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Mofu-mofu 2023公式ガイド

 今年もどうにかカレンダーを作ることができました。

 動物と彼らが生きる環境の写真を、その月に撮れた12枚でご用意しました。

 どうかあなたの1年が、より良いモフモフでありますように。


表紙:シャチ

 春から初夏にかけて、羅臼沖にはシャチの群れがやってくる。

 そして、この季節は濃霧が海にやってくる季節でもある。

 風の無い穏やかな沖合に出ると、視界に入る情報も少なくなる。いつもなら水平線の上に浮かぶ国後島が見えたり、遠くを飛ぶ海鳥が見えるが、霧が全てを包み隠してしまう。

 これを天気がいいというか、天気が悪いというかは、その人次第だ。

1月: エゾフクロウ


 エゾフクロウは、冬になると比較的人里に近い場所にくることが多くなる。

 ニコニコしているように見えるが、夜行性である彼らは昼間は眠くて、目を閉じているだけ。瞼の構造上、目を閉じると笑ったような表情になるのだ。

 福が来るとか、縁起物としても扱われるが、彼らも立派なハンターである。夜になると狩りに出かけ、周辺に住むネズミやエゾモモンガを襲い、食べて過ごしている。

 このエゾフクロウが入っているこの古木には、エゾモモンガが住んでいたこともある。というか、つい先日まで住んでいたのだ。もちろん、彼がここにきてからは、いなくなってしまった。全て食べられたわけではなく、ほとんどは他の樹洞に引っ越したのだと思われるが、翌朝に彼の爪先にはエゾモモンガが握られていた。

 ちなみに、彼がこの場所にきて数週間すると、周囲のエゾモモンガは彼を避けて昼間に餌を探すようになっていた。



2月: キタキツネ

 内陸に近い帯広は、朝夕の寒暖の差が大きく、暖かい日の翌朝には、霧が立つことが多い。

 この日の朝も、濃い霧が辺りを覆っていたが、太陽が昇るとその霧に太陽が反射し、低い空がうっすらと色がつき始めた。

 十勝平野は、だだっ広い平原のように思われるが、実際は緩やかな丘陵地形を持つことが多い。十勝のほとんどは、火山灰の堆積した土壌である。火山灰土壌は、凍上と融解を繰り返して地面が凸凹になるために、丘陵が発達するのだ。

 繰り返す季節の中で、形を変えていく大地。真っ白な雪の積もる畑の上を歩くキタキツネ。

 この後、このキタキツネは畑の下のネズミが歩く音に耳を立てながら、地平線の奥に消えていった。

 こんな絶景も、キタキツネにとっては、日常なのである。



3月: キタキツネ

 基本的に、野生動物というものは、無駄なことをしない。生きていくのに必要なものを得るため、子孫を残すために、効率の良い行動を心がける。

 狩りを全力で行う動物も、腹が減っていなければ、よく眠るし、無駄なエネルギーの消費は行わない。

 しかし、若者だけは別だ。意味が分からない遊びをすることが度々ある。キタキツネは一腹で、2~10匹程度で産まれてくる。そのため、産まれてからは2~3ヶ月は、親元で兄弟と一緒に過ごす。その頃に、兄弟同士で戯れ合うことで、狩りの動作を覚え、親が持ち帰った獲物を奪い合う中で、自然界のルールを学ぶ。意外と人間もそうだと思うことは多々ある。

 春に生まれたキタキツネは、3月には立派な大人だ。しかし、コイツはなぜかススキの穂を掴むのに必死でジャンプを繰り返していた。取っても食べられないし、使い道もない。実際に、掴んだ直後には、その辺りにポイッと捨てていた。

 意味がなさそうなことに必死になれるやつが、後になって大成することは意外と多い。コイツにも個人的に期待したい。


4月: エゾモモンガ

 夜行性のエゾモモンガは、3月頃に繁殖のために日中でも行動することが知られているが、それ以外は日没後に活動を始める。そのため、あまり人目に付くことがないため、珍しい生き物だと思われることが多いが、実際はそこまで珍しいものではなく、結構どこにでもいる。

 十勝だとゴールデンウィークに咲く桜が、2022年は例年より早く咲き、4月下旬には満開になった。

 エゾモモンガは、特徴的な高い声で鳴くため、鳴くとすぐに分かるのだが、繁殖期以外に鳴くことはほとんどない。なのに、桜が咲く頃に鳴き声が聞こえたので、ビックリして、あたりを見渡すと、エゾモモンガが繁殖時に見られる独特の行動を取っていた。

