励ましのサイエンス 其の14 ハゲを励ます事業から紐解く「励ましのサイエンス」
やなさわ:「励ましのサイエンス」、ここで中締めということで。今回のゲストはカルヴォ創業者、美USUGE研究家の松本圭司さんです。
カルヴォはイタリア語で薄毛、つまりハゲ。ハゲの人を励まそうと立ち上げた会社ですから、まさに「”励まし”のサイエンス」にふさわしい。
松本圭司:僕は薄毛に悩む男性に寄り添い、その個性を活かすためにカルヴォのコンセプトを広げようとやってきました。
でも僕自身、ハゲていく過程の中で、励まされることってほとんどなくて。むしろ本(『ハゲを着こなす ~悩みを武器にして人生を変える方法』)にも書きましたが、他人の何気ない一言に傷つけられた経験の方が圧倒的に多い。なんていうこともない、たわいもない発言なんですけど。
やなさわ:わかります。勇気づけようと思った言葉にせよ、そもそも何も考えていないにせよ、いろんな意味でハゲは傷つきますよね。
松本:「ハゲを励ます」ってめちゃめちゃ語呂いいんですけど、ハゲで悩んでいる人に「頑張れ」っていうのは、たぶん最悪のアドバイスだと思います。
やなさわ:頑張れないですものね。
松本:頑張れないですよ。そんなこと、言われてなくたってわかっているんですから。「励まし」というカテゴリーが存在するとしたら、「ハゲを励ます」ことは、その中で最も難易度の高いもののひとつだろうなと思います。
ハゲを励ますために大学教授と黄金律を算出
やなさわ:でも、ハゲを励まそうと思ってカルヴォを立ち上げた。
松本:はい。それでハゲを励ましたいと考え、大学院の先生と協力してリサーチを行い、髪型の黄金比を算出しました。男の人は何せロジックが好きですから。
やなさわ:あれは感動的でした。
松本:これまで暗黙知として共有されたものを、300人のデータ統計で裏付けを取りました。
やなさわ:あれを読んで、なるほど髪型次第で見え方が変わるんだなと。つまり、髪を上の方に尖らせ、バランスをよくすればいいんだなということを学びました。なので、僕は整髪料とかつけるのはめんどくさくてやらないですが、せめて乾かす時にドライヤーで頭頂の髪を立つように乾かすってのを一時期やってましたね。
でもこれ、気をつけないと、朝出社すると、どうやら、寝癖と間違えられてしまいますね。何度も指摘されましたから。
松本:髪を伸ばして隠すより、いっそ短髪にした方がいいと理屈でわかっていても、勇気が出ない人がたくさんいます。気の長さ、職人的な地道さも求められますしね。あと、意外と夫婦間でも相談できない。
やなさわ:現実を直視したくないということもある。
ハゲを励ます適任者は誰なのか
やなさわ:でも、本人が相談できないとなると励ますことはなかなか難しい。何かそのあたりで見えてきたことはあるでしょうか。
松本:難しい問題です。黄金比を見て「これ旦那に薦めよう」なんていう奥さんや彼女ってあんまりいない。あと、今の時代のツールに非常にフィットしないというのも日々感じます。たとえばSNSの拡散ができない。「ハゲを励ます」投稿にいいねを押してしまったら、自分はハゲだと自らのフォロワーに知らしめることになります。
だから一生懸命インスタを更新してもフォロワーなんか絶対増えません。サロンもやっていますが、分析すると、予約の手前のステップで踏みとどまっている人がたくさんいる。関心は持ってくれても、なかなか行動に移せない。
やなさわ:よくわかります。まさに、もう一度言いますが、現実を直視したくない。
松本:たぶん直視しているんです。だけど最後の一押しが足りない。それがなんなのか、それを最近考えていて、その最後の一押しをする人が、まさに「励ましのサイエンス」でいうと、ハゲを励ます適任者というのがいるのではと分析できたのです。
やなさわ:面白くなってきましたね。
松本:最後の一押しをする人は、大きくいうと2つのパターンがあります。ひとつ目は、同じ問題で悩んでいる人です。
やなさわ:つまりハゲ。
松本:僕のことです。
やなさわ:わかります。「気にするな」ってフサフサの人に言われたって無理ですよね。
松本:きっと女性も同じですよね。「こうすればきれいになりますよ」って絶世の美女に言われたところで、そもそも土台が違うだろうと思ってしまうのではないでしょうか。そういう意味では、実際に体験した人の励ましはきっと刺さるはず。
やなさわ:確かに。でも、これはハゲに限らず、励まし全般に言えることかもしれませんね・・・法則とまで言えるのかどうか・・・。
松本:二つ目の話を聞いてからにしてください。その前に、まずは人が誰かに会う頻度とコミュニケーションの内容をマトリクスにまとめましたのでご覧ください。
松本:横軸は継続的関係性があるかどうかです。縦軸はコンプレックスの露出度合い。占い師、バーやスナックのマスターやママというところを見てみてください。この人達とは、そんなに頻繁に会うわけではないけれども、客である自分が、自分の話を打ち明けないとそもそも「場」が成立しない。
やなさわ:なるほど。
松本:関係性が近すぎると、人間関係が崩れるような場合があるわけです、ハゲの話の場合。その話題にわざわざ触れて、関係性を悪くするリスクは誰も取りたくありませんから。でも占い師さんやスナックのマスター、ママといった職業の方は、ズバリ言えたりする。そこまでの関係性がないからです。だからこそ本人も受け入れやすい。
やなさわ:ハゲに限らず、本人がコンプレックスを感じている場合、あまり近い人には却って言いづらい場合もある。なるほど、そういう人と話した方が、むしろ励まされやすい。
松本:たまたま入った占いで言われた言葉に励まされることもあるのではないか、むしろ相手のことをあまり知らない方がいいのかもしれない。という僕の仮説です。
やなさわ:なるほど。面白いです。まとめると、ひとつは自分と同じ経験をしている人の話は励ましになるという話。もうひとつは、ちょっと距離があって言いたいこといえてお互い傷つかない人との会話には、励まされる可能性が高いという話。
しかも面白いのは、そもそも励ましやすい立場にある職業というのがあるということで、考えて見れば、占い師もスナックのママも人を励ましたくなる人がやる職業なのかもしれないです。必ずしも励ます才能がなくても、ただその職業につけば自然と人を励ますことができる立場になれるということなのかもしれない。そう考えると素敵なことのように思えてきました。
励ます相手との距離と励ましの相関性はあるのか
やなさわ:それにしてもよくこんなマトリクスを作りましたね。
松本:そうです。このマトリクスをなぜ作ったかというと、そもそもカルヴォをビジネスとして進めようと思った時に、どうやってハゲに悩める顧客層にリーチするかを考えて、占い師とかスナックのママとかこの人たちにカルヴォを勧めてもらうようにネットワーク化すればいいのではないかという仮説を最近立てています。
やなさわ:なるほど。つまりこの資料は、カルヴォの営業戦略資料。
松本:非常に重要な資料です。
やなさわ:そんな大事なカルヴォの営業戦略資料を惜しげもなく出していただき、おかげで「励ましのサイエンス」がまた深まった気がします。僕もまたハゲまされました。ありがとうございました。