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励ましのサイエンス其の1 佐渡島庸平さんの場合

佐渡島庸平さん
株式会社コルク代表取締役社長/編集者

コルクで新人作家とつくるマンガをすべて縦スクロール・オールカラーに変えたのは2年前のことです。

これまでのマンガは見開き・モノクロがあたりまえでした。紙の雑誌で読むからです。でもスマホで読みやすいのは、縦スクロール・オールカラーのマンガです。

当時、日本で縦スクロール・オールカラーのマンガに振り切っている人は、ほかに誰もいませんでしたが、僕は「そっちに行った方がいい」と思っていました。

やがて縦スクロール・オールカラーのマンガが主流になるのは間違いない。その世界は、はっきり見えている。でも世の中で売れているマンガは見開きばかりで、しかもマンガのつくり方もまったく別ですから、離れていく作家さんもいました。

6年くらいずっと悩んで、中途半端に両方ともやろうとしていましたが、そちらに完全に振ろうと決めたのが2年前です。

そのタイミングで励ましてくれた人が二人いました。一人は直接的に、もう一人は間接的に。

一人は、講談社で「モーニング」創刊編集長をされていた栗原良幸さんです。僕にとっては大先輩です。

お会いしに行き、「縦スクロール・オールカラーのマンガに振り切ろうと思います」と言うと、

「佐渡島、漫画はコマだ」

と言われました。

コマとコマの間に余白がある。その余白は無じゃなくて空なんだと。その余白から、いろいろなものを読者は読み取る。コマで区切った中に人物がいることで意味が変わってくる。コマ割りと余白があることによってマンガはマンガたり得るのだと。「だから佐渡島、おまえがやっているのもマンガだぞ」と栗原さんは言いました。

多くの人気マンガで知られる「モーニング」ですが、1982年の創刊当初はなかなかヒットが出ず苦しんでいたそうです。青年マンガというジャンルも確立されていなかった時代、大人が読むマンガをつくろうと挑戦していたのが栗原さんでした。

その人が僕のやろうとしていることを認めてくれた。マンガの歴史を振り返って、ルーティンではない、深く考えるに値することに挑戦していると認めてくれている。そう思える議論ができました。

もう一人は、韓国のある起業家です。

かつては韓国でも、マンガといえば見開き・モノクロが普通でした。しかし、この数年で大きく変わり、今やマンガといえば縦スクロール・オールカラーがほとんどです。

それは10年ほど前、まだ韓国で縦スクロールの漫画なんて「チープでダメ」だと言われていた時代から、彼が私財を投じて縦スクロール・オールカラーのマンガをやり続けてきたからです。

潮目が変わったのは、この1、2年のことです。昨年末の時点で、縦スクロールのマンガは全世界でユーザー7億人に達しました。日本のマンガ読者は6000万人と言われています。

彼の会社は急成長を遂げて、先日LINEに買収され、いまやLINEマンガの世界トップです。数億人のユーザーを持つプラットフォームとコンテンツ制作チーム両方を手にして、世界に挑戦しています。

彼は、僕よりも何年も前に、同じように耐えていた。彼の努力は、数年後に花開きました。

彼にコンタクトして会いに行ったことがあります。

「いま佐渡島さんが経験しているのは 僕が昔、苦しんでいた道と一緒ですよ」

そう言われました。

それは山登りをしているとき、先人が通った道を辿ることと似ています。

誰かが残した跡を見て、ああ、いいな、とか、あの成功した人も実はこの道を通っていたんだ、そのとき、このくらい苦しんでいたんだ。だから自分も間違っていないはずだと思える。先人の残した足跡そのものに励まされる。

僕のnoteでは、日記など個人的な事柄を書いています。僕が試行錯誤している跡を残しておいたら、いつか誰かの励みになるかもしれない、役に立ててくれる人がいるかもしれないと思うからです。

自分にとってはあたりまえの日常的なメモや気づきもあります。自分にその価値がわからなくても、日々の取組や雑感を残すことで、日常が足跡となって、後に続く誰かを力づけられるかもしれません。僕自身が励まされたように。

僕の足跡が、いつか誰かを励ますような道を歩んでいけたらいい。そう思っています。

やなさわ:なるほど。励ましにも2種類あるということですね。直接的な励ましと、間接的な励ましと。間接的な励ましにも、いくつか方法があるのでしょうけど、自分の足跡が誰かを励ますというのは、たしかにありますね。逆にいうと、相手が自分を励ましてくれるつもりがたとえ毛頭なかったとしても、自分が追いかけたい人を勝手に決めて、その人の生き方から励ましを読み取ることもできるわけですね。面白いです。

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