 エゾモモンガは、2回に分かれて発情することがある。これは発情が遅い群であったようだ。

 いつも人がたくさんいる公園で、周りには誰もおらず、エゾモモンガの声だけが響いてる中で、見る満開の桜。素敵な時間を過ごすことができた。


5月: キタキツネ

 北海道の春が本格化するのは5月だ。4月はまだ雪も降るし、気温は氷点下で、冬のアディショナルタイムのような季節である。

 キタキツネにとって、5月は子育ての季節だ。キタキツネの子育てには興味深いシーンがたくさんある。

 今年、いくつかの巣穴を見つけた中で、特に特徴的だった1つの巣穴に毎日通った。その巣穴で、主に子どもの面倒を見ていたのは、母ぎつねでも父ぎつねでもなく、子ぎつねにとっての姉に当たる個体だった。毎日通ってもなかなか授乳が見れずに、不思議に思ったが、このメスは乳房が張っていないため、すぐに母ぎつねでないとわかった。無人カメラを設置していたので、父ぎつねも母ぎつねも巣に来て世話をしていたのはわかったが、日中に面倒を見るのは、姉ぎつねの仕事のようだった。

 この写真を撮影した日は、いつものように巣穴に向かうと巣穴の目の前、30mあたりで、いつもの姉ぎつねが昼寝をしていた。昼寝が終わると、巣穴に戻り、ヤンチャ盛りの弟たちの面倒を見た後、獲物を求めてどこかに歩いていった。


6月: エゾフクロウ  

 エゾフクロウは、生後数週間は繁殖巣の中で過ごすが、飛翔能力が発達し始める頃に、巣穴から出ていく。

 巣穴から出ても、まだ自力で狩りができないため、両親が持ってきた獲物を食べる生活を続ける。普段は、夜行性のエゾフクロウも、この頃だけは食べ盛りの子どものために、日夜構わず狩りに出かける。産毛が残る雛たちは、こうやって仲良く親が持ってくる餌を待っている。

 彼らが止まっている樹は、カシワの木である。端午の節句、こどもの日に食べる柏餅に巻いてる葉である。カシワは、春に新しい芽が出るまで、落葉せずに一部の古い葉が枝に留まる特性がある。新芽と古い葉を親子に見立て、途絶えることのない子孫繁栄を願い、柏餅を端午の節句に食べるようになったという。カシワは、幹が丈夫であるので、大きな樹洞を持つことも多く、フクロウ類の巣穴として使われることも多い。

 エゾフクロウは、一度巣立つと安全な巣穴には戻ることがないと言われている。巣穴の中の菌類を調べた研究者によると、巣立ち頃の巣穴の中は、アンモニア臭が酷く、とても中にはいられないのだとか。巣立ちは、親や成長の速さだけでなく様々な要素に支られているのだ。

7月: エゾシカ

 2022年の夏、北海道の夏は、ずっと天気がぐずついていた。

 ただ、雨が降っても動物たちは餌を食べなければいけないわけで、我々も屋根の下でぬくぬくと過ごして良いわけではない。

 しとしと雨の降る野付半島では、生い茂った草を食むエゾシカたちがいた。数分に一度、体をブルブルと振り、体につく雨粒を振り払い、また草を食む。

 冬には、パサパサに乾いた草と、木の皮しか食べる物がなくなる北海道で、この時期にどれだけ食べて栄養を蓄えられるかが、彼らの未来を握っている。

 春先に落角し、晩秋に向けて伸び続ける角。夏は、ちょうどその真ん中で、ビロードのような皮をまとった袋角が生えている。この時期の角には、神経も血管も通っており、角をぶつけ合うような喧嘩はほとんどしない。そもそも、潤沢な餌がある夏は、餌を奪い合う必要もないし、発情期前のメスを奪い合う必要もないので、喧嘩なども必要ないのだ。

 この斑点模様も、北海道の夏の風物詩である。


8月: キタキツネ

 まだあどけない表情の残る夏のキタキツネ。大人とほとんど変わらない体格だが、この個体は春生まれの子ぎつねである。

 綺麗な夏毛がもふもふしてるのは、周辺の環境の良さなのだろう。

 キタキツネは、大きく分類するとイヌである。だから可愛い。

 ただ、イエイヌと違う点は、主に夜行性であること。瞳の形を見ると分かるが、より多くの光を取り込むために、瞳孔が大きく広げられるように、縦長の瞳孔を持っている。ただ、夜行性といてもエゾモモンガのような完全な夜行性ではなく、場合によっては、日中でも行動できるようだ。

 河畔林で育った彼らは、夏になると明るい色の花々に囲まれて過ごす。この写真は、まるで北海道の短い夏を謳歌するように、過ごしているような雰囲気だが、彼らは暑さが大の苦手である。この写真を撮った時も、曇りの日で、少し涼しくなってきた昼下がりに、寝ぐらの茂みから出てきて、川に水を飲みにいく途中の様子だ。

