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【漫画記録】違国日記

久しぶりに感涙した漫画なので、真面目に記録を書いてみようと思います。
他人に向けた記事というのはあまり得意ではなく?というか前回も書いたとおり感想文というものが苦手で?試行錯誤しつつ、でも『違国日記』の魅力を分かってほしくて筆を執る次第。サムネは昂るあまり描いた槙生ちゃん。

『違国日記』の魅力を一言でいうと、物語全体を通じて「槙生ちゃん」が小説家であるという圧倒的な説得力、かと思います。

え、そういう話じゃなくない? とちょっとぐぐってあらすじを読んだ方は思うだろうし、実際そのとおり、小説家云々という話ではない。公式ホームページによれば以下のとおり。

人見知りな小説家と姉の遺児が送る年の差同居譚

https://www.shodensha.co.jp/ikokunikki/

さすが公式、そのとおりだわ。
とか馬鹿丸出しの感想はさておき。たったその一言では表せない魅力がそこにあるのです。

とりあえずあらすじ。
両親を突然交通事故で亡くしてしまった中学3年生の主人公「朝」と、その叔母・根無し草のように生きている小説家「槙生ちゃん」との3年間についての話です。

二人の暮らしは槙生ちゃんが姉の訃報を聞いたところ、すなわち朝が両親を亡くしたところから始まります。
槙生ちやんは朝に一宿一飯を与えますが、そこで槙生ちゃんは“両親を事故で亡くした朝”に慰めの言葉をかけてあげません。大丈夫、とかかわいそう、とか、”普通”はそんな言葉が出てくるものかと思うのですが、槙生ちゃんは、ただ「あなたが気の毒だと思うと悲しい」と言うのです。
それは一見冷たいというか、槙生ちゃんの変人っぷりを際立たせる、いわばキャラ付けのための言動のように見えるのですが、物語を進めると、そうではなく、それは槙生ちゃんが誰よりやさしく誠実な人だからこそ出てくる言葉なのだと理解できます。きっと槙生ちゃんは「両親が死んだたった15歳の子になんと声をかけるべきか。可哀想とは違う。ろくに関わりのなかった自分は大丈夫と訊く立場にはないし、訊いてどうするわけでもない……」などなど、誰よりも悩んだからこそ口にしなかっただけなのでしょう。真っ先に朝に声をかけた人だって冷たいわけじゃあないのですが、でも「なんて声をかけよう」という悩みに対して安直に答えを出したというか、妥協したような、そんな印象を抱きます(後々、最初のシーンは、本当に心から気遣って、死ぬほど考えて行動した結果がそれなのか?と言いたくなるようなシーンであったことが分かります。)。そうして、一風変わった槙生ちゃんと人懐こい朝との独特の空気感の同居生活が始まっていきます。


そんな『違国日記』の魅力はなにかと言われると、的確で丁寧な「ことば」かと思うのですが、じゃあその「ことば」が誰のものであってもいいかと言われるとそうではないように思うので、そのことばを発する「槙生ちゃん」が何よりも魅力的なのではないかと私は思います。

槙生ちゃんは、冷たいと言っても過言でなさそうなほど社会不適合者だし、他人への想像力も共感力も欠いているけれど、誰よりも他人に対して誠実に接するひとなのです。槙生ちゃんの社会不適合は、他人と関わるのに異常なほどのエネルギーを要することの裏返し、つまり自分の大事な他人(身内という言い方をするといいのでしょうか?)にエネルギーを費やすので精一杯という意味であって、「冷たい」なんて乱暴な形容をされるものではないのです。
そしてそのエネルギーの費やし方が、槙生ちゃんの選ぶことばに顕れているのだと思います。物語全体を通じて、”だから槙生ちゃんは小説家なのだ”という圧倒的な説得力があるのです。槙生ちゃんが小説家になった理由ではなく、そうやって他人にことばを選び尽くせる槙生ちゃんだから小説家という高尚な仕事をしているのだ、という説得力です。
槙生ちゃんは、朝に「あいしている」とは言わない。そんなたった一言では足りないから。それはひねくれた見方をすればお涙頂戴の陳腐なキャラクター設定のように見えるかもしれないのですが、”槙生ちゃんは本当に朝をとても大切に思っているんだ”と、狂おしいほどの優しい感情が、それまでの物語を通じて屑々として伝わってきます。だから槙生ちゃんは小説家なのだ。

それゆえに、ところどころのコマや見開きとかに出てくる槙生ちゃんは、ときどきゾッとするほどうつくしいです。絵画に対する感性は目も当てられないほど皆無なのですが、それでもゾクッとする。他人に対して常に誠実なその生きざまが、本当に息を呑むほどうつくしい。

そんなこんなで、私は槙生ちゃんにすっかり魅せられてしまっていますが、もちろん違国日記の魅力は槙生ちゃんだけではないのです。登場人物達が、誰も彼も人間らしくて、でもやさしい人間です。彼らの存在によって、ひとはこんなにもひとに対して丁寧に誠実であることができるのかと思えるほど、ひとびとがひとびとに対し、丹念に丁寧にことばを選び続けるやさしい世界が広がっています。



まとまりのない感想をたらたらと書いてしまい(というかまともに書けずに下書きに放置してしまっており)、違国日記に魅力を伝える国語力がないことが非常に残念なのですが、誰か1人に1ミリでも伝わればいいなと思います。
私的2023年ナンバーワンの漫画でした。読了するとき、きっと誰もがこの優しい世界に涙すると思うのです。

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