音源なし

 日立市民吹奏楽団の楽団創立50周年記念委嘱作品として作曲され、2024年5月26日に行われた同楽団の第40回定期演奏会で初演されたばかりの作品です。

 今年作曲された長生作品は『ティンパニ協奏曲』『Unified Tale〜重なりあう物語(ドラム協奏曲)』とこちらの『Always the way remains』の3曲ですが、私はこの作品だけ未だ聴けておらず…。どのような作品なのか気になります。

レミニサンス(長生淳)

支部大会での演奏団体:土佐女子中学高(四国)

 『レミニサンス』は長生淳氏が33歳のときに作曲した作品。レミニサンスという単語は英語を直訳すると「回想」ですが、タイトル表記のフランス語(Réminiscence)では「かすかな記憶」「過去の記憶が思い出そうともしないのに自ずと湧き上がってくること」を意味する単語です。

 過去の自分の濃密な記憶が圧倒的な音の津波となって襲いかかってくる様子と、落ち込みながらも最終的には立ち直って未来へと向かっていく様子が7分半の中で凝縮して表現されている長生氏の初期の代表作です。

 以前は佼成出版社から楽譜が出版されていたのですが、現在は絶版となっており楽譜はフリマアプリやオークションサイトで入手するしかなく、そもそも選曲するハードルが高いです。どこかの出版社で再度出版されてもっと演奏されるようになると良いのですが…。

彩をえがく鳥(芳賀傑)

支部大会での演奏団体:秋田吹奏楽団(東北)、川越奏和奏友会吹奏楽団(西関東)、北陸高(北陸)、早良市民吹奏楽団(九州)

 『彩(いろ)をえがく鳥』は2020年にやまももシンフォニックバンド委嘱作品として作曲されました。後にスイスのルガーノで行われたOrchestra di Fiati della Svizzera Italiana国際吹奏楽作曲コンクールにて第1位を受賞しています。

 木管楽器によって繰り返し演奏されるトリルの音型がざわめく木の葉や煌めく木漏れ日の様な音の風景を描く前半部、金管楽器の祝祭的なファンファーレが印象的な中間部、そして一定のリズムで鳴らされるウッドブロックが印象的な駆け抜ける後半部という3部構成になっています。 

 昨年の吹奏楽コンクール全国大会では日本経済大学(九州)が演奏したようですが、今年は複数団体によって支部大会で演奏されています。来年以降も繰り返し演奏される楽曲となる予感がします。

ピョートルの悲劇(松下倫士)

支部大会での演奏団体:グラールウインドオーケストラ(東関東)
※参考音源なし

 グラールウインドオーケストラ委嘱作品で2024年7月15日に行われた同楽団の第43回定期演奏会で初演されたばかりの作品。

 チャイコフスキーの人生を描いた楽曲とのことで、同じようなコンセプトで作られた邦人オリジナル作品としては鈴木英史氏の『ピエトロ・モンタージュ』が既にありますが、こちらの作品とどのような差別化がされているのかは気になります。

打楽器とウィンドオーケストラのための協奏曲(黛敏郎)

支部大会での演奏団体:立正大学吹奏楽部(東京)

 打楽器とウィンドオーケストラのための協奏曲は黛敏郎氏が1965年に作曲した打楽器と吹奏楽のための協奏曲です。

 サクソフォン属無しでそれ以外の木管楽器、金管楽器は6管編成という癖のある編成のため、プロの楽団や音大の演奏会でも滅多に取り上げられない作品です。

 楽譜通りの編成(サクソフォン属無し)なのか、それともサクソフォンを加えた編曲版なのか不明なためこちらで取り上げるべきか迷いましたが、東京都大学吹奏楽コンクール予選のプログラム上は編曲者の表記が無かったため、オリジナル作品の枠組みで紹介しています。

■最後に

 【吹奏楽コンクール2024】注目の選曲:邦人オリジナル作品編と題して今年のコンクールで個人的に気になった邦人オリジナル作品を12作品ほど紹介しました。

 YoutubeやAppleMusicでノーカット音源が存在する作品については各曲の紹介と合わせて参考音源を添付しましたので、お時間ある時にぜひ聴いてみてください。
 ※先日投稿した海外オリジナル作品の紹介noteと比べると新曲が多く、参考音源付きで紹介できる楽曲が少なく申し訳ありません…。

 次回は気になった選曲(編曲作品編)を書こうと思います。

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