 気温も音も光も、我々と彼らでは感じ方が違うのだ。感じているものが違う以上、彼らの気持ちを完全に理解することは難しいのだろう。

9月: エゾシマリス

 ついさっき夏が始まったと思ったら、すぐに紅葉が始まるのが北海道だ。

 この写真は日本一早い紅葉と呼ばれる大雪山で撮影した9月上旬の写真だ。

 紅葉のピークを迎えようとするウラシマツツジの上を、駆け回るエゾシマリス。彼らは標高の高い場所に生息するリスだ。街中にいるエゾリスよりもかなり小さく、背中の縞模様が特徴だ。

 そして、もう一つ特徴的なのが、エゾシマリスは冬眠をするということ。エゾリスは冬眠しないため、秋までに貯食し冬を過ごすが、エゾシマリスは冬を寝て過ごす。そのために、秋にはたくさん食べて、栄養を貯めておかないといけない。大雪山は、紅葉だけでなく、積雪も早い。あと1ヶ月もすれば、食べ物は雪の下になってしまう。

 焦るシマリスは、頬袋をパンパンにしながら、赤い絨毯の上を駆け回るのだ。冬に寝て過ごしたいと思うのも楽なことではないようだ。




10月: エゾシカ

 彼女が立つのは、広大な牧草地である。もちろん、この牧草地はエゾシカのために用意されたものではない。牛のために酪農家さんが用意したものだ。

 初夏から初秋にかけて、エゾシカはよく牧草地に出没する。牧草というのは、大量にあるだけでなく、消化しやすくて、栄養バランスもいい。言うなれば、反芻動物たちのご馳走だ。そして、牧草地は、そのご馳走だけが延々と食べられる夢のような場所である。

 十勝では、年に3回程度牧草を刈り取る。それを乾草やサイレージ(漬物)にして、牛たちの冬の飼料にするのだ。

 この牧草地は、夏場には100頭近くのエゾシカが訪れていることもあるが、この日は1頭だけだった。それもそのはず、この牧草地は3回目の刈り取りをしたばかりで、美味しい部分はほとんど残っていないのだから。

 ちなみに、この時期のエゾシカは、食べるととても美味しい。



11月: エゾナキウサギ

 エゾナキウサギは、シマリスと同様に高山に住む草食性の小型哺乳類だが、彼らは冬眠をしない。

 冬眠せずに過ごすことのできる理由の一つが、彼らの住む土地に見られる風穴(ふうけつ)と呼ばれる特徴的な地形だ。風穴は、大雪山系によく見られる。噴火したマグマが急激に冷えることによって、固まりながら崩壊し、大きな岩が山積したような「ガレ場」と呼ばれる地形を作る。その隙間に積もった雪が、融解と凍結を繰り返すことによって、「夏は涼しく、冬は暖かく」という、夢のような環境を局所的に叶えてくれるのだ。

 彼らは、食べ物の栄養を余すことなく利用するべく、2種類のフンをする。ひとつは普通の糞、ただの排泄物だ。そして、もうひとつが盲腸糞。エゾナキウサギはこれは食べる食糞という行動をする。盲腸にいる微生物が植物の細胞壁に含まれる繊維を分解し、エゾナキウサギの小腸からでも吸収できる形に変える。本来、草というのは消化に悪いのだ。

 ちなみに、エゾナキウサギは「ピチッ」という特徴的な鳴き声で泣くのだが、北米のナキウサギとは鳴き方が違う。言語の差というべきか、方言というべきか。


12月: エゾシカ

 動物が好きなので動物写真を撮っている。見た目や仕草の美しさだけでなく、魅力的な生態を調べるのも楽しく、様々な視点の「好き」がある。

 エゾシカは、薄暗い時間に活発に動くため、日の出や日の入りのタイミングで、撮影することも多い。この時期は、群れから離れて行動するオスも多い。野付半島へゴミ拾いに行く途中の朝、日が出てきた頃に、道路から500mほど離れた場所にいたエゾシカを見つけ、車を停めて撮影した。このオスも単独で行動していた。

 エゾシカに関しては食べ物としても好きだ。反芻動物なので、牛肉に近い雰囲気を感じるが、全体的に赤身で脂肪が少なく、牛肉よりもタンパクだ。撮って美しい、食って美味しい。素敵な動物である。

 ちなみに、このエゾシカは大人のオスである。メスや子ジカと比較すると、肉質が硬く、食べ物としては少しだけ不人気である。

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