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励ましのサイエンス 其の9 けんすうさんの場合

大学生の時、ひろゆきさんに言われた言葉が人生の岐路になりました。

僕は当時インターネットでいろいろサービスを立ち上げながらダラダラと学生生活を送っていて、就職する気もありませんでした。このままインターネットの世界でサービスを立ち上げて生きていけばいいかなと。

そんな時、2ちゃんねるの管理人だったひろゆきさんからこう言われました

「このままいくと、おいらみたいになるよ」

これを聞いて、「それはやばい・・・」と思いました(笑)。

もちろん、ひろゆきさんは当時から誰が見ても成功者でした。一方で訴訟も抱えて、いわゆる一般的な社会人の生活とはかなりかけ離れた暮らしをされていたと思います。それは、ひろゆきさんだからできる前例のない生き方で、誰もが真似できるものではない。

ひろゆきさんは、おそらく当時の僕を見て「この子はこのままいくとそうなりそうだけど、そういうタイプじゃないな」と思ったのだと思います。

でも「やめた方がいいよ」とか「無理だと思うよ」と言うと、逆にやりたくなるじゃないですか、若者って。「このままいくと自分みたいになる。それでも大丈夫か」という表現は秀逸だったと今になって思います。人の動かし方を知り抜いた上で、人生について深く考えさせる言葉だなと。

それで僕は就職活動して、リクルートに入社して3年働く道を選びました。

ひろゆきさんは今でもよく質問や取材で「できれば学校を卒業して、一度は大企業に入った方がいい」とアドバイスしています。独立したりベンチャーで働くのはいつでもできるけど、大企業はなかなか入るチャンスがないからって。きっと僕にも同じことを伝えようとしてくれて、でも理屈は一切言わずに「このままいくと、おいらみたいになるよ」という言葉だけをくれた。

やなさわ:面白いですね。人を励ます時、励ます側はちゃんとした生活をしていたり、多少の余裕があることが多いと思われがちですが、「このままだと俺みたいになっちゃうよ」という説得力が人を励ます力を持つとしたら、自分の人生がうまくいっていない人ほど励ましの天才になれるのかもしれない。つまり人生は成功しても失敗しても、どっちに転んでも人を励ますことはできる。

けんすう:たしかに説得力がありますよね。「君も頑張れば僕のようになれるよ」って孫正義さんに言われてもよくわからないけど、ギャンブルをやってる時、ギャンブルで身を崩した人に隣で言われたら、すごく説得力がある。

やなさわ:ただ、それを励ましと感じるかどうかは受け取り方にもよりますよね。おそらく、それをけんすうさんが励ましと感じる能力があったということなのでしょう。そこを見極めれば、相手に効果的な励まし方法が見えてきますね。ただ「おいらみたいになっちゃうよ」という言葉が励ましになるというのは盲点でした。今までにない法則です。

では、逆に励ます時、意識していることはありますか?

けんすう:励ますというと、相手の気持ちを盛り上げたりテンションを上げるというニュアンスがありますが、僕はテンションよりもモチベーションの方が大事だと思っているんです。テンションって一時的に上げるのは簡単じゃないですか。イケている音楽ガンガン流して、大声で掛け声かけるだけでも上がるから。なので、そういう励ましはやめておこうと。

人生の大事な場面で、相手がより良い方向に向かうようにすることが本当の意味での励ましかなと思うので そこは切り分けて意識しています。

ひろゆきさんの言葉も、テンションを上げる系の励ましでは一切ありませんでした。ロジックで説明して「こっちがいいよ」と言っても、たぶん人には響かない。かといって「君ならできるよ!」みたいに単にテンションを上げる励ましもあまり効果がなくて。どんな道を選ぶのがいいか、自分自身が深く考えるための一言をかけてあげるのがいいんじゃないかなと思っています。

やなさわ:松岡修造さんみたいに熱い感じでなくても、自分が成功者じゃなくても、誰かを励ますことができる。深くその人が考えることができる問いを投げることが励ましになると。わかる気がします。

けんすう:その人の頭の中に石を投げると、やがて波紋みたいに広がっていく。そんな言葉をかけられるといいなと思います。

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