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雨が空から降れば

3月3日に別役実さんが亡くなったとの報せ。

別役実さんは、劇作家のほか、童話作家、評論家などの横顔も持つ。Twitterの追悼コメントは、演劇畑の人たちからのリスペクトであふれていた。

しかし自分にとって別役実さんは、「雨が空から降れば」の詞を書いた人。『スパイものがたり』の劇中歌として小室等さんが作曲し歌ったこの作品を、南こうせつとかぐや姫がデビューアルバム『はじめまして』(1972年)の収録曲としてカバーした(歌:南こうせつ)。

劇中歌というだけあってコーラスの区切りがない短い作品だが、不思議な味わいのある歌詞で、かぐや姫の全作品中でも異色。最後のフレーズ「おさかなもまた雨の中」、その面白味については下記ページで解説されている。

もうひとつは、公園のベンチで魚を釣る、釣った魚も雨の中、という部分だ。ベンチが公園の池のほとりにあれば、魚釣りは物理的に可能だが、それなら普通、公園の池で魚を釣ると書くだろう。そうではなく、ベンチで魚を釣るという行為のシュールさと、もともと水の中にいて濡れている魚が、釣られて雨の中という描写のとぼけ具合が、親しみやすいメロディとあいまって、この歌を幻想的なものにしている。

愛も恋も人生も出てこない、ありふれた日常を幻想的な文法で描いたこの歌詞は、かぐや姫のメンバーにも書けるものではなく、だからこそカバーに選ばれたのではないかと思わせる。南こうせつによれば、日比谷野外音楽堂で六文銭が演奏した「雨が空から降れば」を気に入り、電話でカバーの了承を取りつけたとのこと。


別役実さんの娘・べつやくれいさんのコメント

べつやくれいさんは昨年9月『デイリーポータルZ』で、ご両親の話を書いていた。別役家の引っ越しにまつわるドタバタを描写した記事。当時、別役実さんはパーキンソン病でリハビリ中だったとのことだが、ジョーク集の本に書かれたフレーズを朱書きで添削するほど、ユーモアがお好きな人だったようだ。


あのケロヨンも、「雨が空から降れば」を口ずさんで追悼。
ケロヨンには雨がよく似合う。

1976年にはNHK『みんなのうた』でも採用されたそうだが、自分はリアルタイムで聞いてないと思う。

ついでに思い出したので、書いとこう。

40年ほど前、小室等のラジオ番組(たぶん『小室等の音楽夜話』)に井上陽水がゲスト出演した。そこで陽水が「雨が空から降れば」に触れ、「『電信柱もポストもふるさとも』のコードはステキだね。どんなコードなの?」と小室等に尋ねる一幕があった。しかし、ただのE7だよと作曲者本人から教えられ、陽水はやや拍子抜けした感じだった。

でも、そのE7は間違いなく、この曲の幻想的な雰囲気づくりに一役買っている。

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