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もう、これきりの味。

小学生の頃に
祖母が脳梗塞で倒れ
主婦役に
必死になっていたあの頃。
友達と駄菓子屋に行ったり
ファミコンしに行くのは
主婦の仕事をぬって
時間が出来た時。

遊びたい、
でも父子家庭なんだから仕方ない…
そんな事実の狭間で
引っ張られる私。

まだ12歳でした。

ある日
かぼちゃの煮付けの下準備で
私の面取りが粗いと
祖母から言われた時
私の我慢がぷつんと切れてしまいました。

クラスメイトは
誰一人
朝から父のお弁当なんぞ作っていない。
洗濯し、バランス良く干したりしてない。
帰宅したらスーパーに行って
1週間の献立を考えて
買い物なんかしてない。


私も12歳を
みんなの様に
みんなと同じ
12歳で居たいだけなのに!


私は片麻痺が残る祖母と
本当に些細なことで
かぼちゃの面取りごときで
喧嘩になり、
そのまま家を飛び出してしまいました。

お金も無く
行く場所すら無い。

結局、家から2分しかない公園の
ブランコに乗って
時間だけを潰し
ただただ暗くなる景色を眺めながら
片麻痺の祖母が今、
どうやって台所で夕ご飯を作っているのだろうか…と
ブランコに揺られながら
ぼんやり思うのは
祖母は大丈夫だろうかと言う事だけでした。

電気なんかない小さな公園で
家の中の灯りが付き始め
夕餉の香りがどこかしらから漂う。

真っ暗闇の中に
ポツンとブランコに座っていましたが
トイレにも行きたいし
お腹もすいたし
喉も渇いたし
どうしようか考えあぐねていると
父がひょっこり公園の入り口から入ってくるのが見えました。

『帰るぞ』と
私は父に促されるまま
ブランコから降り
電信柱の街灯に集まる蛾を見つめながら
家路へと、とぼとぼ帰ったのです。

帰ると
父が買ってきたのか
食べ終わったお弁当がテーブルに置かれていて
祖母は背中を向けて
片麻痺の右を庇いながら
箸を洗っていました。

黙って私は祖母の横に立ち
お弁当を捨てて
祖母が先に洗った箸を布巾で拭いていました。

父が
『お腹が空いてるなら冷蔵庫に弁当があるぞ』と言いましたが
私は首を振って『いい』と断りました。

公園では空腹だったのに
祖母の背中を見た途端、胸が詰まってしまい
どう声をかけていいのか
何を言ったら良いのか
分からなくなっていました。

そのまま、祖母は黙って部屋に戻り
私はお米を洗ったりしていました。

祖母が、お風呂に入る音がしたので
私は慌てて脱衣所に行きました。
祖母が倒れてから
その頃はまだ一人で入浴が出来ていましたが
何かあったら危ないと
脱衣所に私が座っているのが
暗黙のルールみたいになっていました。

いつもの様に
本を広げ、脱衣所の床に座った私に
風呂場から祖母が声を掛けました。

『お腹空いたら冷蔵庫に作っとるけん
食べんね』

私はお弁当のことだろうと
『うん』とだけ答え、黙っていました。

祖母の風呂が終わり
自分も風呂を済ませ、浴室を洗い、
洗濯の準備をしていると
急に空腹感に襲われ
私は冷蔵庫を開けました。

お弁当の横にあったのは
グリーンピースの翡翠煮。

それは私が1番好きなもの。
祖母が作るそれは
お出汁の味がしっかりしていて
豆のぽくぽくとした食感もあって
一粒一粒が空気が入ったばかりの風船の様に
ツヤツヤとはち切れそう。

片麻痺
聞き手の右に麻痺が残り
1番もどかしいのは祖母だったに違いありません。
私はグリーンピースの翡翠煮を
スプーンですくって頬張りました。

祖母の丁寧さが分かる味でした。

祖母が元気なうちに
何回と私も作りましたが
豆にシワが入ったり
出汁が上手くいかなかったりと
祖母が作った様には出来ないまま
祖母は亡くなってしまいました。

もう、これっきりの味。
2度と味わえない味。

グリーンピースの季節になると
ちょっとした罪悪感と
祖母が恋しくなるのです。

冷蔵庫を開けるのが楽しいってことは
誰かが、あなたを想い
美味しい何かを作ってくれている証拠。

グリーンピースの翡翠煮は真似できないけど
その楽しみは
子どもたちにも渡せたかな。

川ノ森さん、楽しい企画をありがとうございます😊


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